楓さんとおでんを食べつつ日本酒飲みたい(ただの願望)
さて、その場が落ち着いたところで全員テーブルに着いて昼食となったのだが。
「「「………………」」」
冬馬と共に赤羽根さんやりっちゃんと同じテーブルに着いた途端、背中に鋭い三つの視線を感じた。多分さっきまで自分の隣の席を俺に勧めてきていたまゆちゃんと美希ちゃんと真美だろうと予想。いや、今日これからのことを少し大人組で話し合わないといけないからしょうがないんだって。後で遊んであげるから。
「で、予定を何も聞かずにこっちに来ちゃったからこれからのレッスンのご予定をお伺いしたいのだが」
「完全に自業自得じゃない」
だって予定聞いちゃったらサプライズにならないじゃんという言い訳はりっちゃんによって黙殺されてしまった。
「今昼休憩ってことは、これ食い終わったらまたレッスンってことか?」
素麺を麺つゆにつけつつ冬馬が赤羽根さんに尋ねる。
「あぁ。休憩を挟んでから、一時から再開。その後は四時までレッスンする予定だよ」
「ふむ」
それじゃあ、俺もそこに参加させてもらうことにしよう。
「あぁ、でもその前に休憩時間の内に練習中の振付を見せてもらいたいかな」
「え?」
「みんなのレベルを見る前にその振付がどういうのかを一回把握しておきたいんだよ」
教える側が教える振付を把握しておくことは当然のこととして、如何せん俺は覚えが悪い。みんなが休憩している間に練習してしっかりとアドバイスが出来るレベルになっておかないと。
「分かったわ」
そういうことならばとりっちゃんは承諾してくれた。
「美希ー、ちょっといいー?」
りっちゃんが少し離れた位置から声をかけると、不満顔で素麺を食べていた美希ちゃんが顔を上げる。
「なーに?」
「良太郎が振付の確認をしたいらしいから、お昼食べたらちょっとお手本になってくんない?」
「! 勿論なの! 律子……さん!」
喜色満面の美希ちゃんが思わずといった感じで立ち上がりながら快諾してくれた。うーん、休憩時間を使わせちゃうっていうのに、こんな役割を喜んで引き受けてくれるなんて良い子だなぁ。
「というか、りっちゃんが踊ってくれてもええんじゃよ?」
「私も踊るわよ。二人いた方が覚えるのに効率がいいでしょ?」
「? ……あぁ、そういうことね」
おk把握。
「りっちゃん! マミも! マミも踊るよ!」
「アンタはまだフリ完璧じゃないでしょ。いいからアンタは休憩してなさい」
「ぐぬぬ……!」
ぐぬる真美がドヤる美希ちゃんを睨んでいた。お手伝いをしようとしてくれるその気持ちはありがたいが、休憩も大事だからね。
さて、昼食を終えたら早速練習だ。
「りょ、良太郎さんが踊るんや……」
「ちょ、ちょっと見てみたいかも……」
「………………」
という訳で昼食を終え、一室を借りて運動着に着替えた俺と冬馬は民宿の向かいにある運動場という名の体育館にやって来たのだが。
「えっと、みんな休憩しないの?」
何故か全員が集合していた。一時までは休憩時間のはずだけど、みんな休憩しなくていいのだろうか。
「いや、なんと言いますか……」
「良太郎さんがゼロから振付を覚える様子を見る機会なんて滅多にないと思いまして、是非見学をさせていただこうかと」
苦笑して言葉を濁す春香ちゃんに対し、千早ちゃんがハッキリと答えてくれた。
他の全員の様子を見る限りでは、どうやらみんな同じ考えらしい。
まぁ彼女たちの休憩時間に何をしようと彼女たちの自由だから別にいいんだけど、人が振付を覚えるところなんて見てて面白いものでもないと思うんだけどなぁ。
「良太郎、天ヶ瀬君、準備はいい?」
「俺はいいよー」
「俺もだ」
同じく運動着に着替えたりっちゃんと美希ちゃんが並ぶ。
「あれ? 律子さん、後ろ向きなんですか?」
その際、俺たちに背中を見せるりっちゃんの姿に春香ちゃんが首を傾げる。
「こうすると前から見た動きと後ろから見た動き両方をいっぺんに確認できるでしょ? それじゃあプロデューサー、音源を……」
「あ、ちょっと待って。今りっちゃんと美希ちゃん、どっちの揺れる胸を見ようか検討中」
「プロデューサー、さっさと終わらせるから音源早く」
じっくり考えようと思ったら無慈悲に曲が始まってしまった。
さて、切り替えて振付を覚えないと。
「………………」
始まる前はいつものように冗談を発していた良太郎さんだったが、曲が始まり律子さんと美希が踊り始めた途端に雰囲気が変わった。
じっと律子さんと美希が踊る様子を見つつ、トントンと右足がリズムを刻んでいた。先ほどの胸を見るという発言は……まぁ冗談ではないのだろうけど、それでもしっかりと振付に集中しているのだろうと感じた。
隣の天ヶ瀬さんも同じように腕組みをしながら右手の人差し指で左肘の辺りをトントンと叩きながらリズムを取っており、ブツブツと何かを呟いていた。
そうこうしている内に曲が終わり、律子さんと美希の振付も終わった。私たちに教える立場の律子さんは勿論のこと、昨日教わったばかりの美希も既に完璧な振付だった。
「りょーたろーさん! ミキのダンスどうだった!?」
「うん、よかったよ。昨日今日でよく頑張ったね」
終わった途端、美希が良太郎さんに近づいていく。良太郎さんはいつもの調子で美希の頭を撫でようとしていたが、先ほどと同じように持ち上げた右手で自分の頬を掻いていた。
「で? どうよ良太郎」
「うーん、そうだな……三、四十分ってところかな」
律子さんに問われ、良太郎さんは時計を見ながらそう答えた。今は正午を三十数分過ぎた辺りで、予定していた休憩時間も残り二十分少々だった。
「じゃあ休憩時間の予定をちょっと変更ね。休憩は一時十五分までってことで。プロデューサーさん、いいですか?」
「あ、あぁ、別にいいけど……え、もしかして良太郎君、それだけの時間で覚えられるの?」
「はい。まぁ別に特別な覚え方をするわけじゃないですけど……」
「アンタの場合は『特殊な覚え方』というか『異様な覚え方』が正しいわね」
「えー。そんなに異様かな?」
「「異様だよ」」
律子さんと天ヶ瀬さんが声を揃えてそう断言した。
「というか、冬馬の方はいいの?」
「舐めんな。これぐらいだったら俺だってそれぐらいで踊れるっつーの」
それじゃあ練習始めるか、と良太郎さんは天ヶ瀬さんと共に振付を覚え始めたのだが……確かに、それは律子さんと天ヶ瀬さんが言ったとおりに『異様な覚え方』だった。
初めは律子さんや美希の動きを真似るように動いていたのだが、三回四回と繰り返すことで完璧に振付を把握したらしく、既に一人で動きの確認をし始めていた。ここまでは私たちと殆ど同じだった。
……そこから一切の休憩を挟まず、繰り返す度に振付が精練されていくことを除けば。
私たちが律子さんやトレーナーから注意を受けて修正するようなこと全てを、良太郎さんは自分で気付き修正し、さらに隣の天ヶ瀬さんの振付の指摘をしている様はまさしく『異様』としか言いように無かった。
私たちも三十分の時間を貰えれば振付は把握できるが、たまに間違えることもあるし細かな動きにまで意識が行かない。故にそれはお客さんの前で踊れるレベルとは言えない。
しかし、良太郎さんは一時間にも満たない僅かな時間で必要最低限お客さんの前に出しても恥ずかしくないレベルにまでそれを昇華しようとしているのだ。
「……ねぇ春香。前に良太郎さん、自分は感性で踊るタイプだから細かい指導は出来ない、みたいなこと言ってなかったっけ……?」
背後から小声で真がそんなことを尋ねてくる。確かにそんなことを言ってたような……。
「……リョータローさん、事務所所属になって後輩に指導出来ないようじゃ恥ずかしいからって、トレーナーの人たちにも話を聞いたりして仕事の合間に指導の練習をしてたらしいんです。アタシたちの指導も、少ししてくれまして」
コッソリと。そう教えてくれたのは、近くにいた恵美ちゃんだった。
「そうだったんだ……」
つまり良太郎さんは恵美ちゃんやまゆちゃんのために指導の練習をしたということである。
(……ちょっとだけ羨ましいかな)
自慢するわけでも誇示するわけでもないが、私たちは恵美ちゃんやまゆちゃんたちよりも早く彼と出会い、先輩後輩に近い間柄になっていた。後輩として良太郎さんが私たち765プロのみんなを可愛がってくれていて、私たちも良太郎さんを良き先輩と慕っていた。
だからこそ、そんな良太郎さんに指導の練習をしてあげたいと思わせた彼女たちが羨ましかった。
(……なーんてね)
ほんのちょっとだけ柄でもないことを考えてしまった。
「優しい先輩だね、良太郎さんは」
「はい。自慢の先輩です!」
ニッコリと、恵美ちゃんは笑って頷いた。
「……よし」
いつも通りノンストップで振付を確認し続けたことで、予定していた約三十分強で振付は完璧にマスターした。これでみんなに教える側として参加することが出来そうである。
「冬馬の方はどうだ?」
「……まぁ、なんとかな」
肩で息を切らしながら冬馬が頷く。高町ブートキャンプで底上げされた体力を使って俺と同じように振付の確認をしていた冬馬だったが、流石にずっと踊り続けて息が上がったらしい。しかしそれでもこの短時間でしっかりと振付を把握した辺り、流石は一時期961プロを牽引したトップアイドルである。
「はい。お疲れさまですぅ、良太郎さん」
「冬馬先輩もお疲れ様でーす!」
まゆちゃんと恵美ちゃんが俺と冬馬にタオルとスポーツドリンクを持ってきてくれた。俺自身はさほど疲れていないのだが、如何せん体育館内が暑いので汗をかいていた。ありがたくまゆちゃんからそれらを受け取り、冬馬も恵美ちゃんから手渡されたスポーツドリンクを一気に呷っていた。
「さて、これで俺たちは覚えたわけなんだけど……春香ちゃんたち、見てて楽しかった?」
そう尋ねると、春香ちゃんたちは若干答えづらそうだった。
「えっと……楽しかった、というと嘘になりますし……」
「かと言って参考になったとも言えませんし……」
「す、凄かったです」
『楽しかった?』というQに対して『凄かったです』というAが返って来たが果たしてこれは喜んでいいのかどうか。
「ほら、休憩時間はあと十分よ。用事がある子はちゃっちゃと済ませてきなさい」
律子ちゃんがそう言いながら手を叩く。時計を見ると時間は一時五分であり、休憩時間はあとわずかとなっていた。
何人かが駆け足で体育館を出て行くのを見送りながら、俺はふぅっと一息つく。
さて、765プロ&バックダンサー組の夏合宿with良太郎&冬馬はこれからが本番である
・大人組
※四人中三人は未成年
・「どっちの揺れる胸を見ようか検討中」
なんか久しぶりにりっちゃんに対して真正面からセクハラした気がする()
・(……ちょっとだけ羨ましいかな)
(別に何かのフラグでは)ないです。
ネタが少ないのはネタ切れではなくぶっこむところが無かっただけなんです!
本当です! 信じてください!(馬鹿なことを言うな! お前は一週間の謹慎だ!)
次回からは練習風景とか休憩中に戯れているところとか書くつもりです(書けるかどうかは別)
……が、その前に久しぶりの恋仲○○以外の番外編を書こうと思います。内容はオムニバス形式で登場済や未登場問わず色んなアイドルを出演させる予定です。
……じゃ、自分三万位ぐらいになるまで石を溶かす作業に移りますんで。
\ブシモッ!/
『デレマス二十五話を視聴して思った三つのこと』
※特別編だった今回はお休みです。