「あれー? りょーにーちゃん、ここハーゲンダッツ置いてないよー?」
「そりゃまぁ、こういう雑貨屋には置いてないと思うよ」
あったら買うつもりだったのか亜美ちゃん。まぁ一応三百円以内で買えるものではあるけど。
「ん?」
何故か美希ちゃんと星梨花ちゃんが店内の一角を物珍し気に見ていた。
「どうしたの? 美希ちゃん、星梨花ちゃん」
「あ、りょーたろーさん」
「えっと、こういうお菓子を初めて見まして……」
何か珍しいものでも置いてあるのかと思ってそちらを見てみるが、そこは至って普通の駄菓子コーナーで懐かしいものは沢山あったが珍しいものは特に見当たらなかった。
「普通の駄菓子だけど」
「「だがし?」」
……あれ? これもしかして、二人とも駄菓子知らない感じ?
聞いてみると、お嬢様な星梨花ちゃんはこういう小売店に入ったことが無く、美希ちゃんは昔からおやつは母親が作ってくれていたらしいのでこういうものを買う機会が無かったそうだ。うーむ、星梨花ちゃんの家がお金持ちっていうのは知ってたけど、美希ちゃんがこういうのを知らなかったのは意外である。
「あー、よっちゃんイカや! 懐かしいやん!」
「ヨーグル……!」
「うーん、私もあんまりこういうの食べなかったなー。おやつって言ったらウチの賄いとか多かったし」
駄菓子コーナーに気付いた奈緒ちゃんや杏奈ちゃんや美奈子ちゃんが近寄って来る。みんなアイスもしくはジュースを買ってもまだ百円ぐらい余るはずだから、細々と駄菓子を買うつもりのようだ。
「同じくお嬢様の伊織ちゃんは見たことあるの?」
「ふんっ、この間やよいに連れられて近所の駄菓子屋に行ったことがあるわ」
なるほど。しかし何と言うか、伊織ちゃんが五円チョコを手にしている姿は何と言うか結構シュールな気がするのは自分だけか。
「冬馬さん冬馬さん! これは何ですか?」
「ん? あぁ、練り飴か?」
星梨花ちゃんが練り飴を手に冬馬に質問していた。お昼の時もそうだったけど星梨花ちゃんは本当に冬馬のファンらしく、結構頻繁に冬馬に対して話しかけていた。まぁ俺は大人だから、それが恋愛感情だとかどうかなんて無粋な詮索はしないぜ(ドヤァ)
みんな一緒にワイワイと駄菓子で盛り上がっていると、同じく駄菓子で盛り上がっている恵美ちゃんの姿が目に入った。
「おー! すっぱいガムシリーズだ! 懐かしー、友達とみんなで一緒に食べたよー! まゆは?」
一つだけ酸っぱいハズレが交ざった三つ入りのガムの袋を手にしながら楽しそうにそう話題を振る恵美ちゃん。俺も小学校の頃に恭也や美由希ちゃんと一緒に食べたっけ。誰がハズレを引いたのかはお察し。
「……えっと、昔の私はこういうのは、ちょっと……」
恵美ちゃんに問われたまゆちゃんの反応は何故か歯切れが悪かった。曖昧な笑みを浮かべるまゆちゃんに、恵美ちゃんは「あー……」と視線を宙に彷徨わせて頬をポリポリと掻く。
「……よし! じゃあ今食べよう! まゆの駄菓子デビューだ!」
「え?」
呆気に取られるまゆちゃんを余所に、「おばちゃんこれちょーだい!」と早速支払いを済ませに行こうとする恵美ちゃん。ちょうど俺の横を通り過ぎようとしたのでパッとそれを取り上げる。
「えっ?」
「俺が買うよ。その代わり、三つ入りだから俺も交ぜてね?」
「……もっちろんです! 一緒に食べましょー!」
という訳で他のメンバーは品定め中なので先にそれだけ支払いを終え、三人で店の外に出る。
「……ありがとぉ、恵美ちゃん」
「んー? 何のことー? 買ってくれたのはリョータローさんだよー?」
「……そうねぇ。ありがとうございます、良太郎さん」
「これぐらいだったら三百円の内に換算しないから気にしないで」
「それにしても……はぁ、良太郎さんと同じ袋の中から取り出したお菓子を食べるんですねぇ……!」
「まゆ、本当に感激するところそれでいいの?」
二人のそんなやり取りを聞きながら袋を開け、中に入っていた三つのガムをそれぞれ手に取る。
「これ、一つだけ酸っぱいんですよねぇ?」
「そーだよ。言っとくけど、酸っぱいのに誤魔化すの無しだかんね~?」
よーし、それじゃあ。
「「「いただきまーす!」」」
パクッと。
「「「………………」」」
無言のまま三人で口の中のガムを咀嚼し、お互いの表情を確認し合う。
「……俺じゃないよ?」
誰も何も言わないので自己申告。
「アタシも違いますよ」
「まゆも違うと思いますけどぉ……」
しかし恵美ちゃんとまゆちゃんも困惑気味。
「「「……あれ?」」」
どうやらハズレを引いた本人がそれをハズレと気付かないパターンらしい。あー、そういうのもあったなぁ……。
「……ぷっ! あっははは! 何それー!」
「うふふ、こんなこともあるんですねぇ」
しかし恵美ちゃんとまゆちゃんは楽しそうに笑っていた。そんな二人の姿を見て、俺もホッコリとした気分になるのだった。
「おーい財布ー! 支払いするから帰って来ーい!」
「ちょっ!? と、冬馬さんっ!?」
はっはっは。よーし冬馬、今から作画が崩壊するぐらいの腹パンするからそこに立ってろよー?
夕飯を食べ終えると、辺りはすっかり夕闇に包まれていた。真美ちゃんたちのお誘い通り、みんなで花火を始めたのだが……現在『打ち明け花火』の真っ最中である。
色とりどりの火花をあげる手持ち花火を手に緊張した面持ちの春香ちゃん。キュッと目を瞑ると、彼女は意を決したように口を開いた。
「じ、実は……な、何回かワザと転んだことがあります!」
「たまやっ!」
「はい千早ちゃん!」
貴音ちゃんがそう言うと、春香ちゃんは慌てて花火を隣の千早ちゃんに渡す。
「た、高槻さんとのツーショットが弟との写真の横に並べてあります」
「不発っ!」
「えぇ!? え、えっと……つ、使ったことは無いですけど、使ったことは無いですけど! ……む、胸パットを持っています……くっ……!」
「たまやっ!」
「……どうぞ、冬馬さん」
「露骨にゆっくり渡すなよ!?」
今にも闇堕ちしそうな暗い笑みの千早ちゃんから冬馬が花火を受け取る。
「……割と最初の方から良太郎のこと尊敬してた」
「不発っ!」
「なっ!? じゃ、じゃあ……ぐっ、ア、アイドルやるまで碌に女子と話したことなかった!」
「たまやっ!」
「おらよ良太郎!」
「ん」
今度は俺が冬馬から花火を受け取る。どうやらあまり時間は残されていないようだし、ここは大ネタを打ち明けて一発でクリアしておこう。
「実は俺、転生者で二度目の人生なんだよ」
「不発っ!」
「あれー?」
言い直す暇無く、花火は無情にも俺の手元で燃え尽きてしまった。
「はーい! りょーにぃアウトー! 罰ゲームー!」
「いくら何でもその嘘は分かりやすすぎますよー!」
百合子ちゃんに嘘と断定されてしまった。どうやら他のメンバーも同じ考えらしい。
「それじゃあ良太郎さん、罰ゲームとして一発芸お願いしまーす!」
やんややんやと囃したてられる。
一発芸か……それじゃあ冬馬の声を使って765プロの『READY!!』を振付込で披露してしんぜよう!
「良太郎君、天ヶ瀬君」
意外にも好評で罰ゲームなのに何故かアンコールを貰ってしまったので、今度はインパクトを強くして『冬馬の声でキラメキラリ』でも歌おうかと思っていたら赤羽根さんがやって来た。
「もうそろそろ時間じゃないのかい?」
「っと、あー、言われてみればこんな時間でしたか」
腕時計を覗いてみると、時刻は既に九時に迫っていた。明日早いし、もうそろそろホテルに行っといた方がいいか。
「えー? りょーたろーさんもう行っちゃうのー?」
「また最終日に顔出すから」
寂しそうな顔で近寄って来た美希ちゃんの頭をポンポンと軽く叩くように撫でる。
……あ、やべ、また無意識的にJCに触ってしまった。……つ、通報とか怖くねーし! ぶっちゃけ今更だし! 来いよ早苗ねーちゃん! 手錠なんて捨ててかかって来い! あ、だからっていきなり関節極めてくるのだけは勘弁な!
さて、荷物は纏めてあるから今からタクシーを呼んで……。
「良かったらホテルまで送ってくよ?」
しかし赤羽根さんがそんな提案をしてきた。何故かその表情は、笑顔と言うよりは少し真剣なもので……。
「……それじゃあ、お言葉に甘えさせていただきます」
普段765プロのみんなを乗せているであろう大きなサイズのバンに男三人とかむさ苦しいわー。……などという冗談は兎も角として。
「それで? どうしたんですか、いきなり送るなんて言って」
何となく赤羽根さんは俺たちに言いたいことがあったのではないかと思い、助手席から直接赤羽根さんに尋ねてみた。冬馬も同じことを考えていたようで、後部座席で黙って聞いている。
「……良太郎君……いや、123プロのみんなには色々とお世話になってるからね。君たちには、話しておこうかと思ってさ」
一体何をとは問わず、その先を赤羽根さんが口に出すのを待つ。
「……今回のアリーナライブが終わったら、一年間ハリウッドへ研修に行こうと考えてるんだ」
「……それはまた」
突然に、とは言わない。きっと前から考えていたことなのだろう。
「今の765プロは、一年前と比べものにならないぐらい有名になった。……そんなみんなをこれからもプロデュースしていくために、俺自身が成長しないといけない……そう思ったんだ」
「みんなにはもう話したんですか?」
「いや、まだだけど……タイミングを見てこの合宿中には話すつもりだよ」
「そんな大事なことを俺たちに先に話してよかったのかよ」
後部座席で聞いていた冬馬の問いに、赤羽根さんは苦笑する。
「うん、そうだね……こうして実際に自分の口で言葉にしてみて、自分自身でみんなにそれを告げる決心を付けたかったんだ」
「要するに予行演習って訳ですね」
「結果的にそうなっちゃうね。ごめん」
「ふん、トップアイドル二人を予行演習に使うとは随分と偉くなったもんじゃねーかよ」
「別に赤羽根さんの地位は変わってないと思うぞ」
「言葉の綾に決まってんだろ!」
しかしそうか……赤羽根さんも海外か。
千早ちゃん、美希ちゃん、赤羽根さん。こうして海の向こうへと視線を向けている知り合いがいる。
俺は国内の仕事に専念したいから、と理由付けをしてほとんど考えたことなかったけど……。
「………………」
窓の向こうには、夜の闇に染まった海と空が広がっていた。
・ハーゲンダッツ
前回三百円以内とか言っといて確認してみたら三百円でハーゲンダッツを買えたという事実。
・駄菓子
アニメ化するそうなので(便乗)
ちなみにすっぱいガムシリーズのオチは書いた後に「あれこれ本家と被ってるやん」と気付いたけど「二次創作だし」という言い訳の元そのまま。……確かこういうオチだったよね?(曖昧)
・作画が崩壊するぐらいの腹パン
作画にすら介入するとは流石チームサティスファクションのリーダーだ!
・打ち明け花火
スタドラネタ。元ネタでは一枚ずつ脱いでたのでこちらでは自主規制しました。(なお脱いでいたのは本家でも男だった模様)
・冬馬の『READY!!』
実は中の人が本当に歌っていたりする。
・赤羽根Pのハリウッド研修
何やら「本当にバネPハリウッド研修の展開は必要だったのか」とか言われてたりしておりますが、作者的には遠く離れていく人もいる(帰って来たけど)という展開嫌いじゃないです。
日常回で繋ぎ回(ストーリーが進まないとは言っていない)
映画では春香&可奈を中心にストーリーが進みますが、この小説では良太郎&恵美&志保を中心にストーリーが進むため、合宿が終わるとストーリーの進みが早くなる可能性が微レ存だから、多少はね?
『どうでもいい小話』
この辺にぃ、Lesson100到達&二周年間近の小説、あるらしいですよ?
じゃけん、何か記念回考えましょうね~。