まずは、ここまで長引いたことを深くお詫び申し上げます。
いやー、まさか自分でもこんなにながくなるのは予想外で、これがスランプか!と、驚いています。スランプの他の作者さまの気持ちが、ようやく分かりましたね、これ、うん。
久しぶりの投稿なので、こんな感じで良かったのかどうか分かりませんが、
とりあえず一言……ゴットイーターおもしろかった!
~お菓子の魔女結界・最深部~
「……なに、あれ…」
「あいたた 何がどうなって───うわっ! な、なんじゃありゃ!? …骸骨?」
魔女に襲われていたクロトを助けようと、駆けていたまどか達。
だがそれも間に合わず、クロトが魔女に喰われる瞬間の光景が目に入ってきた瞬間、
まどかは反射的に目を背け、さやかは足下にあった包装用のリボンで足を引っかけ転ぶ。……時間にして僅か十数秒。
まどかが再び瞳で視界を捉えた時、事態は大きく変化していた。
クロトを喰おうとしていた魔女は、突如現れた紫色の闘気を纏う一面四臂の骸骨の手で首を握り潰されており。
さやかは顔を押さえながら、まどかと同様に正体不明の骸骨を見て驚愕している。
「ちょっ、まどか何なのよアレ!? 新しい魔女!?」
「わかんないよ! いきなり現れたと思ったら───あっ!」
────ッドオオオォォ……────
彼女らが困惑する中、首を握り潰されていた魔女は、謎の骸骨によって凄いスピードで投げ捨てられ、壁に轟音を響かせて激突し魔女はそのまま気絶してしまった。
「……凄い…」
「魔女を投げ飛ばしたってことは……味、方…?」
味方と言いつつも、さやかの内心で警戒心が解けなかったのは無理もないだろう。
魔女とは人の呪いが産んだもので、その姿は千差万別。
醜いモノから、今回の可愛らしい縫いぐるみのようなモノまである。
目の先にいる骸骨だって、魔女の可能性があると考えるのが普通だ。
「!? ちょっとまって…なんか此方に来てない?」
「え?」
だが、さやかの考察も終らないまま、宙高く飛び上がった骸骨は数回の跳躍を繰り返したのち、警戒している彼女らの前に音も無く降り立つ。
「────命拾いしたわね 貴女たち…」
「! あ…あんたは」
「………え」
しかし近距離まで近付いた時、骸骨の肋骨部分から覗く姿に、さやかとまどかは中にいる人物が誰なのか理解した。
「まったく、
「「ほむら(ちゃん)!!?」」
二人はほむらが何故ここにいるのか、その骸骨の像はなんなんだと、疑問を抱くよりも先にクロトを助けてくれる存在が来たと喜び勇むと、目に涙を溜めて彼女に駆け寄り、
「た、助けて! クロ君が…クロ君がッ!!」
「あいつ私たちを庇って魔女に吹き飛ばされたんだ! 早く助けに行って!!」
必死な表情でほむらに助けを求めてきた。
この時ほむらは、本当なら時間をかけて落ち着かせたいと思っていたが、いまだ重傷のクロトをこのままの状態にしておくと彼が危ないと感じた彼女は、彼女らの肩を軽く揺すって自分に意識を向けさせ、二人に語り掛ける。
「二人とも少し落ち着て…大丈夫、クロトならここよ」
「うっ、ヒッグ…え? ───っ! クロ君!!」
「クロトっ!」
骸骨の掌にいたクロトをソッと二人の前に差し出すと、まどかはハッとし彼に駆け寄って手を握り生きているのか確認する。
そしてクロトの手から脈打つ鼓動を感じると安堵の深い溜め息を吐き、ポロポロと大粒の涙を溢す。
「ああぁ……良かったぁ~…グスッ良かったよぉぉ」
「ばかッ!…ひっく…自分の幼馴染み、泣かしてんじゃないわよッ!!」
“唯一無二の幼馴染み”それを喪い掛けた恐怖は相当なモノだったのだろう。
まどかはクロトにすがり付き、それから暫くの間、子供の様に泣きじゃくり、
さやかはさやかで目尻に涙を溜め、声を揚げて泣くのを我慢しながら、
気を失っているクロトに怒鳴った。
「遅くなって、ごめんなさい。私がもっと早く気付いていれば…」
「スンッ…ううん。ちゃんと、来てくれたし、
ほむらちゃんがクロ君、助けてくれたんだよね? それで十分だよ────ありがとう」
「まどか……うん…」
クロトの顔に付いている血を、自分のハンカチで
礼を言われたほむらは頬を少し赤く染め、頷くと素直に感謝の言葉を受け取った。
「二人とも、色々訊きたい事はあると思うけど、それは後にしなさい。
クロトの治療がまだ終わっていないの。巴マミの所まで彼を連れて行くから掴まってて」
謝罪の終わったほむらは、クロトにしがみつくように泣いていた二人にそう告げると骸骨の掌で二人を掬い上げ、落ちない様にしつつも優しく握りしめる。
「ひゃわぁっ!?」
「おわっ!? ちょっ怖いって!!」
「口を閉じてなさい。舌噛むわよ」
「「え?────う、うわああああぁぁぁぁ……」」
突然襲われた浮遊感で二人が戸惑うのも構わず、ほむらは自分の脚に魔力を集中させると音を置き去りにするような速度で走り、三人を連れてマミのいる場所へと急いで向かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「…たしかこの辺に……いた。二人とも、着いたわよ」
ほむらの魔力で強化された脚力はたいしたもので、あっという間にマミの元に着いた。
……ただ、
「め、目が回るぅ~」
「うっぷ……吐きそう…」
車以上の速度を、生身で体験した二人は三半規管を激しく揺さぶられてグロッキー状態となり、まどかは目をぐるぐると回して焦点が合わず、さやかは口を手で押さえて苦しそうにしている。
「まどか、よく頑張ったわね。それと」
二人のうち、目を回すまどかに、ほむらは優しく声をかけ───
「美樹さやか、そこで吐いたらブッ飛…───殺す…!」
さやかには殺意の言葉を投げ掛けた。
「何でわざわざ言い直した!!? つか、あたしとまどかの扱い違いすぎじゃね!?」
「まどか掴まって」
「う…うん」
「無視すんなやコラ」
ほむらはさやかを無視し、まどかを握っている掌の力を弛めてまどかに手を差しのべ、地面に降りるよう促す。
「よいしょっと……ん?…あっ」
しかし初めに地面に降ろして貰ったまどかは
地面に置かれている“例のアレ”を見て、頬をヒクヒクと引きつらせていた。
「? どしたの、まどか?」
「……アレ」
地面に降りたさやかは、まどかのリアクションを不思議に思い何となく聞いてみると、まどかはとある場所を指差す。
まどかが指差す方向に、さやかが顔を向けるとそこには
巨大チョコがめり込んで、顔の部分にモザイク規制のかかったマミが……、
「……わー…これ死んでんじゃない?」
「た、たぶん大丈夫だよ。指もピクピクって元気に動いてるし」
それは全然大丈夫じゃない合図だ。
しかし如何にマミがヤバかろうがそんな事、クロト第一のほむらには通用しない。
「クロトが大怪我して大変だっていうのに、まだ寝てるなんて……いい度胸ね。
────叩き起こしてあげるわ」パシィィン
冷たい目でマミを見下ろすほむらは、おもむろに盾から鞭を取り出し……、
「わああああああ!!」
「待て待て待てぇっ!!
そんなもんで目覚めるのは、あんたのサドっ気だけだって!」
慌てた二人に取り抑えられていた。
────そこに、彼女達を迎える声が響く。
『やぁ、来てたんだね。ほむら』
「……キュゥべえ」
近くの物影から姿を現したキュゥべえは、何時も通りの気軽な口調でほむらに話かける。
……が、話しかけられた本人は鋭い目付きで睨み、いつにも増して不機嫌そうだ。
「丁度良かった…ねぇキュゥべえ。私たちが居ない間、マミさんに何があったの? 」
キュゥべえの出現で、動きの止まったほむらを抑え込む必要のなくなったまどかは、キュゥべえの前まで近寄って屈み込み、何故マミがこんな状態になってるか確認をとる。
『分からない。ちょっと目を離した隙に、もうこの有り様だったんだ。
……鼻の骨が折れてなきゃいいんだけど…』
「鼻で済む問題じゃないでしょコレ」
まどかの言うことも、尤もだ。
「心配ないわよ。巴マミの精神は豆腐並みだけど、
身体はウ○ヴァリン並みに頑丈な魔法少女。コレくらいじゃびくともしないわ」
「何で心と身体が、そんなにアンバランスなの?」
「おまけにそれ、マミさん人間扱いされてないじゃん」
「いまさら気付いたの? ……魔法少女になるって…そういうことよ」
「「マジで!!?」」
二人は口を揃えて驚き、ほむらも図らず、二人は魔法少女になることに抵抗が出来て
『魔法少女になるのやめようかなぁ』と、ひそかに心の中で思うのであった。
『なるほど、マミを誰かの願いでミュータント化するのも一手だね、 死ににくくなるし。
まどか、契約してみない? いまなら骨格もアダマンチウムにサービスするよ?』
「……それ以前に、人のお願い事で人体実験を勧めないでよ」
そんなことしたらマミの骨は二度と骨折しなくなる代わりに成長期のマミの身長は止まって、体重は生涯40%増加したままになるだろう。
風呂上がりに体重を計る彼女の絶望した顔が頭に浮かぶ。
『う~んダメだったか……まっ…いっか。
それよりも、ほむら。君に聞きたいことがあったんだけど、その骸骨の巨人はなんだい?
僕がこれまで感じたことのない、珍しい波動のエネルギーだね』
「…貴方には関係ないことよ」
そう言ってクロトをソッと地面に降ろすと、瞳を万華鏡写輪眼から通常の巴紋の写輪眼に戻し、骸骨を消してあからさまにキュゥべえを拒絶するほむら。
『……まぁ話したくないのなら、それでいいさ。ただ君、話さないつもりなんだろうけど、僕は知ってるよ。マミをこんなふうにした犯人は───』
「────飛んでけええええッ!!!!」
カッキイイィン!!
『ぎゅぷい』
「「キュゥべえぇーー!!」」
キュゥべえが犯人を言おうとした途端、
ほむらの盾から取り出した釘バットで吹っ飛ばされ、遠くにあるウエディングケーキの塔まで吹っ飛んでいき、ケーキの頂点に一匹の赤く汚れた蝋燭が刺さった。
「ふう」
ほむらは血に染まった釘バットを盾にしまうと、何事もなかったように髪をかき上げ、
「少し、ゆっくりし過ぎたわね…。
二人とも、いまからチョコを引き抜くわ。手伝って」
呆然とするまどか達の方を振り返って、然も当然のように言った後、マミに刺さっているチョコに手をかけた。
「………私、もし魔法少女になっても、コイツらと上手くやってける自信ないわ…」
「あれは、ほむらちゃん達が特殊なだけだと思うよ?……それよりキュゥべえ大丈夫かなぁ。遠くでよく見えないけど、ピクリとも動かないよ」
「ん?…あぁ大丈夫っしょ、アイツ見た目より結構頑丈だし」
「あはは、さやかちゃんと一緒だね♪」
「うんそうそう、私と同じ……って、それどういう意味!?」
二人はいつも護衛をしているほむらがいて安心しているためか、ここが魔女の結界だということも忘れて雑談に花咲かせていた。
「貴女達、はやく来なさい! コレわりと大きいんだから、一人じゃ持ちにくいのよ!」
まぁそんな悠長なことをしていれば、当然ほむらも怒る。
「あっ、ご、ごめんね!」
「はいよ」
急かされた二人は、とりあえずキュゥべえはことを置いといてほむらに言われた通り、彼女の傍に寄る。
そして、三人がしっかりと扉を持つと呼吸を合わせ──
「「「一、二の……三ッ!!」」」グ、ググググ…
一斉に引き上げにかかった。
しかしチョコの扉は思いの外、深々と刺さっておりマミの首までも持ち上げてしまう程で、これが中々抜けない。
面倒くさいと思ったほむらは二人に目で合図を出し、三人はマミの身体に足を置いて地面に押さえ付け(約二名がマミの胸に足を置いて)しっかりと固定すると、引き抜く力を強めた。
「ウ゛? う゛ぅ~……グゥッ!? む゛ゥ゛ゥーーッッ!!?!??」
その途中、あまりの激痛で目を覚ましたマミは
三人に足で押さえ付けられながらもジタバタと暴れている。
「おっ?」
「マミさん起きたね」
「もう少しよ。せーの──」
「む゛ウ゛ゥッ!! ム゛ウゥゥーーーッッ!!?」
『せっ!』と、三人はタイミングを合わせ扉を引き抜きにかかる。
当然マミは痛がって自分を押さえ付けている足にタップするが、三人はお構い無しに全力で力を込める───そして、
ギュポン!
「───ブハァッ!! ~~~~ッいっったあああぁぁーーーッッ!!!
顔痛いッ!! ていうか鼻痛ァっ!!! 何!? 何が起こったの!!?」
気持ちのいい音を響かせて顔からチョコが抜けたマミは寝惚ける事なく、顔に走る激痛で意識を覚醒させ反射的に魔法で痛む部分を癒しつつ、鼻血が吹き出し溢れる鼻を手で押さえていた。
「大丈夫ですかマミさん?」
「すいません、緊急時だったもんで」
「あいたた…え、鹿目さん? 美樹さんも……私、一体何が…」
しかし魔法で傷が幾分か癒えて意識がハッキリしてきたが、どうも記憶の方が少し混乱しているようだ。
ここに魔女を退治するために来たのは覚えていても、自分がどうして気絶していたのかが思い出せない。
「まったく…こんな時間がない時に手間をかけさせないで欲しいわね」
「!…暁美、さん!? どうして此処にいるの!?」
状況の把握につとめていたところに聞き覚えのある声が聞こえてきたマミは、声の聞こえた方をバッと振り向き声の主を見る。
そこには自慢の艶々しい黒髪を手で
「魔女を狩っていたらアオダから緊急の報せが届いたのよ。
私が以前からマークしていた強力な魔女が、クロト達を結界に呑み込んだと…。
……で、その結果は貴女が覚えてる通りよ」
「………魔女…」
マミは痛む頭に耐えながら気を失う前の記憶を探って行く。
断片的に甦る映像、それは───
銃を構える自分
拘束した魔女から飛び出す黒い影
────そして、目の前に迫る鋭く尖った白い歯刃
「……そっか、私、負けたのね……ごめんなさい。
結局あの子達を捲き込んじゃった上に、貴女に助けられてばかりで…」
「いいわ、気にしなくていい。今回の事は仕方無かったし、
それに────助けるのは当然じゃにゃい“
「「………」」
……格好いい決めシーンで、一番大事なセリフを二度噛んだ。
顔を真っ赤にしたほむらはバッとまどか達の方を振り向くと、とある二名は顔を背け、
「プッ」
「美樹さん、シッ!」
もう一名は堪えきれずに噴いてしまった。
「………」ガッ ギュウウウウ
「────っ!??~~~~~~ッッ!!」
「さやかちゃん!!」
瞬間移動の如く背後に回り込んだほむらの腕が彼女の首に巻き付き、顔が髪と同じ色になるまで首を締め上げられる。
「ゼェー、ヒュー、ゼェーッ」
さやかの息はもはや虫の息だ!
「うわっ さ…さやかちゃんの顔、青くなってスライムみたいに…」
「じゃあ、あと八回繰り返せば王冠が生えて新種のクイーンスライムになるのかしら?」
「死ぬわっ!!!!」
さらりと恐ろしいことを言うマミに、呼吸を整えていたさやかは思わず怒鳴る。
「……うぅ、ゲホッ…」
しかし、さやかの怒鳴り声がうるさかったせいだろうか?
寝かされているクロトは顔をしかめた後咳き込み、少量だが血を吐く。
「! クロ君!!」
それを見たまどかは、急いでクロトの口端から流れる血をハンカチで拭う。
クロトの状態は思わしく無い…。
「いけない! 美樹さやかで遊んでる場合じゃなかった…っ!」
「おい」
誰もがクロトの傍に寄り、彼の容態を心配する。
そんな中───
「えっ…この血って……嘘ッ!? コレまさか全部、黒崎君の血ィィ!?
───おのれッ!よくも…よくも私に初めて出来た、男子の後輩をッッ!!
鹿目さん! 黒崎君をこんな目に会わせた魔女は何処っ!!! ぶっ殺してやるぅぅッ!!!!!」
「うわっ! ────きゃああぁぁ!! の、脳が、揺れるぅ~~ッッ!!」
ここにきて血だらけのクロトを初めて見たマミはキレてキャラが豹変し、とても正義の魔法少女とは思えない言動を吐きながら、近くにいたまどかの肩を掴んでガクガク揺さぶる。
「落ち着きなさい!」ゴスッ
「眼が痛いっ!!」
そんなマミを見かねたほむらは、暴走寸前のところを眼に水平チョップを食らわせて動きを止めた。まあ眼にこそは入らなかったが、目蓋の上から眼球を叩かれたマミは涙目でほむらに抗議する。
「な、何するのよ暁美さん!私は今から、黒崎君をこんな目に会わせた魔女に天誅を…」
「馬鹿っ! 私じゃ治せないから
わざわざここに来たのに、貴女がここからいなくなったら誰がクロトを治すのよ!!」
「あっ、そ…そうよね」
スーハーと深く深呼吸を繰り返して、憤る心を落ち着かせようとするマミ。
まだ幾らか心が怒りで燻るが、お陰で少し頭は冷えた。
「……ごめんなさい。もう大丈夫、落ち着いた。
────暁美さん、今から治療に入るわ。彼の容態を簡単に教えてちょうだい」
「今の所、なんとか呼吸の確保と増血、止血はできたけどクロトの身体の中はいまだにボロボロで……私の治癒術では此が限界……治せる?」
「愚問ね。私の祈りは【命を
どんな重傷だろうと、生きてる限り必ず彼の命を繋ぎ止めてみせる!」
マミは鼻血を袖で拭い、キリッとした決め顔でそう言うと、
彼女はケガの程度を見極めるために魔法を使い、急いでクロトの診断に入った。
「───ッ!! なによコレ……全身骨折だらけだし、臓器が幾つか潰れてる───まるでダンプに跳ねられたような状態じゃない…っ!」
だが予想以上に重傷だったクロトの検査結果に、
マミの顔から血の気がサーッと引き、気を失う前のことを思い出して蒼白な顔色になる。
「ああ…私の、せいだ。あの時、黒崎君に助けられて…」
「……マミさんのせいじゃないですよ」
「クロ君、私達を庇ってこうなっちゃたんです。
私達が居なかったら……一人ならクロ君、避けられたのに…っ!」
気落ちするマミと同調するように、まどかとさやかも歯を噛み締め、足手まといになったと
後悔していた。
「反省するのは勝手だけど後にしてくれないかしら。
そろそろ気絶してる魔女も起きて──」
─────ズリュ─────
そうこうしている間に、ほむらの言葉通り気絶していた魔女は傷付いた身体を脱ぎ捨て復活し、辺りの様子を伺う様に首を右往左往させている。
そして直ぐにほむらを見付けると魔女の面は怒りの形相となり、自分を投げ飛ばした
「ハァ…遅かった、か…」
「……暁美さん、サポートお願い。
私達二人で行けば、きっとあの魔女も倒せるハズよ」
マミは立ち上がり、解けていた魔法衣を再展開させて魔女を迎え撃つ為に銃を取る。
しかしほむらは彼女の前に手をかざし、魔女への進路を妨げた。
「その必要はないわ。
巴マミ、貴女は直ぐにクロトの治療に取り掛かって!」
「え?」
「コイツを仕留めるのは、私」
「なっ何を言っているの!? あんな強力な魔女、貴女一人じゃ───!!?」
既に獲物を見定めた紅い双眸は薄暗い結界内で爛々と輝き、獰猛な笑みを浮かべながらその瞳の奥に怒りの感情を秘めて迫り来る魔女へ、骸骨の巨人と共にゆったりとその歩を進め始めた。
その威圧的な雰囲気を醸し出すほむらに、マミは何も言えず押し黙る。
「丁度よかった。この“怒り”……どうしようかと思ってたのよ」
「……暁美さん、あなた…」
「マミさん、早くクロ君を!」
少しの間放心していたマミであったが、まどかの声でハッと意識を戻したマミは、足元に横たわるクロトの傍に座り込むと魔女はほむらに任せ、クロトの治療に取り掛かった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
───あぁ全く…ホント腹立たしい。
思い出すだけで腸の煮えくり返るような苛立ち。
原因は分かってる───私だ。
何時かはこうなるんじゃないかって、ずっと思ってた。
“繰り返す時間”は常に予定調和なんかじゃない。ホンの少しのズレは、時間が流れれば流れるだけ大きなズレへと変化していく。
こんな蜘蛛の糸の上を歩くかのような綱渡りを続けていれば、何時かはこうなるんじゃないかって、予感はあった。
だから私はそうなった時の為に、いろいろ準備を進めていた筈なのに…。
たった三日、時間が早まっただけでクロトは死にかけた。
ちょっと油断しただけでこの有り様。
結果として巴マミは助かったけど、その代わりクロトが死にかけた。
…確かに傷付けた魔女と、こうなった原因を作ったキュゥべえは許せない…だけど、それ以上に私は油断していた“私自身”が許せない。
だからこの戦いは“魔法少女の使命”なんかじゃなくて、ただの八つ当たり。
「それに…」
私が視線をある一点に向ければ、その先にあるのは魔女の脱け殻と、
脱け殻を燃やす消えない地獄の業火【
「……クロトの万華鏡写輪眼…」
これが意味する事は、彼の瞳が覚醒してしまったという事。
……『過去』の時間は、今更戻って来ない。
それでも、私は戦い続けなきゃいけない。彼らの平穏の為に…。
「────戦神招来、来て 【
私がそう呟けば、私を護っている
骨から筋肉、筋肉から皮膚、皮膚から衣服
次々に肉体形成されていく私の【須佐能乎】は、
その身体を骸骨から陣羽織を着た武将の像へ
二つの力が解放された時に発現した、高い防御力と攻撃力を有する攻防一体の私の切り札
相変わらず豪然とした形相をしていて、何とも云えない威圧感を放っている。
武将の像を呼び出した私は更に、残り火の天照の炎に
「来なさい! 全てを焼き尽くす永遠の黒炎 【
脱け殻を豪々と燃やし結界を飾るお菓子や医療薬品等、至るところに燃え広がっていた黒炎は引き寄せられる様に【須佐能乎】の右掌に集まっていき、その形状を一刀の剣に宿らせる。
此が私の左眼に宿った万華鏡写輪眼【
クロトの全てを焼き尽くす【
この能力のお陰で、私は全ての炎に対して圧倒的な優位性を持つことが出来た。
火傷はしないし、炎を扱う魔法少女の炎は勿論。
私の名前通り【
全ての炎を集束し終えた天照の炎劒を須佐能乎の右手で持ち、私は近寄って来る魔女に向けて止まっていた足を動かし、再び歩み始める。
『─────!!?』
「? なに…?」
だけど怒りに燃えていた筈の魔女は動きを止め、急に小刻みに震え出した。
その視線の先には、須佐能乎の持つ炎劒があって───
「……あぁ成る程、自分を燃やした天照の炎が怖いのね」
知性や理性が無くても、消せない超高温の地獄の業火。
ある程度のダメージを0に戻せるコイツでも、一度燃やし尽くされた恐怖と、
私の第二形態・須佐能乎の恐ろしさを本能で理解してるみたい。
「だからって容赦はしない。あなたは傷付けちゃいけない存在に手を出した。
────最後の晩餐は済ませた? 神様にお祈りは?
結界の隅でガタガタ震えて命乞いする心の準備はOK?─────
…あぁ別に答えなくていいの。返事なんてどうせ期待して無いから。
その恐怖を抱えたまま、燃え去るといいわ………あはっ♪」
─────ニタァ♪─────
そう言って私は怯える魔女に、出来るだけ優しく笑い掛けてあげた。
ゾォッ
『────ッッ!!!??!?!』
「あら?」
何故かしら?
笑ってあげただけなのに、更に怯えて背を向けて逃げ始めたわ。
……バカね……この私から本気で逃げられるとでも思っているの?
「クス クス クス…♪(嘲笑)」
そうして、私はその笑顔のまま逃げ惑う魔女の追跡を開始した。
さて、それじゃ────楽しい狩りを始めましょうか。
その後、ほむらによる魔女の蹂躙劇が開始された。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ズガアアァァッッ!!
──クスクスクス
ザシュッザシュッ────ズババババッ!!
──クフフフフ
Aaaaaaーーーーッッ!!
──アーーハッハッハッハッ
「「「……うわぁ…」」」
覆われた前髪で表情の見えない顔。
その前髪の隙間から僅かに覗く紅眼。
上機嫌で笑っている筈なのに、恐怖しか感じない笑い声。
……正直、目の前にいる魔女より、此方の方が一般的な魔女のイメージと重なりそうだ。
「魔女が魔女狩りしてるよ」
「……マミさん。私、ほむらちゃんが……恐いです」
「大丈夫、私も恐いわ 鹿目さん」
マミはそう言いながらクロトの治療しつつも、涙目のまどかの頭を撫でて慰める。
「でも彼女の『アレ』…凄いわね。あの魔女が手も足も出ない」
「手も足も無いんですけどね~」
「………」スパァァン
「アイタッ!?」
感心しているマミの横で余計なツッコミを入れるまどかの頭に、頭を撫でていたマミの平手が炸裂する。
だがまぁ、マミの言っている事も分かる。
見れば魔女も一応、応戦はしているが、それは全て須佐能乎の防御力の前に無力化され斬り刻まれながらも、地面を這いずり廻って必死に、ほむらから逃げる魔女。
それに対し、
「あいつは女ター○ネーターかっ!」
「それに彼女、一撃で倒せるのに、わざと時間をかけていたぶってるわ」
「普段優しいのに……よっぽどクロ君を傷付けられて怒ってるんだね」
三人のほむらの評価はさまざまなようだ。
「まっ、それももう終わりみたいだけど、ね…」
目を細めるマミの視線の先。
そこには結界の壁ぎわに追いやられ、全身に黒い炎で覆われた切り傷を刻まれていた魔女が、陣羽織を羽織った武将姿の須佐能乎を身に纏ったほむらに天照の炎劒を突きつけられているところだった。
『─────』
刻まれた傷口から燃え広がっていく身体を脱ぎ捨て新しい身体に戻った魔女だが、その顔は明らかに疲弊しており、再生スピードも見るからに落ちている。
魔女は次にどうするかを模索するかの様に周囲を見回していたが、それは次の瞬間、凍り付くようなほむらの声色でピタリと動きを止めた。
「あなた、再生するのはいいけど────覚悟なさい。
次に再生した瞬間、あなたの尻尾の端から順番に輪切りにして───」
「
「
「────揃えて晒してやる…っ!」
『──────ッ!!?』
それを聴いた瞬間、魔女はその場から飛び出し、少し離れた結界の一部を歪めて自分が外界に逃れる為の穴を空ける準備に取り掛かった。
どうやら敵意も失せ、最早戦う気すら無いらしい。
しかし、ここで逃がすなんて事は彼女が赦さなかった。
「………憐れなものね。
ほむらはそう呟き、須佐能乎の左腕にある盾と弓が合体した装具に天照の炎劒を矢の形にして弓の弦に宛がい、弦を限界まで引き絞ると魔女の背中に狙いを定める。
「もう、眠りなさい────【炎遁・
───ヒャ…─ン──
須佐能乎の弓から、音速を越えた黒矢が解き放たれた。
『…………ガッ!!??!』
其は魔女の太長い胴体を易々と貫き、鰻の串刺しの様に壁に縫い付けられ、逃げられず。
「───斬り裂け!」
────ズババババッ!!─────
更に加具土命の能力によって刃の形に形状変化した天照の超高温の炎が、魔女の内部から肉を焼き斬って飛び出し魔女は細切れに裁断。
再生する間もなく、そのまま魔女は灰も残さず燃え───消滅した。
……魔女の結界が解ける。
まだ構想すら練れてない妄想の中の話なんですが、悪魔襲来編を予定してます。