とあるチートを持って!   作:黒百合

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ちっぽけな勇気をもって

「知らない天井だ・・・と言っておいた方が言いのだろうか?」

『馬鹿なこと言ってないで、現状確認したら?』

「それもそうだな。」

 

響はベッドから身を起こす。

体が鉛のように重い。

良く分からない虚脱感が全身を襲っている。

 

『リンカーコアを抜かれちゃったからね。リンカーコアを持ってる生物にとってはあって当たり前の器官が無くなったわけだから・・・ちなみに正体はバレたよ。』

「・・・だろうな。シグナムさんにも?」

『もちろん。まさかっ!って顔してた。でもそのまま特に何も言わず・・・管理局側のスパイだと思われてるんじゃないかなぁ。』

「・・・最悪、だな。」

『高町さんたちは今度は何を考えてるんだろう?って感じで警戒してた。』

「そらまた最悪だな。」

『そっちは割りと軽い言い方だね。』

「ま、高町さんの件は今更だし。バレちまった以上は仕方ない。山田君だって何もしてない今から問答無用で殺しにくるということもないだろう。で、アイシテルのことはばれた?ユニゾンデバイスであることとか。」

『問題ない。検査の時は抜け出してたし。管理局・・・というかここアースラとか言う艦なんだけどここの警備ザルだしね。』

 

一応、融合騎もといユニゾンデバイスは古代ベルカの技術であり、現存はほぼしない。

バレたらちょっと面倒になるかもということでアイシテルは隠れたのだ。

 

「そうか。で、リンカーコアを抜かれた後遺症は?」

『なひ。強いて言えばしばらく魔法を使えないことかな。だから髪の毛と目の色も戻ってる。』

「・・・それだけ?よっぽど抜き出す技術が高かったってことか?」

『そうみたい。あの仮面のーーー』

「勇者王のことか?」

『勇者王って何さ。』

「中の人ネタだ。もとい声ネタ。」

『・・・まぁいいけどね。その勇者王はかなりの力量を持っていて、尚且つ2人いるみたいだから。』

「2人?」

『響も見てなかったっけ?

気絶する前にプレシアテスタロッサのリンカーコアを抜き取った腕。』

「あれか。」

『相手の目的は不明。何はともあれ私たちは結果的に戦わずに済んだってこと。』

「・・・結果オーライ、じゃないな。」

『もうはやてちゃんの家にはいけないね。』

「・・・別に構わないさ。想像とは違ったが、結局のところ遅かれ早かれこうなるのは分かってた。」

 

それよりも、である。

 

「・・・羨ましいな。」

『・・・。』

 

仮とは言え、響の体内にユニゾンしていたアイシテルは響の心境を知っている。

アイシテルは何も言えなかった。

 

「帰るか。」

『そうね。』

 

もう帰って普通に過ごそう。

この事件に関わるのは止めにすることにした。

何せもうやることはない。

 

俺にはアイシテルが居ればいい。

母さんが居ればいい。

 

厄介ごとはもう沢山。

 

ベッドから起き上がり、一応リンディに報告して帰らせてもらうことに。

体がだるいので久々におっぱいチートの出番だ。

自分の胸を揉み揉みして傷を癒す。

悲しきかな。

母親と自分の胸しかいまだそのチートが発揮したことがないという。

しかも頻度は圧倒的に自分の胸を揉むことが多い。

なお、アルフのおっぱいを揉んだことはカウントしていない。

響にとってはこちらをハメて殺そうとした、かは分かっていないもののこちらをけちょんけちょんにしようとしてきたフェイトの使い魔である。

そんな奴相手が身内を除いた初おっぱいだなんて響は認めたくなかったのだ。

しょうもない理由であるが。

 

とにかく、そこには自分の胸を熱心に揉みしだく9歳児。

傍から見たら何かに目覚めた将来が不安な子供である。

いや、見た目が非常に整っているので美少女に見えないことも無い。

だとすれば胸の成長を気にし始めた女の子に見えないこともないので一見すると問題は無い、かもしれない?

 

「・・・あ。」

「ん?」

 

何しにきたのだろうか?

高町なのはさんがそこにいた。

病室を間違えたのかなと響は考える。

きっとお仲間であるプレシアの様子を見に来たのだ。

俺の見舞い、ではないと内心で思いつつ、とっとと出てけという意味を込めて高町さんに気づかない振りをしながらそっぽを向いた。

非常に不自然ではあったが。

 

そして彼女はフリーズしていた。

ピクリとも動かない。

それはそうである。

昔はやたらと付きまとってウザさの塊で、わけのわからないことを言って自分の胸をむりやり揉みしだいた人間が改心したと思ったら、近づくための演技らしく、さらに久しぶりに再開したら自分の胸を熱心に揉んでいるのである。

一体どういうこと?

わけがわからない。

そんな思いがなのはの胸中に渦巻いた。

なんだかんだでなのはは主人公だけあって、優しくも公平である。

一応こちらに協力してくれようとはしたのだし、見舞いついでに彼の目的をーもとい。

いっそのこと響に『貴方の目的は何?』と聞こうとしたのだ。

いつぞやのジュエルシードの件は山田くんの言葉を真に受けていたが、よくよく考えればそんな目はしてない。と思い直して。

 

完全な適役であるフェイトに「悲しい目をしていたから気になる」というだけで結果的に仲間とすることができたのは、なのはの直感ゆえだ。

そのなのはの直感が何か食い違っているんじゃないか?ということを囁いているのがここ最近。

 

が、目の前には予想だにしてない奇行。

言おうとしていたことがどっかへ飛んでも仕方ない。

 

とりあえずなのはは何となく見てはいけないような気がして

 

「ご、ごめんなさいっ!」

 

と去っていった。

響は違うんだけどな・・・とぼやきつつも、重ねて言うが今更誤解の一つ二つ何だという感じで全く気にしなかった。

なのはが歩み寄ろうとしていたことにすら気づいてない有様である。

今までが今までなだけに無理もないが。

 

「よし、帰ろう。」

『・・・スルーとは。まぁ妥当か。』

 

 

そうして響はアースラを後に。

リンディは戦力が減ることを避けたかったが、響の落ち込みようを見て何かあったと判断し逆に足手まといになりかねないので響を帰したのだった。

普段ならばここでお節介の一つ二つはしてやりたいところだったのだが、彼女も仕事の真っ最中。

しかも前回の闇の書事件で夫を亡くしている。

 

彼女にしては珍しく他人を気遣っている余裕は無かったのだ。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

ビュオンビュオン!

風を切る音が立て続けに巻き起こる。

剣を振る音だ。

 

「・・・ふっ、しっ!」

 

しばらくして響は剣を振るのを止めた。

 

「くそっ!!」

 

剣を地面に叩き付ける。

二、三跳ねた剣からヤケに寂しい金属音が響き、地面に転がる。

 

「何をそんなに苛立ってるの?」

「うるさいな。」

「八つ当たりしないでよ。」

「・・・すまん。」

 

山でちょっとした結界を張ってそこで剣を振る響と、それを見学するアイシテル。

体育座りの状態で微妙に足がそとへ向いているので、スカートから覗ける男にとっての聖域が見えそで見えない。というのはどうでもいいことで。

 

「・・・分かってるだろ?」

「はやてちゃんのことね。見捨てたのまだ気にしてるの?もう三日だよ?三日。」

「早々割り切れるかよ。」

「だったらあの場で裏切っちゃえばよかったのに。」

「アホ言え。思いきり犯罪者の仲間入りだろうが。犯罪ダメゼッタイ!」

「・・・はぁ。じゃあどうしたかったのよ?」

「・・・。」

「あれもいや、これもいやじゃ本当に満足いく結果なんて得られないと思うよ?

響が一番満足いく結果が今のこれでしょ?

世の中なんでも上手くいくことのほうが珍しいんだから。」

「・・・。」

 

響が一番避けたいと思ってるのは犯罪者になる事だ。

先も言ったように情状酌量の余地があるからと無罪放免になるわけでもない。

さらには完全な悪役(ヒール)に徹しきれる自信が無い。

きっと原作組みからは一心にその敵意を向けられるだろう。

いや、今や守護騎士達も敵だ。

一度裏切ってしまった以上、敵じゃない!と言っても信用はしてもらえない。

信用というのは日ごろの行いで勝ち取るもの。決してお金では買えないし代えない物だ。

いや、商売の世界においては場合によって違うのだがそれはまた別の話。

 

一度裏切った以上、二度目が、三度目があるかもしれない。

そして迷っている様子も分かったろう。

敵か味方になるのかを迷っている人間を味方につけるほどシグナムは甘い人間ではない。

 

もし途中で敵になられた場合、その時点で自身の主は終わる。

すなわち響が今更やっぱりシグナムたちに味方すると言ったところで「はやてにあわせるわけにはいかない、リンカーコアを渡して早々に立ち去れ」と言われるのがオチだ。

もしくは問答無用で追い払われるか。

少なくとも歓迎されることは無い。

 

 

すなわち。

響はただ1人。

ただ1人で管理局の追っ手を避け、なおかつその労を労ってもらうべき守護騎士達にも白い目で見られ続ける。

四面楚歌の状況に陥る。

 

もちろん響の逃げたという選択、裏切ったという形になったこと。

それは責められたものではない。

生涯を誓った相手や唯一の家族ならばいざしらず。

ちょっと前に知り合って、優しくされただけ。

それだけだ。

 

関係性を言うならばただの友達。だろう。友達という言葉すら大仰かもしれない。

 

そもそも言い方は悪いが、友達なんかのために自身を犠牲に助けようとする人が一体どれだけいるというのか?

いや、割と助けられる人間もいるだろう。

しかし今回のこれは社会的地位、他命だって懸かるかもしれない。

物語の流れは山田君が必死に直そうとしてることから外れ始めてることが伺える。

となれば。

原作組み含め、誰か1人くらい死んでもいいんじゃないか?

誰も死なない、後遺症を残すような怪我をしないと誰が保障できるのか?

 

仮にそうしたリスクを払い助けるとしても最低限、昔から付き合いのある親友・・・そのレベルに至らないと無理だろう。

すくなくとも一月にも満たない友達のために命や前科を背負い込むなど気が狂ってるとしか思えない。

 

よくあるチートオリヌシは命が懸からない、もしくは懸かるような状況に陥ってもそれを退けるだけの文字通りの反則技(チート)を持っている。だからこそそんな芸当が出来る。出来てしまう。

 

しかし今回の件に役立つようなーーー絶対の自信が持てるようなチートなど響は持っていない。

奥の手こそ残しているものの、直接的に役立つものではない。

アイシテルに内包される魔力はジュエルシード並みの莫大な量ではあるものの、それを扱いきれる技量がないし、あくまでも響の魔力から一部を毎日抜き取って貯蔵されていたという形なので一度使えば数週間~半月は使えなくなる。

おっぱいチートだって近くにいけなきゃどうしようもないし、近くに行ったところで性別反転やおっぱいを生やしたりという嫌がらせにしか使えない。

大前提として響は戦闘の素人である。

それらのチートすらロクに扱えるかも分からないのだ。

 

ゆえに響の選択は十二分に上等で、オリヌシらしくは無いが一般人らしい選択で。

人間らしく、決して責められる類のものではないはずだ。

 

なのにも関わらず。

 

心中では未だに、笑っているはやての顔が頭をちらつく。

アイスをほおばり、嬉しそうにするヴィータの顔が脳裏に浮かぶ。

ゆったりと日向ぼっこをしながら寝ているザフィーラの穏やかさが胸を安らげる。

シグナムがはやての料理に舌鼓を打つ彼女にしては珍しい揺るけた表情が胸を打つ。

紅茶をせっせと用意するお母さんなシャマルの後姿がフラッシュバックする。

 

そしてそれらに囲まれ、笑うはやて。

 

それが頭を付いては離れず、響の苛立ちを加速させる。

それらを守りたいと思う自分と、色々な積み重なった問題に恐怖してる自分。

 

運動をして頭を空っぽにしようとしたのだがそれもあまり意味を成さない。

 

「スーパー・・・行ってくる。」

「私も行くよ。」

「別にちょっと小腹が空いただけだよ。」

「だったら私もお腹が空いたって事で。」

「・・・だったらって何さ。」

「今の響を1人にしておいたら危なっかしいでしょ。」

「俺は危険人物じゃねぇ。」

「え?」

「え?じゃないわっ!!」

「ほらほら、いくんでしょ?」

「・・・あいよ。」

 

アイシテルと話している方が気が紛れることに気づいた響であった。

 

☆ ☆ ☆

 

「なっ!?シグナムが?」

「ええ、シグナムが捕まったわ。」

 

スーパーに行くと響はたまたま八神はやてと会ってしまった。

そこで八神の家にお呼ばれしたわけだが、仕方が無かったのだ。

はやては何も知らないのだから。

 

今ははやてが台所に立ったのを見計らって響がシグナムのことを聞いたのだった。

その問いに答えたのがシャマルだった。

そしてヴィータが悔しそうに言う。

 

「・・・おい、助けてくれ。」

「は?」

「オマエの力は最初にあったときに大体は分かってる。今の私たちよりは遥かに強いはずだ。少なくとも一、二人分くらいの戦力には・・・」

「ヴィータッ!!」

「うるせぇっ!!」

 

ザフィーラの諌める声に怒鳴り返すヴィータ。

さりげなくアイシテルが魔法ではやてに聞こえないようにしていた。気遣いの出来る女性はもてるらしい。

 

「確かにこれはあたし達の問題だよ、シグナムだって言ってた。“あいつは迷っている、巻き込んじゃいけない”ってな。」

「・・・スパイだとは思ってないのか?」

「はっ!だとしたら今頃私たちは全員捕まってるだろうさ。どんな馬鹿でも気づくだろ?」

「あ、ん・・・まぁそうだな。」

 

響は驚いた。敵としてみなすどころか、此方を気遣っていたのである。

 

「捕まればどんな扱いを受けるかも私たちは分かってんだ。はやては良くて闇の書ごと封印処理。悪くてその場で闇の書ごと消し飛ばされるかもな。」

 

実際はそんなことをしても闇の書の防衛プログラム自体を切り離して消去しない限りは新たな契約者が出てくるだけであるが。

かなり本格的な封印処理が必要である。

 

「でもあたしたちはどんなことをしてでも、はやてを殺したくない。あたしたちのせいで封印処理なんてされたくない。」

「・・・。」

 

響は何もいえない。

 

「どうして、どうしてはやてばっかりこんな目にあわなくちゃならないんだ・・・」

 

ヴィータの目から涙が溢れ出す。

響は目を逸らした。

やめて欲しい。普通の人間にそんなことを求めないでくれ。

 

「・・・助けてくれよ、お願いだ、どんな手を使ってでもあたしははやてを助けたいんだ!!

頼むッ!!」

 

ヴィータは土下座した。

ザフィーラとシャマルが息を呑む。

 

しかし、響の応えは。

 

「や、やめろっ!!

や・・・やめてくれ。俺は・・・」

「・・・そう、か。どうしても・・・ダメなんだな?」

「・・・。」

 

響は目を伏せ顔を逸らす。

 

「・・・はは、悪かったな。変なことを言った。忘れてくれ。」

「あ、ああ。」

 

ヴィータの声は震えていた。

響の声も震えていた。

 

「んじゃ、あたしはコア集めに行ってくる。ザフィーラ、行くぞ。」

「・・・うむ。」

「私も行くわ。」

「シャマルは戦闘タイプじゃないだろ?」

「でも、そうも言ってられない状況でしょう?」

「・・・そうだな。わりぃ。」

「別にいいわよ。」

 

 

響は呟く。どうして責めないのか?

どうしてもっと怒らないのか?

別に脅してくれたっていい。

それだけでへたれの自分は動けるはずなのに。

『言うこと聞かなければぶっ叩くぞ!』と一言脅してくれればいいのだ。

グラーフアイゼン片手に脅せばもっと良い。

こういうとき、巻き込まれがたの主人公だったらとどれほど渇望したものか。

 

 

「んじゃ、ゆっくりして行ってくれ。シグナムがいなくなって、はやて寂しがってたから。」

「うむ。ヴィータの件は気にしなくて良い。俺たちでなんとかしてみせよう。」

「それともし私達が捕まったら・・・」

「シャマル。」

「ご、ごめんなさい。」

「もしなんてのはな、ねぇんだっ!

・・・絶対に助けるんだ・・・いいな。」

「ええ。分かってる。」

 

響はそんな三人を呆然と見送った。

 

 

☆ ☆ ☆

 

「あれ?シャマル達はどこいったん?」

「・・・ちょっと出かけてくるってさ。」

「そうなん?

まったく、もう。皆忙(せわ)しいんやから。」

「・・・全くだな。」

「・・・久しぶりやけどなんかあったん?

やたらとテンション低いけど。もっとテンション上げていかなっ!!」

「・・・ごめん。」

「・・・はぁ。こんな美少女に茶を入れてもろとるんやから、そこは“うひょーっ!!”とか叫んで貰わんと。」

「うひょー。」

「そんな棒読み、むしろこっちまでテンション下がるわ。」

「・・・すまん。」

「・・・はぁ、ダメやこれ。」

「・・・悪い。」

 

はやてはため息を付く。

沈黙がリビングを包む。

 

「響君、どうしたん?

本当に何かあったん?なんでも言うてくれてええよ?」

「・・・そういうはやてこそ何かあったのか?」

「・・・わかる?」

「いや、わからん。」

「なぜそんなことを言ったんや。」

「ヴィータたちが言ってた。」

「・・・そうけ。まぁシグナムが遠くに出かけた言うてな。」

「すぐ帰ってくるだろ・・・多分。」

 

嘘だ。

そっぽを向きながら嘘を言った。

気休めにもならない嘘を。

 

「そうやといいんやけど。でもヴィータたちも何か隠し事をしてる感じでな。」

 

目の前の少女は何も知らない。

欠片も知らされていない。

知ったら彼女は何て言うのだろうか?

 

「なんか、こう嫌な感じがするというかな。」

 

刻一刻とその命の終わりを迎えている。

どんな道にせよ。

その先にあるのは未来じゃない。

終焉だ。

 

「ちょっと前まではすっごく幸せやったのに。どうしてこう上手くいかへんのやろ?」

 

懸命に頑張っていた剣が堕ちた。

あれだけのことを言っておいて。

次は槌か盾か。それとも癒か。

誰にせよ時間の問題だろう。

 

「うちな。ただ一緒に過ごせればいいんよ。なのに・・・」

 

どこで歯車が狂ったのか?

俺には荷が勝ちすぎている。

こういう時こそ山田君だろう。こういう時こそオリヌシの出番だろう?

 

「ごめんな、遊びに来た客人にこんな辛気臭い話・・・」

 

そもそも下手に介入したのが悪かったのだ。

知らないまま彼女が自分の知らないところで死んでくれるような道に入ったらそれはそれで良かった。

でも知ってしまった。

優しくされてしまった。

 

「・・・ご、ごめんな、ちょっと泣けてきてもうて・・・なんか最近変なんよ。体の麻痺も進んできとるし、それが不安で不安で仕方なくてな・・・皆が居てくれたから強くおれたのに、いまやその皆もほとんど一緒にいてくれへん。」

「はやて。なんでも願いを言って。」

「・・・?」

「俺がなんでも叶えよう。どんな願いでも、命に賭して叶えて見せる。だから言って。」

 

つい勢いのままに、衝動のままにそう言い放った。

はやては、だがしかし。

 

「・・・願いなんてないんよ。ただ皆がそばに居てくれるだけでええんや。・・・そう、それだけ。

いや、これがもう願いやな。ふふ。」

 

そう言って微笑むはやてを殴りたくなった。

妬ましくて。

妬ましくて。

妬ましくて。

どうしてそんなに強くなれるのだろうか?

どうしてそんなに・・・そんなに・・・

 

「響君?」

 

その呼びかけに応えずに響は家を飛び出した。

 

 

☆ ☆ ☆

 

「・・・辛気臭すぎて逃げてもうたか。そら、人の不幸話聞いて愉快になるやつなんておらへんよな。」

「単純に響は泣き顔を見られたくなかったってところじゃない?」

「・・・アイちゃん、どうして響君が泣くん?」

「自分のみっともなさ・・・かな。」

「・・・?」

「まぁ9歳児にはさすがに難しいよね。」

「どういうこと?」

「まぁまぁ。おっと・・・呼ばれてるみたい。それじゃまたね、はやてちゃん。」

「あ、うん?」

 

アイシテルはそういってはやての前から消え、現れたのは響の目の前。

 

「さて、応えは決まった?」

 

響は涙をポロポロと流しながらもその涙をぬぐい、一息に言う。

 

「・・・ああ、今更だよな。

何を悩んでいたんだか。今までと大して変わらん。

俺はいつだって疎まれてきたんだ。そこに管理局に勤める人間全てが加わるというだけ。それで死ぬわけでも無し、問題ない・・・と断じて見た。いや、問題だらけだが。」

「くくく、上等。」

「これは単なる人助け。なのに犯罪の汚名を着せられる。すなわち誤解。

そう、たかだか誤解。誤解を受けに受けてきたこの俺に誤解が増えようと増えまいと変わらん!!」

「それで?」

「ゆえに助けてしまおう!!という結論に至った。」

「こんぐらっちゅれーしょん。そんな応えは実に私好みなの。」

「上から目線ですね。」

「響よりも下になれる気になれない。足震えてるよ?」

「うそっ!?」

 

響は自分の足を見る。震えてない。

 

「う・そ。」

「うそかよっ!?」

「ま、そう悲観することもないでしょう。

犯罪歴の方は情状酌量があるとして、命が懸かってるって部分は私が付いてるんだから安心しなさい!!」

「・・・ああ、心強いよ。」

「と、言いつつも声が震えてるよ?」

「やかましい!これは武者震いだ。」

「声の武者震いとか初耳すぐる。」

 

だまらっしゃい。

 

 

こうして響は管理局と戦うことに決めた。

まずはシグナムの救出からである。

 


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