この話題は後書きにて触れたいと思います。
「ここ曲がった向こうが、良太郎さんの控室だよ」
「……な、なんだか緊張してきました……!」
「うぅ、ドキドキするなぁ……!」
美嘉さんを先頭にぞろぞろと移動する私たち。私とみりあを除く全員が緊張した面持ちである。まぁアイドルとしての大先輩以上に、天下のトップアイドルに会うのだから当然なのかもしれないが。
「そんなに緊張しなくてもいいんじゃないかな」
「うぅ、知り合いの凛ちゃんと違って私たちにそれは無理ですよぉ」
「し、しぶりんの大物感が凄い……」
いや、私は全く大物でも何でもないけど……。
何故か畏怖の目で見られてしまった。解せない。
そんな時だった。
「どうしてそんなことをしたっ!?」
曲がり角の向こうから、そんな男性の大声が聞こえてきた。
この声は間違いなく良太郎さんである。珍しく、何やら声に怒りのようなものが混じっているような気がした。そしてその圧倒的な迫力に、全員の足がその場に縫い付けられてしまったかのように動かなくなった。
「な、何々?」
「な、何ですか……!?」
メンバーのみんながその険悪な雰囲気に怯む。
「りょ、良太郎さん? 一体何が……?」
一番先に我に返った美嘉さんが曲がり角の向こうへと飛び出し、私たちも慌ててそれに続く。
そこにいたのは間違いなく良太郎さんだった。表情が変わらないのはいつものことだが、その雰囲気はやはり怒っている様子だった。
そんな良太郎さんに対面するのは、お団子頭の小柄な少女。何処かで見たことがある既視感とこの場にこうしていることから恐らくアイドルなのだろうと推測するが……彼女は一体何をしたのだろうか。
あの良太郎さんがここまで怒りを露わにするところを私は見たことが無い。
「で、でも師匠!」
「口答えをするなっ!」
少女は健気にもそんな良太郎さんに反論しようとするが一蹴されてしまった。涙こそ浮かべていないが、プルプルと震えているところを見ると良太郎さんに怯えているのだろう。
「どうして……どうして……!」
「ちょ……ちょっと良太郎さん……!? い、一体何を……!?」
困惑しつつも美嘉さんが良太郎さんを宥めようとして――。
「どうして俺のいないところであずささんのお山に登ってるんだよぉぉぉ!?」
『……はい?』
――そんな良太郎さんの慟哭に、私たち全員の動きが止まった。
「せめて俺のいるところで登ってくれよ! 弟子を名乗るんだったらその辺の気を使えよ!」
「すみませんっ! 大変素晴らしかったですっ!」
「ガッデム! 世間体とか世界観とか作風とか
「師匠! 時と場合によっては視覚的にでもアウトの場合があります!」
「
「………………」
私は、良太郎さんが女性の胸部に並々ならぬ執着心を抱いていることを知っている。一緒にハナコの散歩に行って胸の大きな女性とすれ違うと視線がそちらに流されることは多々あったし、テレビ番組でも『胸が大きなことは素晴らしいことです』と真剣なトーンで言い切っていた。
男性が女性の胸に興味を抱くことぐらいは流石に知っているし、兄のような良太郎さんだったら「もう、しょうがないなぁ」ぐらいのノリで流すことも出来た。
しかし。しかしである。
中学生ぐらいの少女の言葉に本気で慟哭。
しかもその内容は女性の胸を触るなら自分の前でしろという内容。
これが『トップアイドルとの初めての邂逅』というシチュエーションだと誰が信じられようか。
(いくら何でもこれはないわー)
先ほどまで「本物の周藤良太郎と会える」と緊張しつつもテンションが上がっていた他のプロジェクトメンバーもあからさまにガッカリしている様子である。
これは流石に擁護のしようが無い。寧ろしたくない。ついこの間アイドルになるか否かの相談に真剣に乗ってくれた上に、何かあったら迷わず頼ってくれとカッコよく決めてくれた人と同一人物だなんて信じたくなかった。年上のお兄さんに対する初恋を思い出して一瞬ドキリとしてしまった私の純情を返してくれ。
「ん? あ、美嘉ちゃん、撮影終わったの?」
そして何事も無かったかのように通常のテンションに戻る良太郎さん。取り繕っているのではなく本気で素に戻っているところが流石というか何というか。
「え、えっと……」
これには美嘉さんも言葉に迷う。
仕方がない。周藤良太郎に対する耐性をある程度持っている私が代わろう。
「良太郎さん」
「あれ、凛ちゃん? どうしてここに……」
「正座してください」
こちら周藤良太郎ですが、何故か凛ちゃんに正座をさせられてます。
静かにお怒りの凛ちゃん曰く、どうやら先ほどの棟方との会話がいけなかったらしい。
「でも『小さい女の子が大好き』って言うよりは『大きな胸が大好き』って言った方が健全な気がしない?」
「反省の色無し。後十分追加」
解せぬ。
ちなみに棟方の奴はいつの間にかトンズラしてやがった。師匠を敬う気が一切ない弟子である。
「それで、結局一体どーしたのかな?」
改めて凛ちゃんの後ろを確認すると、そこには十数人の女の子たち。今日346に初出社した凛ちゃんがここにいることを加味すると……。
「あ、もしかして新プロジェクトのメンバー?」
「はい、その通りです」
俺のその問いに答えたのは、ぬぅっと視界の中に現れた巨体だった。
「おぉ、武内さん。お久しぶり」
「ご無沙汰しております」
律儀にも深々と頭を下げてくれる武内さん。正座している状態からこーして見上げると、その背の高さも相まって凄い威圧感である。
「えっと、今西さんのところに配属になったんでしたっけ?」
「はい。今は彼女たち『シンデレラプロジェクト』の担当をさせていただいております」
なるほどね。……ここで「楓さんの担当はどうなったんですか?」と聞かないのが大人のマナーである。え? 今までの行動に大人成分が見いだせない? 気のせいだって。
「あ、あの!」
「ん?」
それは軽くウェーブがかかった茶色の髪の少女だった。おずおずと、それでいて随分と意気込んだ様子である。
「わ、私、本日付でアイドルになりました、島村卯月です! よ、よろしくお願いします!」
「ん、よろしくー。卯月ちゃんね」
「あ、しまむーばっかりズルい! 私は本田未央です! 同じく今日からアイドルです!」
「よろしく、未央ちゃん」
卯月ちゃんに続いて元気良く自己紹介をしてくれたセミロングの茶髪少女。先ほどの卯月ちゃんが春香ちゃん系としたら、こっちの未央ちゃんは響ちゃん系かな。自分で言うのも何だけど、先ほどまでの俺と棟方とのやり取りを見てなおこうしてちゃんと挨拶をしてくれるとかええ子たちやでぇ。
……って、この子……。
「……ねぇ卯月ちゃん。ちょっと笑ってみてくれないかな」
「……え、え?」
「はいニッコリー」
「に、ニッコリー」
唐突な無茶振りではあったが、ダブルピースで促すと卯月ちゃんは戸惑いながらも同じようにダブルピースをしながらニッコリと笑顔を見せてくれた。
「……なるほどね。やっぱり君が、凛ちゃんの『きっかけ』の子だね」
「え? きっかけ?」
それは確かに人を惹きつける素晴らしい笑顔だった。無表情の俺からしてみればそれはとても羨ましく……けれど、見ていて幸せになれそうな笑顔だった。先ほど春香ちゃん系と称したが、意外と的を得ているのではないだろうか。
「ど、どういうことですか?」
「いや、凛ちゃんがアイドルになるきっかけになったのは笑顔が素敵な女の子だったって話をハナコから聞いたからさ」
「そ、そうだったんですか……え、ハナコ? って、確か凛ちゃんのペット……!?」
「良太郎さん、本当に……!?」
(まぁ本当は「笑顔の可愛い女の子と凛ちゃんが一緒だったよー」っていう母さんの目撃情報からの推測なんだけど、面白いから黙っとこう)
「りょうお兄ちゃん! ヤッホー!」
「ヤッホー、みりあちゃん。……あれ、何でみりあちゃんまでここに?」
いつものノリでハイタッチとかしてから、みりあちゃんがここにいることに気が付いた。
「えへへー、実はみりあもアイドルになったんだよー!」
「マジか」
そんな素振りというか話を一回も聞いたことがなかったんだけど、凛ちゃんと同じようにスカウトされたってことなのかな? ……声かけ事案という言葉が脳裏を過った。早苗ねーちゃんこっちですと言おうとしたが、現状だとシメられるのは俺だということに気付く。
「あ! そーいえばみりあ、ついにお姉ちゃんになったよ!」
「お、本当に? おめでとう」
去年の秋頃に「お姉ちゃんになるよ!」という報告を聞いていたが、ついに産まれたらしい。春頃に弟か妹が欲しいと言っていたから、両親も頑張って(意味深)くれたようである。
それにしてもこういった世間話的なものが自然に始まる辺り、アイドルとしてよりもご近所さんといった印象の方が強いんだろうなぁ。
「みりあちゃんばっかりズルいー! アタシも良太郎さんとお喋りしたいー!」
「わわっ」
突然みりあちゃんに抱き付く金髪の少女。服装的に恐らく
「初めましてー! 城ヶ崎莉嘉でーす!」
「よろしくー」
目元で横ピースをする少女に俺も横ピースで返す。
……って、城ヶ崎?
「もしかして、美嘉ちゃんの妹?」
「あはは、そうです」
尋ねると、苦笑しながら美嘉ちゃんは莉嘉ちゃんの頭の上に手を置いた。確かに目元とか雰囲気とか、その辺が良く似ていた。多分髪色を揃えれば完全にスモールサイズ美嘉ちゃんになっていることだろう。
それにしても……そうか、あの時の金髪チビギャルはこの子だったか。
「部署は違うんですけど、これからは姉妹共々よろしくお願いします」
「よろしくお願いしまーす!」
「よろしくね」
「それで良太郎さん! 胸の大きな女の人が好きなら、もしかしておねーちゃんのことも好きだったりするんですかっ?」
「何バかなこと言っち!? 帰っら怒るゆ!?」
「美嘉ちゃん、口頭だけど誤字ってるよ」
世間ではカリスマなんて呼ばれてるけど、ファーストコンタクトがアレ(Lesson82参照)だったから
ちなみに早苗ねーちゃんみたいな大乳も大好きだけど、美嘉ちゃんぐらいのちょうどいい大乳も大好きです。
「あ、え、えっと、その……」
さーて今度は誰かなぁと思っていると、真っ黒なゴスロリ衣装に身を包んだ銀髪少女が真っ赤になりながらスケッチブックを差し出してきた。
「――だ、大ファンです! サ、サインいただけないでしょうか!?」
「うん、いいよ」
(い、意外とアッサリだー!?)
何やら美嘉ちゃんが驚愕している様子だったが、別にアイドルをやってる以上サインを強請られることぐらい何時もの事だしなぁ。
「あれ? 蘭子ちゃん、さっきまでの変な言葉どうしたのー?」
スケッチブックを受け取っていると、莉嘉ちゃんがそんなことを言いながら首を傾げた。
「変な言葉って?」
「うんとねー『血のめいやく』? とか『魂のきょうめい』? とか」
お、なんだなんだその厨二心を擽られる素敵ワードは。
「え、えっと、そ、その……『俺は間違っている』の良太郎さんに憧れてて……!」
あー、あの厨二兄貴役やったあのアニメか。そういえばそんな感じの台詞を言い続けてたっけ。
よし、ならばちょっとファンサービスでもすることにしよう。
スッと立ち上がって(今までずっと正座継続中だった)右手を顔の前に翳し、左手だけでスケッチブックをバサッと広げる。これが俺のファンサービスだ!
「くははっ! 汝、我を覇王と知りながら《
「……え、いきなりどうしたの良太郎さん」
突然のことに全員がポカンとするが、ただ一人、彼女だけは真っ赤にしていた顔をパアッと子供のように輝かせた。
「良かろう! とくと聞くがよい! 既に魔力は満ち、闇の眷属たる時は終わりを告げた!」
少女は手にしていた黒い日傘を広げながら肩にかけ、左手を顔の前でかざす。室内で勢いよく傘広げると危ないよー。
「我が真名は《ブリュンヒルデ》! かつての無垢なる翼は黒く染まり、十二の翼と共に魂を解放し、やがて魔王への覚醒へと至る者なり!」
……うーん、ノリノリになってくれたのはいいけど、流石に『ブリュンヒルデちゃんへ』って書くのはアレだよなぁ。
というわけでこっそり凛ちゃんに尋ねる。
(ねぇ凛ちゃん、あの子の名前なんていうの?)
(え? えっと……神崎蘭子)
おk、ランコちゃんね。
自前のサインペンを取り出すと、通常のサインと共に筆記体で彼女の名前を書き加える。
「ブリュンヒルデよ! 汝が真名と覚悟、しかと見届けた! これにて《
「望むところぞ!」
彼女にスケッチブックを返し、二人で「はーっはっはっはっ!」と高笑いをする。
凛ちゃんたちの「何言ってんだこいつら」みたいな視線がちょっと痛かったが、喜んでもらえて何よりです。
「それで《
「マジレスは勘弁して凛ちゃん」
・棟方、三浦あずさ登頂事件
師匠の早期登場は、実はこのためだったのだよ!(AA略)
ちなみに良太郎のキャラがぶっ壊れているような気がしますが、今までが大人しすぎただけでこれが平常運転です。
・『小さい女の子が大好き』『大きな胸が大好き』
巨乳グラビアが好きって言っても問題無いのに、小学生女子が好きって言ったら何でダメなんですかねぇ?(すっとぼけ)
・えへ顔ダブルピース
卯月の代名詞。
・「何バかなこと言っち!? 帰っら怒るゆ!?」
シンデレラ劇場第19話でのメール文を引用。
・これが俺のファンサービスだ!
回想でもいいからエクシーズ次元編で出て来てくんないかなぁ。
・《
・《
(特に深い意味は)ないです。
まだ三回目だけど「どうせ『えぇぇぇ!? 周藤良太郎!?』みたいな反応なんでしょ」とか思われているような気がしたからその斜め下を行きたかった。反省も後悔もどっかに忘れてきた。
「見てごらん、ハルト。あれが三枚目主人公のなれの果てだよ」
これで一部メンバーの好感度が低い状態から始まることになります。まぁ結局よくある一度評価を下げておいてから上げるパターンなのでお気になさらず。
あと蘭子とのネイティブ会話。これで良かったのかどうかは知らないけど、個人的には書いてて楽しかった(小並感)
そして前書きでも触れましたが、総選挙について。
五代目シンデレラガール『島村卯月』! おめでとー!
ついに卯月がシンデレラガールですね。いやぁマジで感慨深い。
そして二位は我らが楓さん。マジで無冠の女王みたいになってきておりますが、次回こそは……!
五位圏内でCDデビューが決まった美優さん、ぼのの、よしのんなど触れたいのですが、個人的には九位に入ったシュガハさんに驚きました。これは案外早く声付くのか……?