今回は少し短いかな?
3000文字くらいです。
──────
ポチャン
────聞こえるか、玄人?
一寸先も見通せない黒暗の中で、意識と無意識との間を気だる気にさ迷い続けていた俺。どうすればいいのかを、考えていたような、いなかったような……。
それすらも分からずふらついていた俺の耳に、透き通る様な水滴の滴る音色と年若い男の声が響き、俺の意識は闇から浮上しゆっくりと光の中へ引き摺り出された。
「…………どこだ? ここ…」
眼を開け、身体を起こした俺の瞳の先に映った風景は……知らない森だった。
闇夜が支配する森奥を、満天の星空と満月の月の優しい光が闇を打ち払い幻想的に照らす。現実のようで現実ではない世界。
俺はそんな森林の中にある川の源流───絶壁から水落ちる滝の、滝壺に転がる巨岩の上に腰をかけていた。
どうしてこんな所に?
俺は確か、あの魔女に襲われて……それで……。
『こっちだ』
何故こんな所にいるんだろうかと困惑していた俺の耳に、先程俺の意識を取り戻させた男の声が背後から聴こえてきた。
振り返ってみれば、其処に最初から居たのだろうか? 俺と同じ様に、滝壺に転がる巨岩の上で胡座をかいて座る男がいた。黒の忍び装束みたいな服装をして長い黒髪を後ろで結わえた……たぶん、二十代くらいの端整な顔立ちをした青年。
……何処かで、観たことがある…気がする。知らないような、何時も会ってるような不思議な感覚。でもそれを思い出そうとすると頭の中に靄がかかってきて、これ以上思い出そうとするのを邪魔する。
「誰だ? あんた…」
『“誰だ?” 何を言っている、俺だ───■■■だ』
「………………?」
(聞こえない)
『……そうか。お前にはまだ、俺の声は届かないのか。
────悲しいことだ。一体 幾度 声を枯らし叫べば、お前に俺の声は届く?』
憂うような声で呟く男は巨岩から立ち上がり、歩を前に進め───
『
「? 何言ってんだ?
悪りーけど、俺にそんな知り合いはいねェ─────!」
パシャ
巨岩から飛び降りて、滝壺の水面に立った《・ ・ ・ ・ ・ ・》……えっ? 水面!?
「おい…っ!? あんた、ソレどうやって…」
『だがまぁ、こうしてお前に会えたことは喜ぶべきことなんだろう。あの
「って無視すんなよ! 人の話きーてんのか!?」
人が水面に立っている事に驚愕しているってのに、
俺の話も無視して水面を歩いて此方にくる男。
しかも初対面のくせにえらく上から目線で、誉めてるんだか貶してるんだかよく分かんねー事を言ってくるもんだから俺が呆れるのも仕方ないと思う。
でも、この人は、
『話を聞くのはお前の方だ、玄人』
自分の事を棚にあげて逆に俺を諭すよう、そう言ってきた。
「何を言って…」
『ずっと、お前を待っていた。
どうしてもお前に伝えておきたい事があったんだ』
「……伝えたい事?」
『ああ』
俺の言葉に男は頷いて水面を蹴り、俺のいる4~5mはある巨岩の上まで助走も無しに一ッ跳びで登ってきた。……普通、こんな常識外れな跳躍力に驚くことろなんだろうが、なんかもう色々ありすぎたせいか、逆に冷静になってきて落ち着いてきた。
そして静かになった俺に、男は静かに一言。
『あまり、あの
そう告げた。
『どれだけ時が経ち…強大な力を得ていようと、心も身体もまだ子供。力の重みに押し潰されそうになる事もあるだろう。その時は同じ眼を持つ者同士、苦しみを理解し 支えてやれるお前の存在が必要だ。だからお前は誰に何と言われようが、あの
「同じ眼…? 『あの娘』……?」
男の言葉を手繰り寄せ、
答えを導きだそうとする俺の頭に、一人の女の子の顔が浮かび上がる。
「……『あの娘』ってもしかして…」
『────潮時だ』
「え…うおゎっ!!?」
だけど俺の質問に答えるよりも先に、
男は俺を立たせようと強引に座り込む俺の腕を引き上げた。
『ここは夢と現実、精神と物質の狭間にある世界。向こうの世界の時は、幾分か流れてしまったようだ。……まだ伝えるべき事はあるが、ただでさえ有限な時間をこれ以上無駄には出来ない。もう、帰れ』
「か、帰れって、そんな勝手な…ていうか結局、あんた何者なんだよ!
俺はまだ何も聞いてな…────っ!?」
そうやって強引に立たされ男の顔が近付いた時、俺はやっと気が付いた。
遠目から見たんじゃ気付かなかった鮮やかな紅色に輝く二対の双眸。
写輪眼だった。
「……その眼!?」
『次こそは、お前に俺の声が届くと良いが…』
「ま、待ってくれ!」
男はそう言い残して踵を返し、俺に背を向けて離れていく。
慌てた俺は、離れていく男の背に向けて手を必死に伸ばす。
だってそうだろう?
小さい頃から、お伽噺みたいな夢に出てくる
夢の中で、色んな奴の生き様を観て学んだ。
その圧倒的な強さにも憧れたし。
とある悲劇に涙も流した。
両親があまり家にいない俺にとって、それは人生の教科書みたいな夢だった。
だから初めてこの眼が俺の眼に現れた時は、そりゃ嬉しかったさ。
結果としてまどか達は護れたし、夢が現実になって、俺もあの人達と同じ事が出来ると思って心踊ったからな。
……でも俺は、この眼の事を…何も知らない。
俺より上の眼を持つあいつでさえ、俺以上の事は知らなかった。
だけど目の前に居る同じ眼を持つこの人なら其を知っているかもしれない。
そう心の何処かで思ったから手を伸ばす。
……だから、待ってくれ!
「俺はまだ、あんたに聞きたい事が───」
知りたいんだ。
俺に力を貸してくれる、この眼の事を。
あんたの、その眼の事を。
───だけど……。
トン
あんたは手を伸ばす俺の方に振り返って、俺の額を指で軽く叩き───
『─────許せ、玄人。また今度だ』
「…………ぁ…」
そのまま額に置いた指に力を入れ、俺を滝壺に突き落した。
最後に覚えてるのは─────
あの人の、聞き分けのない弟に言い聞かせるみたいな…心底困った様な笑顔だった。
……俺の意識はそこで一旦、途絶え。
「────……」
次に俺が再び意識を覚醒させ、初めに視界に捉えたモノは、
「ク、クロト!?」
何故か油性マジックを俺に向かって持つ、
おまけにドアップで。
「あっいや、ちっ違うんだよ! こここ、これには深い訳が────ごふぁっ!?」
油性マジックを後ろに隠し、焦って言い訳しようとする親友の醜い姿が見るに耐えない。そう思った俺は、これ以上こいつが醜態を晒す前に取り敢えずアッパーでぶん殴っておいた。
綺麗に極ったアッパーは、恭介を床に沈めた。
……まぁ、見るに耐えなかったのは本当だが、ソレよりなにより…。
「チッ、目が覚めて最初に見たのが野郎の顔とか最悪じゃねーか。こんちきしょー」
見るなら美少女がよかったつーのッ!
なんでここで恭介!?
普通、まどかやほむらとか、先輩や仁見…せめてさやかとかじゃねーんだよ!!
さやかだけ扱いが酷い? しらんわ。
────ハァ…それにしても、
「………名前……聞けず仕舞いだったな」
恭介を沈めた直後、酷い脱力感に襲われた俺は寝ていたベッドに倒れ、届かなかった手を見ながらあの人の言葉を思い出す。
──まだ未熟なお前が此処に来れただけでも、少しは強くなったということだからな。
……未熟、ねぇ…。
強くなれば、また会えるのか…?
………上等だ、待ってろよ。
────と、こうして心の中で決心を固めた俺は、ようやくあの夢から帰還したのだと実感したのであった。
───という訳で、今回はあの人に登場して頂きました。
……もちろん分かりますよね?
感想、評価を宜しくお願いします。