響が出て行くタイミングをうかがっていると、どうやらヴィータが持っていた夜天の書。もとい闇の書が無いことに気づく。
「・・・もしかしてなくしたのか?」
『・・・なんとも言えないね。仲間に預けたのかもしれないし。』
「そういえば守護騎士って四体だったよな?他の2人は持っていない・・・というところを鑑みるに・・・」
『確かに本で見た限りでは四体ね。』
「残りは確かサポート系だったはず・・・捕縛のチャンスだな。
主人公組みと集中してる今が最大の勝機かもしれん。
気配と魔力を極力隠蔽しつつ捜索しよう。
山田君はなぜか動く様子が見れないし・・・」
『彼は見てられない時だけ手をかすみたいね。・・・やたらと原作介入したからといって必ずしても良い方向に動くとは限らないわけだから、主人公のことを第一に考える傾向のあるオリヌシとしてはテンプレな動きと見れるでしょう。』
「ううむ・・・原作を知っていればこちらとしても山田君の動きがある程度予測できるのだけど・・・無いものねだりをしてもしかたないか。とにかく、三人まで来てるってことはもう1人も来てないこともないだろう。そして戦闘には邪魔な夜天の書を残りの一人が預かっている可能性が高い。あわよくば本を手に入れられる。」
『即時、サーチャーで解析してから返却、離脱・・・ね。』
「おう。」
こうしてアイシテルと響が作戦の細かい部分を詰めて言ってる間も響はブリッツフォームのまま、ビルからビルへと飛び移っている。
魔法で飛ばないのは少しでも見つかる可能性を低くしたいためだ。
派手にドンパチやっている今なら変身してるだけの状態で見つかる心配はほぼ無いと見て良い。
「サーチをかけることが出来たら良いんだが・・・さすがにバレルだろうし。」
『屋上とか見晴らしの良い場所で彼女達の戦いの様子を見てるかもよ?』
「いやいや、さすがにそんな馬鹿な真似・・・あるぇ?」
ビルとビルの間を三角飛びで縦横無尽に動いていたら、そんなバカな真似をしちゃった緑の騎士服を来たシャマルを響が発見する。
シャマルはうっかりさんなのだ。
普段はしっかりしてるけど時たま失敗する・・・そんな雰囲気がある。
『バカな真似しちゃってるね。』
「・・・いくらなんでもあんな目立つ場所に突っ立ってるわけが無い。
古代からの騎士だって話じゃん?
相手からどうぞ見つけてくださいなんていうことはしないだろう。
おそらくアレは囮の分身とか幻影とか残像とかそんな感じ。
あれを見て『マニュケがぁっ!』と叫んで飛びかかる敵を逆に張ったおそうって算段だろうよ。
もちろん!
そんな巧みな罠であろうとも俺には通用しないがなっ!」
『そうかなぁ?』
「そうだよ。だからこの周辺で囮を狙うやつをさらに狙う・・・そういうのが居るはず。
そいつを仕留める。
くくく。分かるはずがないとタカをくくっているところを襲ってしまえば楽勝だな。
マニュケどもめ。」
『じゃあこの周辺を重点的に探すの?』
「・・・いや、残念ながら時間が無い。
見てくれ。あっちも決着がつきそうだ。」
響はフェイトたちの方を見た。
が、大きな魔力反応を感じる。
「これは・・・」
『なのはちゃんのスターライトブレイカーね。あれはまともに喰らえば一撃で沈んじゃうだろうな・・・』
「毎回見るたび思うんだけど、コレって俺のディザスターブレイカーのパクりだよな?」
『どちらかといえば響の方がパチモンでしょ。存在自体が。』
「ちょっ!?どうしてそういう酷いことを言うかなっ!?」
『そういう意味じゃなくて、本来この世界にいなかった人間だったよ、って意味でね。
それに同じ集束砲撃でも性質が違うし。』
「確かに・・・そういわれてみると・・・」
と、話してる間にもスターライトブレイカーのチャージが行われ続ける。
「今から戦闘してたら、一応管理局づとめのフェイトとやらにバレて管理局にも目を付けられるなぁ・・・」
『下手したらリンディさんたちに迷惑かけちゃうかもよ?
私たちと一緒にいたフリーの魔導師が犯罪者と何かドンパチやってる!ってなるとね。』
「・・・それは遠慮したい。恩はあれど恨みは無いから。」
『もしくはここから山田君も纏めてディザスターブレイカーでさらっちゃう?』
「・・・それは望むところだが、無理せずもう一人の騎士の姿を確認してつけれそうならそいつをつけて拠点だけでも見つけておこう。
ばれないよう、極力魔力を使わずにサーチを行ってくれ。」
『無茶言うね。まぁ、これだけ魔力素が溢れてる今ならなんとかできないことも・・・よし、捉えた・・・っていうか、やっぱりアレ本体みたいだよ?』
「・・・バカなっ!?」
響は悪役がもっとも多く使うであろうセリフでトップスリー以内には入っているであろうセリフを言ってしまうほどに驚いた。
ちなみに他の二つは「なん・・・だとっ!?」、「まさかっ!?」である。
響から途端に小物臭がした瞬間であった。
いや、もとより大物感など微塵も欠片も無いのだが。
そもそもその三つのセリフは大抵において負けフラグである。
「・・・。」
『バカだったみたいだね。』
「・・・ふふふふ。なるほど。」
『ん?』
「本来なら巧妙に隠れてるはずのところを敢えて姿を現すことにより、相手の虚を付く。
見事と言うほかあるまいな。さすが古代から生きているだけはある。まさかこの俺がこうまで手玉に取られるとは終ぞ思わなかったわぁ!!」
『・・・言い回しが厨二。』
「だまらっしゃいっ!!
とにかく、まんまと緑のやつに嵌められたっ!!
この借りは必ず返すぞっ!!緑のやつっ!!」
『緑のって・・・まぁ緑だけどね。で、どうするの?
なんか山田くんもいるけど・・・緑のと何かしらの会話をしてるみたい。』
「・・・山田君の目的がいまいちよく分からないのが不安だけど、とにかくここはなりゆきを見守ろう。」
『またボコられるかもしれないもんね。』
「・・・うるさい。もう負けん。あれからずっと訓練してたしな!!」
『それだけで勝てるほどヌルい相手じゃないよ。オリヌシにありがちな能力を扱いこなして予想外の使用法・・・なんてのを考えてると思う。』
「はっ、そんな小手先の技。おそるるに足らん。」
『じゃあ纏めてぶっ飛ばす?』
「ぶっ飛ばさん。忘れがちだと思うんだが俺は地球人で日本人。すぐに武力交渉に頼るのはどうだろうか?それは日本人として正しい選択肢?神様から貰った、なんら努力をしてない力を振りかざして自分のエゴを通す、それは一人の人間として許される事か?
俺はそうは思わないな。力を持っているからこそその力を律する強靭な精神が必要であって、今この場面で一番重要とされる力は武力なんかじゃない。もちろん、やりあえばまとめてボコることができる。が、そんなことをしてもしも俺の知らない奥の手があったりしてなんだかんだで彼らが共闘し始めて、さらには向こうにいる高町さんたちも加わっての総攻撃を受けかねないわけで、あれだよ。やはりここは日本人らしく交渉、もしくはこっそりあとをつけていくのが一番の最良と思われるのだが、いかがだろうか?」
『えーっと・・・意訳すると負けたとき殺されかねないからそんな後の無いような状況で戦いたくない。それでおけ?』
「ニュアンス的にはそうだが、厳密的には違う。」
『だからビビってるんでしょ?』
「ビビってなんかないっ!!そう、これは高度に戦略的な手段なんだっ!!アイシテルにはまだ分からないだろうけどなっ!!」
『・・・はぁ、どうしてこんなのと一緒にいるんだろうか?』
「ん?なんて?今好きとか言わなかった?
俺に惚れたら火傷をするぜ!」
『・・・言ってないし、変なベクトルに難聴主人公アピールはいらない。』
「・・・。」
『うん、決めた。人化した後は、まず私が響に対してなんだかんだいいつつもこれくらいは・・・とか良い雰囲気を出しながら、色々とねぎらってあげようかな~とか思ってたんだけど、まずするのは響を血祭りにあげることだね!
色々とストレス貯めてることだし。』
「え゛っ!?いや、まてっ!?
意味が分からない、というかそんなアイシテルも俺は好きだよっ!?」
『何、その唐突な告白。
誤魔化しがてらに告白するとか最低。死ねばいいと思います。』
「・・・割と本気ですよ?」
『ごめんなさい、生理的に無理です。あ、でも、これからもお友達でいましょう?』
「マジレスやめてっ!
傷つくからっ!!」
『マジレスするならちゃんとした人間の彼女を見繕ってその人だけを愛しなさい。そのための協力はしてあげるから。ね?』
「・・・そんな人の影も形もないんですが、どうしたらいいですか?」
『だからってデバイスである私に逃げられてもイヤー。
ていうか焦りすぎでしょ?
まだ9歳児で、彼女とかありえないでしょうに。』
「・・・うん・・・そういえば、そうですね。」
そのことをてっきり頭から追い出していた響。
恥ずかしかったようである。
などと少し真面目成分が入りつつもバカなことを言っているとシャマルが引くことを決め、他の守護騎士達も撤退を決めたようだった。
山田君が「っ!?・・・なのはの魔力が急激に感じられなくなっていく・・・まさか、俺が介入して未来が・・・いや結果的には変わってない。が、どういうことだ?」という呟きを漏らす。
山田君は考えたのだ。
今はA‘sのイベントに入っている。
八神はやてと闇の書事件に突入したところ。
山田君としてはこの問題を非常にデリケートで危ういバランスの元、ハッピーエンドに近い形に収まると言うことを正しく理解してる。下手をすれば一つの世界が滅亡する。せっかく概ね良い方向で終わるはずなのに、介入によってその未来が悪い方向へ変わるのを恐れたのだ。そのため今回の件では特別介入するつもりは無かった。
が、さすがに、なのはのリンカーコアを奪われるのは見過ごせない。
リンカーコアを集めると言うだけならば何もなのは達でなくとも良い。
助けてあげたいと言う考えの下、遠隔でシャマルがなのはのリンカーコアを奪うはずだったのを妨害に走ったのが山田君の思惑である。
色々な術者のリンカーコアを奪えば奪うほど闇の書に刻まれる魔法の種類は増えていく。
なのはの強力な魔法、スターライトブレイカーをリンカーコアと同時に蒐集されないために妨害するのもありだと考えたのだ。さらには最終局面で闇の書の管理人格を下し易くなるとも考えている。
だが、結局なのはのリンカーコアは奪われてしまった。
当然である。
向こうには実質戦えるのがアルフとフェイトのみ。
残りは補助役のユーノ。怪我人のなのは。
しかしフェイトもアルフも押され、ユーノは戦いは専門外。一対一という状況も相まって粘ったものの撃墜。なのはは一度負けた相手と再度戦うことになる。怪我人であることもあり、援軍を呼ぶべく結界を壊そうとしたところをヴィータに撃墜、リンカーコアを蒐集された。
フェイトとアルフもこのままでは負ける。
ヴィータも加わるのであるからして、当然の帰結と言えるだろう。
本来であれば山田くんが緑のやつ、もといシャマルをちょっと妨害するだけでなのはのリンカーコア蒐集は避けられたはずだったのだが、少しばかり邪魔するのが早かった。
結果、焦ったヴィータ達が本気で潰しにきた結果がこれである。
☆ ☆ ☆
「ヴィータ。引くぞ。シャマルを回収。後に転移を混じえながら撤退する。」
「はぁっ!?
何言ってんだよ、シグナムっ!!
もう少しで金髪の方も蒐集できるんだぞ!?ここで取れば今日だけで40ページ以上が埋まるんだっ!!」
「ヴィータ、深追いは禁物だ。
それに先ほどからシャマルとの連絡が取れない。」
「ザフィーラまで・・・でも・・・あと少しなのに・・・」
守護騎士達は念話で引くことを考える。
何よりも一番の留意点は闇の書を持っているシャマルとの連絡が取れないことだ。
「ヴィータもリンカーコアを持ったままではろくに戦えまい。それを傷つけてしまえば今日の頑張りが全て無駄になる。それに・・・気づかないか?
私たちの戦闘に紛れてこそこそと這い回るネズミが二匹。どちらもシャマルと近い位置にいる。」
「なっ!?」
「どおりで連絡が取れないわけだ。」
「私も先ほど気づいたところだ。日ごろから親しみのあるベルカ式でなければ気づけなかっただろう。魔法の扱いだけならば今回の敵よりも上手い。すぐに救援に入る必要がある。ベルカ式を使うと言うことは・・・近接戦を主とする相手だろう。戦闘を不得手とするシャマルとの相性は悪い。」
「ちっ!しゃあねぇか。」
「ならば我らが取るべき行動は・・・」
「ああ、目の前の邪魔者を振り払って、早々に引くぞ。」
シグナムたちの猛攻が始まる。
十全とは言えずともヴィータの援護もあり、一分と経たずに辛うじて飛んでいたフェイトとアルフ。
二人共撃墜。
シグナムたちがシャマルの場所へ行くと、山田君が立っていた。
「あいつらはどうした?」
「死んではいないだろう。それで、貴様も邪魔するのか?」
「・・・いや、あいつらが無事なら良い。」
「そこでこそこそ隠れてるやつも出てきたらどうだ?」
シグナムが一点を見つめる。
そこの影に隠れていたのは響。と思ったろう?
昔の響もとい厨房だった。
山田君の目線が厳しくなる。
「さすがのオマエだって、今回の件がどれほどデリケートなのかは分かってるだろ?
分かってるとは思うが邪魔はするなよ?」
「オイオイ?
なんのためにこの世界に来たと思ってるんだっ!
ここで良いとこを見せれば全員をハーレム入りに出来るっ!!」
種明かしをすると、サーチがばれた時のことを考え、出てこいとか言われた時ように厨房を用意していたのである。
相変わらずのイタイざまは治さずに出現させたのには当然ながら意図があり、響達が逃げ出す際に囮になるゆえに相手の敵意や興味を煽る必要があったのである。
シグナムたちはなんのことか分からないようで、ぽかんとしていた。
彼女たちを敵に回したいわけではないので、わざとボカした言い方をするように設定してある。
でなければ「そこのおっぱい騎士を始めとしたーーーうんぬん」というシグナムたちーーー特にシグナムの敵意を煽っていた結果になることは言わなくても分かるというものだろう。
「てめぇ・・・悪いが世界が掛かってる。同郷の人間とは言え、殺すときはキッチリ殺すぞ。まさか前回見逃したからって俺が優しいって勘違いしてるんじゃないだろうな?
今ならまだ許す。この件から手を引け。」
今ならと言ってる時点でなんだかんだで彼も優しいようである。
見方によっては甘いともいえるかもしれない。
だが、見方によっては上から目線で何様よ?とウザがられるかもしれない。
彼は世界を救いたいだけだというのに。という言い方だと途端に彼を薄っぺらく感じるのは何故だろう?
閑話休題。
厨房はボンと音を発てて姿を消した。
これには山田君も何がしたかったのか不思議になりシグナムたちと同じく、首を傾げる。
山田君の見た目は普通なので首を傾げてもなんら可愛いとは思えないと言うことは言っておく。
これが響であるなれば一応見る分には眼福ものなのだがそれは余談。
☆ ☆ ☆
「・・・もう少し、どうにかならんかったのか?あれは。」
『まぁまぁ!』
「なんか凄い楽しそうですねっ!?」
『それよりもほら、目標が動いたよ。さっさと転移先を捕捉しないと撒かれる。山田君の目的も分かったことだし、あとは一番大事な仕事。』
「了解、ボス。」
『その言い方は好きじゃないな~。』
軽口を叩きながらも、そうしてシグナムたちを追っていくとーーーシグナム達は管理局の追っ手を警戒し、拠点がばれないようにさまざまな次元世界を移動しながらもーーーようやく拠点らしき場所に付く。
ばれないようにつけるのはかなり骨が折れたらしく響はもちろん珍しくアイシテルも疲れた様子を見せている。
『ようやくね。』
「んと・・・この家に入っていったな。何々?
八神はやて?男か?借金執事を思い出す。
てっきり、魔法少女ばかりが出てきてたから今回もそうかと思ってた。
ううむ、男か。まぁ9歳児かつなのはや月村さんを見るに良い子が多いみたいだし。この子もその可能性が高いだろう。いや、奇をてらってクソガキという可能性もあるな。もしくは正規ヒーロー的な感じだろうか?ここに来てようやく主人公登場か。」
『不用意に近づくと結界に感知されるよ。気をつけて。』
「すり抜けられない?
様子を見たいんだけど。」
『覗きは犯罪だよ。それにそんな都合の良い術があったら結界なんていう術式が今の今まで残ってるわけ無いでしょ。』
「犯罪とは失敬な。敵情視察だ。」
『・・・。どう変わるのさ?』
「俺の中の罪悪感が変わる。」
『すいませーんっ!!ここに覗きが居ますよぉぉぉぉおおおおおっ!!』
「おおおおおいっ!?
やめんかっ!!」
はぁはぁとイキナリの大声で息切れを起こす響。
ちなみに八神家の面々は気づかなかった。などというわけではもちろん無く。
単に近所に五月蝿い子供がいるなぁと少し眉をひそめただけだったりする。
アイシテルは魔法で響にだけ聞こえるようにしている。
『で、どうするの?』
「ううむ、そこだ。問題は。まず考えてるのはーーー」
響が考えたのは三つ。
1つ。
このまま立ち去る。これから先、捕縛できる機会はいくらでもあるだろう。が、夜天の書。もとい闇の書を完成されかねないという問題がある。仮に完成が先だとしても彼女たちと戦い合えば下手をすれば自分まで管理局に目をつけられることになりかねない。ミッドチルダでは管理局の職員であるリンディやクロノにお世話になったし、響には原作知識が無いためこれは出来れば極力避けたい手法だ。
2つ。
夜天の主と話をする。
この世界にいるということは日本人である可能性が高い。守護騎士に話が通じなくともこのままたずねて主にあってしまえば意外と話だけで終わる気がしないこともない。
ただし完全な悪役キャラだった場合、その場で守護騎士と主に囲まれ、叩かれる。
逃げるだけならばなんら問題は無いが、彼女たちを凌ぎつつも結界を破るのはかなりしんどそう。
ちょっとした油断で倒されかねない。何より響は痛いのはごめんである。ちょっとでもその可能性があるならできれば避けたい。
3つ。
そもそもの人化を諦めてアイシテルが一から作り上げるまでの20年をただひたすら待つ。一番楽である。が、自分の友人兼ヒロイン候補である女の子?と手を繋ぐための手段がすぐ目の前にあるかもしれないのに指をくわえて20年待つのは非常に辛抱たまらない。
最近、響はアイシテルを奥さんにするのもいいのではないか?とちょっと思い始めている。
が、それはあくまでも親友だとかそういう気心の知れた相手であるからして、恋愛感情という部分は薄い。
端的に言うならば妥協である。
アイシテルにとって失礼だし、響自身もそういうのは好きではない。
そもそも、無骨なナイフでしかないアイシテルを本気で好きになるにはちょっと年季も見た目も足らなかった。いや、もちろんパートナーとしては大好き、というか愛してるといっても過言ではないのだが。
よって論外。
『・・・守護騎士のプログラムを見せてもらうだけだし、お願いするだけしてみたら?』
「うむ、2つ目だな。
親切な子であることを願いたい。」
というわけでインターホンを押してみた。
ぴんぽーん。
久しぶりに唐突に劇的にピンポンダッシュをしたくなったのだが、やめた。
さすがにアホ過ぎる。
『どちらさまですか?』
イントネーションが関西の人っぽかった。
関西人か。漫画やアニメのキャラは大抵似非関西人であることが多いと聞くが、この子はどうなんだろう?とかどうでもいいことを考えつつ響は応える。
それと声は女の子のようだ。でもこの時期は男の子も変わらず声が高い。
結局どちらなのかは分からない。
「・・・突撃、隣の朝ごはんの者です。」
ボケてみた。
『今は晩御飯の時間なんやけど・・・』
「ふっ、俺のお茶目な部分を出してしまったようだな。」
『あの・・・イタズラなら帰ってもらってええですか?これから晩御飯なんで・・・』
「ほうそれは良いことを聞いた。お邪魔させてもらっていいかな?」
『なぜに初対面のアンタを家に招かなアカンのや。しかも晩御飯を頂く気満々やん。ずうずうしいにもほどがあるわ!』
「そのキレのあるツッコミ・・・関西では有名な芸人と見た!
図星だろう?」
『・・・。』
「なぜ分かったのだと言う、間だな。今のは。」
『いや、あまりの検討外れぶりに呆れてただけや。』
「なんてこったい。恥ずかしい。いっそ殺して欲しい。」
『・・・さいなら。』
「ちょっと待って!ごめんなさいっ!!真面目にやります。」
『・・・ハナからそうしてや。で、なんのご用向きですか?』
「とりあえず話が長くなりそう。ゆえに俺は寒空の下凍えながら話さないといけなくなる。つまり家に入れて?ご飯いらないからさ。」
『ほんまずうずうしいやっちゃな。
・・・まぁええか。胡散臭いけど悪い人じゃなさそうやし。シグナム迎えてあげたって。』
『分かりました。はやて。』
めちゃくちゃ怪しいと思っていたアイシテルだったが、子供の外見が功をそうしたのか普通に招かれることになった。
響はそんなアイシテルに対し「どうよ?この粋な会話で警戒心を解く手腕は!?」と、どやぁぁ顔をしていた。
もちろんそんな響をアイシテルはキモイと思った。