日常を歩む者らが辿り着いた怪異…
それは運命の分岐点。
《『日常』か『非日常』》
歩めるのは、二つに一つ…
『日常』を望む者よ。
己の変化を望む事無かれ…、
さすれば、大きな哀しみを代価に平穏を選る
『非日常』を望む者よ。
奇跡とも呼べる願望は叶う。
代価は戦いの日々、そして“悲惨な運命と真実”
どちらを選ぶも己次第…
だが、運命の分岐点に立つ者よ…覚えておいて欲しい。
“運命”は他者が決めるモノでは決して無い。
常に自身が選び取り、歩み続けて変化していくモノだということを…。
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~???~
日常為らざる空間。
そこは一言で表せば『異界』…そういって不思議じゃない場所だった。
先程まで歩いていた煉瓦とタイルを敷き詰めたしゃれた路上は手首や眼が描かれた不気味な地へと姿を変え、茜色の夕陽で照らされていた街並みと公園の噴水の代わりに腕や十字架のオブジェが建ち並ぶ場所へ…。
当然、こんな場所に来た覚えのないほむらは隣にいたクロトに問う。
「ね、ねぇ黒崎君……ここ……何処?」
するとクロトは、『は?』とした顔になって逆にほむらに聞き返す。
「何言ってんだ? お前が俺をここに連れて来たんだろ『いい場所があるの』って言って」
「え!? そ、んなはず…ないよ。
私ずっと入院、してたのにこんな所…し、知らないよ…!」
慌てて言う、そのほむらの姿にクロトは頭を掻きながら納得する。
「あー、やっぱそうか…」
「何か、知って、るの?」
「いや知らん。おかしいとは思ったけどな」
「お、おかしい?」
「ああ、なんか喋ってる途中に急にお前が黙り込んで急にフラフラして歩いていくもんだから、心配して追っ掛けて来たんだよ。
どこいくんだ?って声もかけたんだがボーッとして返事無いし、俺に気付いたと思っても『いい場所が…あるの。黒崎君も…行こ…』って言って手を引っ張られてここまで来たんだ。……やっと正気に戻ったみたいだな…」
「そんな!!? 私、そんなこと全然覚えてない!!!」
ほむらはそう言われても、とても信じられなかった。
こんな気味の悪い場所に自分から来た事もそうだが、そこに異性の手を引っ張って来た自分自身が信じられなかった。
……良く見れば、ほむらはクロトと手を繋いだままで…、
「あっ!! ご、ゴメンね」バッ
「ん、気にすんな……それより、ここからどうする?」
「どうするって……来た道を帰ればいいんじゃ…」
そう言いながら、ほむらは周囲を見て愕然とした。
不気味なこの光景は地平線まで広がっており、道なんて無く何処から来たのか分からなかったのだ。
「どいうこと!!? 黒崎君、私達どうやってここまで…」
「分かんねぇ。暫く歩いていたら周りが歪んで……ここにいた。
…兎に角、気を付けろ。こんなのどう考えても普通じゃねぇーよ」
「う、うん…!」
二人は背中合わせになって、360度見渡せるよう警戒する。
しかし…それが合図だったのか、何もない空間に変化が生じた。
──ズズッ───
「!?……黒崎君…あれ…」
「……なんなんだよ……これ」
──ズズズゥ…──ズァ──
地面下から徐々に姿を現したモノは…『門』だった。
さまざまなな装飾が施されていたが、一つ一つが不気味さを放つ不気味な門。
そしてその門から、人の形をした…人間では無いラクガキが出現する。
「……ッ! …ほむら来い、逃げるぞ…!」
明らかに友好的ではなさそうな存在の出現に、クロトは冷や汗を一筋流しつつも冷静な対処で逃げを選択し、ほむらの方を見てみると…腰を抜かしていた。
「何やってんだオイっ!?」
「あ…ぁ…いや、来ないでッ!!」
ずっこけそうだったクロトだが、そうしている間にも敵はみるみる近付いて来る。
「あぁーこんな時にっ!!……スマン」
「え?」フワァ
ほむらは突然生じた浮遊感に、パニックから一旦冷静になり
そして、己の今の状況を見て再度パニックになった。
「えぇー!? く、黒崎君あ、あの」
「……話は後だ。おとなしくしてろ…」
「…う、うん」
…いわゆる『お姫様抱っこ』をされていた。
しかし、抱っこしたのがほむらだったから良かったかも知れない。
彼女は病院を出たばかりで体重が平均よりかなり軽く小柄だったため、クロトにあまり負担を掛けずにすんでいた。
そんな感じでクロトはずっとほむらを抱えて走って逃げていたが、その間にも相手はどんどん増えていく。
「ちっ、どうなってんだ」
「……ゴメンね」
「気にすんな、勝手にやってるだけ───なに…!?」
「どうしたの?…え? ど、どうしてここに!?」
二人の前には、遠くまで逃げて離れていたハズの『門』が目の前に建ち、今もクロト達を追う兵隊を放出していた。
「チッ……逃げられねぇって、言いたいのかよ…!」
「そんな…───ッ! 後ろ!!」
だが二人は前に気をとられ、後ろから迫り来るラクガキの鎌を持った存在に気付くのが遅れた。
「ヤバッ!?」
ラクガキは鎌を振り上げ、クロトの首を斬り裂いて……、
───────
─────
───
──クロトの視覚に何かの映像が写る……何処かの森林のようだ。
近くを滝が流れ、その滝壺の中には大岩があり……その上に人?
……ここからでは後ろ姿しか見えないが、声は聞こえてくる…。
『写輪眼……───の動きを読み、高い動体視力───先読み、コピーや幻術───抜き、眼を会わせば───できる……』
滝の音で所々抜けていたが、クロトにはそう聴こえた気がした。
後ろを向いていた人物は此方を振り向く。
夢で見た額当てをし、額の葉のマークには横一文字に傷が入っており瞳は紅玉の如く紅く輝き、輪に巴紋が三つ並んで此方を見ている。
『お前は……失敗するなよ』
そう言いって…口元は微笑んでいた……。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「────ハッ!?」
戻ってきたクロトの視覚。
だが、目の前には鎌を降り下ろそうとするラクガキの光景も戻って来て……。
──駄目か……あれ? …遅い?
絶対の死から諦めかけていたクロトだが、良く見れば周囲はビデオのスローモーションのようにゆっくりと動き、そして目の前の存在がどう動くか自然と理解出来た。
クロトの体はそれに合わせるように動き、脚を半歩横にずらすことでギリギリ回避が間に合った。
「…え?」
「……行くぞ」
間に合わないと思った一撃。
それも自分を抱いた状態で、おまけに最小限の動作でかわしてみせたクロトに ほむらは
きょとんと呆けていた。
そうして暫しの間、クロトの腕の中で困惑していたほむらは、彼の身に何が起こったのか知りたくなり、話しかけようと顔を上げてクロトを見る…そこには、
「……?…あれ、眼が…」
「眼? 眼がどうした?……ッ!!まさか今ので…!」
「そうじゃなくて……これ」
ほむらの眼に異常が出たと思ったクロトは取り乱すが、ほむらは大丈夫だと言い、ポケットから手鏡を取りだしクロトの顔を映した。
そこには二つの巴紋が、吸い込まれそうな色の紅い瞳に描かれていて…。
「…………」
「だ、大丈夫?」
「これは……写輪眼…」
「? 写輪…眼?」
「あっいや、何でもねェ」
すぐにその瞳の正体は分かった。物心ついた時から夢の中で見続けていた紅い瞳。もちろん、それの使い方も何度も目にしたから熟知している。
何故、自分にこの瞳が発現したのか分からない。だが今のこの状況で、この瞳の力…圧倒的な動体視力はありがたかった。
未来視の如く敵の動きを見切るこの瞳は、襲い掛かってくる敵の猛攻を掻い潜って逃げることが出来た。
……だが、いくら斬撃を避けられて逃げられても多勢に無勢。
その後も鋭い斬撃を避けながら走り逃げ、ついに体力の尽きたクロト。
無尽蔵に沸く敵は、ほどなくして二人をこれ以上逃げられないように包囲し、クロト達は追い詰められていた。
「……くっ」
「あ、あぁ…」
弱っている獲物に、それらは一斉に襲い掛かって群がってくる。
せめてにと、クロトはほむらを護るように抱え込む……が、次の瞬間、
ズダダダァン
ピシュシュシュン
銃撃音と桃色の閃光が敵を射貫き、黄色い糸が周りにいたモノを門に拘束する。
「───…間一髪って所ね」
「もう大丈夫だよ。クロ君、ほむらちゃん」
目を開けたそこには、桃色のドレスを着た幼馴染みと学校である意味有名な先輩がいた。
「まどか?先輩? その格好は…」
『彼女達は魔法少女。魔女を刈る者達さ』
「「え?」」
声が聞こえて来たので見てみると…何か兎と犬を合成したみたいな
「いきなり秘密がばれちゃったね……クラスの皆にはナイショだよ♪」
「馬鹿言うな、絶対頭の心配され『スチャ』…あ、やべ…」
まどかはさっき敵を貫いた矢をクロトの脳天に狙いを定めている。
「何か言った?」ギリリッ
最上級の笑顔で弓の弦を引き絞るまどか。
……笑顔なのに、眼が少しも笑ってなかった。
「イイエナンデモナイデス」
クロトには、そう返事を返すことしか出来なかった。
「もうっ!…ナ・イ・ショ・ダ・ヨ!!」
二人が放った一撃は、正確に拘束されている奴等に命中して大爆発を引き起こし、元の空間に戻った二人は先輩の自宅で事情説明を受けるのであった…。
~先輩宅~
「「お、お邪魔しま~す」」
暫く歩いて先輩の自宅に到着した二人は、豪華なセンスのいい部屋に緊張し、強張った面持ちで部屋にお邪魔することになった。
「ふふ♪好きな場所に座ってて。今お茶を出すわ」
「あ、はい」
「い、いただきます」
香りのいい紅茶とケーキを振る舞われた二人は食べながら説明を受る。
「成る程、迷い込んだとあの空間が魔女の結界で、あの門が魔女、追い掛けて来たのが使い魔…そんで、先輩とコイツが魔法少女っていう事でいいんですか?」
「そうね。大体それで合ってるわ」
「本当に居たんだ。魔法少女」
「鹿目さん。いつもあんなのと戦っているんですか?」
「ンーそりゃマミさんはベテランだけど、私がキュウべぇと契約したの先週位だし」
その言葉を聞いたクロトは、テーブルの上に乗ってケーキを食べているキュウべぇの頭を掴み、まどかに見せた。
『え?』
「キュゥべえって、この生物か?」
「え?クロ君キュウべぇの事見えるの? ていうか何してるの!!?」
「見るどころか触れますが」
「驚いたわ…キュウべぇの事が見える男の子は初めてよ。後、離しなさい!!」
「拒否……あ…ちょっ待って! 人間の肩はそっちには曲がらな────」
「ぎぃやああああああああーーーっっ!!!!!」
……そこには床の頑固なシミになったクロトしか居なかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ぐふっ……死ぬかと思った…」
「良く生きてたね」
数分で回復したクロトを見て、ほむらは若干引いていた 。
『驚いたね。あの状態で回復するなんて』
「そいつはどーも…で、お前がキュゥべえってことでいいのか?」
『そうだね。僕は何回かまどかの肩の上でキミを見たことはあるけど、
あらためてよろしく』
「マジか!? 全然気付かなかった……でも、なんで急に見えたんだ?」
『さあね。…でも、何かキッカケがあるんじゃないかな? 例えば、君の中で何かが変わったとことか』
「…変わったところ…ねぇ…」
目をつむって腕を組み考えるクロト。
しかしそんな彼より先に、ほむらは心当たりに気付いた。
「あの…黒崎君…眼…」
「…ああ、アレか」
ほむらの首はコクッと頷く。
「クロ君眼がどうしたの?」
「ケガをしたのかしら?治しましょうか?」
「そうじゃなくて…ちょっと待って下さい」
──写輪眼──
『!?…これは』
「うわっ瞳が紅くなっちゃった」
「それに何か…模様が描かれているわね。だいじょうぶなの?」
「はい、それは問題『ねぇ』な…ん?どうした? キュウべぇ」
クロト達を眺めていたキュウべぇはクロトの言葉を遮り、話かけてくる。
『君の名前は?』
「?黒崎クロトだけど…」
『そうか……黒崎クロト。君さえよければ、僕と契約して魔法少女になってよ♪』
「「「…………え゛?それどこの魔装少女!?」」」
部屋の気温が5度下がった気がした。
マミさんについては次で書きます