「今回お前登場してないらしいな」
「まだ福井入りしてないし、多少はね?」白目
「な、765プロの皆さんが来たで!」
「ほ、本物の春香ちゃんでした!」
夜に電気を消した後に女子トークを繰り広げてしまったので程よく夜更かししてしまった翌日。
民宿の人が用意してくれた素麺で昼食を終えてしばらくした頃、誰か来たと言って見に行っていた奈緒と可奈が興奮した様子で戻って来た。どうやら765プロの皆さんが到着したようだ。
「な、何か緊張してきました……!」
「し、失礼無いようにしないと……」
奈緒と可奈の緊張が伝染したのか星梨花と百合子も表情を強張らせ、他の子たちも少なからずそわそわとし始めた。志保は平然としながら窓際に座ってスマホを弄っているが、やっぱり少し落ち着かない様子だった。
「緊張するなってのは無理だろうけど、もう少し落ち着いたら?」
「そ、そんなこと言われても……」
「普段から周藤良太郎さんと顔を合わせてる恵美さんたちとは違うんですよぉ……」
うーん。以前にも美嘉から同じようなことを言われたし、自分では気付いていなかったがそこら辺の感覚が鈍っているのだろうか。
「そういえば、恵美ちゃんとまゆちゃんは765プロの皆さんとお知り合いなの?」
ふと気付いたように美奈子がアタシたちにそんなことを尋ねてきた。
「うーん、一応面識はある……かな?」
「良太郎さん自身は765プロの皆さんとお知り合いみたいだけど、私たちはお仕事の現場で良太郎さんから軽く紹介されたぐらいねぇ」
今現在のアタシとまゆの活動は、MCなどのイベントのお手伝いや雑誌のモデルなどが中心となっている。前者はともかく後者ではトップアイドルである彼女たちと一緒に仕事をする機会があるので、一応面識はある。
……というか、765プロの皆さんだけじゃなく他の業界の関係者の方と会うたびに「良太郎さんからよく話は聞いてるよ」みたいな反応をされることから、どうやらリョータローさんが方々でアタシたちのことを話しているようだ。アタシたちを可愛がってくれて周りに自分たちを自慢してくれるのは嬉しいのだが……微妙にアタシたちのハードルが上がっているような気がする。
そんな風に「実際に見てどんな人たちだったか」などの話で盛り上がっていると、私たちが昨日から寝泊まりしている部屋の襖がトントンと叩かれた。
それまでワイワイと話していたその場にいた全員がビクッとなって静まり返る。
「どうぞ」
そんな中、襖が叩かれた時点で一人静かに髪と服を整えていたまゆが立ち上がって即座に応対してしまったので、慌ててアタシたちも軽くではあるが身支度を整えながら立ち上がる。
「失礼するわね」
そう言いながら襖を開けて眼鏡をかけた男女が入って来た。
「こんにちは。765プロダクションのプロデューサー、秋月よ」
「赤羽根だ。みんな、今回は集まってくれてありがとう」
仕事の現場で何度か顔を合わせたことがある二人、765プロの秋月さんと赤羽根さんだった。
誰かが秋月さんたちの言葉に反応する前に、これまた真っ先にまゆが頭を下げた。
「この度は、765プロダクション主催のアリーナライブの末席に加わらせていただき真にありがとうございます」
深々とお辞儀をするまゆに合わせて私たちも一緒に頭を下げる。昨日民宿の人に対するまゆの反応を覚えていたので、それほど遅れずに反応することが出来た。
「いや、こっちとしてもバックダンサーのみんなに参加してもらえてありがたいよ」
「とりあえず、みんなに紹介するから居間に出てきてくれるかな」
私たちが今回の合宿に利用させてもらう民宿『わかさ』に到着したのは昼過ぎのことだった。
「なんか前の旅行を思い出すなー!」
「あ! 海が見えるの!」
畳の上に荷物を置きながら響は懐かしそうに部屋を見回し、開け放たれた窓から見える青い海に美希が飛びついた。
「亜美と真美がまだ着いてないから、なんか静かだよね」
苦笑しながらそう零した真に、思わずクスリと笑ってしまう。
亜美と真美だけではなく、あずささんと貴音さんも仕事で後から合流となっているので今ここにはいない。
「僕と雪歩も一度途中抜けするし。今回の合宿組むのに、プロデューサーと律子、凄く苦労したんだろうね」
真のその言葉に思い返すのは、半年前、今年の二月のこと。みんなの時間を合わせることが出来ず、一緒に練習することが出来なくて焦っていたあの冬の日。あれ以来、プロデューサーさんと律子さんは私たち全員が余裕を持てるスケジュールを組むようになってくれた。結局私の我儘を叶えてくれた形になってしまったが……今こうしてみんなで合宿を行うことが出来て、私は凄く嬉しかった。
「みんなー! ちょっと下に降りてきてー!」
階段の下から律子さんの声が聞こえてきたのは、そんな時だった。
「……あの、そんなに緊張しなくていいから」
プロデューサーさんが苦笑しながらそう声をかけるものの、私たちの前に並んだ九人の内の七人は、程度の差はあれど全員緊張した面持ちだった。
「全員本業はスクールや事務所に所属するアイドル見習いだけど、今回のライブにダンサーとして参加してくれるわ」
はい自己紹介して、という律子さんに促され、右から順番に自己紹介が始まる。
「佐竹美奈子です」
「横山奈緒です!」
「な、七尾百合子です」
「北沢志保です」
「箱崎星梨花です!」
「望月杏奈、です」
「や、矢吹加奈ですっ!」
「所恵美ですっ!」
「佐久間まゆですぅ」
よろしくお願いします! と全員がお辞儀をするのに対して、私たちは拍手をしながらよろしくお願いします! と返すのだった。
ふと、私の一番近くに立っていた子と目が合った。
「よろしくね」
「っ!? よ、よろしくお願いします!」
するとその子は真っ赤になってしまった。こういう反応をされるのはまだ慣れていないので少しむず痒く、また自分たちも昔良太郎さんに対してこういう反応をしていたのだろうなぁと考えると懐かしいというのと同時に気恥ずかしかった。
さらにそこから視線を横に移すと、以前写真撮影の現場で会った二人と目が合った。
「お久しぶりです、天海さん」
「今回はよろしくお願いします!」
「久しぶりだね、まゆちゃん、恵美ちゃん。今回はよろしくね」
123プロダクションの新人アイドル、佐久間まゆちゃんと所恵美ちゃん。現場で一緒になったのは一度だけだったが、良太郎さんから何度か話を聞いていたので既に何度も会っているような感じだった。
まゆちゃんはほんわかとした雰囲気の女の子で、恵美ちゃんは今どきな快活な雰囲気の女の子だ。タイプ的にはそれぞれあずささんや美希に似ている気がする。
「あはっ! 何だか楽しくなりそうなの!」
先ほどまで眠そうだった美希が、パッチリと目を開けて笑った。
早速レッスンを始めるということで、アタシたちバックダンサー組はとあるものを赤羽根さんから手渡されてから着替えるために自分たちの部屋に戻った。
「これって……」
「765プロのロゴが入ったTシャツ?」
部屋に戻って手渡されたそれを広げると、それは765プロのロゴが胸元に、ひし形の模様が裾にプリントされた黒いTシャツだった。ロゴが入ったTシャツなら物販でも買えるが、恐らく今回のアリーナライブのために作った特注品だろう。
「私たちがこないなものもろてよかったんやろか?」
「私たちも今回は765プロの一員として参加するのだから、素直に765プロの皆さんの好意を受け取りましょう?」
恐れ多いといった様子の奈緒だったが、まゆの言葉に納得して全員そのTシャツに着替え始めた。
「って、恵美さんその着方は……」
「え? ダメかな?」
可奈の言葉に自分の姿を見返してみる。袖まくりして裾を縛っただけなんだけど。
そんなにダメかなーと思っていると、すすっと近寄って来たまゆによって結んでいた裾を解かれてしまった。
「恵美ちゃん、今回私たちはあくまで765プロの皆さんのアリーナライブにバックダンサーとして参加させていただくわけなんだから、キチッとした格好でレッスンに望まないと」
「はーい……」
「それに女の子が普段からへそ出しなんてはしたない」と頬に手を当ててため息を吐くまゆ。まるでアタシの母親か親戚のような言動に、思わず「南の島で大胆なビキニ姿をリョータローさんの前に晒したのは誰だったかなー」とか言いたくなった。
「……あれ? まゆさん、それは外さないんですか?」
「え?」
星梨花がそう言って指差したのは、頬に当てた左手の手首に巻かれたピンク色のリボンだった。
「そういえば、昨日お風呂の時も外していませんでしたよね?」
(せ、星梨花ちゃん、凄い……)
(わ、私たちが聞きづらくて聞けなかったことを……)
どうしてですか? と無邪気そうに首を傾げる星梨花。その後ろで杏奈と百合子がコソコソと戦慄していた。
「あぁ、これ? これは、私の願掛けなの」
「願掛け?」
「えぇ、願掛け」
うふふっと笑いつつ愛おしそうにリボンを撫でるまゆ。
「まゆのこの想いが、キツく解けませんように、って」
「想い……ですか?」
「えぇ、そうよ」
「………………」
アタシ自身が問われたわけでもないのに、アタシは内心でハラハラとしていた。
――うふふ、恵美ちゃんは知りたいの? このリボンのことが……。
「よ、よーし! みんな着替え終わったかなー? 終わったなら、早速運動場の方にゴー! 765プロの皆さんよりも早く準備しないとね!」
不意に思い出してしまった以前のことを頭の片隅に追いやりながら、アタシは追い立てるようにバックダンサー組に声をかけるのだった。
「……ふふ、ありがとう、恵美ちゃん」
「まずこうして、みんなと協力して合宿を実現できたことが嬉しいです」
律子さんからリーダーとして一言と言われ、真っ先に思いついた言葉がそれだった。
運動場に集合し、みんなの前に立ちながら私は自分自身の思いを言葉にして紡ぐ。
「今回のアリーナライブは、過去経験したことが無いくらい大きなライブだよ。私たちにとって大きなステップアップになると思うし、大切な思い出にもなると思う」
以前、良太郎さんから提示された『次のステージをみんなと一緒に楽しみたい』という私の新しい夢。例えみんなが忙しくなろうとも、私はみんなとのステージを大事にしたい。
「何より、応援してくれる多くのファンの人たちのためにも……力を合わせて、最高のライブにしよう!」
『おーっ!』
私の言葉に合わせて、みんなが拳を突き上げながら立ち上がった。
「よーしやるぞー!」
「気合い入るねー!」
「みんな、いつもの行くよー!?」
いつもと同じように円陣を組む私たち。
しかし、当然ながらその『いつもの』を知らないバックダンサー組のみんなはポカンとした様子だった。
「ほら、アンタたちもよ」
「は、はい!」
伊織に促され、慌てて立ち上がったバックダンサー組も円陣に加わる。
全員が中心に向かって拳を突き出したのを確認してから、私はすぅっと息を吸った。
「765プロ~……!」
『ファイトー!』
「「ファイトー!」」
『……ふぁ、ファイトー……!』
乗ってくれた恵美ちゃんとまゆちゃん以外のバックダンサー組は若干戸惑ったままだったが。
こうして、私たちの合宿はスタートした。
・袖まくりして裾を縛っただけなんだけど。
恵美ならこう着そうと思ったけど、よく考えたら響と被ってた。
・左手首のピンク色のリボン
ガチかミスリードかそれとも……?
そしてこのあとがきの少なさである。ほぼ原作ママな上に良太郎視点じゃないとネタが入らない。
というわけで本編に戻ってきまして、合宿スタートとなります。福井入りしていない良太郎の登場が減りますが、恵美とまゆがいることによる変化をお楽しみいただきたいと思います。
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