夢の中で見た君は…
時は待たない。
全てを等しく、終わりへと運んでゆく。
幾度となく、繰り返し、時を止め、巻き戻そうとも。
何時か必ず終わりはやって来る。
紅き瞳を持つ者達よ。
己の運命を決めるのは、己自身なり。
────全ての終焉……その時は近い……。
~???~
白黒の階段、白黒の模様、白黒の壁、白黒チェックの廊下…まるで色を無くしたような空間で、息を切らしながらその場所を突き抜ける二人の人影があった。
「はっはっはっはっ…ッ」
「おい急げ!間に合わなくなるぞっ!」
「わっ分かってるよ!待って!!」
少年は瞳を紅く輝かせ、迷宮の様な空間を何の迷いもなく一緒にいる少女の手を引き、走り抜けて行く。
────そして、緑の非常口の看板の扉の前で脚を止め、息を整えて扉に付いているバルブを二人は協力して回し、ガゴンッと重々しい音を響かせて扉は開かれた。
「うっ!?……これは」
「ひどい…街が」
何時も見馴れている近代的な美しい街並みは
天変地異が起きたようにビルが舞い、地面は剥がれている
───最早、見る影もない。
そして……街を破壊した元凶は二人から遥か
そんな街を見て少年はどうしていいか分からず歯噛みしていたが
直ぐに気を取り直し、周囲をキョロキョロと誰かを探す様に見回している。
「アイツは…アイツは何処だ…」
「───あそこだよ」
先に見付けた少女の指差す方向に───彼女はいた。
大きなビルに巻き付く龍の
彼女は腕を振り上げ蛇に指示を出すと、蛇は浮かんでいるビルに跳び移って行き、元凶に向かって突進する。しかし元凶もただ笑って見ている訳ではない。
自分の近くにある浮かんでいるビルを、迫り来る蛇と彼女にビル飛ばして押し潰そうとする。
だが蛇はそのビルをヒョイっと避け、その上をスルスルと移動していく。
その避けた一瞬────ホッとした蛇は気を抜いてしまった。
普段なら蛇のピット器官で避けられたビルの内部から噴き出した炎に、彼女の乗っている蛇の頭部は火に包まれた。
「あぁ!?…そんな」
どう見ても助からない状況に、少女は口に手を当て絶望した様な声を上げた。
───だが、少年は違うようだ。
「いや…よく見てみろ」
「え?」
少女は少年の言う通り炎の出ている場所を見ると、蛇は既に消えており、炎はまるで意思を持つように形を変え、複数の炎の鷹になって周囲にいた人影の敵に襲い掛かる。
粗方片付くと、炎に包まれていたハズの彼女は無傷で燃え盛る炎の中から飛び出し、紫色の上半身だけの巨人を身に纏い再び元凶に向かって跳んでいく。
「よ、よかったぁ」
それを見た少女はホッと胸を撫で下ろした。
────そこに…
『相変わらず不思議な力だね。普通あんなの喰らったら骨も残らないのに』
いつの間にか白い犬と兎を足して二で割った様な不思議な生物が居て、二人と一緒に彼女を見てそう言う。
「……勝てるよね?」
『無理じゃないかなぁ…。見てごらん』
その生物は長い耳の様な物で彼女の方を指した。
そこにはビルを斬り裂いた直後に、360度全方位から彼女一点目掛けての逃げ場を消した大量のビル攻撃を受けた彼女の姿だった。
彼女はビルの隙間から出てきた……が、既に気を喪っており、自分達のいる巨木の枝にドサッと落ちた。
「そんな!?」
「ッ…クソッ!」
『仕方ないさ…彼女一人では荷が重すぎた。初めから分かっていた事だ…彼女も覚悟の上だろう』
「何とかならねぇのか…」
「そうだよ!こんなのあんまりだよ…!」
目の前の救いようが無い現実に、少年は一緒に戦えない事を悔しく思い、少女は何か手は無いかと不思議な生物に答えを求めた。
『……一つだけ方法はある』
その言葉に二人はハッと顔を上げ、その生物を見た。
『避けようの無い滅びも…嘆きも、全てを君達が覆せばいい』
この状況でそれは……二人にとって救いの手に見えたのだろう…
だからこの怪しい生物の言葉に耳を傾けた。
だから巨木の枝から落ちる彼女の言葉が聞こえなかった。
『その為の力が君達には備わっているのだから…』
「……大丈夫なんだな…」
『勿論さ────だから』
───プチッ…ザァ…ザァァァァーーー───
「僕と契y…契yyy……──」
………
……
白い生物が何か言い掛けると、周りの景色全てがテレビの砂嵐の様に歪み、最後には全てが暗黒の暗闇で覆われてしまった。
───────その空間で……何処からともなく……声が聴こえる。
──おい…お前は何時までこんな夢に居る気だ…いい加減眼を覚ませ!!
……夢?
──お前にはお前の
…為すべき…事…何だっけ…
──チッ…さっさとしろ!俺達を何時までも待たせんじゃねぇーよ!!───この
──ウスラトンカチがっ!!
………
……
~AM7:00~
「───はっ……夢?」
……俺が眼を醒ますと、そこは何時も見馴れている自分の部屋だった…。
今日は、何時もと違う…おかしな夢のせいで変に眼が冴えてしまい、早めに起きてしまった様だが…。
「……為すべき事……ねぇ」
しかし不思議なものだ。
夢は何時も観るが、今日のは何だか嫌に頭に残る───特に
「あの黒髪の綺麗な子…誰だ?……何故俺はアイツを知っている気がする…?」
それに戦っていたあの子の瞳は…
「──ッ…何だよ、コレ…眼が…」
あの眼を思い出した瞬間、俺の眼は疼きだす。
この時、俺の部屋に鏡があれば自分の変化にも気付けただろう
───夢の中の自分と同じ瞳になっている事に…
……疼きも治まってきた俺はベッドから降りてカーテンを開き、朝の太陽を浴びる。
「………そろそろ行くか…」
~AM7:30~
少年──黒崎玄人。クロトは起床後、お世話になっている隣人の鹿目家へ朝食を頂く為に赴き、鹿目家一家と一緒に楽しく会話をしながら朝食を取っていた。
「───それでですね、事ある
「だよねぇ……流石の私もイラっとしたよ」
クロトの言葉を肯定する少女は鹿目まどか。
クロトとは幼馴染みで、数年付き合っていた経験もある。今は別れているが別に仲が悪い訳でもなく、今でも家族ぐるみの付き合いのある何処にでもいる普通の少女だ。
そして、それを聞いて顔をしかめる女性──鹿目詢子は勿論まどかの母親だ。
「うわぁ~~ウザッ!!和子の奴…ガキ相手に何してんのよ…」
会話の内容はクロト達の担任。早乙女和子は交際三ヶ月の彼氏との交際の継続が記録更新した事に浮かれて、恋愛関係のあったクロト達をからかっていると詢子にそう愚痴を溢す。
「だから俺達、先生が彼氏と別れたら弄って遊んでやろうかと、まどかと一緒に考えてるんですよ」
「アハハ♪そりゃいいねぇ───アタシの娘をからかった罰だ…あんた等しっかりやるんだよ!」
「ウェヒヒ♪……当たり前だよ」
「ハハハ♪……倍返ししてやりますよ」
「「「クックックックッ」」」
……食卓で黒い笑みを浮かべる三人を見て楽しそうだと思っている鹿目家の幼い癒し系タツヤと、苦笑いしているまどかの父、知久だった。
「……三人共、笑っているところ悪いんだけど、そろそろ仕事と学校じゃないのかい?」
「「「え?…あっホントだ!!」」」
三人が時計を見ると既に七時四十五分を越えており、何時もなら食べ終えて出発している時間帯だ。
三人は残りの朝食を掻き込む様に食べ終えると、詢子は玄関まで見送りに来た知久とタツヤにキスをして、外にいたクロトとまどかにパンッとハイタッチをする。
「おっしッ!じゃあ行ってきまーす♪」
「「行ってきまーす」」
「行ってらっしゃい」
「まーま、くろー、まどかぁー行ってらっさぁい♪」
そしてクロトとまどかは気持ちのいい青空の下、並んで歩き何時もの場所に向かった。
………
……
「あんた達おそーい!!」
俺達が何時もの待ち合わせ場所に着くと、二人の蒼髪と緑髪の女の子───俺達の親友の美樹さやかと志筑仁美が俺達を待って立っているのが見えた。
「ゴメンね。さやかちゃん」
「悪いな、少し遅れた」
「いいえ、大丈夫ですわ。おはようございます。まどかさん、クロト君」
「おはよう仁美ちゃん」「おはよう仁美」
「はい♪」
そうして俺達は何時もの通学路をまどか達は、はしゃいで笑いながら歩いている。
俺はそんな三人を見守る様に少し後ろを歩いて行く。
「それでねぇ。ラブレターじゃなくて直に告白出来るようにならなきゃやっぱりダメなんだよ」
「ヘェ~やっぱり直にクロトに告白したまどかちゃんは言う事が違いますなぁ♪」
「も、もう!やめてよさやかちゃん」
さやかの言葉に顔を真っ赤にするまどか……優柔不断のお前には言われたくねぇんだよ
「…そういう風にキッパリ割りきれたらいいんだけど…ハァ」
ため息を吐いて少し落ち込んでいる仁美だがどうにも様子がおかしい…
「どうしたんだ仁美さっきから歩くのが遅いが……まるでこの先に行きたくないみたいだな…」
「……分かっちゃいました?───実は…」
仁美は鞄から一通の手紙ラブレターを取り出し、広げて俺に見せた。
そして見ていた俺の横から、まどかとさやかも覗き込んできて一緒に手紙を読む。
拝啓 志筑仁美様
僕は貴女が入学した当初から貴女を見てきましたが、最近はその美しさも
さらに磨きがかかり、年上の僕の目から見ても眩しささえ感じます。
その美しさは…たとえるなら───それは一輪の百合
そこまで読んで、さやかから感心した声が上がる。
「おお!なかなか詩人だねぇ」
「そうだよねぇ。それに年上っていう事は三年生の先輩なのかな?」
「だろうな…それで?何が問題なんだ?別に変な人には思えないが…」
「………最後の一文を…読んでください」
そして、俺達は再度手紙に眼を向け、色々書いてある文章を飛ばし一番下を見てみる。
─────そんな僕が貴女に想う事は…だだ…ただ一つ
ムラムラします
「え゛え゛え゛ええええ!?」
「なんでだアアアアアアアア!!?」
「イヤァァァァ!!気持ち悪いィィィィィ!!ムラムラする事されるぅ!!」
仁美はそんな俺達の反応を見て
「だから行きたくなかったんです」と言って頬に手を当て、ハァっとため息を吐いた。
「てか、お前よくそんな手紙捨てなかったな!?」
「そうだよ仁美!破ってそこの川に捨てなよ」
「無駄です。このような内容のラブレターなんて良く届きますから」
「学校の男の子どれだけ仁美ちゃんにムラムラしてるの!?」
「一応言っておくが俺は違うからな!」
何で友達にムラムラせにゃならんのだ。
そう思っていた俺だが、さやかがもっと重大な事に気付いた。
「ちょっと待って……コレ返事ちょうど今頃じゃない!!おまけに場所はこの通学路を抜けた先の公園なんだけど!?」
「気が早すぎない!?朝からムラムラしてるの?」
「公園……なるほどな。告白OK貰ったら、茂みに仁美を連れ込んでムラムラを発散させる訳だな」
「やめてください!!最初からどれだけハードなんですか!?」
自分の貞操の危機に仁美は涙目だ。
「……逆にこんな手紙を書く奴見てみたいわね…よし仁美!植え込みに隠れてソイツ見に行くわよ!」
「なら、俺は仁美の護衛として着いていくか」
「私も私もーー♪」
「みなさん…
そういう事で皆で行くことになった。
………
……
「「「……………」」」
「………ゴリラじゃね?」
最初の第一声に、何を言っているんだと思うかもしれんが、俺の言っている事は間違いじゃ無い気がする…だって仁美の待ち合わせ場所にいる先輩は、筋肉隆々なのか制服はパッツンパッツンで、顔は中学生なのに触れるだけで痛そうな髭を顔中に生やした、やたら彫りの深い……ゴリラ顔だ
仁美とこの人を横に並べたら美女と野獣の物語が出来そうだ。
「……さて…見る物も見たし…学校行くわよ。まどか、クロト」
「うん」
「そうだな」
「待ってください!!私を一人にしないで!!」
逃げようとするさやかの脚を掴み、珍しく必死な顔でみんなを引き留める仁美
うん…気持ちは分かるよ…
「は、離しなさいよ仁美!!あんなの詐欺じゃない!何処が『僕』よ!?明らかに『ウホッ』じゃない!
オレオレ詐欺ならぬボクボク詐欺じゃない!!そして理解したわ。
あれじゃムラムラしても仕方ないわよ!だってゴリラだもの」
「きっと野生の本能で手紙書いちゃったんだね」
「そんな方の前で私が無事でいられると思っているのですか!?姿を現した瞬間に襲われますわ!!」
「……お前ら容赦ないな…」
まだ話すらしてないのに、この評価はあまりにも酷すぎる。
だから俺は同じ男として、一応フォローをしておく事にした。
「意外と大丈夫かもしれんぞ?ほら、良く言うだろ?毛深い者ほど情が深いと…」
「深すぎるんですけどォ!?まだ中学生なのに指の先とか耳まで剛毛じゃないですか!!」
……ダメだった
「でもどうするの?仁美ちゃんを置いて行けないし、この公園を通らないと学校に遅刻しちゃうよ」
「……方法は二つある。一つは仁美があの先輩の告白を受けて一緒に登校する」
「やめてください!!」
「…だよなぁ…じゃあもう一つの方法で行くか」
「「「もう一つの方法?」」」
「ああ、それは───」
俺は仁美にあるものを渡し、作戦を言い渡す。
────そして作戦は決行された。
仁美はゴリラ顔の先輩───
ムラムラしてる少々危ない先輩だが仁美は勇気を出して茂みから飛び出し、ゴリラ先輩に近付いていく。
「仁美ちゃん…上手くいくかな?」
「さぁな。コレばっかりはアイツ次第だからな…」
「というかクロト、さっき仁美に何渡したの?」
「ん?いや…なんかその辺に落ちてたのを適当に渡しただけだから俺も知らん」
「ええ!?それ大丈夫なのクロ君!?」
「心配すんな。茂みに連れ込まれそうになったら、俺が仁美を担いで逃げる」
「……大丈夫…かなぁ」
まどかは心配しているが、もうどうしようも無いだろ。
そんな事を話している内に、仁美は猿飛先輩の所まで無事辿り着けた様で顔は赤くなって見た目発情期みたいだが、今のところ襲い掛かる気配は無い……意外と草食系のようだ。
「いや…あの顔で草食系って…どうなの?」
さやか言ってやるな…絶対本人も気にしてるから。
……そして俺達が見守る中、先輩は鼻息を荒くして仁美からの返事を待っている。
そんな先輩に対する仁美の返答はこうだ。
ズパァァンッ
『ゴファッ///』
「「「…………」」」
……先輩の頬を良い音を響かせた物の正体は────鞭だった。
仁美は手に持つ革製の黒光りする鞭を振り上げると……良い笑顔で倒れた先輩を鞭で何度も叩いている。
「クロト!!あんたなんつー物を仁美に渡してんのよ!?」
「知らねぇーよ!!その辺に落ちてたんだからしょーがねぇだろ」
「なんでそんな物が公園の植え込みの所に落ちてるの!?」
「あーー…それは多分──」
「やっぱりいい!聞きたくない!!」
そうだよな。話したらまどかに大人の世界の嫌な部分を聞かせることになる。
そしたら俺…詢子さんに殺されるわ…
「それよりどーすんのよ!仁美なんか知らないけど凄く楽しそうよ!?」
「ヤバイな。あの天然お嬢様…Sのスイッチが入ったみたいだ」
「叩かれてる先輩も顔赤くしてるよ…Mのスイッチが入ったみたい」
なんでこうなった…俺はただ『先輩を倒して来い』って言っただけなのに…
「……仁美お楽しみみたいだから学校…行こっか?」
「うん早く行こうよ、これ以上あんな仁美ちゃん……見たくない」
「おう───それにコレで先輩のムラムラも解消されるし、結果オーライだったな」
「んな訳あるかァ!!」「そんな訳無いでしょ!!」
怒られてしまった。
───そして俺達は、楽しそうに先輩を鞭打ちしている仁美と、気持ち良さそうに打たれている先輩に見付からない様に通り過ぎると、茶番に付き合って遅くなった時間を取り戻す為、走って学校を目指すのだった
~クロト達の教室~
「皆さん!!何で私を置いて先に行ったのですかァ!?あの後、通報されそうになって危なかったんですよ!?」
ホームルームが始まる少し前、息を切らしながら教室にやって来た仁美は先に到着し、談話していたクロトの肩を掴みガクガクと揺すった。
目尻に涙が溜まっていることから本当に危なかったらしい。
そして散々叩いていた先輩の告白は結局断ったが、先輩は恍惚笑みを浮かべて正気に戻った仁美に鞭を持たせて「もっと…もっとォォォォ!!」と余計ムラムラしてしまったらしい。
おまけにそれを見た通行人は、そんな二人を見てゴリラを虐待する女の子がいると勘違いしたらしく、警察を呼ぼうとしていた。
流石にヤバイと思った仁美は、先輩を蹴り倒して逃げてきたと言っている。
「いやぁ…でも仁美楽しそうだったじゃん」
「えっ…だってあれは…クロト君が…」
そう言っている仁美の眼はキョロキョロとして、三人の眼と合わせようとはしない。
「おれは『倒せ』とは言ったが『なぶれ』とは言ってないぞ」
「そっそれはですね──」
仁美は何とか良い言い訳が無いかと頭を悩ませているが、次のまどかの言葉で崩れ落ちた。
「サディスティック星の女王様だね♪仁美ちゃん」
「まどかさん!?」
まどかの一言がショックだったのか仁美はガーンとした顔になって真っ白な灰になる。
しかしそこに、クロト達の担任。早乙女和子がやって来てホームルームが始まった。
クロトは急いで燃え尽きている仁美を机まで移動させると、座らせ自分の席についた。
みんな席に着いたのを確認すると、先生はコホンと咳払いをする。
「今日はみなさんに大事なお話があります。心して聞くように!」
そして、ダンッと足踏みをするとこう言った。
「目玉焼きとは堅焼きですか?半熟ですか?───ハイ黒崎君!!」
この瞬間、俺は先生が何でこんな事を言ったのか理解した。伊達に数ヶ月、先生の生徒をしていた訳では無い。こんな事なんて何回もあった。
だから俺は後ろにいたまどかにアイコンタクトで『行くぞ』と伝えると、まどかは黒い笑みを浮かべて頷いた。
「半熟ですけど、先生またですか?また振られたんですか?」
「ウェヒヒ♪先生この前私達に『料理は愛情よ♪』なんて言って料理で振られちゃったんですねぇ~♪」
ピシッ
先生の眼鏡にヒビが入る
「大体料理をバカにし過ぎじゃ無いですか?彼氏の好みくらい知っておかないからこうなるんですよ」
「クロく~ん仕方ないよ~先生たった三ヶ月しか持たなかったんだから~知らなくて無理ないよ♪」
ピシシッ
さらにヒビは広がり、もうすぐレンズは砕けそうだ。先生のプライドも…
「先生大丈夫ですか?そんなんじゃあっという間に、四十歳になっちゃいますよ」
「アラフォーだね♪アラフォー♪」
パリィィン
「うわあああああああああん( ノД`)」
遂に眼鏡もプライドも砕けた先生は泣きながら急に走り出した。
「リア充なんて滅べばいいのよぉぉぉぉぉおおおおおお!!!!」
何処に行くかと思えば、なぜか教室の後ろにある強化ガラス製の壁に突っ込んでいく。
「先生そっち壁…ってかガラス!!」
「知るかァ!!」ガシャアアン
「きゃっ」
……かなり頑丈なハズの強化ガラスを蹴破った先生は、その後も他の教室のガラスを蹴破りながら何処かに消えてしまった。
「……先生スゲェ…ここのガラス、象が体当たりしても割れない特別製なのに…」
「その分高いんだよね。先生の給料今月はパァかな?」
席を立って先生が割ったガラス壁をクラスの奴らと見ていると、俺は気付いた。先生が出ていった先の廊下に、誰かが尻餅をついてビックリしているのを───だから俺は怪我をしていないか確かめる為に、廊下に出てその姿を見た。
「オーイあんた大丈…夫────え?」
……心臓が止まったかと…思った。
最初に感じた事は、強烈な懐かしさと…嬉しさだった。
何故そう感じたかは分からなかった。だが、その姿は見た事がある。
「クロ君誰かいるの?──ッうそ…」
俺が呆然としていると、まどかもやって来て、廊下にいた人物を見ると固まってしまった。
───それはとても綺麗な女の子だった。
───髪は艶のある黒髪で、腰まで伸ばし黒のカチューシャを着けている。
───肌は雪の様に白く、首に掛かっている金の三日月にルビーを嵌め込んだペンダントが良く似合う…
───……俺が…夢で見た……女の子だった。