とあるチートを持って!   作:黒百合

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誤字脱字の習性はちまちまとやっていく所存であります。


孤軍奮闘

「・・・憂鬱だ。」

 

響はというと憂鬱真っ盛りである。

なんせ今回はお茶会!

そう、きやつらが来るお茶会なのである。

 

すっぽかせたらと何度思ったことか。

 

「本当に大丈夫なんだろうな?」

『大丈夫、大丈夫。私にまかせなさい!!』

「だから不安なんだが・・・」

 

えっへんと胸を張るアイシテル。

胸は無いんだけれども。

実に不安だ。

 

「ばれたらホント頼むよ。」

『だから分かってるってば。まったく女々しいな。』

 

ほうっておけ。

そんな感じのことを言いたそうに顔を顰める響だった。

 

☆ ☆ ☆

 

どうやら俺が一番乗りのようで月村さんと2人きりでお茶を飲む。

うむ。平和だ。

平和すぎてつい猫なで声で月村家のぬこをナデナデするのも仕方がない。

なぜなら平和だからだ。

平和ゆえに腑抜けたのであって、日ごろはこんなバカな真似はしない。

それがこの俺。相馬 ひびーーーひかりである。

近くには月村さん付きのメイドとか言うファリンさんとやらが一緒になって話をしているのだが、従者がそんなことでいいのだろうか?

 

さらに言えば、どうやらドジッ娘に分類されるようで、ここに来て早々服を汚され、脱がされ、入らされ(風呂に)、着させされた。

こういうことがよくあるらしい。

首にしたらどうだろう、とちょっと思ったけど余計なお世話なので、黙っていた。

 

話を戻すが、風呂に入ったまでは良い物の都合よく男物の服があるわけもなく。

なぜか月村さんのパジャマを着ているというこの状況。

結局女装することになってしまった。

いや、女装というほどでもないか。

パジャマなのでスカートというわけでもなく、デフォルメされたネコがプリントされているだけのもの。

外見年齢も相まって女装している感は無い。

知らなければ女の子に見えるのは確かだが、子供の時は男の子も女の子も大して変わらないし、女物の服を男の子に着せる親はちらほらいる。今の姿はその程度である。

何が言いたいかというと、別に女装じゃないんだからねっ!!と言っておきたいのだ。

自分のパジャマを見られることになって少し恥ずかしがっていた月村さんが可愛かったとは言って置く。

 

ちなみにもう1人のメイド長のノエルさんとやらは至って普通のメイドさんだった。

きっとファリンさんは月村さんのお友達として――の意味合いが強いに違いない。

でなければ常識的に考えて、あんなドジっ娘を雇うはずが無い。

ただじゃないのだから、わざわざ安くは無い人件費をかけてドジっ娘を雇うまねはすまい。いくらお金が余っている家であろうと。

 

そして尋ねたい。

なぜにこんなにもネコが多いのかと。

 

まぁ撫でてる分にはなんら問題はないのだが、如何せん、ぬこが可愛すぎてノックダウンされそうだ。

ネコの多い理由でも考えて気を紛らわせないことでもしないかぎり、俺はきっと鼻血を出して気絶するだろう。

なんてことはなく。

 

普通に気になった。

 

「それはね、保健所のとか・・・野良猫なんかを引き取ってるうちに・・・」

 

これまた恥ずかしそうにそうの給う月村さん。

本当にエエ子や。

もちろんであるがこうした人は少なからず居る。

偽善と呼ぶ人もいるだろうが今回のコレは偽善ではなく完全な善と言ってもいいんじゃ無いだろうか?

見れば分かることであるが、この家のネコはある種、異常だ。

本来、ネコは群れる事を嫌う。

 

漫画やアニメなどで集会のように集まるシーンはあっても現実には滅多に無い。

犬のように仲良く一つの餌皿で餌を食べるなんて行為もしないのだ。

本を読んでて学んだ知識なんだが、この家のネコは非常に珍しい。

 

よっぽどしつけが良いのか、はたまたそうした協調性を持ってでもここにいたいと思わせるのか。

 

次に注目すべきは毛並みや健康状態である。

もちろん世の中には野良犬、野良猫や保健所で殺処分される捨てられた犬猫を保護し育てる保護団体や個人の人々がいる。

が。

保護団体はともかく個人の場合は独りよがりな善意であることが多い。

 

単純な話。

資金が無いのだ。

一般家庭の人がネコや犬を複数飼うとなるとその餌代や予防注射代(国で義務とされてる狂犬病など。酷い場合予防注射が一切されず、人間に危険が発生する)だけでも、かなり高額の世話代がかかる。

糞尿の処理だってかなりの手間暇がかかるはずだ。

時には群れに馴染めなかった個体が虐めで酷い怪我を負うこともあるし、糞を処理しきれずに病気となり死んでしまう場合もある。

 

そういった人の多くは善意だけ押し付けて、結果的に苦しい生活を近隣住民や救うべき犬猫に強いることとなるわけで。

いわばありがた迷惑だ。

口先だけでろくに救えてない、満足に救えてないという状況になる。悪いというわけでもないが誉められた行動でもない。

って、俺みたいなやつが何を偉そうに言ってるんだろうね。

 

とにかく、ここのネコにはきっちりと管理が行き届いてることが分かるのだ。

糞も見た限りでは見当たらない。

糞はそのままでは肥料とはならずに有毒なアンモニアが発生し、それが草を枯らす。

土中の自浄作用以下の量ならばともかく、これだけいれば確実に分解されない糞が出てくるはず。

しかし、枯れた草が見られないことから目に当たる場所だけ掃除しているということもなさそう。

おそらく専門の世話係を雇いつつも、屋敷に住む人間が一丸となって世話をしているに違いない。

 

金持ちだからだろ!と言うヤツもいるだろうが、逆を言えば金持ちでもない限り下手な救いは中途半端になるだけでやめるべきということ。

そんな惨状を招くくらいなら政治家を目指して、犬猫の投棄を厳しく取り締まる法律を作るべく動いた方がよほど建設的で効率的、かつ現実的だろう。

 

全部本の知識の受け売りだが、本当に彼女はネコを好きなようだ。

ただ可愛いだけと侮ることなく、世話に関する手間暇苦労も含めて猫を愛す。

可愛い部分だけを見て、軽い気持ちで飼ってしまうと飼育者にとっても飼われる側にとっても非常に不幸なことになる。

時には保健所に預ける際、「家のネコだけはちゃんと飼い主を見つけてあげてよね!」などという身勝手なことを言って捨てていく人間もいるらしい。

そんな人間が居る中で、彼女は本当のぬこリストと言っていいだろう。

 

 

「ど、どうかした?」

「ううん、なんでもないよ。月村さんは本当に偉いなって。」

「えっと・・・そんなことないよ?」

 

本当にーーー自分の黒歴史が惨めに思えてきます。

どうしてあんなバカだったんだろうね。

泣けてくらぁ。

 

泣きそうになりながらも、にゃんこを撫で回しているとピンポーンとインターホンの音が鳴り響いた。

いよいよ来たか。

 

ここまで来たら覚悟を決めよう。

 

「こんにちはー。」

「こんにちは。」

 

まずは高町さんとーーーなんだこのイケメン。イケメンか?うん、イケメンだ。あえてもう一度言おう。なんだこのイケメン?

イケメンかつ声までイケメン。もといイケメンボイスなんだが。

何から何までイケメンすぎるだろう。

死ねばいいのに。

 

「こんにちは、すずか、来たわよー。」

 

次にアリサ・バニングス。

高町さんの一件でぶん殴られて以来、とっさに逃げたくなった。

まてまて、大丈夫ばれないばれない。

ばれないばれない。

 

高町さんがこちらを見てくる。

そら、見覚えの無い人間がいたら気になるよね。

 

「こんにちは、皆。

・・・ほら。ひかり。言ったでしょ。」

「・・・あ、うん。」

「人見知りを直すためにも自分で自己紹介して。」

「わかってるよ、月村さん。」

 

何度も重ねて言うけど、別に人見知りじゃないんだけどね。君たち以外の人間ならば。

立ち上がって、口を開ける。

 

「わ、私は相馬 ひかりっていいます。よろしくおねがいします。」

 

無駄にかしこまって一人称まで変わってしまった。

月村さんは少し噴出していた。

行儀悪いよ?

 

 

「そうま・・・?」

 

高町さんがなにやら少し嫌そうな顔をした。

ばれたかっ!?

 

「・・・アンタにお兄さんとかいる?」

 

何か言いたそうにした高町さんよりもバニングスさんがこちらに問いかけてきた。

まぁ聞かれますよね。

名字同じだもの。

小さい声だけど、「・・・似てるわね。ていうか・・・瓜二つ・・・双子かしら?」とか言っている。

もちろんのこと。

 

「いませんよ?」

 

満面の笑みで応えてやったぜ!

ちなみに高町さんのお兄さんがこちらをじっと見ている。

その視線はどこか厳しい。

おい、9歳児に向ける眼光じゃねぇだろ。てめぇの面、鏡で見せてやりたいくらいだ。いや、目元に皺が寄っていてもイケメンには変わりないんですけれど。

普通の9歳児だったらこの時点で泣いてるわ。

というか、まさか気づいてる?なんてことは・・・いや、まてまて大丈夫大丈夫。

まだ疑ってる段階だろう。多分。

 

背筋が脂汗でびっちょりになってきたくらいの沈黙が終わったあと。

 

「そうよね・・・あれみたいなバカがこんな素直なわけないし。」

「・・・そうみたい。よかった。」

 

バニングスさんと高町さんがほっと一息つく。

そこまで警戒されるほどだったんですね。

俺、泣きそう。だって男の子だもん!

 

「・・・身振り手振りからすると・・・いや、だが・・・雰囲気があまりにも・・・ううむ・・・しかし重心の置き方といい・・・」

 

お兄さんはまだ疑っているようである。

ていうか、身振り手振りってなんじゃそれ?

え、この人どんだけ?

この人と面と向かい合ったのは一度のみ。高町さんの家に謝りに行く時だけ・・・だったはず。

ていうか重心の位置とか見て取れるんですね。

何それ、この人怖い。格闘技とかやってるんですか?

いや、それ以前に格闘技やってても重心の位置で人の判別を取ろうとする変態はいないと思います。

 

ていうか、こいつは俺とはまた別のベクトルで変態では?と思え始めてきた。

ちょっとした振る舞いでバレかねん雰囲気がある。

只者じゃないっ!と思ったね、ぼかぁ。

 

さらに問題が積み重なった。

 

「あ、いらっしゃい。ちー君。」

 

ちー君とか親しげに相性で呼ばれた男はいつぞやの山田君(仮称)。

美少女に相性で呼ばれるとは羨ましい。

というか下手したら既にフラグを作っているのではないだろうか?

妬ましい。死ねばいいのに。

というか殺してしまおうか?

 

「・・・どう思う、アイシテル?」

『バカ言ってないで、気をつけないと――ほら、彼は転生者だから・・・』

「・・・原作にいない・・・その顔・・・おまえっ!?

性懲りも無くまた来たのかっ!?」

 

や、やべっ!?

これは非常にまずいっ!!

 

「えっと・・・なんのことだか?」

「シラを切るのか?オマエは居ないはずの人間だろうっ!!なんでここにいるっ!!

またなのはにセクハラする気かっ!?この厨二野郎がっ!!変装までしやがって・・・俺は騙されねーからなっ!!」

「ち、ちが・・・」

 

やばばばばばばっ!!

やばす!!

これは不味いっ!!

正義感溢れる山田君にしては端から敵対心MAXモードであるが、それが正しい。

あれだけ迷惑かけて彼の友達にセクハラしたのだから、むしろこれくらいが当然だろう。

何も聞かずに追い出されても文句は言えないくらいの酷いことだったわけなのだし。

お兄さんは山田君ほど敵対視しては居ないようだが(それはそうだ。仮にも子供なのだから)、いつでも高町さんの間に入れるようにさりげなく間に入っていた。

そのさりげなさが、なぜか異様にぐさりと来ました。

 

周りの視線はまさかっ!?って感じである。

月村さんに至ってはその顔に凄まじいまでのガッカリ感―――といえば若干コメディ臭いが、10年来の恋人に突如「別れよう。実は俺・・・女だったんだ。」と言われた様な顔をしていた。

いや、そんな顔見たこと無いからこの例えが正しいのかは分からないが何はともあれ、こんな時こそ困った時のアイシテル頼み。

さぁ、存分に思いっきりやっちゃって下さいよ!!

アイシテルの姉御っ!!

 

『合点承知っ!!』

 

そしてアイシテルがやったことと言えば。

 

「ハァーハァッハァッハァッ!!

そいつは俺の偽者だっ!!本物はこの俺!!

ビューティフルひびーーー」

「死ねぇエエエエエエエエえっ!!昔の俺はいらんわぁっ!!」

 

いきなり月村家に突如出現した謎の厨房。

その正体は俺の昔のアレだった。

 

よって俺はつい反射的にぶん殴った。それこそ殺す勢いで。あらん限りの力をこめて。

 

「ごふっ!?

・・・強くなったじゃねぇか・・・ひびき・・・ガク。」

 

そのままズンと倒れこむ厨房。

なぜこれを出すっ!?

多分、同じ人間が2人もいるはずもないということで考えたことだろうが。タイミングと出現場所が意味不明すぎた。

なぜ月村さん家の床板をはがして出てくるっ!?

登場の仕方が変態的過ぎる!

これって弁償しなくちゃいけないんじゃないかっ!?

ほら、月村さんなんかあまりの驚きに倒れこんで・・・倒れこんで気絶して・・・ああ。

うん。これダメだ。

何より倒れ間際の厨房の言葉。

なぜ俺の名を言ってしまったのか。

 

『響も“昔の俺”とか言っちゃってるよ?』

 

そうだったな・・・終わった。

何もかも終わった。

が、どこかすがすがしいのはなぜだろう。

そう、きっとこれは。

 

友達を騙すことに引け目を感じていた良心の痛みが無くなったからだ。

それと同時に唯一の友達も無くなってしまったがな。

 

 

「・・・アイシテルのあほぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 

俺は泣きながら月村家を後にした。

 

アイシテルには頼らないことを決めた記念すべき日でもある。

 

☆ ☆ ☆

 

響はと言うとがむしゃらに走り逃げた。

結果。

いまだ月村家の庭に居た。

 

「どっちが出口?ていうか何この森林?」

 

なんせ月村家は広い。

広すぎるくらいに広い。

森が広がっているのだ。

正直何のためにと思わせるほどに敷地が広い。

広すぎてもむしろ街道に出るまでが大変ですよね?と。

金持ちってどうしてこう、無駄が多いのだろうか?

 

さすがにもう一度戻って帰り道を聞くということも出来ず。

のんびり歩いて出口を探す始末。

空を飛ぼうと考えては見たものの、目撃される可能性を考慮すると最後の手段としたほうが無難だろう。

ある程度とおくまで行ってからなら鳥だと思ってくれるだろうし。

というか、あの登場の仕方は明らかに尋常ではない。

魔法のことがばれたりしたんじゃないだろうか?いや、この世界の人間って普通に魔法使ってるのかな?だとしたら問題は無い。

う~ん。良く分からん。

 

「そういえばあの厨房はどうした?」

『消したよ?』

「そう、良かった。あれがそのまま残ってたら、また下手なこと言うだろうし・・・は?」

 

響とアイシテルが話していると前方にありえないくらい大きなにゃんこが出現した。

にゃーんと若干のエコーがかかりつつもにゃんこはのんびり林を探索しているようだ。

 

「・・・月村さんは本当に凄いな。あんなネコまで飼ってるのか。餌代とか糞の処理とかが大変そうだ。」

『・・・違うよ、あれはジュエルシードを取り込んだネコってところでしょう。』

「またそれか。じゅえるしーどとやらか。まったくどこにでも落ちてるもんなんだな。ていうかさ、あそこにいるの高町さんじゃない?」

『そうだね。どうする?助けるの?』

 

大きなにゃんこの前には高町さんがいつの間にか来ていた。

助けるとアイシテルに聞かれて、響は唸る。

 

「いや・・・別にいらないでしょう。彼女は天才?らしいじゃん。俺が会ったあれよりも危険は少ないみたいだし、そもそも俺が何をどうして手助けをしろと?」

『変わりに封印をしてあげるとかどうだろう?

それでジュエルシードを持って、それをプレゼント代わりに渡せばあの時のお詫びになるんじゃないかな?』

「・・・なるほど、その発想は無かった。それならそうと、俺もじゅえるしーどとやらを探してれば良かったんじゃないっ!?それで仲直り・・・は無理でも、少なくとももう完全に気にしない、というレベルにはなって欲しい・・・という願望を言ってみたが。どうなんだろうか?」

『試す価値はあると思うよ?』

「・・・本当だろうな?」

『えーっと・・・さすがに泣くとは思わなくてね?その・・・反省してます。』

 

アイシテルが言ってるのは月村家でのさっきの出来事だろう。

 

『なのはちゃん経緯で、月村さんの印象も回復できるかもよ?』

「よし、ならばやろう!!」

『そこで即答なのね。』

 

当然である。

響にとっての今生の友達。それが月村すずかなのだから。そして比較的寂しがりやの響としては望むところである。

 

さらにやる気をアップさせてるのは相手が強そうでないというのもある。

 

「・・・だけど登場はどうすればいい?」

『え?』

 

高町さんは響に対して少なくとも好感情は抱いて無いはず。

いきなり出たところで無駄な警戒を持たせるだけという可能性もある。

下手をすれば攻撃されかねない。

そもそもこのまま置いておいてもなんら問題はないだろう。

原作を知らない響とて、彼女が主人公らしきことは分かっている。

主人公ならば手に入れて当然。さらにとなりにはなんらかのチートを持っていると思われる山田君もいるのだ。

まず間違いなく、手に入れることが出来るんじゃないか。

そう考える響。

 

『なのはちゃんは優しいから・・・多分大丈夫じゃないかなぁ・・・それともここはなのはちゃんに任せて、他のジュエルシードを探す?』

「よし、そうしよう!」

『これまた即答ね・・・ん?』

 

そんな感じのことを考えていると、またもや新たな人間がやってきたようである。

いつぞやのコスプレ金髪少女。

フェイト。

パピコを持っていった憎い怨敵である。

 

「・・・いまだ鎌を持ってるんだな。」

『どうする?』

「どうもせんってば。とにかく俺達は別のジュエルシードを探すま――なっ!?」

 

フェイトはネコに攻撃を加え始めた。

それを見てなのはも少女の存在に気づく。

 

「なっ!?にゃんこに攻撃だとっ!?

許せんッ!!今度こそヤツを説教してくれるッ!!」

『・・・やめといた方が・・・』

「いや。だめだっ!!あのぬこは、じゅえるしーどとやらの被害者だろう!?

無駄に痛い目にあわせる必要は無いっ!!

今度ばかりは俺も本気だぞっ!!」

 

と響が話している間にも攻撃されるぬこ。

その際、なのははなのはで変身中。

どうのこうの言う前にさっさと行動を起こすべきだ。

 

「いかんっ!?

こうしてる間にもあのぬこがっ!!

アイシテル行くぞっ!!

せ、せせ・・・せっとあっぷ。」

『相変らず小声ね。』

「どうして厨二くさい掛け声にしたんだよ!?」

 

文句を言う響の体が光り、月村さんのパジャマが解けるように消え、西洋鎧のような甲冑が身を包む。

腰には飾りの少ない両刃のロングソードがささり、フルフェイスの兜が顔を覆い、伸びた髪が若干兜の後ろからはみ出す。

篭手のそれぞれに一対のナイフが収納される。

変身完了である。

 

「そこの鎌の少女、ぬこを攻撃するとはどういうことだっ!!」

 

響が躍り出る。

 

「・・・誰?

貴方もジュエルシードを集めてるの?」

「集めてない。いや・・・さっき集めることにしたけど今回の用件はそれでなくてだな。」

「・・・あいつっ!?

おい、相馬だろっ!おまえっ!!」

「っ!?」

 

なのははようやく変身が終わったよう。

そして後から来たのだろう、山田君。

山田君は西洋鎧に包まれているのにも関わらずに響の正体を看破する。

おそらく感知系の魔法を使っているか、そういったチートを貰っているのだろう。

デバイスを持ってないことから、肉体的なチートや特殊能力的なチートを貰ったのだと思われる。

 

「・・・こんなところで出てくるとは・・・オマエ・・・まさかっ!?」

「・・・。」

 

響はどうするか迷っていた。

勝手に山田君が叫んでいるだけならば今は誤魔化せるんじゃないかなぁとか思いつつ。

なのはが怪訝な顔を浮かべているがそれよりも大事なのはこちらである。

響はフェイトに向き直す。

 

「どうしてネコを攻撃するんだ?

可哀想だろう。君の腕ならばそのまま封印するのも可能なはずだ。必要なく痛めつけるのは感心しない。」

「・・・こうした方が手っ取り早い。」

『確かにね。弱らせてからの方が封印の難易度や必要な魔力量は下がる。手っ取り早いのは間違いないわ。』

「・・・なるほど。高町さんがいるからか。」

『そのとおりね。彼女も集めているならその点も考えて、魔力を温存しておきたいのでしょう。

時間をかけられないというのもあるでしょうけど。』

 

響は考えた。

さて、どうしよう?と。

響は知らぬことであるが、物語的にはネコのジュエルシードを回収するのは目の前の少女である。

山田君は下手に手を出すつもりはない、非介入派。下手に話をこじらせたらエンディングが変わると考えているため、山田君は手を出すつもりは無い。

この結末に変更は無かったはずだった。しかし。

しかし、響としてはきっと高町さんが手に入れるのだろうと考えている。

これが一つ目の勘違いを発生させた。

よってこのようなことを言う。

 

「君に手に入れることは出来ない。

さっさと去った方がお互いのためだ。」

「・・・関係ない。私は手に入れなければならないのだから。例え3人が相手でも!!」

 

次に問題なのがここで山田君の最悪の勘違いが発動したからだ。

 

「・・・なのはっ!!

あいつにジュエルシードを渡すなっ!!

きっとあいつはジュエルシードをお前達を惚れさせるために使う気だっ!!」

 

響は内心なんですとぉぉぉおぉぉおおおっ!?

と自分のことを言われてるはずなのに、自分が一番驚いた。

山田君は響が泣きながら帰ったところを見て、「あいつもいい加減、気づいたのか?」と考えている。

しかし、こうした勘違い系、もしくは自意識過剰系のチート人間がそう簡単に心変わりするはずないとも考えている。

彼の趣味はインターネット上での魔法少女リリカルなのはの二次をひたすら読むことだったため、そうしたところから先入観が生まれていた。

改心するはずが無いという。

その結果、この誤解に響いたのだが。

 

「まさかっ!?

確かにジュエルシードには願望器としての能力があるけど・・・」

「なぜそんな思考に・・・」

 

ユーノが戦慄した様子で語る。

響も戦慄した様子で語る。

アイシテルは不謹慎だが、笑いを堪えていた。

もちろん響は響で間違いを正そうと声を上げようとしたが、そこで(カマ)(カマ)えた(ギャグではない)フェイトが切りかかってくる。

慌てて剣で受ける響。

お互いの武器がぶつかり合う、鋭い擦過音が鳴り響く。

 

「・・・そんなことのためにジュエルシードは渡せない。」

「いや、ちがっ!?がはぁっ!?」

「っ!?」

 

今度は背後から砲撃がぶち当たる。

なのはのブレイクシュートだった。

フェイトは戦いに慣れているため、常に他の二人も視界に入れていた。よって避けれたが、響は実戦は実質初めて。気配とか魔力で背後の攻撃を察知するなんていう高等テクニックが可能なはずもなく。

きりもみしながら数百メートル吹き飛ばされる。

 

「・・・どうしてそんな酷いことを考えられるの?

そんなことで好きになられたって嬉しくないと思う。考え直してよ。すずかちゃんが良い人だって言うから・・・どんな人だと思ってみれば・・・酷いよ。」

 

酷いのは背後からためらいもなく打ち抜く貴方じゃないだろうか?と言いたかったが、響は苦悶の表情を浮かべるだけ。

予想以上にイタイ。

身も心も。

 

『非殺傷設定をオンにしてないみたい。

そこまで使えないのか・・・それとも少し痛い目にあわせたいのか・・・』

「前者であることを願うわ・・・本当。」

『っ!?

後方っ!!気をつけてっ!!』

「また後ろかいっ!?

ぐがぁっ!?」

 

またもやきりもみしつつ吹き飛ぶ響。

地面に墜落し、バウンドしながら土にまみれる。

 

「・・・あいつ。」

『あれは・・・NARUTOの万華鏡写輪眼ね。

この世界はあくまでも魔法少女リリカルなのは。万華鏡を魔力で再現してるに過ぎないのでしょうけど・・・それでも脅威よ。』

「・・・厨二だな。」

 

山田君は目を異様な紋様に変えつつ体にうっすらと紅いオーラを纏っている。

NARUTOという漫画にて体を覆うように展開する人型のオーラ、スサノオである。それの剣のなぎ払いを受けたのだろう。

デバイスを使ってないのでこれまた非殺傷設定などという便利機能は無い。

切れなかったのはそれだけ鎧が頑丈だということ。響としてはほっと胸を撫で下ろす。

 

右になのは。

左に山田君。

後方にフェイト。

 

なぜこんな状況になったのだろう?

響は泣きそうになりがらもこれもまた自分の昔のアレが原因かと思いつつ。ため息を吐きながらここから逃げることを考える。

自業自得とはいえ、これは酷すぎる気がしないこともない。

これが乙女を傷つけた罪か。

 

『逃げるの?』

「・・・逃げずにどうしろと?」

 

 

響は逃げることにした。

 


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