~ ???~
「今度はなに!?これ以上問題はお腹一杯で解決出来そうにないんだけど、どうするの!!?」
まどかは腕の中で気絶していてもなお、暴れる生き物を押さえ付けながら
俺にそう言っているが…俺にはもう、どうにも出来ない気がする。
───だって、その証拠に…
「……道が消えた?───いや…」
─────道どころか別の空間に連れてこられたんだから……その時点でアウトだろ。
どんどん周りの風景が代って逃げ場を無くし、綿の様な頭部の蠢く何かが、ハサミを持ち何処からともなく次々と湧き出してくるのを見て、俺はそう思うのだった。
「冗談でしょ…私、悪い夢見てるんだよね。そうなんでしょ!?」
「悪いが現実だ」ガァン
「あいったぁ!!」
悪夢だと言って現実逃避するさやかを、俺は持っていた鉄パイプで叩いて現実に戻した。
……手持ちの武器は…この鉄パイプ一本か……死んだかなぁ
「…まっ…いっか───二人共、俺の後ろにいろ…」
覚悟の決まった俺は二人の前に立って、殺気を放ち段々とグロくなってきた化け物に立ち向かう。
やけくそかもしれないが、どうせ死ぬなら誰かを護って死んだ方がいい。
「クロト、あんた…」
「クロ君危ないよ逃げて!!」
「もう遅ェ来るぞ!!」
俺の声が引き金になったのか、化け物は一斉に飛び掛かってきた……ちょっと捌ききれそうに無い。
まどか達は恐怖で眼を瞑り、俺はこれから来るであろう痛みに備える。
───あれ?
来るかと思っていた化け物は、ジャンプして空中で静止していて動く気配は無い───いや敵だけじゃない、俺もまどか達も空気でさえ止まっているみたいだ。
その中で、俺の意識だけが静かになったこの空間で取り残されている様な……コレが走馬灯というモノなのか?でも、噂に聞いていた自分の人生なんて浮かんでこない。
そんな、
───よう…元気にしてるかよ…
……何処かで聞いた様な声だ…
…お前…誰だ…?
口も…手も…眼さえも動かない俺には、そう自分の頭の中で見えない相手に話し掛けるしかなかった…。
そんな俺に、声の主はお構い無くこう言った。
───もうすぐ、アイツが来る。
───それまで…持ち堪えろよ。
無茶言うなよ。こんな化け物にどうやって…
───なぁに、お前のその眼があれば余裕だろ?なにせ……
───そ…つは救……の瞳…んだ…ら……。
……その言葉を最後に謎の声は聴こえなくなって、静寂に音が戻ってきた。
───シュィン───
「────はっ!?」
俺に自分の肉体の意思が戻ってきた時には、既に化け物が目の前まで迫っていた──だが、何故だろう…。さっきまで迫り来る痛みに恐れていたのに───今は目の前の化け物をどうやったら倒せるか…それが頭に思い浮かんで来る…。
……眼が熱い…
俺は、防御する為に構えていた鉄パイプを自然と逆手に持ち変えて、空中にいる化け物達を横凪ぎで打ち払い、一ヶ所に集まった化け物に跳び蹴りを喰らわせ、化け物は蝶になって消えた。
「───え…」
「クロ…君?」
「…………」
まどか達が何かを言っている様だが精神が高揚している今の俺の耳に、その声は届かなかった。
それに、戦いはまだ終わっていない。
尚も増え続ける化け物に、俺は鉄パイプ一本で突っ込んで行った。
クロトが鉄パイプを持ち、振り上げて袈裟斬り、横一文字、兜割り、突き等を放ち、襲い掛かってきた異形の怪物を次々と殴って蝶に帰す。
喩え、異形がハサミで攻撃出来たとしても、クロトは身体を攻撃の軌道に沿わす様に回ってヒュルリと余裕で避け、カウンターで頭を蹴り飛ばしている。
「す、凄い…!」
「クロ君あんなに強かったんだ───あれ?眼が…紅い?」
そんな惚れ惚れするような戦いに、まどか達は眼を奪われ感心していた。
『…あの鹿目まどかを遥かに上回る凄まじい素質と契約もしていないのにあの戦いの才能…やはり、僕の目に狂いはなかった…しかし、何故男の彼が…───それにあの眼は一体…』
そこに、さやかのミネラルウォーターでローションを洗い流された謎の生き物が気絶から目を醒まし、クロトの戦いを見てブツブツと一人言を喋っている。
「あ、起きたんだ…つーか、結局何なのコイツ?今さらだけど喋ってるし」
「さぁ?私とクロ君は、この子に呼ばれたんだけど…」
『僕の事は後にして!それより彼が…』
「え?」
「っ!クロ君!!」
二人が謎の生き物に言われてクロトの方を見ると、異形の怪物の攻撃を鉄パイプで受けて防御したはいいが、その衝撃を吸収しきれなかったクロトは吹き飛ばされて、まどか達の方に飛んできた。
飛んできたクロトは空中で一回転して着地するが、手に持っていた鉄パイプを見てチッと舌打ちをする。
「やべぇな……」
鉄パイプは戦闘の衝撃には耐えきれず、真ん中でグニャリと折れ曲がっていた。
頼りだった武器は破壊され、もう武器になるような物は無い。
絶体絶命のピンチに肩をガックリさせていると、そんなクロトを心配したまどか達が寄ってきた。
「クロ君、大丈夫?」
「あんた眼が…」
「眼?」
自分で眼が見られないクロトに、さやかはカバンの中から手鏡を取り出してクロトに渡す。
クロトが手鏡を覗き込むと、そこには───
「……写輪眼…そうか、だから俺は…」
クロトが夢で見た三つ巴の巴紋が刻まれた紅い瞳───写輪眼だった。
自分の瞳の変化にクロトは何かを理解していると、まどかが周りを見回して怯えている。
「そんな事より、どうしよう……近付いて来る…」
原因は怪物がにじり寄る様に近寄って来ているからだ。
「くそッ…どうすれば」
『契約を…!』
まどかの腕の中でそう叫ぶ生き物に、え?という全員の視線が集まる。
『僕の名前はキュゥべえ。訳あって魔法少女の契約をしているんだ』
「契約?」
まどかが二人の聞きたい事を代弁して
謎の生き物───キュゥべえに契約とは何かを聞いた。
『今は時間が無いから説明を省くけど黒崎玄人、鹿目まどか、美樹さやか、君達の中の誰でもいい。
どんな願いでも一つだけ叶えてあげる。だから───』
キュゥべえは傷を負い、弱った声でこう言った。
『僕と契約して、魔法少女になってよ』
「…………いや俺、男なんだけど…」
「クロ君!!今はそんな事言ってる場合じゃないでしょ!」
「そう言ったって…」
女の子のまどかにとっては重要じゃないかもしれないが、男のクロトに魔法少女なんて称号は死活問題だ。
「ねぇキュゥべえ…願い事叶えて貰って契約すればアイツら倒せるの?」
『勿論。元々、魔法少女とは奴ら───魔女と、あそこにいる使い魔を刈る存在なんだから』
「魔女、使い魔……何処かで聞いたような」
まどかは何かを思い出そうとしているが使い魔はもう、すぐそこまで来ている。
考えさせている時間の無くなったキュゥべえは、クロト達に決断を迫る。
『さぁ早く契約を!!』
そんな命の危機に、この中で一番戦えると判断したクロトは……。
……俺は覚悟を決めた。
「…仕方ねぇ俺が──」
「いえ、その必要はないわ」
ズッダダダダダダ───
「「「『え?』」」」
それは突然だった。
俺が何らかのリスクがあろうと、まどか達を護る為このキュゥべえと契約する覚悟を決めた時、聞き覚えのある声が上から聞こえて来て、俺達に近付いて来ていた使い魔が銃声の音と共に蝶になって消えていった。
一先ず、俺達が命の危機から脱すると声の主は俺達の前に着地し、俺達を護るようにアサルトマシンガンを構えている。
「ハァ…危なかったわ。でも……間に合って良かった。怪我は無い?あなた達」
「「「ほむら(ちゃん)!!」」」
そこには俺達と別れる前の見滝中の指定制服ではなく、紫と白を基調とした何処かの女子中学生の制服の様な格好で───俺と一緒の瞳……写輪眼を紅く光らせた俺達の友達。暁美ほむらだった。
『……君は一体…』
「見て分からない?───魔法少女よ」
「ほむらちゃんが!?」
「それにお前、その眼は…」
「話は後にして───来る…!」
ほむらの言葉通り、どこから湧いて来るのか再び大量の使い魔が出てきやがった。
俺はまどか達に使い魔が来ないように、徒手空拳で使い魔を迎え撃つ為にグッと拳を構えたんだが、ほむらは俺に大丈夫と言って左腕に装備されている小盾に手を伸ばして、中から忍者が使う一本の……クナイ?…なーんか見たことあるような……まぁいっか。
そのクナイが一瞬紫色に光ったかと思うと、ほむらはクナイを俺達の手前の床に突き刺す。
すると俺達の周囲にクナイを中心とした紫色の光の壁が出来る。
どうやら、ほむらがいない間に俺達が使い魔に襲われないように防壁を造ってくれたみたいだ。
「取り敢えず一仕事してくるから、その結界から出ては駄目」
そう言うとほむらはいつの間にか両手にサブマシンガンを持ち、使い魔に向って走りながらサブマシンガンを掃射して使い魔を次々と葬っていく。
その銃弾の雨の中を突き進んで来る使い魔もいたりするが、そんな使い魔には結界を張っているのと同じクナイを盾から取り出し、流れるような動きで避け、すり抜けざまに使い魔を斬り裂いて使い魔の群れを突破していく。
そして突破すると、使い魔の群れの上に十個以上の手榴弾が現れ、使い魔の群れはあっという間に全滅した。
…でも、いつの間にあんなに手榴弾を投げたんだ?俺には手榴弾がパッと現れたように見えたんだが…。
「ふあぁ。ほむらちゃん凄い」
「つーかアレの何処が魔法少女なの?銃器使う魔法少女なんて聞いた事ないんだけど…」
「まぁいいじゃねーか。助かったんだし、…それより終わったみたいだぞ」
俺達が話している間に、あれだけいた使い魔は最後の一体となっていて、その一体もほむらに踏みつけられてクナイでトドメを刺された。
使い魔が全滅したかと思うと訳の分からなかった空間が歪み、元の改装中の店舗に戻ってきた。
俺達は命の危機から脱出した事に喜んでいたが、ほむらの顔は険しいままだ。
「───逃がした…」
そう言うとほむらはハァとため息を吐いて、山の様に積まれている鉄骨の山に顔を向けて呼び掛ける。
「そこに居るのね。…出てきなさいアオダ」
『……ほむら様』
ひょこっと鉄骨の上から頭だけ出てきたのは、さっきまでキュゥべえを襲っていたアオダと呼ばれている大蛇だった。
……なんだか申し訳なさそうに見えるのは気のせいか?
「あ、あんたその蛇の仲間なの!?」
ほむらを様付けで呼んでいるから、さやかはほむらがキュゥべえを襲う仲間なんじゃないかと思っているみたいだが、ほむらはそれに答える事無く、人差し指を口に持ってきてシーっと静かにしろと合図を出してきた。
「全く…このデパートでキュゥべえを警戒していたら、急に貴方の気配がしたんだから驚いたわ。居場所までは分からなくて、随分探していたから時間が掛かったけど…」
……そっか、ほむらが急に帰ったのはその為か…
『すいません…
「……気持ちは分からなくもないけど、軽率よ!コイツらは狡猾なんだから、どんな手を使ってくるか分からないし、その行動は私達の間に不和を呼ぶ───気を付けて…」
『はい…』
「ハァ…もういいわ。貴方は逃げた魔女をお願い」
『!?しかし、それでは
「心配無い。私がいるんだもの…二人を契約なんてさせやしない……させるものですか…」
『ほむら様……分かりました。この場はお任せします。では、私はこれで』
「ええ、よろしくね」
大蛇は頷くと、頭を引っ込めてスルスルという地面を擦る音がして気配が消えた。
多分ほむらに言われた事をしに行ったんだろう。
そして大蛇が行ったことを見届けたほむらは、
俺達の前に立って、結界を張っていた足元のクナイを拾うと、盾の中にしまった。
「危なかったわね。クロト、まどか………ついでに美樹さやか」
「私はついでかよ!!」
「ええ、食玩が入っている箱と同じくらい、ついでよ」
「お菓子ですらないの!!?」
…今日思ってたけど、さやかの扱いが上手いな。何処かで会ってたのかコイツら?
そう思っていたら、キュゥべえが傷だらけ…と、火傷だらけの痛む身体を起こして、ほむらに話し掛けた。
『……君は何者だい?君の様な魔法少女は僕は知らないし、良かったら教えて欲しいんだが…』
「嫌よ!お前に話す事なんて何もない。消えなさい」
キュゥべえが話し掛けた途端、ほむらの態度が露骨に替わり、目付きもキッとキツくなって嫌な物を見るみたいにキュゥべえを拒絶した。
「ほむらちゃん、キュゥべえは怪我してるんだよ!?そんな…」
「ソイツはその程度じゃ死にはしない…そうでしょ?」
『……確かに死にはしないけど、痛みは凄まじいんだ。なんとかして欲しいんだけど…』
否定しないという事は、どうやらキュゥべえは俺達が思っているより丈夫な生き物らしい。…でも、やっぱり
さやかが塗ったローションがまだ残っていたのか……ペットボトルの水じゃ限界があるよな。
「……そんなに怪我を治したいなら、そこの柱でずーーーっとスタンバっていた巴マミに治して貰えばいいじゃない」
「「「『へ?』」」」
ほむらが、あの学校で有名な先輩の名前を挙げて、俺達の後ろの柱を指差している。
…言われて気付いた…なんか背筋がゾクゾクと寒くなるような視線を感じる。
それはまどか達も同じみたいで、カタカタと震えている。
しかし、見ない訳にもいかない。
俺達が、恐る恐る後ろを振り返ると……そこには…
────膝を抱えて座り込み…
────クルクルした金髪ロールの…
────何も映らない虚ろな眼で親指の爪をカリカリカリカリ……と噛み続ける…
────ほむらとは違う黄色と白を基調とした魔法衣を纏い…
────いかにも準備万端といった感じで出番を今か今かと待ち続けるメチャクチャ怖い先輩がいた。
「……あはぁ♪私の出番?」
「「「ぎゃあああああああああああああ!!!?!?」」」
ニタァと笑う先輩に……俺達は思わず絶叫してしまうのだった。
皆様は、あの劇場版を買う準備は出来ているでしょうか?
自分は出来ています。