アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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俺の成績が上がらないのはどう考えてもりん(の可愛さ)が悪い。

今回から運動会編になります。年末の忙しさも相まって難産気味ですが、頑張ります。


Lesson11 ランナーズ・ハイ

 

 

 

 芸能人事務所対抗大運動会。年に一度行われ、テレビによる生中継も行われる一大イベント。

 

 かつては芸能人紅白対抗大運動会と言い、各事務所が入り交じってのイベントだった。しかし某アイドルが大暴れし過ぎたため、どげんかせんといかんとスタッフが取った苦肉の策『対抗を事務所ごとにする』により、フリーアイドルだった某アイドルは参加出来なくなったという裏話がある。

 

 つまり何が言いたいのかと言うと。

 

「アンタのせいで俺まで参加できないってこと分かってます?」

 

『何よー、私の華麗な応援合戦に対抗できるアイドルがいなかったせいでしょー?』

 

「加齢な応援合戦(笑)」

 

『おいぶっ飛ばすぞクソガキ』

 

 現在その某アイドルこと『オーガ』日高舞さんと電話中である。

 

 舞さんと知り合ったのはデビュー僅か一年後。番組出演のためにテレビ局へと出向いた際、俺の楽屋で待ち受けていたのが舞さんだった。道理で楽屋に向かう途中のスタッフがやたら脅えてたわけだよ。

 

 

 

 ――へぇ、こんなガキが私の再来ねぇ。

 

 ――ふぅん、伝説のアイドルも随分と年喰っちゃったもんだ。

 

 ――あ゛?

 

 ――あ゛?

 

 

 

 とまぁ、そんなやり取りがあったりなかったり。そうした経緯を経て、こうして気軽に電話する仲になったという訳である。これまでに何回か自宅に招待されたりもしている。

 

「大体、応援合戦以外にも色々やらかしてるでしょーに」

 

 出る種目全てで一位。キャラ的にも圧倒的に目立っており、他のアイドルが完全に霞んでいた。

 

「過去のVTR見せてもらいましたけど、何ですかアレ。芸能人紅白対抗運動会じゃなくて完全に日高舞オンステージじゃないですか」

 

『目立った私が悪いんじゃない。目立てない他のアイドルが悪い』

 

「ひでぇ」

 

 まぁ、俺もそこまで人のこと言えた立場じゃないが。

 

 とにかく、同じフリーアイドルである俺も舞さんのせいで運動会に出場出来ないのでした、ということだ。

 

「そんなことより、聞きましたよ。今年は愛ちゃんも参加するらしいじゃないですか」

 

 電話をかけた理由である本題を切り出す。

 

 日高(ひだか)(あい)。舞さんの一人娘で、876(バンナム)プロダクション所属の駆け出しアイドル。元気で明るく、大きな声と豊かに育ち始めたおっぱいが特徴の13歳。自宅に招かれたときに紹介されて以来懐かれてしまい、今では良き妹分である。

 

 その愛ちゃんが所属する876プロが芸能人事務所対抗大運動会に出場するという話を小耳に挟んだので、今回電話をかけた次第である。

 

『えぇ。愛ったら『テレビ出演のチャンスだー!!』ってはりきっちゃって。今も外に走りに行っちゃってるわ』

 

「道理で携帯にかけても繋がらないはずだよ……」

 

 携帯不携帯とか意味ないじゃないか。応援のメッセージでもと思ったんだけど。

 

『未だに大きな仕事が無いみたいだからね。少しでもチャンスを掴みたいみたい』

 

「でも、あの運動会で目立つのは相当難しそうですけどね」

 

 何せ出場アイドル全員が同じ考えなのだ。ちょっとやそっとのことじゃ駆け出しアイドルは目立つ機会すら掴めない。

 

『まぁ、無理に決まってるわね』

 

「少しは娘を信じてやろうぜ」

 

 この母親、初めから娘に期待してなかった。酷すぎる。

 

『あの運動会では、って話よ。だってあの子達も出るんでしょ? 1054プロの』

 

「魔王エンジェルですね。確かにあいつらが出るとなると、ちと厳しいですかね」

 

 歌や踊りのパフォーマンスもさることながら、容姿的にもキャラ的にもハイクオリティな三人だ。りんだけ運動神経は正直アレだが、それでも目立つこと間違いないだろう。

 

「加えて、今年は765プロも初参加ですしね」

 

『あら、ようやくあの子達も参加なのね』

 

「彼女達も中々濃いメンツが揃ってますから。いいダークホースになると思いますよ」

 

 何かやらかしてくれるんじゃないかと俺は信じてる。

 

『とにかく、アレは愛が駆け上がるべき舞台じゃないわ。結局駆け上がらないといけないなら、もっとデカイ舞台の方が効率いいに決まってるでしょ?』

 

「それが出来たら苦労しませんって」

 

 普通は下積みをコツコツ重ねていくものの筈だ。

 

『今回はどうせ無理なんだから、大きな仕事っていうものの雰囲気を感じられればそれで良しよ』

 

「まぁ、それはそうですね」

 

『愛が駆けあがる舞台は、私がちゃーんと考えてあげてるから……!』

 

「ナニソレ怖すぎる」

 

 え、実の娘になにする気だ? この人我が子を平気な顔で谷底に叩き付けそうだから余計に怖い。……何かあったら少しぐらいフォローしてあげるか……。

 

 それはそれとして、そろそろ次の現場だ。とりあえず愛ちゃんに応援のメッセージでも伝えてもらって……。

 

 

 

『あ、いいこと思い付いた』

 

 

 

 あ、嫌な予感がする。

 

 

 

 

 

 

 芸能人事務所対抗大運動会当日がやって来た。

 

 これはこの世界の人間にとっては新たな活躍の場を得る格好のイベント。ここで目立てば世間の注目も集まり、人気も仕事も増えるはずだ。

 

 今までは参加出来なかったが、今年は竜宮小町が頑張ってくれたお陰で私達765プロも参加することが出来た。

 

 これは竜宮小町だけでなく、他の娘達の名を売る絶好のチャンス。全員気合いを入れて望まなければならない。

 

 ……だというのに。

 

「伊織! 真! ケンカしないの!」

 

「だって律子! 真が!」

 

「あれは伊織のせいだろ!」

 

 ホント頭が痛い。今更ながらこの二人を二人三脚のペアにしてしまったことを猛烈に後悔していた。

 

 まだ競技が始まってすらいないというのに、練習の時点で二人の息が全くあっていないことが判明。上手くいかないことを互いが互いのせいにしあって全く練習が進まない。

 

「ふ、二人とも、ケンカはよくないよー……」

 

「「雪歩は黙ってて!」」

 

「はぅ……!?」

 

「はぁ……」

 

 ホント、頭が痛い。

 

 さらに頭痛の種はもう一つ。

 

「美希! いつまでぶーたれてるの!」

 

「むー……何でアイドルの運動会なのに、りょーたろーさんがいないのー?」

 

「だーかーらー! これは事務所対抗の運動会だから、事務所に所属してないフリーの良太郎は参加出来ないの! 何回言ったら分かるのよ!」

 

 私の声に耳も貸さず、再びそっぽを向く美希。何でもアイドルの運動会と聞いて良太郎に会えるものだとばかり思っていたらしい。

 

 ウチの事務所への激励、そして結婚雑誌のモデルと二回の邂逅を経て、すっかり美希の良太郎熱が上昇してしまった。元々熱烈なファンだっただけあり良太郎と実際に会ったこと自体は良い影響になったらしく、今まで以上に仕事に気合いを入れるようになった。その点で言えば良太郎にしては珍しくグッジョブと言わざるを得ない。

 

 しかし、少々熱が強くなりすぎてしまったらしい。ことある毎に良太郎の昔の話を私にせがんでくるし、寝言でも良太郎の名前を呟くことが多くなった。ちなみにそれまでの寝言で一番多かったのはおにぎり。

 

 加えて、今回のこれである。

 

「はー……ホントにもう、アイツは居ても居なくても迷惑をかけるんだから……!」

 

「……プロデューサーになっても苦労してるみたいね」

 

 痛む頭を押さえていると、ふいに後ろから声をかけられた。聞き覚えのある懐かしい声、それでいてテレビでは何度も聞いた声だった。

 

「でも元気そうで何よりだわ」

 

「おっす、りっちゃん! 久しぶり~!」

 

 振り返った先にいたのは、アイドル時代の同期にして、現在のトップアイドルの一角、『魔王エンジェル』の麗華とりんだった。

 

「麗華!? りん!?」

 

「765プロが初参加って聞いたから、ちょっと顔でも出しといてあげようかと思ってね」

 

「……ま、魔王エンジェルの麗華さんとりんさん……!?」

 

「わわ、初めて間近で見た……!」

 

 現トップアイドルの突然の登場に、事務所のみんなも驚いていた。美希達、結婚雑誌撮影組だけはりんと会ったことがあるが、他のメンバーは初対面なので緊張した面持ちだ。

 

「わざわざありがとう。本当だったら、私達が挨拶に行かないといけないんだろうけど……」

 

「挨拶に行くべき人数が多すぎてやってらんないでしょ。気にしなくていいわ」

 

 昔のよしみだしね、と麗華は髪をかき上げる。

 

「そういえばともみは?」

 

 一人欠けていることに気付く。全くないことではないとは言え、このコンビだけというのも珍しかった。

 

「ともみだったら……」

 

 

 

『越えたー! 魔王エンジェルのともみ選手、160cmを跳びました!』

 

 

 

「競技の真っ最中よ」

 

「みたいね」

 

 というか走り高跳びで160cmって……よくまぁあんな軽々と跳べるものね。

 

「ともみは凄いなー、運動神経抜群で。アタシなんかコレが重くて運動苦手だし。スレンダーな麗華が羨ましいよ」

 

「オイコラ何が言いたい」

 

 自らの大きな胸を腕で下から持ち上げるりんに、麗華はこめかみに青筋を浮かべる。

 

「べっつにー? 細い麗華が羨ましいって話をしてるだけじゃん? ……あ、ウェストサイズはあんまり変わんなかったっけ」

 

「よしそのケンカ買った」

 

「ケンカなら余所でやって」

 

 

 

 麗華が落ち着いた辺りで、競技を終えたともみもこちらにやって来た。

 

「ブイ」

 

「さっすがともみ! ダントツで一位だったね!」

 

「うぅ、勝てなかったぞ……」

 

「それでも二位だったんだから、大健闘よ」

 

 薄い表情ながら満足そうなともみに対し、同じ走り高跳びに出場していた響が意気消沈していた。

 

「わたしは身長が高かっただけ。その身長で、しかも胸の重りまで付いてるのに155cmを跳んだ君の方がすごいよ」

 

「アンタまでそれを言うか!」

 

「?」

 

 恐らく純粋に響を慰めようと思ってかけたともみの言葉に、麗華が過剰反応する。ともみは何の話か分からず首を傾げていた。

 

「いくらなんでも気にしすぎでしょ」

 

「毎度のごとくアイツに弄られてるのに、気にしないってのが無理なのよ……!」

 

「麗華、胸を弄られてるってなんかヤらしー」

 

「うっさいわね!」

 

「……ともみのさっきの言葉もそうだったけど、アンタら良太郎に染まりすぎでしょ」

 

 もしくは毒されてると言うべきか。

 

「ホント!? アタシ、りょーくんに染まってる!?」

 

「うん、そうだね。りんはちょっと静かにしてようね?」

 

 爛々と目を輝かせるりんはともみに任せておく。

 

「何だかんだ言って既に四年の付き合いよ……何かしらの影響が出てても驚かないわ……」

 

 そんな台詞とは裏腹に、麗華は悲痛な表情を隠すように顔を手で覆う。

 

「目を付けられた以上、どうせアンタらも良太郎に染まる運命よ……」

 

「ホント!? ミキもりょーたろーさんに染まるの!?」

 

「うん、そうだな。美希はちょっとこっち来てような?」

 

 キラキラと目を輝かせる美希は響に任せておく。

 

「アイツは周りの人間に何かしらの影響を与えないと気がすまないのかしら」

 

「薬にも毒にもなる影響……いや、毒にしかならない薬ね」

 

「それ、薬は薬でも毒薬っていう劇物だぞ……」

 

 冷や汗を流す響を他所に、私と麗華は同時にため息を吐くのだった。

 

 

 

 ホント、今日は良太郎が居なくて良かったわ……。

 

 

 

(……あれ、これってフラグ?)

 

 

 




・芸能人事務所対抗大運動会
残念ながらアイドル以外の部門もあるのでポロリはありません。

・「俺まで参加できないってこと分かってます?」
まさかの主人公、運動会不参加である。

・日高舞
日高愛の母親にして伝説のアイドル。
わずか3年の活動期間で、16歳で引退したにも関わらず数々の記録を残した公式チートキャラ。
現在は13歳の娘を持つ29歳の母親。父親は明言されておらず、シングルマザー説が有力。
あまりのチート加減から、かの有名な地上最強の生物「範馬勇次郎」になぞらえて『オーガ』などと呼ばれている。

・「加齢な応援合戦(笑)」
そしてその舞さんにこんなことを言ってのける主人公もチートキャラ。
まぁ、二次創作ですし(メメタァ)

・『目立った私が悪いんじゃない。目立てない他のアイドルが悪い』
当たり前のことのはずなのに、この人に言われると何か釈然としないものを感じる。

・『あ、いいこと思い付いた』
悪 魔 の 閃 き

・「「雪歩は黙ってて!」」
鉄板のやり取り。……のはずなんだがアニメだとここ以外で見た記憶がない。

・「よしそのケンカ買った」
麗華のCVは今野宏美さん。主なキャラとしてアマガミの中多紗江……こんなところにも格差が……。

・「胸を弄られてるってなんかヤらしー」
実は第二話辺りからずっと思ってて、その表現を出来るだけ避けていたのだがネタとして採用。
今のところ良太郎のパイタッチイベントは考えておりません。

・「アタシ、りょーくんに染まってる!?」
ダメだこのりん、早くなんとかしないと。

・「ミキもりょーたろーさんに染まるの!?」
ダメだこの美希、早くなんとかしないと。

・(……あれ、これってフラグ?)
当然フラグです。



ついにみんな大好きオーガ登場。
現在どのタイミングで「ディアリースターズ」タグを入れるのか検討中。

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