魔法少女まどか☆マギカ~心を写す瞳~   作:エントランス

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ここまで遅くなるとは予想外。
前のようにはいかないもんですね。コレがスランプか。

まぁ、一言言わせて貰えば

神まど「待たせちゃって、ごめんね」

トライ&エラーの繰り返しでした。


友のち姉、時々ほむら

◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「ゼェー…ヒュー…」

 

あの柔らかなマシュマロの山にダイブしたまま永遠に眠らされてしまうかと思ったが、努力の甲斐(かい)あって何とか抜け出すことに成功した俺。

しかし力の入らない身体で無理をした俺の体力はもう限界で、酸素を求めて大きく深呼吸を繰り返し、ベッドの上で力尽き倒れ伏していた。

 

「黒崎君、大丈夫…? 顔色悪いわよ?」

 

そんなベッドに倒れてる俺を心配そうな顔で覗き込み声を掛けてくる先輩だが、そもそも誰のせいだと思ってんすか。

……まぁ、気持ち良かったから別にいいんだけど…。

 

「な、なんとか…」

 

しかし、この場にまどか達が居なくて助かった。

もし居たらヤバイ事になってただろう。病室が殺人現場になる的な感じで。

 

アイツ、伸長が低い事と身体のとある一部が乏しい事に強烈なコンプレックスを感じてるからなぁ。この前、転んでうっかりその部分に触っちゃった時なんか、顔を紅くしてたアイツに「あれ? なんでこんなところに洗濯板が…」と、つい言ってしまった事があった。

そしたら、まどかの背後に絶対零度の殺意の波動を放つ鬼。

 

まど禍神鬼が降臨してた。

 

それだけならまだ半殺し程度で済んだかもしれない。

じゃあ何がヤバかったって?

…………ほむらもいたんだよ。

運が良いのか悪いのか。その時、たまたま隣にいたほむらにもまどかと同じ部分にタッチしてしまったんだけど……やっぱその後に「ローバス絶壁ス」て言ったのが悪かったのかな? ほむらの瞳は瞬時に己の感情を現したかのような、爛々と燃え輝く写輪眼へと変幻。

そして、背後には灼熱地獄の炎を纏う鬼。

 

ほむ羅刹鬼が誕生しちまった。

 

流石にこりゃヤバイなと、逃げようとも思ったさ。

だが対極する二つの鬼に睨まれてしまった俺の脚は蛇に睨まれた蛙の如く、震えて動かず。殺る気満々のアイツ等に挟撃されてしまい『前門のまどか、後門のほむら』状態に。

そうなれば当然、俺は逃げ場を失い、

 

まどかは地面を滑るような動きで近付いてきて俺の胸ぐらを掴み────

ほむらはどうやったのか、その場でフッと姿を消し────

 

  “瞬獄殺”と“瞬天殺”

 

ゲームやアニメでしか観たことのないような致死性の高い奥義を繰り出してきやがった。無論、そんな必殺技をダブルコンボで喰らった俺は落武者もビックリするほどボッコボコにされ、何をされたか分からないまま目の前は真っ暗に………。

 

おお、クロトよ!

しんでしまうとはなさけない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いやいや、死んでねーよ。

とは言っても意識が戻った時、全治六ヶ月の重傷を負っていたがな。

 

あの時、先輩が魔法で治してくれなかったら俺は今もベッドの上だっただろう。いや~今回も死にかけたけど、あの時ほど死を体感したことはなかったなぁ。綺麗な花畑を挟んだ川の向こう側で、昔死んだ爺ちゃんに『お前はまだ此方に来るな』って追い返される夢を見たよ、あはは~。

……冗談抜きで幼馴染みと転校生に殺されるかと思った。

口は災いの元だという事を身をもって知った貴重な瞬間だったな。

つか魔女の時より重傷だったって、今思えば凄くね?

 

…………まぁとにかく、そんな事があったんだ。

そんな奴の前で、俺が先輩の胸に埋もれている光景なんて見られてみろ。負け組の嫉妬が、まどかを悪まどk───………やめよう、想像したくない。

一瞬、ウェヒヒと黒く笑う幼馴染みの光景が頭をよぎった俺は考えるのを止め、魔女の戦いで気を失った後の事が気になった俺は一先ず情報収集の為に、当事者で…たぶん俺を治療してくれたであろう先輩に話を聞くことにした。

 

「……それで先輩、あれから一体何が…」

 

〈待って、黒崎君〉

 

「!」

 

だがその事を先輩に聞こうとした矢先、口に人差し指を当てた先輩が念話を使って俺の言葉を遮ってきた。その為俺も、会話方法を念話に切り換えることにする。

四日も寝ていたせいか、この念話も久々に感じるな。

 

〈その話は皆が集まった時にお願い出来ないかしら〉

 

〈え、なんで?〉

 

〈いろいろ話しておきたい事もあるし、なにより此処には貴方の友達がいるのよ? 話をしようにも、念話で何時までも内緒話してたら流石に怪しまれると思うわ〉

 

あー、そうだった。

確かに今の俺達を端から見てたら、黙ったまま見詰め合ってるだけだもんな。そりゃ恭介じゃなくても俺でも怪しむと思う。実際、様子が変わった俺に恭介も首を傾げてるし。

 

〈今夜、病院の屋上に来て。

皆にも言っておくから、そこで話し合いましょう〉

 

〈……分かりました。それじゃ、また後で…〉

 

〈ええ〉

 

俺達がお互いに頷いて相槌を交わすと、先輩は念話を切った。

 

「どうしたんだいクロト? 急に黙り込んだりして」

 

「あー、いや…ちょっと気になる事があっただけだ。気にすんなって」

 

「? うん…」

 

やっぱ少し怪しまれてたか…。

先輩の言う通り、念話の会話を止めてて正解だったな。

 

そうやってばれなかった事に先輩と安堵していると、アイコンタクトをとる俺と先輩を見た恭介は何を思ったのか唐突に、

 

「でも、前から思ってたけどクロトの周りってさ、お嬢様の志筑さん、幼馴染みの鹿目さんや転校生の暁美さんといい、その上、年上の巴先輩とか……美少女率高くない?」

 

「そうか?」

 

「そうだよ。学校でも屈指でレベルの高い子ばかりじゃないか」

 

なんて事を聞いてきた。

普通、そんなこと先輩の目の前で言うか? 当の本人は照れて喜んでるからいいが…。

つか、俺にそんな事言われても返答に困るんだけど。

 

そりゃまどかは確かにかわいいよ?

だがな、幼馴染み相手に美少女って言うには些か勇気が────あれ? ……そういや恭介、幼馴染みで思い出したんだが。さっきお前が挙げた美少女枠、()気無(げな)く、さやか抜けてね?

流石の俺も、ここまでさやかが不憫だと可哀想になってくるていうか、なんていうか……ま、いっか。

 

しっかし、美少女ねぇ。

 

「ふむ……そう言われると、確かに多いかもな」

 

「だろう? だっ、だから僕にも一人くらい紹介を…」

 

がっつくな恭介。

第一、紹介って言われても。

 

「別にいいけどさぁ……誰を紹介すればいいんだろ?」

 

同学年位のお前の好みなんて知らねぇつーの。

ナースさん大好きなのは知ってるけど……まぁいいや、とりあえず、

 

「んー、生徒会長の立華先輩みたいな人とかか?」

 

知り合いの名前を適当に挙げとこう。

 

「隣のクラスの霧島や姫路もいるし、後は後輩の椎名、姫柊とかも───」

 

でもこいつ等、全員校内ランキングの上位者で容姿はいいんだが…性格に一癖も二癖もある手強い奴等ばっかなんだよなぁ…。

 

俺も過去にえらい目に遭った。

 

見滝中最強の存在、天使ちゃんこと生徒会長の立華先輩には授業サボろうとしてボコられるし、椎名達は後輩ってこともあって面倒みてたらなつかれたんだけど、それを見た霧島にスタンガンで追いかけられた事もあったけ……(泣)。

姫路もかわいい顔して、あれで───

あれ? 今考えてみれば、なんで俺の周りの女子ってこんな奴ばっかなの?

 

「………クロト…」

 

「ん? どした恭介。そんな怖ェ顔して…」

 

自分の友好関係に疑問を感じてると、無表情な面で俺を睨む恭介に名を呼ばれた。

すると恭介はガッと、親指を下に向けて……、

 

────月夜ばかりと思うなよ────

 

闇討ちの予告状を叩き付けてきやがった。

 

「当たり前だろ!! ただでさえ入院生活で出会いがないってのに、そっちは美人所とばっかり仲良くなりやがって……羨ましいんじゃバッキャロォーッ!!」

 

「ただの嫉妬じゃねェか。 つーか俺、あいつ等と付き合ってて全然いいことねーんだけど。姫路にはこの前、家庭科の実習で作ったクッキー食わされてうちのクラスの男子全員毒殺されかけてるし」

 

「なんで入院している奴にそんな人紹介しようと思ったんだ!!」

 

「うるせぇ! せっかく紹介して貰えるんだ。

一回や二回臨死体験するくらいでガタガタ抜かすな!!」

 

「女の子と仲良くなるのに、臨死するのは必要な事なの!!?」

 

そうやって俺と恭介がギャーギャー騒いでると、

 

「いいなぁ~仲良さそうで」

 

「「何処が!?」」

 

先輩が指をくわえて羨ましそうに、ボソッと呟いた。

……俺、遠回しに闇討ちの警告されたんですけど。

 

「そんなことが言い合えるのは、きっと気を許し合ってる友達同士だからでしょ?」

 

「ははっ、気を許してる? クロトと? まっさかー」

 

先輩も面白い冗談言えるなぁ。

 

「確かにコイツ(恭介)とは何かと縁がありますけど、そこまで大層なモノじゃないですよ」

 

まぁあえて言うなら、これはただの────

 

 

 

 

「「ただの腐れ縁ってヤツです」」

 

 

 

そうそう……ってハモんな バカ!!

息ピッタリだったから先輩笑ってんじゃねーか!!

 

「やっぱりいいなぁ。

……私にはそういう友達、居なかったから……」

 

陰のついたような笑顔で笑う先輩は、何処と無く元気が無い。

そう言えば先輩、学校じゃあ有名なボッチでしたね。

─────…てか、

 

「居ないって……何言ってんですか。俺達“友達”でしょ」

 

「え?」

 

「違うんですか? 俺は前から、そう思ってたんですけど……」

 

キョトンと、俺の言葉に全く想像してなかったようなリアクションをとる先輩。確かに出会ったのはつい最近だけどさ、こんだけ毎日一緒にいるのに友達だと思われてなかったとしたら本気(マジ)で傷付くぞ、俺。

 

「うっ、ううん!! そうじゃなくて、えっと、その……あ、あれ?」

 

ポロポロ

 

「「え、え゛え゛っ!!?」」

 

ちょっ!? 泣いちゃったよこの人。

えっうそ!? 何で??

 

「(ちょっとクロト、なに先輩泣かせてるんだよ!)」

 

「(し、知らねーよ。つか今の会話で泣くところあったか?)」

 

困惑する俺に近寄って、ボソボソと小声で耳打ちしてくる恭介に俺はそう言って返す。

すると、泣いてる姿を俺達に見せて気恥ずかしくなったんだろうか。先輩は慌てて制服の袖で、溢れた涙を拭う。

 

「ご、ごめんなさい。……今まで面と向かって“友達”だなんて言われたことがなかったから。嬉しくなって、つい…」

 

「……そう、ですか」

 

友達って言われただけで泣くとは。……認識、甘かったかな。

この人、前から心弱いと思ってたけど予想以上にデリケートだったよ。

 

「……重症だね~」

「…ああ」

 

恭介もそう思うか。

人生友達居ないとか、どんだけ寂しい中学校生活送ってたって話だ。

正直、可哀想過ぎる。

 

「ま、可哀想だと思ってるならキミが何とかしなよ、クロト」

 

「はぁ? なんで?」

 

「なんでもかんでも。どんなに理不尽だろうが、女の子を泣かせといて放置するとか…そんなの同じ男として最低だからね。男子たる者、ちゃんと責任はとらなきゃ」

 

「……そういうもんか…?」

 

「そういうものだよ。じゃあね、頑張ってくれ」

 

恭介は俺にフッと笑いかけ、修繕されたドアから病室を去っていく。

 

「恭介…」

 

決めゼリフを決めて去っていく後ろ姿は、中々格好良かったと思う。

……ただな、恭介…。

自分でも決まったと思ってるんだろうが、その手に持ったゴミ箱────。

 

それ明らかにゴミになったエロ本を処分(証拠隠滅)しに行くだけだよな?

人に見つからない様にキョロキョロしてる、お前の後ろ姿が物悲しいんだけど…。

 

…………ハァー…仕方ないか。

 

「まぁ俺なんかで良かったなら、これからも変わらず友達っつーことで」

 

確かに恭介の言うことも一理ある。

だから俺は、ため息混じりに『よろしく』という意味を込めて先輩に手を差し出す。

するとまた泣きそうな顔をした先輩が、差し伸べた俺の手を両手で包み込む様に掴んできた。

 

「本当に…本当に、私と友達でいてくれるの? 傍にいてくれるの?」

 

「何を今更、初めっからそう言ってんじゃないですか」

 

念を押してくる先輩に少し呆れる俺だが、先輩自身はかなり必死だった。

考えてみりゃ、そりゃそーだよな。魔法少女なんて危なっかしいことを、ほむらが来る最近までは一人で戦ってたんだ。おまけにさっきの恭介みたいに誤魔化さないといけないから事情も話せないし、友達も居ないから寂しかったんだと思う。

 

「これから先も、ずっと…ね」

 

でも、それは今まで先輩が俺達に友達だと言う勇気が無かっただけ。まどか達も先輩を友達だと思ってるはずなんだ。だからあとは先輩が俺達を友達だと言ってくれるなら……まぁ、なんつーか。

秘密を共有し合って、ツラい事も悲しい事も分かち合うことの出来る────“仲間”……なんて表現は少し大袈裟かな。

そういうモノだと俺は……あー止め止め、こんなの俺の柄じゃねぇや。

「……参ったなぁ、まだまだちゃんと先輩ぶってなきゃいけないのになぁ。

……やっぱり私ダメな子だ」

 

小っ恥ずかしい事を考えていたせいで顔が熱くなった俺に、さっきまで陰のある笑い方をしていた先輩はだいぶマシになった顔で笑い、嬉し涙だろう涙を拭って改めて俺に手を差し出す。

 

「これからもよろしくね。黒崎君!」

 

「はい」

 

うん。やっぱ女の子っていうのは、こうやって笑ってる時が一番似合う。

しかしこの人、ほむらとタメ張れるくらい美人なのになんで友達いないんだろう。

 

まぁそれはともかく、

こうして俺は、ようやく先輩の友人となったのだった。

 

 

 

…………そう思ったんだけどなぁ───。

 

 

 

「もぉー! 私達“友達”なんだからそこは『はい』とかじゃなくて、鹿目さん達みたいに親しい感じで『おう』とかでしょ!」

 

「え?」

 

「あっあと、“友達”だから敬語禁止ね。いくら私の方が先輩でも、対等な立場の“友達”なんだし。“友達”はそんな遠慮はしないわよね? 」

 

突然先輩の態度が急変した。

ていうか三回言ったよ!? 大事な事なので三回言いましたってか!?

つか、言葉使い変わってね?

 

腰に手を当てて人差し指を立てる先輩のその姿は、まるで『私、怒ってます』とでも言っている様だった。

そもそも俺って年上や目上の人に対しては基本、言葉遣いに気を付けるよう心掛けてるんだけど。……まぁ折角、先輩がそう言ってくれるのなら、俺もやぶさかではないが。

 

「え、えーと……こ、こんな感じか? 先輩」

 

「そうそれ! それもよ!」

 

「なにが…?」

 

先輩は立てた指でビシッと指差してくるけど…どれ?

 

「前から思ってたけど、『先輩』て堅苦しそうで嫌!」

 

「いや、嫌って言われても…」

 

「それに貴方は私の…い、命の恩人なんだもの! だから私の事は気軽に」

 

先輩はそう言うや否や俺の肩をガッと掴み、凄い剣幕で────。

 

 

「お姉ちゃんって呼んでっ!!」

 

「いろいろ段階スッ飛ばしたな!!」

 

どーしてそうなる?!

友達どころか姉弟になっちゃたんだけど!?

 

「いいじゃない。私、男の子の後輩なんて初めてだったし、一人っ子だから前から弟的な子が欲しかったんだもん。 ねぇいいでしょ? ねぇーねぇー」

 

「あ、わっ!? ちょっ、やめ………うぷっ」

 

いきなり馴れ馴れしいつーか、フレンドリーって言えばいいのか。親に玩具をねだる子供のように、先輩は俺の肩をガクガク揺さぶってくる。

遠慮がなくなったのは構わないが、まだ身体は本調子じゃないんだから揺するのは本当にやめて欲しい。

 

「分かった! 分かったから揺するの止めろ!!」

 

そして平衡感覚が狂わされ、軽く船酔い状態になってきた俺は咄嗟にこう叫んだ。

 

「─────まっ…マミ姉ェェ!!!」

 

「…………おふっ…」

 

流石に『お姉ちゃん』は恥ずいので、咄嗟に『マミ姉』と、つい愛称的に名前を呼んでしまったんだが……なんか先輩の様子がおかしい。

何故か変な吐息音を吐いた後、恍惚とした顔をしながら自分の身体を抱き締め、身悶えている。

 

「あっ、ごめん。やっぱ嫌だった…」

 

「────……いい…」

 

「はい?」

 

「いいじゃないそれ!! お姉ちゃんよりお姉さんらしさが出ててパーフェクトよ『弟君!!』」

 

「お、弟君!?」

 

「私がお姉ちゃんなら、貴方を『弟君』って呼ぶのは当たり前でしょ?」

 

先輩の中では『弟君』と呼ぶのは既に決定事項らしい。

────…しかし、

 

「……………弟君、ねぇ…」

 

取り合えず、なんか状況をよく理解できないまま俺に姉? が出来たようだ。

目の前にはキャイキャイと、はしゃいで喜ぶ先輩……改めマミ姉。

……まあこんだけ喜んでくれるなら、別にいっか。

 

 

 

 

しかし、俺は知らなかった。

この後、暴走したマミ姉によるミザ■ー式看病を受ける事になろうとは…。

 

 

「あっそうだ! ねぇ弟君、四日も寝っぱなしだったし、お腹も空いてるでしょ?」

 

「え? ……あ~まぁ少しは」

 

ひときしりはしゃいだマミ姉は手をポンと叩き、肯定の意で頷く俺に笑顔を浮かべると廊下に出てて行き、背に何かを隠しながら戻ってきた。

 

「病院のご飯は薄味で美味しくないかなーと思ったから、お姉ちゃん手料理を作って来たの。食べたい? どうしよっかな~あげよっかな~」

 

「なんかよく分かんないけど、取り合えずブッ飛ばしたいんだけどこの人」

 

イラっとした。

 

しかし、マミ姉にはそんな俺の言葉も聞こえてないようで、気にせずニコニコと笑顔のまま、後ろに隠していた手料理とやらを俺に見せる。

 

それは、ミトンで持った土鍋の中でグッグッと激しく煮え立つ───。

 

「じゃーん♪ なんと、おでんなのでした~♪ はい、あーん…」

 

「あーづァづァづァづァづァァ!!

なんでよりによって動けねェ時に熱々のおでん!? それもがんも!?」

 

まだ熱気のあるダシをたっぷり含んでいるあっつあつのがんもを、俺に跨がって口に突っ込もうとするマミ姉。

つーか、どうやっておでん持ってきた …ってアッヅァ!? 熱ィーんだよ!!

 

「家庭的な味に飢えてると思ったんだゾ♡」

 

「家庭的な味なら せめて肉じゃがにしてくんない!?」

 

「お医者様には内緒だゾ♡」

 

駄目だ! 人の話聞いてねーよこの人。

だ、誰か、助け───

 

「あ~あ、見~ちゃった。ナース長に言っちゃおっかな~」

 

「恭介!」

 

その時、タイミングよく証拠隠滅(エロ本処理)から帰ってきた恭介。

 

ドアの隙間からプスプス笑ってる顔は腹立つが、天の助けが来た! 行け、恭介! 早くナース長に助けを……あっ、恭介がマミ姉に捕まって……ちょっマミ姉!? 恭介を四つん這いにした上に、その熱々のちくわで一体何を……『ぎぃやああああああ!!』……あーなる(・・・・)ほどね~。

 

恭介は汚い芸術品になってしまった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「じゃあ私、売店でプリン買ってくるけど…何かいる?」

 

一仕事終えたマミ姉はドアを開けながら俺にそう言い、

 

「あっ、なら悪いんだけどジャンプ頼む。今日、発売日の筈だから」

 

口内火傷の危機から免れた俺は、何事もなかった様にマミ姉にジャンプをねだる。

恭介? ああ居たな、そんな奴。

薄情? お前らはアイツと同じ様に、エクスカリバー(ちくわ)突き立てられてーのか。

 

「ジャンプね」

 

ガララ

 

そう言ってマミ姉はドアから出て───ん?

 

ガララ

 

「はぁはぁ……は、い……ジャンプ…」

 

早ァァアア!!

 

「あ…ああ、ありがと」

 

ここ120階! 売店は1階なのに一瞬で戻ってきたよ!!

息切らしてるけど、走って行って来たのか!?

マミ姉、ドラえもん並みに凄いんだけど。

 

ま、まぁいい。せっかくマミ姉が息切らして買ってきてくれたんだ。読ませて貰おう……?

 

「あれ? 何かジャンプの内容意味解んねーな」

 

ワンパークの新キャラがいつの間にか増えてるし。

………もしかして、先週号見逃したのか? マジかよ。

 

はぁー、なんか見逃したショックで気分が萎えた。

……しゃーない。気休めだけど、こういう時は乳酸菌のヨ…

 

ガララ

 

「ヨーグルトでしょ」

 

だから早ぇぇぇぇぇんだよ!!

つか心読まれた!?

 

さとりヘルメット装備したドラえもんが、のび太君の心読んで「ドラえも~ん」言い終える前にジャイアンぶっ飛ばしてきたんだけど。

ただあまりに早すぎて、

 

『バナナ牛乳』

 

まだヨーグルトになってねーよ!!

 

「あのー、マミ姉これまだ発酵する前の…早過ぎ」

 

「あら? 間違えちゃったみたいね」

 

「じゃ…じゃあいいよ。マミ姉、甘いもん好きだよな? やるよ」

 

「大丈夫、もうさっき飲んでおいたから♪」

 

得意気にそう言われ、手に持った紙パックを見れば…既に開封済みで空だった。

早い以前にムカつくんだけど。

ただゴミ渡されただけだろーが!!

 

「あっ、それとごめんなさい。

そっちのジャンプ、来週号だったわ。こっちが今週号」

 

どーいう事!?

内容が飛んでた理由はわかったけど、早過ぎて未来の売店行ってたのか!?

 

「あ、ありがと…」

 

……なんか怖くなってきた。

……よし!

 

「でっでも、読む前に少し散歩行ってくるわ」

 

このまま逃げよう!

瀕死の恭介を置いていくのは心苦しいが、このままここに居たら何されるかわかったもんじゃねぇ。

そう思い、俺は力の入らない体を懸命に動かし────

 

ゴン!

 

アイタッと、脛を椅子の脚にぶつけた。

痛いと声は漏れたが幸いゆっくりとぶつかった為、さほど痛くはない。

だが、マミ姉はそう受け取らなかったようだ。

 

「だっ……だだ大丈夫!? おおおお弟君!!?」

 

めちゃくちゃ動揺してる。

 

「いや、別に痛くは…」

 

「大変! 早く包帯巻かないとォ!」

 

頼むから人の話を聞け!!

 

「いやいいって」

 

「照れなくてもいいんだゾ♡」

 

「いいっつてんだろ! あだだだ!!」

 

「ああもォ~! 弟君動かないで~」

 

そうして俺達は揉み合いになり…、

 

「あ~あ、弟君が暴れるからお姉ちゃん、こんな風になっちゃたゾ♡」

 

マミ姉はリボンで、亀甲縛りに───。

 

「俺がどう暴れたらそうなるんだよ!! ってか自分で縛ったのかそれ、凄くね!?」

 

無意識で亀甲縛り出来るほど器用じゃねーぞ、俺。

 

「お姉ちゃん、弟君のそういう何者にも縛られない性格、好きだよ? でも、やっぱり心配だから…」

 

シュルルル

 

「ちゃんと縛るんだゾォォ!!」

 

「いだだだだだ!! なっなにしやがんだァァァ!!」

 

なんで俺を縛って───って痛い痛い!

吊るされて海老反りになってるから背骨が痛い上に、体に巻きついたリボンが食い込んでメチャクチャ痛い!!

そもそも、どうして蝋燭持って亀甲縛りしてんの!?

完全にS○プレイじゃん!!

 

「え? だって、このDVDのパッケージには女の人がコレ(蝋燭)持って、男の人をこうやって縛ってて…」

 

「それ、さやかが恭介に贈ったエロDVDじゃねーか!!

なんつーモンを参考にしてやがんだマミ姉ェ!!

たっ助けてくれナース長ォォ!!」

 

「う゛ぐぅ…待って、ろ。今、ナース長、を…」

 

ちくわを挟んだまま瀕死の状態で助けを呼ぼうと、ナースコールを押そうとする恭介。

だが、次の瞬間────

ドシュッ

「あふん」

 

恭介はベッドに顔を埋め、蝋燭の刺さった燭台へと早変わりした。

 

「恭介ぇぇえええ!!」

 

希望が潰えてしまった。

ま、まさか俺が選んだお土産が、自分に返ってくるとは…。

これ、が……因果、応、報…。

 

「アホな事、するんじゃ…なか、た…」

 

痛みに意識を喪いかけた俺は、そんな事を思っていた。

────その時だった。

 

シュッ

 

「おわっ!?」

 

俺を吊っていたリボンが突然切れた。

吊るされていた痛みは消えたが、完全に不意だった為、急な浮遊感を理解出来ず目を瞑り落ちていく。

 

だが、そんな落ちていく俺を空中でキャッチする人影一つ。

「?」

 

まず、ゆっくり目を開け、最初に入ってきた色は白。

清楚な色合いのそれは、まさしくナース服。

まさかナースさんが助けに? と思い、視線を上げていけば……知ってる顔だった。

何時もの長い髪を一纏めのポニーテールにし、ナース服を着るそいつは───。

 

「…………何してんの………ほむら…?」

俺を救った魔法少女────暁美ほむらだった。

 




感想、評価まってます。

第一話の「事が始まる前」大幅加筆。

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