春の麗らかな季節がうんたらかんたら、皆さまいかがお過ごしでしょうか?
中略。
第四章スタートです。
敬具
Lesson112 Once upon a time
「はぁ、はぁ、はぁ!」
俺は木々の隙間を縫うように全力で走っていた。ガサガサと枝を払いのけ、時折勢い余って転びそうになりながらもチラリと後ろを振り返る。
姿は見えない。しかし、間違いなく『奴』はそこにいた。
全力で走っているにも関わらず距離は縮まらず、寧ろ先ほどよりも近づいてきているような気がしてならなかった。
「あっ!」
突然木々が開け、一軒の小屋が目の前に現れた。
心の中で「しめた!」と叫ぶと、俺はその小屋の中に飛び込む。バタンと乱暴にドアを閉め、震える手で鍵をかけた。
「……はぁー……」
ドアに背中を預け、ズリズリと滑り落ちるようにその場に腰を下ろした。
これで逃げ切れたとは思っていない。けれど時間は稼げるはずだ。
ガタンッ
「っ!?」
突如、隣の部屋からした物音に肩が跳ね上がる。
「まさか……!? い、いや、そんなわけ……!」
再び逃げる、という選択肢も当然あった。しかし外に『奴』がいるかもしれないこの状況でそれは選ぶことは出来ず、しかしここで蹲ったままでいるわけにもいかない。それの正体が分からないことには逃げようもないのだ。
意を決し、立ち上がる。物音がした部屋へと続くドアに手をかけた。ゴクリと息を飲み、俺はゆっくりとそのドアを開ける。
しかし意気込みとは裏腹に、その部屋に『奴』はいなかった。
じゃあ何だったのかと部屋を見渡し――俺は『それ』を見つけてしまった。
『それ』は壁に刻まれた文字。森の中に突然現れたこの小屋の秘密を示した六つの文字。
震える手でそれをなぞり、そして呟く。
「どうして『セキワハウス』なんだ……!?」
「はいカットー!」
ホラー物かと思った? 残念! 今回は住宅メーカーのCMでした!
「さっすが良太郎君! 一発オッケーだよ!」
「ありがとうございます」
周りのスタッフが撤収作業をする中、監督からお褒めの言葉をいただくという何やらデジャビュを通り越してテンプレート化したやり取りをしつつ、自身も撤収を始める。使い回しなんてチャチなもんじゃ断じてなかった。
最初はホラー風のこのCMに鉄面皮の俺を起用するとか一体何を考えているのだろうかとも思ったが、一応無表情ながらもしっかりと焦りと恐怖を演じることが出来ると評価してくれた結果らしい。あと無表情がCMの雰囲気を更に不気味にするとかなんとか言われたが、正直複雑な気分である。
「お疲れさまでしたー」
挨拶を済ませスタジオを出る。さてこの後の予定はと頭の中のスケジュール帳を開いていると、廊下の角を曲がったところで知り合いの女性と出くわした。
「あ、こんにちは、楓さん」
「あら良太郎君、こんにちは」
346プロダクションを代表するアイドル、高垣楓さんである。
「お久しぶりですね。えっと最後にお会いしたのが……」
「確か、お義姉さんをバーまで迎えに来た時以来ね」
えっとあれは765プロの合宿云々よりも前になるから……七月? ってことは九ヵ月振りぐらいになるのか。うわぁ、もうそんなに経つのか。何故か知らないけど楓さんとは定期的に会っていたような気がしてならない。不思議ダナー。
「同じ業界で働いてても、会わない時は本当に会わないもんですね」
「本当ね。良太郎君は撮影終わり?」
「はい、CMの撮影でした。楓さんは?」
「私も同じよ。美容液のCM。良太郎君も一緒にどうかしら?」
「いやいや、いくら何でも化粧品関係のCMに俺の出演はあり得ませんよ」
「美容液だから三
「ダメですね」
CM的な意味でも駄洒落的な意味でも。
「っと、そろそろ行きますね。すみません」
「いえいえ。また今度ゆっくりお話しましょう? 友紀ちゃんや茄子ちゃんとの昔話を聞いてみたいわ」
「別段話すようなこともないですけどねぇ」
いつの間にか楓さんと知り合いになっていた元級友二人(片方は更にいつの間にかアイドルになっていた)に内心で苦笑しつつ、機会があればいずれと了承して俺は楓さんと別れるのだった。
四季は廻り春、桜咲く四月。早いもので、765プロのアリーナライブから五ヶ月近い月日が流れようとしていた。
春休みも終わり、俺はつい先日『周藤良太郎の個人的ワールドツアー ~俺より強い奴(暫定)に会いに行く~』から帰ってきた。各国のオーバーランク級アイドルや世界的に有名な俳優や音楽家など様々な人物に会って来て、勉強になったというよりは純粋に楽しかったという感想である。
まぁ途中変な奴に絡まれたり変な少女に懐かれたり色々あったが、イタリアでは世界的な映画スターと親友になることが出来た。……『チチをもげ!』……素晴らしい曲だ……!
しかし一ヶ月少々日本を離れていたので仕事が溜まりに溜まっていたので、現在俺はお仕事に明け暮れる日々である。一応一週間に一回は仕事をするために帰国していたのだが、流石にそれだけで全てをこなせるほど周藤良太郎の仕事は少なくなかったのだ。
閑話休題。
楓さんと別れて改めて脳内のスケジュール帳を確認すると、そういえば今日は全体ミーティングの日だった。免許を持っていない未成年組の送迎を結構な頻度でしていたが、今回は彼女たちがレッスンしている場所と今俺がいる場所と反対方向なので流石に兄貴か留美さんが迎えに行っていることだろう。
ということで、撮影スタジオを離れ俺は我らが城、123プロダクションへと帰ってきた。
今日も今日とて事務所の事務仕事をこなしてくれる美優さん(相変わらず水面下にてアイドル化計画進行中)に挨拶をし、寧ろそこ以外に何処に行くのかと言わんばかりに入り浸っているラウンジへと向かう。
「……っと、先に帰って来てたか」
ドアノブに手をかけたところで、ラウンジの中から女の子の声が聞こえてきた。『女三人寄れば姦しい』とは言うだけあってキャッキャと女の子らしい雰囲気である。最も、主に話しているのは一人だけだろうが。
ドアノブを掴んだ状態で固まっているのもアレなので、さっさと中に入ることにする。
「お帰りなさぁい、良太郎さん」
「……ただいまー」
まだ碌に俺の姿も捉えていないであろう段階で声をかけられたが、まぁそういう日もあるだろう、うん。
「あ! リョータローさん! お帰りなさい!」
「ただいま、まゆちゃん、恵美ちゃん」
声から想像した通り、ラウンジにいたのは我が事務所の可愛い後輩であるまゆちゃんと恵美ちゃんである。
年明けに彼女たちも正式にアイドルデビューを果たしたのだが、ユニットとしてデビューさせる直前に突然「リョータローさんにユニット名を決めてほしい」と言われてしまった。正直ネーミングセンスに自信は無かったが是非とまで言われてしまっては断れない。
悩みに悩み、たまたま付き合いで入ったバー(その時は未成年なので飲酒はしていないが)で目に入ったカクテル類を参考に、性格や雰囲気的にまゆちゃんを桃、恵美ちゃんをレモンに例えて命名した。
その名も『
本来ならばグレナデンシロップも入れるとかそもそも未成年のユニットにアルコールの名前はどうなのだとか色々とツッコミはあると思うが、本人たちが可愛いと気に入ってくれたので問題ないだろう。
ユニット曲である『Secret cocktail』や個人曲であるまゆちゃんの『エヴリデイドリーム』や恵美ちゃんの『アフタースクールパーリータイム』も好評な中々の滑り出しである。
そしてこの春から新たに『オーディション枠』で123プロダクション入りした新人ちゃんがソファーから立ち上がり、律儀に頭を下げた。
かつて恵美ちゃんたちとバックダンサーとしてステージの上に立った少女――。
「お疲れさまです、良太郎さん」
――北沢志保ちゃんである。
まだ新人の恵美ちゃんとまゆちゃんがデビューして間もないにも関わらず、今年もまた123プロダクションはオーディションを開催した。前回の一万人の五割増しといった応募があり、そんな中に志保ちゃんの名前を見つけた時は思わず二度見してしまった。
一応の和解はしたものの、俺は志保ちゃんの大好きだったアイドルを奪った張本人である。そんな俺が所属する事務所のオーディションを受けに来るとは全く予想もしていなかった。
知り合い贔屓をするつもりはなかったが普通に書類審査は通った。一次審査や二次審査においても同様で、志保ちゃんも俺たちに対して気軽に声をかけるなんてことはせずに他の応募者と同じような反応だった。
元々の素質の高さに加え、合宿の時のような硬さが抜けた志保ちゃんは他の応募者の中でも頭一個分抜きんでており余裕で審査は通っていった。
そうして迎えた最終審査。一人一人を個室に呼んでの個人面談において、ようやく俺は彼女にそれを尋ねた。
『貴女はどうしてこの事務所のオーディションに参加しようと思ったのですか?』
元々面談の内容でもあり基本中の基本の質問に対して、志保ちゃんは躊躇することなくこう言い切った。
「周藤良太郎を超えるためです」
別に他の「トップアイドルになるため」とか「みんなを笑顔にするため」という理由がダメだという理由は毛頭無い。それでもこの事務所を設立する上で兄貴が掲げた『周藤良太郎を超えてトップスリーを独占する』という目標を彼女は真剣に口にしてくれたのだ。
「貴方のことを恨んでいたり嫌っているわけでは決してありません。けれど、雪月花の代わりに貴方を超えるという私の気持ちも変わっていません」
面接を行った俺と兄貴、留美さん、そして冬馬の四人が彼女の合格を満場一致で決めた瞬間だった。
こうして今年の『オーディション枠』として北沢志保ちゃんが正式に我らが123プロダクションの仲間入りを果たしたのであった。
これが、我らが123プロダクションの現状である。
……え? ジュピター? いつも通りだから別にいいよね(無慈悲)
「おいお前さらっと俺たちdisらなかったか?」
ガチャリとドアを開けて入ってきながらそんなことを言う冬馬も割と勘が良いというかなんというか。
「って、また僕たちが最後かー」
「チャオ! ゴメンね、待たせちゃって」
「ホラホラ、全員まだこの後予定があるんだから手短に済ますわよ」
「というわけで美優、全員揃ったからお茶お願いな」
「はい、分かりました」
ワイワイと揃い始め、こうしてまた俺たちの日常が始まるという定型文でここは一先ず締めることにしよう。
さてさて。今回綴ることになるのは、こんな彼らが出会う少女たちの物語。
「……ん? ……凛ちゃんから電話? 珍しいな」
「翔太や北斗も別行動だし、たまには顔出して養成所の先生に挨拶でもしてくか。……ん? 誰かスタジオ使ってんのか……?」
「まゆー! 志保ー! 早く早くーって、わわっ!? ゴメンぶつかっちゃった!?」
彼女たちは様々な困難を乗り越えて、後に『シンデレラガールズ』と呼ばれるアイドルになるのだが……今はまだまだプロローグ。
故に、お約束の言葉で物語を始めていくことにしよう。
――
――あるところに、お姫さまにあこがれる女の子たちがおりました。
・『セキワハウス』
有名な住宅メーカーを二つ混ぜてみた。ちなみに\ハーイッ/で有名なところは入っていない。
・やっぱり楓さん
一応言い訳させてもらうと、アニデレ五話の立てこもり騒動の時に良太郎が介入するための前振りなんです信じてくださいでもやっぱり楓さん書きたかった気持ちもあるのであながち間違っていないですけどやっぱり誤解です。
・『周藤良太郎の個人的ワールドツアー ~俺より強い奴(暫定)に会いに行く~』
一応考えているもののアイマスキャラが殆どと言って出てこない内容のためお蔵入りがほぼ決定。本編の途中途中に良太郎の口から語る程度になるかと。
・イタリアの世界的な映画スター
鉄のフォルゴレー、無敵フォルゴレー!
・『チチをもげ!』
いやー歌詞書きたかったけど規約に引っかかっちゃうしダメだよなー残念だなーメッチャ書きたかったけどしょうがないよなー。
・『Peach Fizz』
作者のネーミングセンスが問われるシリーズその1。
良太郎にも言わせたが未成年のユニットにアルコールはどうかと思ったが「未成年のみんなはお酒に酔わずに私たちに酔ってね」とか言わせればオッケーじゃね(適当)
・グレナデンシロップ
実はもう一人の新人のヒントになってたりする。めぐまゆの二人同様、あくまでもイメージなのでグレナデンシロップが何のシロップなのか調べてみてから想像してみてください。
・『Secret cocktail』
作者のネーミングセンスが問われるシリーズその2。
雰囲気を出すためにお酒を飲むふりをして背伸びする女の子の心情を歌ってたりするんじゃないかな(適当)
・志保ちゃん参戦!
というわけで新人の一人は志保ちゃんです。
元々めぐまゆコンビを考えていた時期から彼女の所属はほぼ決まっていました。キュート系のまゆ、パッション系の恵美に対するクール系の彼女ですが、年下ながら先輩二人の良いブレーキ役になってくれることでしょう。
ちなみにソロデビュー予定です。
・むかしむかし
しかしその後の文章まで英訳するスキルを作者は持ち合わせていなかった。
始まりました第四章、デレマス編もしくはアニデレ一期編あるいはシンデレラプロジェクト編です。
この章から123の新人として志保ちゃんが加入です。微妙に足りていなかったクール成分を補ってもらいます(さーて小学生メイドの格好に何時させるかそれが問題だ)
もう一人の新人に関しては結構後半からの加入になる予定です。上でヒントみたいなものを書きましたが正直名前どころか存在すら匂わせていないキャラです。
しかしそれを第二ヒント『未登場』及び第三ヒント『デレマスキャラ』を頼りに頑張って150人近い候補の中から予想してみてください。
そして毎度のことながら新キャラがいませんが、イントロダクションみたいなものだから多少はね? 次回からは一人一人に絞ったプロローグが始まり……え? 全員分やるのかって? 九人分もプロローグが書けるわけないだろいい加減にしろください!
さて、ではこれからも改めてよろしくお願いします。