とあるチートを持って!   作:黒百合

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無印編
ちょいとした修行回


あれから半年の月日が流れた。

彼はと言うとそれはもう、猛省した。

 

『大丈夫。そろそろ治ったよ。』

「そうだろうか・・・アイシテル。俺は怖い。また大きな罪をこの手で犯してしまうのを・・・」

『はい、その言い回しは厨二くさいので直しましょうね。』

「・・・俺は厨二じゃない。もう目が覚めたし。」

『厨二の人は誰もがそう言うの。』

 

今彼が居るのは自室。

神様から貰ったチート特典の一つ。

神様に用意してもらったデバイス“アイシテル”と話している。

二対のナイフ型デバイスであり、片方はベルカ式でカートリッジを搭載しているため、非常にゴツい。

もう片方はすらりと長いスリムなミッド式の魔法が組み込まれたナイフである。

近接戦や身体強化に置いて優れているベルカと、小手先や技術、手数の多さに優れているミッド式。

どちらの魔法も満遍なく十二分に使えるという特殊なデバイスである。

待機状態はナイフを模ったネックレス。服の下に入れておけば一番目立たない形である。

普通のインテリジェントデバイスよりは遥かに感情豊か。

ちなみにドイツ語を喋っている。

 

良い機会なので彼のチートを振り返ってみた。

 

まず一つはその容姿。

銀髪オッドアイ。

しかし、これは現在では意味を成さなくなっている。

アイシテルによる変装魔法で一般的な黒髪黒目の人間にしているのだ。

理由は言わずもがな。

 

二つ目は神様印のデバイス。

アイシテルの性能は下手なロストロギアよりも強力で、ジュエルシード2個分並みの魔力貯蓄機能があったりとチートらしいチート。(あくまでも大気中の魔素を日々、貯蓄しているというだけなので、一度使うと1~2週間は使えなくなる。)なのだが、どんなスーパーコンピューターも扱う人が幼児並みの知識と能力値しかないのでは宝の持ち腐れ、豚に真珠、ぬこに小判、というもの。

ちなみに一度もセットアップしたことが無い。

彼はこの世界について美少女がヒラヒラした服を纏って飛び回る。程度の認識しか持っておらず(逆に言えば彼にとってはそれが全てであり、それで十分だった)、そもそもデバイス自体この世界の最新鋭のコンピューターだとしか考えていない。

もちろんこの時点からして勘違いなのは言うまでも無いことである。

何が言いたいかと言うと、彼はデバイスを単なる便利な魔法が使える生活を助ける道具、程度にしか考えておらず、戦いに使えるなどと微塵も灰燼も気づいていないのだ。

そしてそれを知りつつも面白そうだと言うことで放って置くアイシテル。

これまた現状では使えないチートである。

 

三つ目は言わずもがな我らが夢。おっぱいチートである。

よく考えて欲しい。

全てのヒロインに直面する絶対的な悲劇とはなんであろうか?

・・・引っ張る意味も大して感じられないので早々に明かしてしまうが、それは「老い」である。

どんな可愛いヒロインも時が流れれば老化し、言い方は悪いが劣化する。

いつまでも若々しい姿で。

これはほぼ全ての――容姿に自信を持つ人間であるほど必ず抱く欲求の一つではないだろうか。

もちろんアニメを見ていると言う立場であるならばなんら問題は無かったのだが、同じ世界に現実として生まれた以上はそうしたヒロインの姿も見なければならない。

自然の摂理とは言え、それを解決する手段があれば望んでしまうのが人の業という物だ。

 

耳障りは悪いがおっぱいチートはそんな夢を叶える最高のチートと言える。

劣化によって垂れるおっぱい。

垂れたおっぱいは二度と戻らないと言うのが現在の学説で、事実そうである、らしい。

巨乳キャラであればあるほど何十年後かにお世辞にも綺麗とは言えない肢体を晒す事になる。

もう少しオブラートに包むべきなのだろうが、どんなに言い繕っても厳然たる事実であり条理である。

ゆえに目を背けるようなことはしてはならない。

 

二次元に置いてはそんな心配はいらなかったものの、その世界に暮らすとなれば10年、20年と先があり、魔法的な何かが無ければ等しく老いさらばえ、おじいちゃま、おばあちゃまと化す。

加齢臭もするだろうし、皺も増えていく。

背骨が曲がり、筋肉や脂肪がこそげ落ち、歩けなくなるかもしれない。

だが安心してくれ。

このおっぱいチートは微乳、ひんぬう、巨乳、爆乳、横乳における曲線美の調整や下乳において良く見えるように脂肪の配置や柔らかさを微妙に変えることによってうんぬん、あのキャラが巨乳であれば、ひんぬうであればという願望を叶えることもできる――「おっぱいを操る程度の能力」ではあるがその能力にはレベル2があり、そのレベル2はまさしく神の御業とも言うべき効果を発揮する。

そう、名づけるとしたならばアンチエイジングEXである。

 

アンチエイジングとは意訳し、分かり易く簡潔に述べるならば老化防止のことを言う。

とはいえ生きていれば老化していくのは自然、老化しないのは不自然である。

防止と言うよりは抑制といった方が正しいか。

そんなアンチエイジングの効果を極限まで高め、全く別物とし、上記の正しく老化“防止”を実現させたおっぱいマッサージ。

それがレベル2の効果だ。

具体的なメカニズムを語るのは省略するが、とにかく凄いおっぱいマッサージで老化を防止し、どうにかしておっぱいの時を止め、しかしおっぱいはおっぱいという単体の生き物ではない――ゆえに体にもその『時間の停滞』が影響し、すなわち寿命で死ぬことは無い不老と化す能力。

 

畏怖されるべき異能(レアスキル)である。

戦慄してくれても構わない。狂喜乱舞してくれても構わない。

どこぞの学園都市であるならば男女問わず研究者によって研究され尽くすであろうこの能力。

おっぱい――いや、胸を揉めば男にも効果を発揮する正しく等しく全てのおっぱい――男の場合は胸とする――をチートさせるこの能力。

もしばれれば比喩ナシに真面目に解剖されるに違いない。

 

と熱心に語りすぎたところで閑話休題。

 

彼は自室でアイシテルと話しながらもとある本を読んでいた。

 

『猿でも分かる乙女心』

 

そう、彼は勘違いスキルを消し去ろうと努力しているのである。

涙ぐましい努力。

その姿に拍手をせざるを得ないが、したところでなんだというのは明白。

とりあえず拍手は自重した。

 

 

「アイシテル・・・乙女心はかくも難しいんだな。」

『それを読んで分かった気になってたら、また勘違いするよ。きっと。』

「・・・どうしてそういうことを言うんだ。頑張ってるんだから応援してくれれば良いのに。」

『だって・・・せっかく間近で勘違い系主人公の滑稽な姿を楽しめるからと神様に志願したのに。結局良い子ちゃんっぽくなってるんだもん。私つまらない。』

 

デバイスは志願制らしい。

 

「・・・俺を怒らせると酷いぞ?」

『どうするっていうのよ?』

「納豆ごはんに混ぜ込んでやる。」

 

結局持ち運ぶのは彼なので、回りまわって自分がいやな思いをすることに気づかない響。

というよりも食べ物を粗末にあつかってはいけません!

 

『ぶふっ!?な、なんていう鬼畜。げ、外道っ!!外道だわっ!?

私の美しい超合金ボディが納豆菌で汚れるじゃないっ!?』

「・・・超合金製だったんだ!?いや、それよりも、この漢字の読み方を教えて。」

『ん・・・何々?

葛藤?これが何?』

「かっとう――って読むんだな。」

『・・・。』

 

デバイスがアホの子を見る目で見つめた。

目、無いんですが。

 

「しょ、しょうがないだろっ!?

中学二年の時に死んだんだから、学があるわけじゃないんだよっ!!」

 

 

そして彼は本を読み終わるとおもむろに胡坐をかき、手を股のあたりに置く。目を瞑って身じろぎもしなくなる。

 

瞑想である。

 

ちゃんとしたオリ主であれば瞑想と聞けば「体内の魔力を感じ取る訓練か!」とティンと来るものだが、彼の場合は違う。

彼女達の将来が楽しみがゆえについついエロい視線を向けていたーーーもといこの色欲を抑制する訓練である。

まず彼は魔力がどうとかというよりもその人格の矯正から始めた。

アホである。が、切実な問題でもある。

 

瞑想をし、できれば悟りを開くのが目的だが、ドウ考えてもそれは無理に違いない。

彼の思考回路を除いて見る。

 

おっぱい・・・無限のおっぱい・・・

いや、待て待て。

おっぱいは違う。おっぱいなんていらないんだ。

だがしかし、おっぱいというのは如何せん俺の心をつかんで離さない。

これほどまでに拒絶してもおっぱいが出てくるということはもしや俺の心に巣食うおっぱいはただのおっぱいじゃないんじゃないだろうか?

きっとおっぱい型宇宙人などが俺の精神から侵略し、体をのっとり、俺の体のいたるところをおっぱいに変えるに違いない。

それは嫌なようで嬉しいかもしれない。

そもそもおっぱいチート自体、おっぱいを揉むための口実がてら貰ったようなものだし、自分の体がおっぱいとなりえるなら誰かのおっぱいを求めて徘徊せずに済む。が、自分の体のおっぱいで俺は満足できるのだろうか?

おっぱい神としてーーーいや、おっぱいの神を名乗るのはまだ早いか。

最低限おっぱいスカウターの技術を会得しなければーーー

というかおっぱいを考えていたら肉まんが食べたくなってきた。

あの白い肌にホカホカの具。正直肉まん神。チョコまんなるものもコンビニに売っていた気がする。

チョコまん。中々惹かれる。そういえば犬にチョコを与えるといけないとか聞くが一体どうしてだろうか?

ネギもそうだったな。あ、ネギはあれか。ユリ科の植物か。

ユリ科の植物には毒が含まれてるとかなんとか。だからかな?たまねぎやネギは大丈夫なのだろうか?

今まで食ってたんだけど・・・いや、そもそもユリ科の植物だっけ?

 

 

非常にドウでもいい思考回路だった。

結果から言えば一年後ぐらいには彼はなんとかエロから脱する。

頑張ったね・・・うん。

 

「ご飯よぉ!」

 

下の階から母親の文香が晩御飯に呼ぶ声が聞こえる。

こうして彼の一日は終わる。

 

PT(プレシアテスタロッサ)事件の始まりはすぐそこである。

 

☆ ☆ ☆

 

「なにこれぇ?」

 

歩いていたら何かに出くわした。

黒い形にネコ――いや、ぬこの目をした珍妙な生き物である。

なんか触手が生えていた。

 

「・・・こういう生き物もいるんだなぁ。」

 

響はそんなことを呟く。

もちろんそんな生き物がはびこるような世界ではない。

 

「うぉっ!?」

『ぷろてくしょ~んっ!』

 

触手が響に襲い掛かるがそれを基本魔法のプロテクションで防ぐアイシテル。

響は少し焦る。

目の前の黒い塊は何らかの生き物にジュエルシードが憑依した姿。寄生、共生?なんにせよ合体した姿だ。

合体したからといってなぜこんな形になるのかが意味不明であるが。

 

「こ、こんな気性の荒い生き物がこの街の近くに居たとは・・・知らんかった。」

『何言ってるの。これは生き物というより魔法生物なのよ。』

「ほう?

魔法生物とやらが何科の動物かは分からんが、この世界ではこんな危険な生物が街中を闊歩するのか・・・初めて知った。・・・なにそれこわい。」

『そうだけどそうじゃない・・・というかそれどころじゃないというか。ほら、キタっ!!』

「はっ?

ってぎゃぁぁぁああああっ!?」

 

さらに触手を増やして攻撃を続けてくる黒い塊。

アニメであるならばただ黒いだけだが、いまやこれは現実として目の前にある。

うごめく体はどうも肉質的で結構気持ち悪い上に、そこかしこから触手が生えてそれが突き刺そうと襲いくる。そして目玉は大きいのがそのまま実写化されたもので、正直下手なホラーよりもグロイ。

当然のごとく一般人気質の響は声を荒げた。

そして逃げた。

 

『ちょ、ちょっとっ!?

た、戦わないのっ!?』

「あれと!?バカじゃないのっ!?

あんな意味不明な生き物と戦うとかバカかっ!?」

『誰がバカとっ!?

所詮私の観察対象のクセに私をバカにするとは・・・ちょっと生意気じゃない?』

「誰が観察対象かっ!?

子供の自由研究として飼育される蚕じゃあるまいにっ!!」

 

とか言い争いながら逃げる響。

そして触手に足をとられた。

 

「や、やばっ!?

え、これ?どうされるの?何されるの?

食べられちゃう?頭から丸齧りですかっ!?」

『ざまぁ。』

「ちょ、おまっ!!食われる前に貴様だけはぶん殴るっ!!」

『そんなこと出来ないでしょうに。ほら、手まで巻きつかれて。』

「うっぉぉおおおっ!?

しまったぁあああっ!!手が・・・手が引っ張られるっ!?ぶん殴るとか行ってる場合じゃないっ!!」

『そのまま丸齧りされてね、響。』

「ちょ、えっ!?マジで助けてくれないのっ!?ていうか助けられるっ!?」

『確かに助けられる。でも嫌。』

「えっ!?だめもとで言っただけなのに・・・最近のパソコンパナイね。っていうか、助けられるんならハヨう助けんかっ!?」

『えぇぇぇぇぇぇ・・・気分じゃない。』

「気分で人助けとかどんな鬼畜ですか。ホントまじ助けてください。いたっ!いてっ!!ちょっ!?

まてまて、牙が軽く刺さってるっ!!刺さってるよ牙がっ!!」

『ていうか、さっき助けたから良くないかな?』

「いやそんなこと言ってる場合じゃなーーーやばっ?ほんとマジやばい、やばすぎる。お願い、ほんとお願い。お願いだから助けーーーぐおぉぉぉぉぉっ!?顔の間近に牙が、牙が迫ってるっ!?

ていうかこんな場所に口があったのかっ!!ヒトデみたいなやつ・・・とか言ってる場合じゃなくてだなっ!!

も、もう・・・ほんと限界!!お願いっ!!助けてぇえええっ!!」

 

閉じようとする口に手を当ててなんとか閉じられないようにと頑張っているのだが、如何せん態勢が悪い上に腕もぷるぷるしてきた。

彼の精神年齢は20ちょっとであるが、肉体年齢はあくまでも9歳なのだ。

それでも仮にも動物のアゴの力に耐えられてるのはさりげなくアイシテルによる肉体強化の魔法があるからである。

しかし、このままでは黒い塊の糞と化してしまう。

 

「くそぉぉおおぉぉおおおっ!!こんなはずじゃなかったのにっぃぃぃぃっ!!」

 

悪役が死に間際に発するようなセリフを言ってプルプル震える腕が外れそうになる。

さすがにみかねたアイシテルが助けに入ろうとするがそれよりも重大な案件が発生した。

もとい元祖主人公である高町なのはの登場である。

 

本来の歴史とは打って変わって、すでに変身済み。

なおかつリンカーコアを求めるこの黒い塊に襲われるのはユーノであり高町なのはであるはずだった。

 

そこへ通りかかったリンカーコアを持つ生物。

もとい響は丁度言い獲物であったのだ。

その戦闘時の余波をかぎつけたユーノ・スクライアがなのはに助力を請い、レイジングハートを手に取りやってきたというわけである。

 

「きゅ、救援かっ!?」

 

人の気配に振り向いた瞬間、響は固まった。

当然である。気まずさゆえにだ。

当然ながらあれからしばらく経ったとはいえ、一生会いたくない相手である。

そこで響が起こした行動はもちろん。

 

「や、やばい・・・よりやばいぞ・・・っていつまで噛み付こうとしてんのっ!!

邪魔だぁっ!!」

 

目の前の黒い塊を触手に纏わりつかれながらも蹴っ飛ばし、その辺の庭の草むらに隠れることだった。

火事場のなんとやら。というやつだ。

 

「戦略的撤退と言うやつだな。うん。」

『逃げてばかりじゃだめだと思うよ?』

「やかましい。これは俺のためではなく、彼女のためだ。夜の街を飛行しているところ、いきなりいつぞやの変態が現れてみろ。むしろ俺を見て逃げかねんだろう?」

 

つっこみどころはそこでは無いと思われるが。

 

『・・・確かにそうかもしれないけど可哀想なくらいにみじめな気遣いね。』

「・・・うるさいやい。」

『というか飛行してることには突っ込まないの?』

「え?ああ、そういえば飛んでるけど・・・すごいテクノロジーだな。オマエといい、今の地球はやたらとか科学力が高いみたい。空も飛べるのかぁ・・・アイシテル、俺も飛べないの?」

『飛べるけど・・・普通に受け流すのね。』

「死んだ時にこの世界は空を飛んで弾幕芸(シューティングゲーム)をする少女達がいると聞いていたからな。」

『しゅ、シューティング・・・』

「あ、それより見てみろ、なんか倒したみたいだぞ。

ていうか、今更だけどあの黒い塊って何?それと気のせいじゃなければフェレットらしき動物が喋ってる気がする。」

『とりあえず帰らないの?』

「そうだな・・・すっごい疲れたし、腕ぷるぷるしてるし今日は早く寝よう。」

『んじゃ結界抜けるね。』

「けっかい?

なんか良く分からんが了解だ。どうせなら空を飛んで帰りたい。」

『はいはい、ええと空を飛ぶやり方は・・・』

 

 

こうして響はリリカルでマジカルな世界に片足を突っ込むのであった。

 

☆ ☆ ☆

 

「これ、やんなくちゃだめなの?」

『また襲われるかもよ?』

 

さて、次の日。

俺はというと特訓することになった。

なぜかというとアイシテルの話によるとまだこんな感じの出来事が起きるらしい。

じゅえるしーどとか言う厨二な名前のアイテムが街のあちらこちらに落ちたとかなんとか。その結果なんちゃらかんちゃらとか。厨二過ぎて聞いていられなかった。

よく分からないが、確かにあんなのが闊歩してる街で丸腰で歩くのは勘弁なので少なくとも逃げられるような魔法は使いたい。

母さんとかもあの生物に襲われてると思うと少し心配だが、母さんはきっと俺よりも強力な魔法が使えるに違いない。

母さんに教わるのもいいんじゃないかなぁと思いつつ。

 

「えーっと、まずは何々?

アイシテルセットアップと言いましょう・・・とな?」

 

そのためにもアイシテルの取り扱い説明書を読んでいる。

アイシテルが口で説明するのが面倒だから勝手に読めといわれて作られた冊子である。

こんなことを言えと要求してくるとは。

アイシテルだって厨二じゃないか。

そもそも冊子を作るほうが面倒だと思うのは俺だけだろうか?

 

「アイシテル・・・せ、せっとあ~っぷ。」

 

小声なのは仕方ないよね。

恥ずかしいし。

すると胸のアイシテルがぱっと光り、アイシテルから自信を守る強靭な衣服をイメージしろとかいわれた。

強靭な衣服ってなんだよ。

綿100パーセントの服じゃ駄目と言うことだろうか?

ポリエステル繊維を使えと?

 

『そういう意味じゃないっ!あほっ!!』

 

もういっそのこと鎧でいいじゃんと考えたら服が脱げた。

 

・・・うん。

意味が分からない。

上着が溶ける様に消えていき、次にズボンが溶け消え、パンツが最後にはじけ飛ぶ。

確かに魔法少女的なアニメの変身シーンでは脱げるのがセオリーだが、男の子でも変わらないのだろうか?

誰得なんだろう。

そして体が西洋鎧に包まれる。

俗に言うフルプレートメイルで、肌の露出部分が無くなった。

そしてゴツイナイフが一本とすらりとした長めのナイフが一本。

両手に一本づつ出現した。

 

「ゴツイナイフとはいえ、西洋鎧姿には合わなくないか?」

『剣もイメージして腰に差して置けば?』

「じゃあそうしよう。」

 

ぱっと光り、腰に普通の両刃の剣が出てくる。The ロングソードという雰囲気をかもし出すごく普通の剣である。

うむ、なんかそれっぽくなった。

ただ身長が足らないので多少シュールだが。

 

『じゃあその姿のまま裏山にでも行って見ましょうか。』

「裏山で練習?」

『そゆこと。』

 

てなわけでパッと移動して裏山。

 

取り扱い説明書にしたがって順々に練習していく。

とりあえず一度使ってみることを目標にさまざまな魔法をやっていくと、重大なことに気づいた。

 

「・・・なんか攻撃系多いな。」

『そらそうでしょう、私アームドデバイスだし。補助よりも攻撃系の魔法がインプットされてるのは当然よ。』

「デバイスなのに?」

『いや・・・だから・・・まぁいいか。

とにかくさっとやってみたわけだし、模擬戦といこうか。』

「模擬戦?

いや、別に戦う必要は・・・」

『あまああああああああああああいっ!!』

「おおう!?」

『もし誰か惚れた女の子が出てきたらどうするのっ!?

オマエだけは俺が守ってやる!的なセリフを言ってみたくは無いのっ!?』

「・・・た、確かに。むしろ積極的に言いまくりたい。」

「でしょっ!!」

 

やばい、かっこいいんじゃないだろうか。それ。

そうと決まればさっさとやろうっ!!

あ、厨二じゃないぞ!!

男なら誰しもあこがれるシチュエーションに違いないからな!!

 

『んじゃ今、出すから。』

 

何を?

 

「なはっ!?」

 

目の前に音を発てて現れたのは銀髪オッドアイのーーーいつぞやの俺だった。

野郎が何見てんだコラ的な目線をくれている。

 

「あ、あてつけか?」

『おっとと、間違えちゃった、テヘ!』

「・・・まぁ良い。模擬戦ということならばこいつに斬りかかって問題ないんだよな?」

『まね、そう簡単にはいかないだろうけど。』

「・・・ふふふふふ。よしきた。殺そう。こいつを殺して俺は過去から決別するんだ。」

 

すらりと腰から剣を抜く俺。

そしてそれを見て、銀髪オッドアイのーーーイタイやつも虚空から剣を出した。

 

「俺に挑もうとは・・・バカなやつだ。なのは、見ていてくれ。今俺がオマエに纏わり付く蛆虫を殺してやるからな。」

「殺せるもんなら・・・っておいぃぃぃぃっ!?」

『何?』

「いや、何じゃないよっ!?

あれのセリフどうなってるのっ!?ていうか彼女、今ここにいないよねっ!?」

『半年前の響を再現してみました!』

「せんでいいっ!!ていうか、あれか。これを倒すまでこれを相手しないといけないの!?」

『もちろんサァ!』

「お、おまえ・・・ほんと鬼畜な。」

 

げんなりする。

とっとと斬り捨ててしまおう。

そうだ、それがいい。

 

「せいやっ!」

「ふっ・・・さすが非モテ君だ。剣筋がなっちゃいない。」

「ごはっ!?」

 

俺が非モテならオマエも非モテだろっ!と思いつつ。

振った剣はかわされて、俺に向かって俺が蹴りを繰り出してきた。

しかし俺は負けじと態勢を立て直し、俺に向かってもう一度しかける。

俺はその銀髪の髪を気障ったらしくかきあげ、俺に向かって再度カウンターを放つ。

しりもちをつく俺。

そして愚者を見るかのように見下してくる俺が目の前に突っ立ている。

非常に腹が立つ。

 

ていうか、俺が相手だとややこしいなっ!?

とりあえず目の前のコイツは厨房と呼ぼう。

で、厨房は俺に向かって

 

「僕としたことが・・・つい本気になってしまった。許してくれたまえ。」

 

殴って良いだろうか?

というか殴れないんだった。こいつ俺のくせに強かった。

魔法とか魔力とか使って思いっきり忌々しい過去ごと吹き飛ばすつもりで攻撃しても死んでくれない。

 

俺は日が暮れるまで厨房に斬りかかり魔法をうちまくったのである。

 

 


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