魔法少女まどか☆マギカ~心を写す瞳~   作:エントランス

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終三巡目 託す想い…託された想い

~ワルプルギスの夜爆心地から凡そ500m地点~

 

クロト達の最強魔法“神殺しの黒槍(ロンギヌス)”によって晴らされた空は、薄く残った雨雲でシトシトと降り続け、夕陽の紅い光が差し込んでいる美しい幻想的な天気───狐の嫁入り。

 

そんな空の雨の下で、ビルの瓦礫とアスファルトが剥がれ、雨で水溜まりになった地面に、

ほむら、クロト、まどかの順番で、三人は川の字になって倒れていた。

三人は瀕死の重症を負いながらも胸は動き、かろうじて生きてはいる。

 

何故あの爆発で助かったかといえばクロトのお陰だ。クロトはワルプルギスの夜が爆発する前に、何時でも逃げられる様に、保険として一本のクナイを遠くに投げてワルプルギスの夜が自爆する前に最後の魔力を使い肩を掴んでいたほむらと、背負っていたまどかを連れて安全な地帯に飛んだからだ。

 

……しかし、もう手遅れだ。最早、魔法衣も展開出来ないほど三人のソウルジェムは穢れを溜め込み、制服姿の三人の手の中にあるソウルジェムは、ほぼドス黒い色をして穢れは中で生き物の様に蠢いている……魔女になるのも時間の問題だろう。

 

「ハァ、ハァ、何とか…勝てたな」

 

「そうだね。良かったぁ…でも、もう私達、おしまいだね…」

 

「そうだなぁ」

 

分かっていた事だが、いざとなると感慨深いモノだなぁと思いクロトはハァとため息を吐いた。

 

「クロト、まどか───グリーフシードは?」

 

二人にそう聞くと二人は力無く首を振り、グリーフシードはもう無い事を示す。それが分かると、もうどうでもいいように「そう…」と素っ気なく言い、投げ遣りな気分になってポツリ、ポツリと呟くように二人にこう言った。

 

「ねぇ…私達、このまま三人で、怪物になって…

希望も無い…こんなどうしようもない世界、何もかも三人でメチャクチャにしちゃおっか?」

 

「!?ほむらお前……なにを…」

 

『お前は何を言っているんだ』とクロトは言いたかったが、ほむらの気持ちが分からない訳でもなかった。

確かにワルプルギスの夜は倒した……が、さやかも、杏子も、マミも死んでしまい、そして今度は自分達が魔女に成ろうとしている…。誰も生き残れなかった……誰もこの勝利を喜んでくれる人が…居ない…。

 

こんな救いの無い状況で誰がほむらを責められるだろうか…。

 

 

………だが…

 

 

「ほむらちゃん…」

 

そんな悲しい事を言うほむらに、まどかは何かを決めた顔でクロトの手をギュッと握った。

握られたクロトは、ハッとした顔をしてまどかを見ると、まどかは弱々しい笑顔でコクッと頷き、

クロトも、それに応える様に頷くと、まどかの雨で冷たくなった手を握り返した。

 

「嫌なことも、悲しいことも、全部無かったことにしちゃえるぐらい、壊して、壊して、壊しまくってさ…。

それはそれで、良いと思わない?」

 

「ほむら…」

 

クロトはまどかに握られた手を離し、ほむらのソウルジェムを持った手を両手で包み込む様にソッと優しく握り締めた。

だからほむらは、クロトも自分と同じ気持ちなんだろうと思い、クロトの方を向いた。───しかし……。

 

 

「───それは違う」

 

「え?」

 

クロトは自分の眼を真っ直ぐ見詰め、そんなのは御免だと首を振って、ほむらの言葉を否定する。

 

「お前の言う通り、この世界は夢も希望も無い残酷な…。地獄の様などうしようもない世界なのかもしれない───でも、そんなどうしようもない世界(地獄)でも……ほむら…俺達は、お前に会えた」

 

「……………」

 

真剣な声で話すクロトの言葉を、ほむらは一言も聞き洩らさないように黙って聞いている。

 

「お前が居たから俺達は俺達の大切なモノを護る事が出来た…。お前が居たから、真実を知る事が出来た…。

お前が居たから────俺は、ほむら…お前と一緒に居られた」

 

──それだけで十分だ……。それだけで…

 

「…だから(たと)え、世界がどんなに悲しくても、残酷でも…

お前と出会ったこの世界を───思い出を───壊すな、消すな、……消さないでくれ…」

 

『消さないでくれ』…それはクロトの全ての思いを乗せた悲痛な叫びに、ほむらは聞こえた。

 

「クロト…でも…、でも私達は…もう───?」

──…あれ?……身体が…

 

魔女になると言いかけた時、ほむらは気付いた。

先程まで重かった身体は嘘の様に軽くなり、痛みは残るが明らかに回復している。

 

────そして、魔力も…

 

「ッ!!」

 

ほむらはまさかと思い、自分の手を握っているクロトの手を、抉じ開ける様に開いた。

 

───其処には、紫色に光を放つ綺麗になった自分のソウルジェムと──

 

「これは…」

 

限界まで穢れを吸い取った、既に使用済みのグリーフシードがあった。

 

「それはね、さやかちゃんのグリーフシード、だよ。ほむらちゃん」

 

「まどか!?」

 

痛みが残っている為、まだ立つ事の出来ないほむらは二人の頭の側まで這いずって二人の顔を覗き込む。

 

「なんで!?さっき二人とも持ってないって…」

 

「フフ…ゴメンね…?さっきのは嘘。一個だけ取っておいてクロ君に渡して、使って貰ったんだ…」

 

「悪いな、こうでもしねーと、お前、俺達に使おうとするだろ…?」

 

クロトとまどかは騙していた事を謝り、ほむらは先程、クロトが自分の手を握っていたのは、ソウルジェムを浄化する為で、話していたのも自分のソウルジェムを浄化する迄の時間稼ぎだったと知った。

 

「どうして私に…!私なんかより、あなた達に…」

 

「……最後に、もう一度だけ…お前に賭けてみたくなった…それに…」

 

「私達……ほむらちゃんに、お願いしたい事が、あるの…」

 

「え?」

 

「お前、言ってたよな───歴史を変える為、時間を越えて、未来から戻って、来てくれた、んだって」

 

「こんな未来に───こんな終わり方にしない様に出来るって、言ってたよね」

 

「うん…」

 

そう言って、クロトとまどかはお互いの顔を見て、手を手を重ね合わせ、泣きながら笑い合うと───

 

「「キュゥべえに騙される前の(クロ君)(コイツ)を、助けてくれ(ないかな)(ねぇか)?」」

それは…その言葉は、目の前の幼馴染みと自分自身の──遺言──そう言っている様だった。

ほむらは、心配そうにしている二人を安心させる様に、キュゥべえと契約をした時の様に決意する

 

「クロト…まどか…──ッ!約束する!たとえ何十、何百、何千回同じ時間を繰り返す事になっても、

絶対に私が二人を助けてみせる!!必ず私が二人を護ってみせる!!───だから!…だから…」

 

───安心して…そう言う様に、ほむらは泣きながら今出来る精一杯の笑顔を二人に見せた。

 

「───良かった…」

 

「ああ………ホッとした…」

 

笑顔を見た二人は心の底から安心したような顔になった。

 

 

 

 

「ほむら…過去に戻る前に少し、お前に言っておきたい、事がある」

 

クロトは腕を伸ばし、ほむらの頬を伝う涙を指で拭うと、柔らかい頬に手を置き優しく撫でる。

 

「グスッ……なに…?」

 

「お前は、お前が満足するまで、時間を繰り返せばいい…。だが…」

 

 

 

───俺達を忘れないでくれ───

 

 

「……え?」

 

「お前にとって、今の俺は何回か繰り返した内の一人なのかもしれない…。

けど、この一ヶ月、お前と過ごした俺は、違う一ヶ月を過ごした前の時間の俺とは別人だ。

……同じじゃない。だから頼む…!お前が今まで過ごした時間の俺達を……。どうか…」

 

 

───忘れないでくれ───

 

 

「……あなたが、そう言うのなら…」

 

ほむらは嗚咽の声を上げ、震える声でクロトにそう言った。

────自分の頬を撫でるクロトと…なによりも自分自身に誓うように…

 

「そっか。なら、いい」

 

押し寄せる魔女化の痛みに耐え、笑顔でそう言うとクロトは、ほむらから手を離した。

そして今度は二人の話を終わるのを待っていた、まどかから声が掛かった。

 

「じゃあ今度は、私達からの……最後の、お願い」

 

まどかはソウルジェムをクロトに見せ頷くと、まどかは持っていたソウルジェムを顔の横にあった煉瓦に乗せ、クロトもそれに続いた。

 

「私達、魔女にはなりたくない…。クロ君の言う通り、護りたいモノを護り、通せた。

こんなどうしようもない世界だけど、それを、自分で壊したくない、消したくない───だから…」

 

「~~~ッ!…うん」

 

ほむらは二人を助けられない事が悔しくて、歯を食いしばっていたが、今はそれだけしか出来ないと悟り、魔法少女に変身し、盾から拳銃を取り出して銃口を、煉瓦に並べられている二つのソウルジェムに向ける。

 

「ウッグ…ゥウウ゛ウ゛ゥーーー」

 

しかし、ほむらの手はカタカタと震え、ソウルジェムに狙いは定まらない。

────そこに、震える手を抑える様にソッと二つの手が支えた。

 

「!?」

 

「ほむら」「ほむらちゃん」

 

クロトとまどかだった。

二人がほむらの手を支えると、手の震えは止まり今度はしっかりと

煉瓦に置かれた二つのソウルジェムに、狙いは付けられた。

 

「恐れるな…それがお前の決めた道だろ…

 …お前にくらべれば俺達の痛みは一瞬で終わる…気にするな」

 

「…こんな事頼んで…ゴメンね?」

 

「クロトォ…まどかぁ…──ッ!…う゛ぅ」

 

ボロボロと溢れ出る涙に視界がボヤけようともほむらは眼を開き、引き金に指を掛け、引いていく。

 

 ググッ

「……お前は本当に優しい子だな……

 ほむら…お前がどんな道をゆこうが…俺達は…そんなお前を誇りに思う」

 

「ッ!!」

 

 

…引き金を引く瞬間、ほむらの脳裏に懐かしいあの日々が走馬灯の様に浮かぶ。

 

──ザザッ…──

 

 

 

『なぁあんたどうしたの?』

 

 

──ザッザ…──

 

 

『俺は黒崎玄人、好きに呼んでくれ』

 

 

 

──ザァー…───

 

『お前の御守り代わりのプレゼントだ』

 

 

 

──…ジッ…──

 

 

 

『またいつか、三人でこの夜空を見てみたいもんだ』

 

 

 

 

──ザァ…ザッ…──

 

 

 

 

『どんな姿になろうと俺は…ほむら…』

 

 

 

 

『お前を愛してる…約束だ…』

 

 

 

 

……記憶の映像は終わり、再び残酷な光景がほむらの写輪眼に映る。

 

 

 

「……ぅ、ぐっ………うぅ………うう゛うううう゛う゛ううぅぅうう゛うっ!!!!」

 

 

 

涙を堪え、叫びたい衝動を抑え、声にならない悲鳴を上げる。

でも、これだけは伝えておこうと────最後の別れの言葉をクロトに告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私、貴方が……─────大好き!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダァ──────…ン

 

 

 

────俺もだよ……ほむら…────

 

ホンの一瞬、ほむらの耳には…そう聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 パキキィィン

 

 

 

 

 

 

───支えられていた二つの手が…パシャリと水溜まりに…落ちた。

 

 

「う゛ぐっ…う゛あああ゛あ゛あああぁぁっぁぁーーー!!!!あああ゛あぁぁぁ~~~」

 

 

誰も居なくなった廃墟に…唯一人の少女が地面に両手を着き…魂の泣き声を上げている。

 

 

 

 

 

 

 

───そして

 

 

 

 

助けられなかった自分自身への失意と──

 

 

 

 

 

 

 

 

失った……大きすぎる愛の喪失が──

 

 

 

 

 

 

少女の両眼の瞳に変化と──大きすぎる力を産み出した。

 

 

 

 

───シャアン───

「ううぅ……ッ!!?万華、鏡…グスッ…写輪、眼?」

 

 

涙で波紋が出来た水面に映る自分の両眼の瞳には……三つ巴の写輪眼ではない

 

 

 

六望星の描かれた写輪眼“万華鏡写輪眼”だ。

 

 

水面に映る六望星の万華鏡写輪眼を見たほむらは、クロトの言葉を思い出す。

 

 

『───万華鏡写輪眼の開眼条件は…自分の親しい者を自分の手で…殺す事だ』

 

 

「……ありがとう…クロト、まどか──この眼…大切にするね」

 

 

涙を袖で拭き、支えていた二人の手をもう一度グッと握ると、ほむらは立ち上がり、盾に手を置いた。

 

 

「あなた達から貰ったこの力で……あなた達を救ってみせる」

 

 

 カシャン

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、この日から私の出口の光が見えない永い…永い迷宮道の旅路が始まった……。

 

もう二人を戦わせない、死なせない。

契約なんて…やらせるものか!!使える物なら何だって使ってやる。

喩え、この命が果てたとしても…二人を護ってみせる!!

 

───まどか…私の初めての友達…

 

───クロト…私の最愛の人…

 

この二人を護る為なら…私は……

 

 

……その道がどんなに遠く、険しく、多くの仲間の死体を(また)ぐ事になるのか。まだこの時、私は知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──…………

 

ほむらが過ぎ去った後…、満足そうに安らかな顔で事切れているクロト達の遺体の側に、透けている姿の人影が胡座で座り込んで片手を翳し、砕けたソウルジェムを吸い込んでいく。

……その後ろ姿は気落ちして、死んでいるクロト達を見ていた。

 

──まだ、行かないのか?

 

──……じいさん…

 

その人影の後ろに突如として、年老いた老人の人影が現れ、声を掛けてきた。

 

──あの子が行ってしまうぞ…

 

──じいさん… 俺アイツに呪いをかけたのかなぁ…あんな事言われたら断れねぇよ…。

 

ソウルジェムを吸い込み終えた人影は、何かを後悔するように首を振り、老人の影にそう聞いた。

しかし、老人の影はフッと笑い

 

──…心配ない

 

──え…?

 

人影にそう言ってきた。

 

──お前はあの子を見守っているのだろう?なら、あの子は少なくとも孤独では無いのだ。

  …お前がいる。無論、ワシ(・・)()もな

 

──じいさん……

 

──さぁ…少し遅れてしまった──行くぞ

 

──…ああ

 

老人の陰はスッと踵を返し歩いて行く。

その後ろを人影が着いて…

 

──でもさぁ、じいさんに言われて力集めてるけど…役に立つのか?

 

──立つさ、今は離れていてもお前達は何時も一緒だ。いつかお前達は一つになる日が来よう…。

  あの子が本当の力とは何か気付き…正しく導かれる…その時まで…。

 

 

 




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