「へぇ、蘭子ちゃんの次は杏ちゃんとかな子ちゃんと智恵里ちゃんがユニットデビューか」
「良太郎さん、智
「おっと失敬」
またウッカリ誤字ってちえりん警察に取り締まられるところだった。
さて、今日も今日とて初手凛ちゃんとの会話フェイズ。ただ今回は自室での通話や渋谷生花店の店先でなく。
「はい凛ちゃん、お待たせ」
「ありがとうございます、士郎さん」
今回の会話フェイズは翠屋のカウンター席でお送りします。
学校帰りで制服姿の凛ちゃんと並んで座っていると若干イケナイ匂いがしないでもないが、年齢は五歳差だからまだ……凛ちゃん十五歳だから普通にアウトだった。い、妹みたいなものだからセーフセーフ。
「いただきます」
士郎さんから受け取ったシュークリームを早速口に運ぶ凛ちゃん。
「……ん~!」
とても満足そうな顔でシュークリームを頬張る凛ちゃん。やっぱり女の子が美味しそうにものを食べている姿は絵になるなぁ。……この間の麺塊事件については目を瞑る、というか無かったことにする。
どうやら以前凛ちゃんに翠屋をお勧めしてから彼女もここの常連になったらしく、いつの間にか士郎さんとも顔馴染みになっていた。
「かな子が作ってきてくれるシュークリームも美味しいけど、やっぱり翠屋の奴には敵わないかな」
「なるほど、シンデレラプロジェクトにもお菓子担当がいるわけだ」
765プロではよく春香ちゃんが手作りのお菓子を作って持ってくるらしく、仕事の現場でもたまにクッキーなどの差し入れをもらったことがある。123プロではまゆちゃんや、意外にも志保ちゃんがそれだったりする。なんでもたまに弟に作ってあげるそうだ。
「このあと事務所に行くんだよね?」
「? はい」
「それじゃあ士郎さん、十四……いや、武内さんの分も入れておこう。十五個、シュークリーム持ち帰りでお願いします。勿論凛ちゃんの分も入れてくださいね。こういうのは一緒に食べるからこそいいんだから」
「えっ」
「了解。相変わらず女の子に対しては気前がいいね」
「何のことやら」
テキパキと箱にシュークリームと保冷剤を詰め込んでいく士郎さんの姿に、凛ちゃんがほんのちょっとだけ申し訳なさそうに袖を引っ張ってきた。
「りょ、良太郎さん、えっと……ひ、一つ追加してもいいかな?」
「ん? 二つ食べたかった? それとも二つ欲しがりそうな子でもいた?」
「いや、そうじゃなくて……お世話になってる事務員さんの分も持って行こうかと」
「なるほど、そういうことなら」
優しい子だなぁと思いながら士郎さん一つ追加してもらう。
「というか、そうかシンデレラプロジェクトにも事務員さんはいるわけだよね」
「うん、
「そっか……ん?」
千川ちひろさん?
「? どうしたの?」
「いや、何か聞き覚えがあるような気がして……兄貴だったっけ……?」
まだフリーアイドル時代に大学卒業したばかりの兄貴の話の中でそんな人の名前が出てきたような気がするけど……まぁいいや。
「それにしても……」
手に取るのは先ほど凛ちゃんから渡された杏ちゃんたち三人のユニット『
「誰だこれ」
かな子ちゃんと智絵里ちゃんに挟まれて笑みを浮かべるこんな小柄な美少女を俺は知らないぞ。
「えっと、仕事をするときはスイッチが入るというか、自分が楽するために全力を出すタイプというか……」
「切り替えスゲェな……」
ステージの上に立つとスイッチが入るらしい元バックダンサー組の杏奈ちゃんと似たタイプなのかもしれない。名前の字も似てるし、あの子も性格というかテンションが真逆になるからなぁ。
「でも良太郎さんも、結構仕事の時はスイッチが切り替わるタイプだよね? 写真撮影中とかステージの上とか、言動は普段と変わらないけど雰囲気がまるで別物だったよ」
「自分では意識してないけどなぁ」
凛ちゃんと同じことを割と色んな人から言われたりする。曰く「歌っているときは別人」とか「普段の姿は世間を欺くための演技」とか「黙っていれば完璧」とか……殆ど悪口じゃねーか! たまに自分が本当にトップアイドルなのか分からなくなる。
「普段から真面目にやってたら幸太郎さんに怒られることもないと思うんだけど」
「それが実は仕事に関しては殆ど怒られたことないんだよ」
「え、意外」
「怒られるのは大体プライベート関連」
「それは納得」
凛ちゃんに遠慮が無くなってきて嬉しいなぁ。
「ついこの間もこっ酷く怒られたばっかりでさ」
「なんというか、ホント良太郎さんって悪戯好きだよね……今度は何したのさ」
「うーんと、簡単に言うと過ぎたる好意は悪意になるってところかな」
流石に何も言わずに佐竹飯店のサービスを受けさせるのはマズかったらしい。まぁ恭也と月村のときで既に知ってたけど。
「しかも今回は早苗ねーちゃんも一緒に悪戯しちゃったからさぁ」
「もう悪戯って自分で明言しちゃったね」
「家に帰ったら早苗ねーちゃんからこめかみをグリグリと……」
「拳骨で?」
「いや銃口で」
「銃口!?」
日本の銃刀法は何処へ!? と立ち上がらんばかりに驚愕する凛ちゃん。
「勿論モデルガンだよ?」
「だ、だよね!? 婦警さんだから一瞬まさかと思っちゃったよ……」
まぁ交通課だから拳銃を携帯しないけど。
いつもは関節技でシメてくる早苗ねーちゃんがモデルガンとはいえ笑顔のまま銃口を押し当ててくる辺りガチでキレてるんだろうなぁと思った。
「凛ちゃんも悪戯をするときはほどほどにね」
「同系列に扱われても困るんだけど……」
「つまり『はっちゃけるのはプライベートじゃなくて仕事で』『テレビの前ならば尚良し』ってところだね」
「……なんだろう、すごくフラグにしか聞こえない……」
シュークリームを詰め終わった箱を士郎さんから受け取りながら、凛ちゃんは何故か引き攣った笑みを浮かべていた。
「……さてと、俺もそろそろ次のお仕事に向かいましょうかね」
「今日は収録かい?」
「いえ、テレビ局ではあるんですけど今日は打ち合わせです」
シュークリームの箱を携えて一足先に翠屋を後にした凛ちゃんを見送って少々のんびりしてから俺も席を立つ。
「詳しい話はまだ聞いてないんですけど、なんでも王様のお仕事だそうで」
「え?」
「「なんでやねん! なんでやねん!」」
「もっとキレよく!」
「スナップを効かせるにゃ!」
「……何やってるの?」
良太郎さんと翠屋でお茶をした後、シュークリームの差し入れを持って事務所にやってきたら、何故か未央とみくの監修の元でかな子と智絵里がツッコミの練習をしていた。我関せずといった感じで一人寝ている杏はいつも通りだ。
「あ、しぶりんお疲れー!」
「お疲れ」
「ん? 何にゃその箱――」
「その箱はっ!?」
私が持っていた翠屋の箱に気付いたかな子が驚くぐらい素早く近寄ってきた。食いつきが早い。
「も、もしかして翠屋のシュークリーム!?」
「あ、うん。良太郎さんからの差し入れなんだけど……」
「やったぁ!」
喜び方が半端じゃない。
「翠屋? 有名なお店なのにゃ?」
「ご存知、ないのですか!?」
「落ち着いて」
かな子のキャラがよく分からないけど、とりあえずお菓子好きをここまで狂わせる魔力というか魅力が桃子さんのシュークリームには生クリームと共に詰まっているということなのだろう。
かな子がみくに翠屋の素晴らしさを長々と語っている間に他のみんなでお茶の準備をする。流石にこの時ばかりは杏も起き上ってきた。
「それでやっぱりこの美味しさの秘訣はパティシエの高町桃子さんにしか出せないと言われている絶妙な甘さで――」
「かな子ー、そろそろみくを解放してあげてー」
「それで? 結局何をしてたの?」
全員でシュークリームに舌鼓を打ちつつ(私は二つ目)、先ほどまでの珍妙な光景の詳細を尋ねる。
「えっと、三人の初テレビが決まったらしいんだ」
「へぇ」
何でも、事務所の先輩である川島瑞樹さんと
「アイドルがアピールタイムをかけて対決するやつにゃ」
「それがどうしてツッコミの練習になるわけさ……」
「バラエティの基本は、ボケとツッコミとリアクション! これを習得すれば不安なんて一切無用なのだよ、しぶりん!」
クイズ番組なんだからクイズの勉強した方がいいと思う。
「そうだ! しぶりんも何かちえりんたちにアドバイスしてあげてよ!」
「え、私が?」
別にアドバイス出来るほどの知識や経験は何も無いんだけど。
「ほら、しぶりんって生粋のツッコミ役でしょ?」
「ぶっとばすぞ」
「口調がぶっ壊れてるよ!?」
しかし先ほどの良太郎さんとの会話を思い出して若干否定できないことに気が付いて愕然とするのだった。
別にボケに回りたいとかそういうことを言っているわけではないけど、何故かそういう括り方をされると後々割を食うことになると私の直感が告げていた。
「す、すごいなぁ……!」
「み、見習わないと……!」
「やめてそんな目で見ないで」
おまけ『千川ちひろ』
「兄貴ー、千川ちひろさんって……」
「「「千川ちひろっ!?」」」
「うおっ!? 留美さんと美優さんまで何事!?」
「ど、どうしたんだ良太郎? どうして千川の名前を……!?」
「いや、なんか凛ちゃんの事務所の事務員さんらしいんだけど……」
「せ、先輩まさか……」
「い、いや、まだだ、まだ
「そ、そうですよね、同姓同名の可能性も……!」
「なんかお手製のスタミナドリンクをくれるらしいけど」
「「「ぎゃあああぁぁぁ!?」」」
「兄貴はともかく留美さんと美優さんまでガチ悲鳴!?」
「あ、慌てるな、事務員ならば同じポジションの美優にすべてを任せよう!」
「頑張りなさい、美優!」
「見捨てないでください……!?」
(……会うのすげぇ怖いけど、多分いずれ会うことになるんだろうなぁ……)
・ちえりん警察
前科一犯(作者)
・久しぶりの翠屋
あれ、もしかして第四章で初……?
・『CANDY ISLAND』
杏、かな子、智絵理のユニット名。
杏はきらりとユニット組むとばかり思っていたから視聴当時は割と驚いた。
・『Happy×2 Days』
CIのデビューシングル。
『イガラップ』に集中しすぎて裏のかな子と智絵理の歌が聞こえていなかったのは作者だけではないはず。
・「ご存知、ないのですか!?」
超時空シンデレラガールズ
・十時愛梨
『アイドルマスターシンデレラガールズ』の登場キャラ。パッション。
脱衣系な18歳にして初代シンデレラガール。
このバストサイズは絶対に逆サバ読んでますわ(確信)
・おまけ『千川ちひろ』
今回はあくまでも前フリ。本格登場は凸レーション編になる予定です。
さぁ、地獄の窯の蓋が開く……!
現在、運動会編やお料理さしすせそ編を読み返して「あぁ良太郎ってこんなキャラだったな」と再認識しております。次回以降が本領発揮です。
『三周年記念アンケート開催のお知らせ』
お陰様でこの小説は来月の11月29日をもちまして三周年を迎えます。
ちょうどその日はCI編終了後の更新日と重なりますので、特別番外編をお送りする予定です。
つきましては、その特別編で使用する「お便り」と「アンケート」の募集をしたいと思います。
詳しくは活動報告へ(アンケートに対する回答は絶対に感想板の方には書かないでください!)