とあるチートを持って!   作:黒百合

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思い思いに嬉しくて

扉の前で話を聞いていた響は号泣していた。

アイシテルが軽く引くくらいに。

 

「ひ、ひびき?」

「・・・ぐず・・・うぐ・・・ずず・・・」

「その・・・感動したの?」

「ぐず。ふっ。まざか。

過去のことをぎいでないがら・・・ぐず・・・やがみ゛はああいったに違いない。」

「んじゃ何で泣くのさ・・・もう泣き虫だなぁ。」

 

アイシテルがハンカチを取って響の涙を拭く。

もちろん感動したゆえに泣いているのは言うまでも無い。

誰かから自分のことを悪く言われても「そんなはずあるわけないっ!!」と間も空けずに断言する。

割と良く見そうな光景であるが、実際これが初めてだったりする。

すずかもこのようなことを言ってくれればと今更ながらに頭をよぎる。

 

「おまえ・・・」

 

山田君が出てきたところで響と出くわした。

思わず響は構えたが、山田君はフッと笑ってそのまま去っていった。

いや、小声でぼそりと。

「フラれちまったぜ。」と面白そうに言っていた。

響は「あれ?こいつ漫画原作のチートと言い、今の気取った感じと言い・・・もしかして俺以上に厨二なんじゃ・・・?」と気づきかけたが、野郎のことに脳細胞を割くのもバカバカしいので早々に脳ミソのかなたへその疑問を送った。

というかマジで眼帯をつけてきた響が言えることではない。

 

 

そしてさらに盗み聞きを続ける。

いや、望んでしたように聞こえるが、実際はそのまま入りづらい話が始まってどうにも入りづらくなったというだけの話である。

 

 

「どないしたん?

なのはちゃん?」

「その・・・はやてちゃんから見て相馬 響ってどんな人?」

「・・・変なこと聞くなぁ?何?惚れ取るとかそんなん?」

「ううん、違うよ。そうじゃなくて・・・」

 

即否定のなのは。

ですよね。

なんや、つまらんとぼやきつつ、はやては口を開いた。

 

「ううん・・・そやなぁ。

なんかちょっと優しくしただけで、やたらと泣く子やなぁ。」

「泣く子?」

「そや。

どんな辛いことがあったんか分からんけど、今までがよっぽど酷い目にあったんちゃうか?」

「・・・。」

「うちと話すとき、必ず目線を合わせてくるのも特徴やな。」

「目線?」

「普通、目を逸らしたり、そこまで真正面から見据えてくる人間っていないやんか?

少なくともうちはあったことあらへん。響君以外はな。」

「どうして・・・?」

「うちが見てる分には・・・普通の人は周りの人間の評価をまず考える。

自分が相手をどう?とかじゃなくて、自分がダサいとか・・・しょうもないとか・・・そう思われたくないって思って・・・ええ・・・あれや。ファッションとかするやろ?

でも響君にはそういうのが全然無いというか・・・」

 

人は羞恥心と言う感覚を多かれ少なかれ持っている。

おそらく羞恥。もしくは近い感覚が人の目線をそらせるものだとはやては語る。

 

これは人の自分を「良く見せたい」という気持ちが一番の原因といわれていたりする。

しかし、響の場合は違う。

響は自分を良く見せることを意識していない。正確にはすでに自分を良く見せることを諦めているため、関係ない。

そうではなく、響は自分が相手と関わるに当たって関わりたい、と。

自分が嫌われたとしても関わりたいと思えるほどの人間であるか。

それを重視する。

ゆえに観察し、視姦し、見定める。

 

だから視線を外さない。

ただじっと見つめる。

それはまるで―――

 

「小さな子供が“見捨てないで”って言ってるみたいでな。どうも、放っておけへんのや。」

「・・・。」

 

なのはは感じた。

確かに響のことは分からない。

いまだ意味不明だ。

むしろはやての話を聞いてさらに響の人物像が分からなくなった。

 

一応言っておくが、別に響が複雑な人間と言うわけではない。

誤解と言う名のすれ違いがそれを引き起こしているだけだ。

響を一言で言うなら小心者の一般人。

何から何まで一般人で。

RPGならば農民A,村人A、盗賊Aが関の山。

三流である。

 

しかし度重なる誤解の積がなのはの頭を混乱させる。

が、なのはは気づく。

気づいた。

そうだ。

自分らしくいこう、と。

あまりの変さに自分らしさを失っていたが、考えてみれば単純な話。

フェイトの時と同じだ。

 

分からなければ話せばいい。

分からなければぶつかればいい。

ぶつかってぶつかってぶつかってぶつかった果てにはきっと。

分かり合えることが出来るはずだ。

今の自分とフェイトのように。

 

「ありがとう、はやてちゃん。

私、難しく考えすぎてたみたい。」

 

とにかく話そう。

話して分からなければぶつかり合えばいい。

そうして私は今までやってきたのだから。

 

 

 

こうして響のスターライトブレイカー被爆フラグが立ったのであった。

 

 

 

「そうけ。なんかよう分からんけど、まぁええか。」

「うん。そうと決まったら、さっそく響君にスターライトブレイカー・・・ぶつけてくるよ!!」

「は?」

 

はやての間の抜けた声、略してマヌケ声が病室に響く。

 

「なん・・・だとっ!?」

 

響の戦慄した声が病室の外で響く。略してリツ声である。

 

「・・・凄い子よね。ほんと。」

 

アイシテルはその良く分からない発想に畏敬の念を抱いていた。

それと同時にそんなマスターに振り回されるレイジングハート。略してレイハに同情もしていた。

が。

レイハならば言っただろう。

例えなのはにどんな無茶を。

どんなアホなことにつき合わされたとしても。

 

『No problem My Mastar !』

 

と。

その主人への忠誠度はデバイス一(いち)と言えよう。

 

☆ ☆ ☆

 

響は慌てて近くの物陰に隠れた。

もちろんスターライトブレイカーなんて喰らいたくないからだ。

 

アイシテルは響の体内に入り込んで隠れる。

そのままタッタと去っていくなのは。

響の病室に向かったと言うことだろう。

響がはやての見舞いに来ていなければ、響の病室でばったり。そのまま訓練場でスターライトブレイカー。

幸いだった。

胸を撫で下ろす響。

 

「・・・別の意味で彼女と会いたくない理由がまた増えたな。」

『・・・見た目に合わず脳筋よね。なのはちゃんって。』

 

深く考えないことにして、はやての病室に入る。

 

「なんや。響君か。

ほんま助かったわ。」

「・・・何が?」

 

病室に入ると、いきなりはやてに礼を言われた。

一体何のことを言ってるのか一瞬考えたが、守護騎士から全て聞いたのだろう。

リンカーコア集めやヤミちゃんを止めたことだろうとあたりを付ける。

 

「リンカーコア集めや暴走を止めたこと?・・・まぁ、どういたしまして。」

「それだけやないよ。うちの体も治してくれたんやろ?」

「そんなことあったっけ?」

『あれでしょ?

はやてちゃんが倒れた時の。っと、もう出てもいいか。』

 

アイシテルが響の体から出る。

 

「えと・・・それは・・・一応、胸揉んでたんだよ?」

 

はやてはううんと考えた後。

 

「別にそれが?

治療のためやったんやろ?」

「いや、だからって・・・」

 

響としては女の子の胸を勝手に揉んだことに嫌われるのでは?という不安があったのだが、はやては9歳児である。

言うことなすことでちょっと9歳児離れしているなのは、フェイト、はやての三人娘だが、それでも紛れもなく9歳児である。

すなわち男女間の意識が薄く、もちろんエロイ視線で揉まれるならば嫌悪感を抱くだろうが、治療のためというならばそれは気にするほどのことではない。

 

重ねて言うが、なのはに嫌われたのは相手が嫌がったのにも関わらず無理やり揉んだからである。

すなわち、今回の場合は全く問題ないのだ。

 

「・・・。」

「そんでもって、ほんに御免な。」

「何が?」

「その目や。片目見えなくなってしもたん?」

「え、いやこれは・・・」

 

眼帯を見て今にも泣きそうな顔をするはやて。

声も震え、すごく痛ましそうに見る。

それこそ響以上に。

 

はやてだって苦しい思いをしてきたのに、人が怪我しているのを見るほうがよっぽど苦しそうにする。

そんな彼女だからこそ響も助けたのだが。

 

「し、失明したんか?」

 

もしそうなってたら一生をかけて響に償おう、尽くそうと考えるはやて。

何でも言うことを聞くつもりだった。

恩人なのだから。

が、響の右目は別に失明したわけでも治らないわけでもない。

中二の感性を潜在的に持っている響だからこそ放っておいただけだ。

非常に恥ずかしかったが、治せることも含めてかっこいいからこうしたということを話した。

こんなことで彼女の心に重石を乗せたくはない。

もちろん笑われた。

 

「あはははははっ!」

「わ、笑うことないだろうっ!?」

「ごめんごめん。」

 

 

恥ずかしげながらも少し不安げな響。

確かに片目は問題ない。それは問題ない。のだが、それでも響にはまだ最大の懸念がある。

なのはの件だ。

山田君からその話を聞く前にはやてが話を切ってしまったが、本来ならばあそこで響の過去を知って嫌われてたんじゃないだろうか?

その不安が胸に広がる。

気づいたら、響はそのことを自分で独白していた。

黙っていればわからなかったはず。

でも、自分が最低であることを包み隠したままはやてと友人でいることははやてを裏切る気がしたのだ。

 

「・・・。まったく。」

 

アイシテルが嘆息し、愛しそうに響を見た。

ほかにも理由はあった。

後から知って、これ以上仲良くなった後に嫌われるのが怖かったと言うのもあったし、はやてなら―――という甘えもあった。

そう信じて話してみたものの。

 

「ぷく、あははははっ!!」

「ま、また笑うしっ!な、何がおかしいんだよっ!?八神っ!!こっちは真面目に・・・」

 

 

またもや、はやてが笑ったのも無理はあるまい。

なのはのおっぱいが大きくなるようにと胸を揉んで上げようなどという発想は、同じチートを持ったところで中々無い考えだろうし、そもそもの響の昔のキャラがバカすぎて笑うしかなかったと言うのもある。

はやてからすると無理なキャラ付けで変なことになってる芸人やアイドルのようなものだ。むしろ滑ってますと言う感じのキャラ。

その滑った感じが好きなタイプの人間であるはやてとしては笑いの壷に嵌ってしまったといったところか。

はやて自身、なのはの気持ちを思えば不謹慎だと思っているし当事者であるならばわけの分からんことを言って自分の胸を無理に揉んでくる同級生は確かに怖いと思う。

なおかつ自分でも軽いトラウマとなっていただろうし、今のように響と笑って語り合うことも無かっただろう。

が。

当事者じゃない自分としては、出来の悪い滑ったバラエティ番組のようで、それははやての大好物であった。

もちろん普通の笑いでも笑えるが、やはり一番はそういった方向である。

はやては好きな芸人は?と聞けば出川哲郎、REDと答えが返ってくるようなそういうセンスをも持っているのだ。

とにかくはやてとしては確かに誉められたことではないが、反省していて謝っていると言うならすでに気にすることは無い。

それに。

 

「うちから見たら、響君は結構な男前やで?」

「え?」

「自分よりも強い敵に立ち向かえるなんて中々出来ひんことや。当然やろ?」

 

闇の書。

それは魔力量だけで言えばなのはの30倍以上。

技量や経験も守護騎士のがあるため、まともに戦っていたら確実に負けていただろう。

それでも立ち向かったのははやてのためであり、皆のため。

闇の書の暴走時は特に自分を嫌っているであろうなのはを救うためと言うのが大きかった。

はやては素直に感心していた。

 

アイシテルはそれを聞きつつ、確かにと頷く。特に響はビビりで、まず逃げることを考える。

その響にしては―――尚のこと感心できることだ。

 

誉められなれない響は照れ照れと頬を掻く。

 

「響君の過去よりも、今までうちが見てきた響君を信じる。これじゃだめか?」

「・・・だめ゛じゃない゛。」

「えっ!?ちょっ!?なぜ泣くねんっ!?」

「やがみ゛・・・君はいい・・・ぐず・・・やつ゛だ。本当に。俺には゛・・・もった、ないほ、どに・・・いいやつだよお゛・・・」

「・・・やれやれ。」

「ふふふ。」

 

泣く響を宥めるはやてを見て、笑うシグナムと肩をすくめるアイシテル。

ここでアイシテルがふと気づいたように口を開いた。

 

「そういえば夜天の書・・・ええと、リインフォースって名前をつけたんだっけ?」

「ああ。」

 

シグナムが答えた。

 

「その子はどうしたの?

ていうか他の三人は?」

「・・・少し大事な話がな。私は単なる主の見舞いだ。五人の代表としてな。」

「大事?

属託魔導師としての契約とか?」

「・・・そうであった方がまだマシだったろう。」

 

シグナムは少し沈黙した後、アイシテルに聞こえる程度の声量でその内容を語る。

 

「まだリインフォースの暴走の危険が無くなったわけでは無いということだ。」

「・・・なるほどね。完全には治せなかったか。」

「・・・ああ。そのようだ。」

 

響のおっぱいチートで暴走を納めたのは良かったとしても、そこには問題が残った。

響は揉むことで暴走を―――レベル2の時間退行による治癒で暴走する前まで時間を戻し、なおかつ暴走の原因となる防衛プログラムをレベル1のおっぱいの整形能力もとい体型変化によって取り除いた。

のだが。

防衛プログラムはしばらく経てば再度、再生されてしまうらしい。

戻そうにも元の姿である夜天の書の形が闇の書の中には残っておらず、今や夜天の書とは名ばかりで実際は闇の書と言っていいような状態となっている。

これは響の能力でも治すことは出来ない。

体型変化の応用で弄っても、元の姿が分からないというのは響の能力でも同じ。というかおっぱいチートはあくまでも肉体的なものであるため本来の使用用途を逸脱している。

デジタルの領域である防衛プログラムを除けただけでもかなりの成果なのだ。

 

時間退行も問題がある。おっぱいチートはそれをするのに相応の魔力を必要とする。

夜天の書が正しく夜天の書であったのはかなり昔。少なくとも1000年以上は昔の話だ。

そこまでさかのぼれるほどの魔力となると闇の書に込められてるものよりもさらに大量の魔力が必要となる。

即解決と言うのは無理な話だ。

そう、即解決は無理と言うだけの話。

おっぱいチートのことを知るアイシテルは即でなければ解決できる手段を思いつく。

しかし。アイシテルは黙っておくことにした。

一応、この世界にはもともとの物語があるだろうし、きっと何かのご都合主義で解決されるだろうと考えてのことだ。

原作を知らない人が下手に助けようとしなくても助かると考えて。

助からなかったときにこの案を言えばいいのである。

 

 

「そういえば、お前たちはあいつに会っていかんのか?」

「・・・それもそうね。あの子にも挨拶していきましょうか。」

 

 

その言葉どおり、はやてとの話もほどほどに響達はリインフォースの元へ向かった。

 

 

 


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