魔法少女まどか☆マギカ~心を写す瞳~   作:エントランス

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お久しぶりの投稿、誠に申し訳ない。
自分の小説も一周年を越え、NARUTOもついに完結ということでなんとかしなくては、と逸る気持ちだったのですが、ニュースの雪降るぜ!と言う予報のせい(結局降らなかった)でアホみたいに忙しかったエントランスです。
感想を書いてくださった皆様。ご返事遅れてスイマセン。

完結まで走って行きたいので、応援のほど引き続きお願いします。


少女の背中と動き出す影

西陽が稜線の彼方へ沈みかけ、茜色が薄紫色へ一気に色濃くなろうとする頃合い。

魔女を倒し終えたことで、魔女の結界の入口も消えたこの閑散とした無人の駐輪場に、五人の少年少女の影がフッと、何の前触れもなく現れた。

 

「お…終わった、のかな?」

 

「……みたい、だね」

 

「「ハァ……疲れた…」」

 

「あ、あはは……お疲れさま、二人とも」

 

駐輪場の風景がやっと視界に戻ってきた まどかと さやかは、息を揃えてホッと胸を撫で下ろし、地面に腰を落とす。

そしてそんな二人に、気を失うクロトを近くのベンチに寝かせ終えたマミは苦笑し、(ねぎら)いの言葉を二人にかけていた。

 

カララン

 

「………」

 

通常の空間に戻ってきたほむらの目の前に、お菓子の魔女を倒した証グリーフシードがアスファルトの上に転がり落ちた。

ほむらは何も言わず、そのグリーフシードをソッと拾い上げ、夕陽で照されて鈍く光るのを確認すると彼女は艶のある黒髪をかき上げて身体を翻し、マミ達の元へと戻る。

 

「巴マミ、クロトの容態は?」

 

「───ん? あぁ、暁美さん。うん大変だったけど、砕けた骨や傷んでた内臓 。分かる範囲の傷は全て治しておいたわ。

……ただかなり重傷だったから、体力の消耗が結構激しくて衰弱してるみたい」

 

マミはそう言い、眠るクロトの赤髪を慈しむようにサラリと撫でた。

 

「大丈夫なの?」

 

「う~ん大丈夫……だとは思うけど、流石に専門的な事は私にも分からないからね。

念のため、そこにある病院にこのまま検査入院したほうがいい」

 

「そう」

 

一先ずクロトの命が保証されてホッとしたほむらは短く返し、太陽の沈むのに合わせて街灯の灯っていく街の街路を眺める。

 

「陽が沈む……少し、時間を掛けすぎたわ」

 

「そうね。っん~っ…はぁ…それにしても、ソウルジェムが濁ったせいかしら? 結構疲れちゃった」

 

背伸びをして指環型のソウルジェムを掌の上で卵型に戻したマミは、今朝の綺麗な黄色に輝く宝石からだいぶ穢れてしまった宝石を見て、憂鬱(ゆううつ)そうなため息を溢す。

 

ここまで穢れたソウルジェムを元に戻すには、おそらくグリーフシード一つ分を使い切らないと駄目だろう。 ほむらからの情報提供でストックしている分がかなりあるとは言え、今回は手に入れられなかった上に、ストックしてある貴重なグリーフシードを使うのは痛い。

 

「当たり前よ。

貴女、ここに来るまでに私が居場所を教えていた魔女と戦っていたんでしょう? その上、連戦で魔女と戦って大技使ったり、瀕死だったクロトの治療。…これで魔力を消耗しないほうがおかしいわよ。───……ほら、忘れ物」

 

ヒュン

 

「───え、わわっ!? ………グリーフシード…?」

 

気落ちしていたマミが、ほむらから投げ渡された物を見れば、それは先ほど彼女が拾ったお菓子の魔女のグリーフシードだった。

 

「どうして、私に…?」

 

「……私はクロトを助けるために、ただ“通りすがった”だけ。その途中に魔女がいて、襲ってきたから倒したに過ぎないし……元々、貴女の獲物よ」

 

顔を背けてそう主張するほむらに、マミはその言葉の中にあるほむらの心意を何となく理解し、眉間を指で押さえて呆れ果てていた。

 

「ハァ~……心配してくれてるなら初めからそう言ってくれればいいのに…貴女、ほんっと素直じゃないのね」

 

「……悪かったわね」

 

どうやら図星のようで、ふてくされたほむらは頬を膨らませてムスッとする。

 

「フフ♪ でも、その気持ちはうれしいわ。ありがとう」

 

「…べつに、いいわよ」

 

礼を言うマミのその屈託のない笑顔に、気恥ずかしくなったほむらはプイッと背を背け、素っ気なくそう答えた。

 

だが背を向けた先にはさやかがいて、

 

「あれ? ほむら、あんたちょっと顔赤いよ? …もしかして、照れてる? 照れてるよね?」

 

「!!?」

 

「 わはぁー♪ コレが噂に聞くクーデr『ガッ』…ぇ」

 

ほむらの顔を覗き込んださやかは、頬を紅く染めるという彼女のレアな表情をネタに、ふだん自分をぞんざいに扱うほむらに対して、鬱憤を晴らすために ほむらをからう。

 

だが軽い気持ちでからかった彼女は、片手だけ召喚させた ほむらの須佐能乎の右手によって自身の頭を鷲掴みにされて、ぷらーんと宙吊りにされていた。

逃げ出そうともしたが、身体は夕闇の中で紅く輝いているほむらの瞳が本気(マジ)で怖く、生まれたての仔犬みたいに震えて動かない。

 

「美樹さやか。今、なにか言った?」グググッ

 

「あ、あわっあわわわわわわわ」

 

「ていうか、何も見なかったわよね? ね?」ミシッメシッ

 

「ぎゃあああぁぁぁぁ!! 潰れる…潰れるぅぅぅっっ!!」

徐々に強くなっていく握力。

ほむらがその気になればさやかの頭はトマトみたいに──くしゃり、とイケるだろう。

この時、さやかは生きながら蛇に呑まれる蛙の気持ちが理解出来たと思った。

…そしてこの絶望的な状況で、さやかに出来る事はたった一つ。

 

「あ、あれれーおかしいなー! さっきから眼にゴミが入ってて何も見えないし、耳も幻聴しか聴こえないから何も分からないなぁー!!」

 

全力でなかったことにするしかなかった。

 

「────次はないわよ」

 

ドッと大量の冷や汗を流すさやかにドスを効かせた声でそう告げた(のち)、ほむらは写輪眼から通常の瞳に戻して須佐能乎の腕を消すと、クロトの傍で屈みこんで病院に行く準備をする為に破けて血だらけの制服を魔法で、修復と洗浄をし始める。

 

「アレが暁美さん流の照れ隠し、かしらね 」

 

「わたし照れ隠しで殺されかけたの!?

───ていうか何なのあの腕!? 全然魔法っぽくないんだけどぉ!?」

 

死の恐怖から脱したさやかは、目尻にしょっぱい滴を溜めて呑気な事を言っているマミに詰め寄ると、自分の頭を掴んでいた例の骨の骸──【須佐能乎】について聞いてみる。

しかし聞かれたマミは腕を組み、難しそうな顔をしていた。

 

「そもそも魔法じゃないわ」

 

「「え?」」

 

「結界の中でも思ったんだけど、暁美さんのアレ…魔力を感じなかったのよ」

 

「魔力を、感じない?」

 

マミの言った意味が分からなかったまどかは首を傾げ、反芻してマミに聞き返す。

 

「そう。私たち魔法少女が、魔法を使う上で必ず必要になるモノ…魔力。もしあれが魔法だとして、あれだけ力のある魔法なら、それに応じてかなりの魔力を使っている筈よ。でもそれが魔法衣を維持する程度の僅かな魔力しか感じられなかった。

───となると、あの巨人の像は魔法じゃないと考えるべきね」

 

「じ、じゃあ、あれは一体…」

 

告げられる事実に動揺しているさやか。

それに対し、マミは心当たりがあるのか腕を組み指を顎に当てて、昨夜ほむらと話した会談のことを思い返す…。

 

『写輪眼の上位眼。……本来は、ある特定の条件を満たした者が開眼する特殊な写輪眼の事。開眼後にはそれまでには無かった力が付加されるの』

 

そんな事を言っていた覚えはあるし、実際、薔薇園の魔女戦で空間をねじ曲げる【神威】の破壊力も目撃しているから『どんなモノなんだろう』と、期待はしていた。

だが、あんな形で現れるとは思ってみなかったので、初めて見た時は驚いたものだ。

 

「たぶん、あれが暁美さんの言っていた写輪眼の本当の力……想像以上の力ね」

「え? アレが、写輪眼の……すか?」

 

さやかの問いにマミは頷く。

 

人の眼にそんな力があるなんて普通の人は信じられないだろう。

が、さやかも【神威】の力を見たことがある。

その為『あぁ、あの不思議な眼の不思議パワーかぁ』と、案外あっさりと納得出来た。

だが、それと同時に一つの推測に辿り着く。

 

「あっ、ねぇまどか。もしかして、あの時のアレ(・ ・)ってさ…」

 

「…うん、たぶん間違いない。クロ君だよ」

 

二人は魔女に襲われて死にそうだった時、自分たちを護る様に現れた魔女を燃やした黒い炎…つまり【天照】の事を思い出し───そして分かった。

あの黒い炎が、ほむらの【神威】と同じ様に、クロトの写輪眼に秘められた力。

その能力で、クロトが自分たちを助けてくれたのだと。

 

「ほんとに、もう…無茶、しないでよ」

 

小さい頃から自分の危機を幾度も助けられてきたまどかは、そんな変わらない幼馴染みを嬉しく思う反面、自分の命を省みないクロトを悲しく思う。

誰だって、親しい人を失いたくないのだから…。

 

「アレ? アレって何のこと?」

 

しかし、気絶していたマミは当然クロトの【天照】のことは知らない。

 

「え?…あぁそっか、実は───」

 

それを思い出した二人はそういえばと手を叩き、自分たちが魔女に襲われた時に現れた【天照】の黒炎のことをマミに話し始めた。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「はぁー……この話は今晩するつもりだったんだけど…」

 

マミは自分が気絶していた間のことを二人から聞き終えると、眼を瞑って腕を組み思案に耽る。そして暫くすると眼を開け、もう仕方がないとでも言う風に大きくため息を溢して二人にこう話を切り出した。

 

「あなた達三人は今後、私達に着いて来なくていい───ううん、来ちゃダメ。

それに、キュゥべえとの契約は……絶対にダメよ」

 

「へ?」

 

「マ、マミさん!? 何を言って…」

 

突然の同行禁止令。

おまけに契約賛成派だったマミがほむらみたなことを言って反対派にまわったものだから、まぁ当たり前といえば当たり前だが、まどか達は困惑していた。

 

「……どこから話せばいいかな…」

 

思い悩むマミは眼を伏せ、重い口を開き、暫しの間二人に語る。

魔女に殺されかけて感じた死の恐怖と、手に入れた幸せな日々を失う喪失感を…。

 

魔法少女の残酷な最後()も覚悟していた───とはいえ、実際にそれを体験すれば覚悟が甘かったと思い知ったらしく、話しているマミの組んでいた腕は震え、瞳には怯えの色が浮かんでいた。

 

「結局のところ、私は孤独で、仲間が……理解者が欲しかった。

だから仲間が増える事に喜んで、浮かれて、あなた達を危険なことに付き合わせてしまった。一歩間違えば、あなた達が今日の私みたいになってたというのに…」

 

「「………」」

 

「でも、私はもうあなた達を、あんな危険な目には…付き合わせたくない……」

 

頼れる先輩の弱気な独白を聞いて何も言えない二人に、

巻き込んだ私が言えた義理ではないけどね、と付け加え、申し訳なさそうな顔で謝るマミ。

 

「特に黒崎君は、ね」

 

「え? クロ君が…?」

 

何故そこで幼馴染みの名前が出たのか分からず、首を傾げるまどか。

まどかの疑問の声にマミは頷いて答える。

 

「彼の写輪眼には、暁美さんみたいにまだ上があって───万華鏡写輪眼っていうらしいんだけど、あの黒い炎……あなた達の言う通り、おそらくあれが黒崎君の眼の能力。

……あれ、本当は目覚めちゃいけない力なのよ」

 

「?? どこがいけないの? 強くなれるならいいことじゃ──」

 

「その代償が、彼の命と視力を削ったとしても?」

 

「「───ッ!!?」」

 

二人はマミの言葉に驚き、眼を見開いて息を呑む。

 

「強すぎる力には、どんなモノにも何かしらリスクがあるものよ」

 

「そんな…」

 

マミから万華鏡写輪眼のあまりにハイリスクな代償を聞いて、顔を青ざめさせるまどか。

 

そして、それを聞いたならまどかは否応なしにも納得せざるおえなかった。

あの幼馴染みの事だ。今回みたいにまた自分達が窮地に陥ったとすれば、己がどうなろうと まどか達を助ける為に必ずまた写輪眼の能力を使うだろう。

そんな彼の後ろ姿が容易に想像出来た。

 

───だからだろうか。

 

「…まぁそんな理由なら、仕方ないっか」

 

「! さやかちゃん()、魔法少女になるの…やめるの?」

 

「だってしょーがないじゃん。アイツの命がかかってんだよ?

あの頑固者に使うなって言ったって使うに決まってるし、

それに……私のせいでアイツの眼が見えなくなったら…私は、嫌だな」

 

「さやかちゃん…」

 

契約に乗り気だったさやかも、諦めるような事を言い出したのは…。

 

「お願いね。これ以上黒崎君に力を使わせない様『わん!』に…ん?」

 

しかし、マミが喋っている最中、

突如として薄暗い闇に響き渡る犬の声。

 

「あれ? 今の鳴き声って────え?」

 

聞き覚えのある犬の鳴き声が後ろから聞こえてきたんで、

まどかは何気無しに後ろを振り返る。

ドドドドッと、地響きをたてながら猛スピードで走ってくる存在。

それは鹿目家の飼い犬 定春で──。

 

「キャィーン(≧▽≦)」

 

「ぐぇふぇぇぇっっ!!?」

 

「まどかああああーーッッ!!」

 

そのまま飼い主に飛び掛かりボディープレスッ!

まどかの上に覆い被さって、下にいるご主人の顔を舐め捲りじゃれている。

 

「くぅ~ん」ベロベロ

 

ミシッ メキ メキャ

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!! おっ(おも)いいいぃぃぃぃッッ!!!! 」

 

「か、鹿目さんの身体から鉛筆をへし折るような音が…」

 

だが、推定300㎏の巨体である定春にのし掛かられて、華奢なまどかの身体が無事なハズがない。身体から軋むような音が鳴り響き、骨が悲鳴を上げていた。

生命の危機に瀕したまどかは、潰れそうな肺からなんとか声を絞り出し、定春の説得を試みる。

 

「さ、定は───ンプッ…ちょっ、待って…!

し…心配、だったのは、分かる、よ? ご、ごめんね。けど、あ…あああなたの大きさでじゃれ、つかれたら、私達は……い、命取r『メギィィッ』ブファァァッッ!!!」

 

だが、息も絶え絶えなまどかの説得は虚しくも間に合わず、

口から綺麗な深紅の血飛沫が噴水の如く舞い散った。

 

それを見て慌てたさやか達も、まどかの救出に駆けつけたが…。

 

「うわあああッ!? ま、まどかからどけーッ!

この馬鹿い『ワギャウ!!』おぶしっ!!!?」

 

「美樹さん!!? こ、こら!

退きなさ『ガリッ』ぎゃあ゛あ゛あ゛ぁぁーーーッ!!」

 

…とまぁこんな感じで、さやかは定春に近寄り『馬鹿犬』と言おうとしたら、定春の強烈な右フックを顎に貰い気絶。

マミは定春に触ろうとして手を出した瞬間、ザックリ手を噛まれた。

 

一応言っておくが、定春はなにもマミが嫌いなわけではなく寧ろ好きな部類の人間だ。なら何故かと言うと、ケーキ作りが趣味のマミの手からは犬の好きなミルクの甘い匂いがするようで、おやつ感覚でついかじってしまうらしい。

ちなみに、さやかの場合は単純に小物の匂いがするみたいで、定春ランキングでは格下の位置にいる。そのため定春からの攻撃は人一倍キツい。

 

……というか、さやかは本日、クロトにワサビを顔に塗ったくられたり、ほむらに踏み台にされたり、ほむらに殺されかけたり、定春に殴られたりと……味方からしかダメージを受けていない。

 

お前らの関係はなんなんだ!?

 

「……何やっているの、貴女達…」

 

「ほ、ほむら、ちゃ……へ、ヘル~ス! ヘルぺス、ミ~!」

 

「ヘルプミーね」

 

そんな光景を、クロトの制服を修復し終え、看病しながら眺めていたほむらは呆れた表情をし、自分に手を伸ばしながら必死に助けを求めるまどかを見てハァと、ため息を溢すのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「……定春ぅ…死ぬかと思ったよぉ…」

 

「クゥ~ン」

 

定春に押し潰されていたまどかは、最終的にほむらの写輪眼で定春に幻術を掛けて退かして貰い、何とか一命を取り留めた。が、ダメージを受けて瀕死だったので、現在ふわふわとした定春の背中の上で気分的に癒されながら荷物(さやか)と一緒に寝転んでいた。

 

「怒らないであげて…きっと家に帰らず、ずっと貴女を待ってたのよ。

ご主人様想いのいい仔じゃない。それに、この子がまだ居てくれて助かったわ。

流石に暁美さんと二人じゃ、三人も運べないし…でも──」

 

マミは噛まれて血塗れだった手を摩りながら、

まどかとさやかが乗って手狭になった定春を見る。

 

「肝心の黒崎君…どうしよう。定春君の背中はもう空いてないし、

誰かが病院に黒崎君を連れてって、お医者様にも説明しなきゃいけないのに…」

 

マミの言う通り、まどかは定春に潰されてグッタリとし、さやかは定春にノックアウトされて動けないから二人を家に運ぶ人間が必要だ。

クロトも検査入院の為に一応、医師への説明をする付き添いの人間が必要になるだろう。

 

「それじゃ、荷物(美樹さやか)を捨ててクロトを乗せましょう。

ほら、そこに都合よく焼却場行きのダストシュートが…」

 

「さやかちゃんをゴミ処理しないで!」

 

「いや?『当たり前だよ!』そう…それじゃアオダに運んでもらうっていうのはどうかしら?」

 

「アオダって…暁美さんの友達のあの大蛇?…まぁそれなら───」

 

「大きくなるわけにはいかないし、手が無いから口にくわえてだけど……家に着くまでに消化されてないといいわね」

 

「家に着くまでの間に何があったの!!?」

 

相変わらず、ほむらのさやかに対する扱いは酷い。

 

「ていうか、ほむらちゃんかマミさんのどっちかが運べばいい話なんじゃ…」

 

「「……あ」」

 

最初から気付けよ!とまどかは思うのであったが、運ぶことの出来ない自分はそう言う権利は無いので黙っておくことにした。

そして、その提案が出されると、

 

「……し、仕方ないわね! 黒崎君は、いっいい命の恩人だものね、うん!」

 

何故かマミは非常に意気込み、運ぶ気満々になっていた。

───だが…、

 

「ハアハア、で、でも、私が年頃の男の子を抱っこして触ったりするのって、ハアハア、べ…別に不自然じゃない、わよね? 」

 

頬を赤く染めて吐息を荒くし、

 

「むしろ抱っこした時に色々なところを触ったり、触られたりしたって……フヒヒヒ、そっそれは不可抗力だもんね、うん! ていうか、私を助けてくれた時、思いっきり抱きしめられちゃったし。今思えば黒崎君の手が…エ、エヘヘ♪ 私のむっ…むむ胸も触ってたし、ボディータッチくらい、ハァハァハァハァ……今さら、よね? 」

 

手をワキワキさせながら気絶しているクロトににじり寄るマミの姿は色んな意味で危ない。

 

「マミさんが変態になっちゃった!!?」

 

「巴マミ!クロトに近寄らないで!!」

 

端からみれば──

 

瑞々しく潤んだ瑞唇。

大きく見開いた綺麗な金瞳。

街灯の夜光を受け乱反射に煌めく金髪。

中学生とは思えないくらい整ったスタイルと美貌。

 

ありとあらゆる角度から見ても、掛け値なし文句なしの特級美少女なのだが、

今はありとあらゆる角度から見ても、掛け値なし文句なしの変態にしか見えない。

 

マミは[頼れるお姉さん]から、[変態お姉さん]へとジョブチェンジした。

 

 

「クフフフ、あぁ…思い出すわ。あの時の黒崎君、──が私の顔に当たって温かかっくて、意外と固くてたくましかっ『きゃあああああっ!』たぴゅんッッ!!??」

 

「ななな、なんてこと口走ってるんですかマミさんんんッ!!」

 

トリップしているマミの頭に、まどかの脳天チョップがゴスッと炸裂。

不意を突かれたマミは舌を噛み恨みがましく涙眼でまどかを見る。

 

「いっはーい!! あにふるの、はなめはん?」

 

「何をするじゃないですよ!! ナニ言い出してるんですか!!! 女の子がア…アア、アレが固いとか、たくましいなんて言っちゃダメです!!! た、確かにクロ君のはその…マ、マグナムだって、前に一緒に温泉に入ってたパパがママに言ってましたけどぉ──」

 

「マグナム? 」

 

顔を真っ赤にして、慌てふためきながらヤバイ事(女の子として)を口走るまどかだが、マミは怪訝な表情をし──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「“腹筋”の話じゃないの?」

 

 

 

 

 

 

 

「…………………え゛?」

 

「え?」

 

 

───ビシリと、まどかの時間は凍り付く。

 

真っ赤になっていた顔は一瞬で冷え込み、その後、再び一気に茹で上がるが、そんなまどかの様子を見てもマミは未だに良く分かっていないといった感じで、頭上に?マークが浮かんでいた。

ちなみにそれを聞いていたほむらがクロトのとある部分を見ながら小声で、

「……マグナム…マグナム…」

と、連呼していたのは本人の尊厳の為、黙秘黙認しておいた方がいいだろう。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「うっ、うぅ…… もう、帰ろうよ…」

 

その後、自爆(笑)からなんとか立ち直った?まどかはさめざめと涙を流し、二人に帰りたいと懇願してきた。

一刻も早く寝床に就き、この記憶を封印して忘れる為に…。

 

「そうね。何時までもこんな所に居たら補導されちゃうし、そろそろ帰りましょっか」

 

六時を過ぎ、暗くなった駐輪場で騒いでいれば怪しまれると危惧したマミも、まどかに賛同すると、横たわるクロトに歩み寄る。

もちろん今回は空気を読んで、先程みたいに息は荒げてない。

 

「それじゃ暁美さん、わたしは黒崎君を連れていくから鹿目さん達を───」

 

「───……いい…」

 

「へ?」

 

しかしほむらは、お願いと言いかけていた所を遮られて呆けているマミの隣を通り越し、クロトの傍に来くると、彼の身体を大切なモノを扱うかの様に抱き起こす。

 

「あ、暁美さん?」

 

「巴マミ、貴女は二人を御願い」

 

「あ、いやえっと…で、でも黒崎君は私が…」

 

「……必要ない。クロトは…クロトは、私が連れていく」

 

戸惑っているマミに、強い意思の籠った声でそう返すほむら。

 

「……あっ待って! いま思ったけど、どちらにしろ貴女の身長じゃあ黒崎君が…」

 

「───…くっ」

 

そう、小柄なほむらでは身長差でクロトの足を引き摺ってしまう上に、バランスも上手くとれず、彼女の身体は大きくふらついていたのだ。

そのことに気づいたマミが忠告にと声を上げるが、ほむらはそんなマミの忠告も無視し、ベンチに横たわるクロトを、苦労しながらなんとか背負う。

 

「っ…ハァーハァー」

 

「……ほむらちゃん…」

 

今まで誰かを背負うという事がなかったのだろう。それは誰が見ても明らかに不慣れで、運ぶのに無駄に体力を削っている。

しかしそれでもほむらは背負う事をやめようとせず、

息を切らしながらも懸命に歩き続ける。

 

「あぁもう、言わんこっちゃない。ちょっと暁美さん 大丈───」

 

「待って、マミさん」

 

「? 鹿目さん?」

 

「大丈夫、ほむらちゃんに任せてあげて」

 

「……でも…」

 

危なっかしくて見ていられなくなったマミは、ほむらと交代する為に駆け寄ろうとするが、それはまどかによって呼び止められた。まどかはほむらに任せろと言うが、マミの視線の先にはフラつきながらクロトを背負う小さな背中で…。

やはり、その頼りない後ろ姿が心配なのか、マミの瞳は右往左往している。

 

「いいんです」

 

「?」

 

 

「あの二人は、きっとあれでいいんです」

 

 

心配性なマミを見たまどかはクスッと笑い、

病院へ向かう一組の後ろ姿を、優しい眼差しで眺めていた。

 

邪魔しちゃいけない────そう想いながら…。

 

 

「むぅ~、私が運びたかったのにぃ~」

 

しかしマミにはどうにも納得出来なかったようで、

リスみたいに頬を膨らませて唸っている。

 

「また機会がありますって……帰ろう定春。さやかちゃんの家に寄ってね」

 

「わん」

 

まどかの指示に従って歩き出した定春に、

マミは仕方ないと割り切り、定春に着いていくことにした。

 

「しょうがないなぁ……あれ? そういえば……」

 

だが、あることを思い出したマミは足を止め周囲を見回す。

 

 

 

「キュゥべえは……どこ?」

 

 

魔女の結界から帰ってきても、彼女の相棒とでも言うべき白い生き物の姿は何処にも無く、マミは何時も不意に現れる存在がいないことを不思議に思っていた。

 

 

───ファザアァァ───

 

 

マミの髪を、生温い一陣の風が凪いだ…。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「ハァ、ハァ…まったく」

 

巴マミにまどか達を任せクロトを背負って歩いていた私は、人の気苦労も知らず呑気に私の背中で安らかな寝顔で寝息をたてているクロトを見て、思わずため息を溢す。

 

「何でいつもいつも、貴方はこんな無茶ばっかりするの」

 

貴方にこんな事を言ってもしょうがないことは分かってる。

貴方が命を賭してくれたお陰で、彼女の運命を変えることが出来たのも…理解してる。

───だけど……。

 

「私が、毎回どれだけ苦労してると思ってるのよ」

 

「いつだってそう! いくら友達が危ないからって普通、魔女の結界に生身で入る!? ほんっと馬鹿じゃないの!? 」

 

心の奥底から湧き上がってくる抑えきれない言葉。

 

「貴方もだけど、まどかだってそうよ!

あんな、見るからに怪しい白饅頭の言うことは簡単に信じるくせに、私の忠告なんかいつも聞いてくれない。警戒心が薄すぎるのよ、あなた達…!」

 

言いたいことはまだ山ほどある。

口にしたい想いで胸が張り裂けそう。

……本当は、大声で叫びたい。

 

何度も繰り返すたび、そう思う時がある。

──でも、今回は文句ばっかりじゃなかった。

 

「ハァハァ…それでも、彼女は救えた。

貴方が頑張ってくれたんだよね? ……ありがとう、クロト」

 

そうだ。

いつも絶望の運命を繰り返していた巴マミ。

アオダかが話を聞いた時、彼女はもう救えないんじゃないかって思ってた。

 

────だから、

 

「運命は変えられる………なら今度こそ、絶対護ってみせる…!」

 

思い上がって自分を見失っていた“あの頃の私”とは違う。

あの時、貴方のおかげで、私は一番大切な事を思い出せたから…。

 

 

────“希望”はある────

 

 

そう新たに決意した私は見えてきた明かりの灯る病院の入口まで、ずれ落ちそうなクロトを担ぎ直しながら歩いて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────だけど、その時私は知らなかった。

病院に入る私達を、木陰から見ていた存在が居たことに……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……やっぱり興味深いね』

 

木陰から顔を覗かせた生物は、ふっさりとした尻尾を振りながら呟く。

 

『様々な異能を宿した特異な瞳…写輪眼。此れを解析すれば、もしかしたら新たなエネルギー源として使えるかもしれない。───現に』

 

あらゆるエネルギーに群がるその生物は、実験動物を見るような目をほむらの背中にいるクロトに向ける。その視線は───、

 

『あの消えない黒い炎。熱力学の法則に縛られないアレは、永久機関型熱エネルギーのいい燃料に利用出来そうだしね』

 

いい実験材料が出来たと、ほくそ笑んでいるようだった。

 

 

『それじゃ時間も惜しいし、彼女が離れたらさっそく解析を──』

 

 

しかし、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──させると思ったか?

 

 

 

 

 

 

 

 

『え? ───ギュプッ!?』パァン

 

木陰から顔を出そうとした生物は、生命の気配を感じなかったハズの背後から声が響いてきた事に驚き、振り向こうとした刹那────弾け飛んだ。

 

風船を割った様な音を立て、原型も残さず地面の土に赤く染み込んだ肉塊となったソレ。あまりにも一瞬で痛みも無く、おそらく何が起こったのか理解すら出来なかっただろう。

 

『ったく、油断も隙もない……お前らの好きにさせるかよ』

 

そして、それを成した人物の顔はフードの闇に隠れ見えないが、赤い雲の刺繍が描かれた黒いレインコートを羽織り、歯痒そうに“薄くなっていく”自分の手を見詰めていた。

 

『ちっ……今は此が限界、か…』

 

徐々に薄まり消えていく身体。

だが、彼の消えようとする身体は歪み、渦巻いていく空間に呑み込まれていく……が、それは本人の意思の様で、渦巻く流れに身を委ねている。

そして、完全に呑み込まれる直前、クロトを背負うほむらの背中を見て───。

 

 

 

『もう少しの辛抱だ。……頑張れよ、ほむら』

 

 

 

 

 

────全ての魔法少女の運命を正す【世界樹計画】…その日まで……。

 

 

 

 

そう言い残し、後には静寂の闇だけが残った…。

 






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