~薔薇園の魔女・結界最深部~
「ハァ、ハァ、ハァ……死ぬかと、ハァ、思った…」
「……よく生きてたな…お前」
魔女の結界の最深部に着く頃には さやかは俯せにブッ倒れ、既に虫の息状態だった。
──コイツだけ死のアトラクションしてた様なもんだからな…
あの後も役に立たないバットを持ったまま、魔女の結界を
「でも、さやかちゃん凄かったよねぇ~
まさかパイを目潰しにして、使い魔を倒すなんて思わなかったもん」
そう。さやかは無我夢中でパイを連射し、使い魔の顔にヒットさせ、使い魔が怯んだ隙をついてバットで使い魔をボコボコにしたり、パイを顔面にヒットさせて逃げたりと……何気にパイを使いこなしていた。
『そうだね。僕はさやかを
君、意外と魔法少女の才能があるじゃないか───どうだい…契約しないかい?』
「うっさいわっ!!誰も助けてくれなかったから必死だっただけだよ!!!
ていうかマミさん!助けてくれるんじゃなかったの!?」
ガバッと起き上がったさやかは、セールスマンの如く契約を迫るキュゥべえを睨み、
次に助けると約束したマミにキッと顔を向けた。
「まぁ、その……ね♪」
マミは舌をペロッと出して、テヘッとしている。
反省の色が全然
「離せェェ!!私はこのアホ先輩を一発殴らなきゃいけないんだァァ!!!!」
「お、落ち着いてよ さやかちゃん!」
「よく見ろ!あの顔は忘れてただけだろ?悪気は無いって」
「ふぁ~ぁ」
さやかがマミを見ると、口に手を当てて欠伸してた。
「悪気どころかやる気すら感じられないんだけど!!?」
そんな やり取りを呆れた顔で見ていたほむらは、
「…何時までも遊んでないで行くわよ」
そう言って一人魔女のいる扉に近付き、扉付近にいる綿の使い魔を倒して扉を開ける。
────扉、扉、扉、扉、扉……
ほむらが扉を開いた瞬間、扉から扉が現れ、次々と開いていく。
……最後の扉が開くと、半球状の空間に緑の芝生、いばらの生えた薔薇、十cm程の小さな使い魔が沢山飛んでいる空間に出た。
───そして…中央に巨大な赤いソファーに座る
粘液とバラにまみれた頭
ワンピースにも皮膜にも見える胴体
毒々しいまでに巨大な蝶の翅
下部の無数の触手という醜怪な姿をしている魔女がいた。
「見なさい。あれが魔女よ」
魔女の醜悪さを見せ、アレが魔法少女の戦う相手
──そして、魔法少女になればアレと戦う宿命を背負う事になると…
そう、クロト達に恐怖を伝えるよう ほむらは魔女を指差した。
「うっ…グロい」
「……予想以上にでかいな」
「あんなのと…戦うんですか…」
初めて見る魔女にクロト達は先程の騒動も収まり、頬に冷や汗を流す。
「大丈夫、負けるもんですか!───下がってて…
暁美さん。黒崎君達をお願いね」
「言われなくとも」
ほむらの頼もしいその言葉に、
マミは笑顔で頷き、クロト達をほむらに任せると、魔女の所まで跳んで行った。
────しかし、マミを見送った後、
「ほむら。お前は行かなくてよかったのか?」
「そ、そうだよ。二人で魔女をやっつければ、もっと安全に…」
「今私が行けばいくら
それは私のあなた達を護るという目的から大きく外れるし、巴マミもそれは本意ではないでしょう」
何故マミと一緒に行かなかったのか聞いてくるクロト達に、ほむらは自分達を護る為に残ったのだと言う。
それを聞き、改めて脚を引っ張っていると実感したのか、気落ちしているクロト達だが、ほむらは…
「………なにより、あの程度の魔女相手に巴マミが負けるなんて───有り得ない」
それはマミの実力を高く評価し、『彼女は強い……だから心配しないで』とでも言うようだった。
───────
─────
───
クロト達の不安を他所に、
魔女の元へ降り立ったマミは、芝生の上を蠢く様に這っていた小型の使い魔を一匹踏み潰す。
配下が倒され、自分の薔薇園を荒らす
魔女が気付いた所で、マミはお嬢様のお辞儀のようにスカートの端を軽く摘まむと、スカートの中から二丁のマスケット銃が
魔女は
しかし、マミはヒラリと後方に宙返りして回避すると、両手に出していた二丁のマスケット銃をソファーの中央部に撃ち込み、真っ二つに撃ち砕く。……小さな銃弾とは思えない威力だ。
その破壊されたソファーに恐怖を感じたのか、魔女はマミから逃げる様に半球状の空間を、蝶の翅を使って壁を走る。
マミは追撃の為、被っているベレー帽を手に取ると、ベレー帽の中から無数のマスケット銃が地面に刺さるように出現し、ベレー帽を被り直すとマスケット銃を手に取って逃げ回る魔女に狙い、次々と発砲していく。
だが魔女の速度も中々速くてマミの銃弾は魔女に当たる事無く、壁にめり込む。
「あっ!?───ぅ…あっあ!!」
その時、撃つことに集中していた為か、マミは足元に小さな使い魔が列を成してマミに絡み付く様に集まると、その小さな使い魔達は合体し、黒い触手へと変化してマミに巻き付く。
触手はそのままマミを持ち上げると、大きくしならせる───壁に叩きつける気だ。
「くっ」
それを避ける為なのか、マミは持っていたマスケット銃を魔女の方に向けて発砲する
……が、銃弾は魔女へと当たる事無く地面にめり込む。
そして、マミはクロト達のいる近くの壁へと叩きつけられた。
「先輩!!」
「マミさん!!」
「あぁ……」
クロト達は壁に叩きつけられたマミを心配してマミを呼ぶが、本人はケロッとして『大丈夫』と言って、ダメージは無いと伝えた。───しかし…
『マミ!!前を見るんだ!!』
キュゥべえの声に、全員が魔女がいるであろう前方を見ると、地面から先程と同じ巨大なソファーを作り出し、助走をつけてソファーに体当たりしようとしている魔女がいた。
「───ッ!!」
──いけないっ!!私が今、アレを避けても魔女は今更軌道を変更しないから黒崎君達に当たるし、砕いても暁美さんが居るとはいえ、大きな破片が当たる可能性が…
魔女がクロト達の方にマミを叩きつけたのは、おそらくマミと同じ魔法少女のほむらの気配を感じ取ったからだろう。
自分の脅威になりうる魔法少女を一ヶ所に集めて、二人纏めて倒してしまえばいい……そう思ったからだ。
これがマミとほむらだけなら そんな心配は無いのだが、今は後ろにクロト達がいる。
──……あまり
「───仕方ないわね」
クロトの頭の上に乗るキュゥべえを、チラッと睨みつけると、
「私の傍を離れないで」
そう言って、護る様にクロト達の前に立ち、ほむらは両眼を瞑る。
「暁美さん危険よ!!アレを壊しても破片が黒崎君達に──」
「心配ないわ───
「えっ…消す?」
マミはほむらの言っている事の意味が分からず、キョトンとして頭に疑問符を浮かべている。
しかし、そうしている間に魔女はソファーに ズドォォ!!と大きな音を立てて体当たりし、高速でソファーが突っ込んで来た。
「うっ…うわぁああ!!きたぁーー!!!」
「キャアァッ!!」
それを見た さやかは慌て、まどかは悲鳴をあげた。
しかし ほむらは依然として、迫り来るソファーに対し眼を瞑っている。
ポンッ
「……?」
────ふと……ほむらは自分の肩を、誰かの温かい手が置いているのを感じた。
「クロト…」
「わりぃな…任せた」
──……全く……本当に、何で貴方は…
その言葉を聞いたほむらは、何で会って間もない自分を、
「……
誰にも聞こえない声でそう呟くと、
ほむらの右眼が、六望星に
────────────
ズズズズズズズズズ
「!?空間が…」
ほむらの右眼が開かれてからの変化は、マミが驚愕するほど劇的だった。
迫り来るソファーはその中心部を基点として、渦を巻く様に空間を歪ませて縮小していく。
『魔力を感知出来ない!!?
────……まさか魔法も無しで空間ごと削り取っているのか!?』
「え?魔法じゃないのコレ?」
「凄い……」
「───っ──」
──これは“神威”!?…それに、あの瞳の模様…まさか、ほむらは…
キュゥべえとさやかは、この空間が歪む現象に驚き、
まどかは、ほむらの後ろ姿を憧れの視線で見詰め、
クロトはそんな中“神威”を見て、夢の中の写輪眼の知識を思い出していた。
そして、各々が思想している間に“神威”によって、空間ごと引き摺り込まれた巨大ソファーは、大きな円を描いてクロト達に当たること無く、二つに割れて壁に突き刺さった。
『───なんて攻撃だ。
空間ごと削り取るとは……これでは防御の意味を成さない…』
「て、転校生スゲェー」
「暁美さん。これは一体…」
「何をしているの。巴マミ」
「え?」
「私は約束通りクロト達を護ったわ。
詮索は後、貴女は貴女の仕事を早く終わらせなさい」
「──ッ…分かってる」
シュルルルル
正体不明な術を見て混乱しているマミを、ほむらは正気に戻させ、
マミはリボンをロープにして、再び魔女へと向かって行った。
──それを見届けてフゥとため息を溢すほむらに、クロトは声を掛けた。
「ほむら」
「……言いたい事は分かってる…でも、何時か『別にいい』話…す───クロト?」
背を向けていたほむらは、後ろを振り向き、クロトを見る。
「俺はお前がどうやって“ソレ”を手に入れたか……なんて聞かねぇーよ。
俺はお前と出会った期間は短いが、お前がそんな事を自分から進んでする様な奴じゃないって事ぐらいは分かってるつもりだ。
……何か事情があったんだろ?だから───別に言わなくていい」
「………ううん。やっぱり、何時か話すことになると、思う……。
何時になるか分からないけど……待ってて…」
「…そっか」
「うん…」
同じ瞳を持つ
本人同士だけに分かる会話の呼吸。
そんな二人の会話に、まどかとさやかは訳が分からず疑問符を浮かべていたが、
二人の間に広がる雰囲気に、深く暗いものが感じられ、聞くのを止めた。
───そして、マミが魔女の元へ辿り着き、
「同僚と後輩に、あんまり格好悪いところ見せられないものね」
自分の攻撃が通じなくて、マミから逃げようとする魔女を、先程外して地面にめり込んだ銃弾が蔓が成長する様に、シュルシュルと伸びてきて、魔女を地面に固定して拘束する。
「惜しかったわね」
マミは首元のリボンに手を掛けると、リボンは4m程もある巨大なマスケット銃へと変化した。
「ティロ・フィ『あっあれ、ティロ・フィナーレだ!!』……フィ…フィ…」
……これから発射!…という時に、マミより先に必殺技の名前を大声で言ってしまう声が──
「まどか。お前なんで先輩の必殺技知って…ん?なんだそのノート」
「コレ?コレ昨日、マミさんの家に行った時に二階で見付けた『必殺技ノート』だよ♪
魔法少女の参考書になるかと思って拝借しておいたの♪」
「あんた抜け目ないわね~。
えーと、何々…『無限の魔弾』…うわぁ~スッゴい中二病臭がプンプンするネーミング」ドズッ
「ティロ・ボレー、ティロ・ドッピエッタ、ティーロ、ティロ・フィナーレ
……なんでもかんでもティロって付ければいいと思っているのかしら?ティロってるの?」ザシュッ
「他にもティロって付けてるのあったよ。確か、この辺に、あった!……
『この必殺技は、現在の私では再現出来ない…いつか私の最終兵器になる技。
その名も“ティロ・フィナーレ・インフィニータ・マキナ”!!』」
「……ないわ~」「ないわね」「ないね~」ズドシュッ
「ぐふっ」
まどか達の言葉の棘がどんどんマミの脆い心に突き刺さり、トドメにボウガンで撃ち抜かれた。
……心なしか、拘束されている魔女から同情の視線が感じられる様な……
「やめたげて!?先輩ナイーブな子だから!!
豆腐メンタルの硝子ハートなんだよ!!」
「……ぅ…ぅぅ……」
「あっマミさんの目尻に涙が…」
「いたよ!小学校のクラスであんな泣き方する奴」
そんな言葉の嵐に、マミは涙を流してヤケクソ気味に…
「ティロ・フィナーレティロ・フィナーレティロ・フィナーレティロ・フィナーレティロ・フィナーレティロ・フィナーレティロ・フィナーレティロティロティロティロ────」
ズガァン!ズガァン!ズガァン!ズガァン!ズガァン!ズガァン!ズガァン!ズガガガガ──
───その日、一体の魔女が、マミの
元の現実へと帰還したクロト達は ほむらからグリーフシードを見せて貰い、膝を抱えているマミから勝手にソウルジェムを持ってくると、グリーフシードを自分とマミのソウルジェムで綺麗にして、
この日の魔女退治ツアーは終了したのであった。
その日のまどかの日記より一部抜粋
〇月〆日
──叶えたい願いごととか、私には難しすぎて、すぐには決められないけれど
でも、人助けのためにがんばるマミさんと、私達を助けてくれたほむらちゃんの後ろ姿は、とても素敵で…
私もあんな風に戦えて、魔法で誰かを助けられたら、
それは『とっても嬉しいな』って、思ってしまうのでした 。
追記
クロ君とほむらちゃんは格好良かったけど、
やっぱり私は、さやかちゃんみたいな、パイ投げ芸にn──っん…と、
マミさんみたいな、魔法少女(笑)にはなりたくないかな?
ゴールデンウィーク中は旅行に出掛けるので、次話の投函は少し遅くなるかもしれません。
ご了承ください。