魔法少女まどか☆マギカ~心を写す瞳~   作:エントランス

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お気に入りも400になっていました。
これも皆様のお陰です。ありがとうございました。
これからも頑張りますので、ドウゾ宜しくお願いします。


三巡目 力尽きるまで

───この日、見滝原の空は太陽の光が完全に隠れるほど分厚く雲が掛かり、風雨によってビルが宙を舞っているという普通ではあり得ない非現実的な光景が観測されている。

そんな変わり果てた見滝原で、壊れたビルとビルの間の道路を紫色の何かが、一瞬通り過ぎた。

 

 

 

「アオダッ!出来るだけ狭いビルの間には突っ込むな。挟み撃ちにされる!!広い道路に行けッ!」

 

『御意!』

 

「ッ!上から来る槍に気を付けて!アレは唯の槍じゃない!!」

 

「……アオダさん、私達が槍を撃ち落とすから出来た隙を逃げて」

 

『御願いします』

 

クロト達だ。遠くにいる嵐の中心部───ワルプルギスの夜を相手に、クロト達三人と幻蛇アオダが既に激戦を繰り広げている。

 

クロト達三人が、大きくなったアオダの頭に乗ってワルプルギスの夜に近付く中、ワルプルギスの夜は夜空色の槍のような物を無数に造り、クロト達に雨の様に浴びせて牽制するが、クロト達は槍を壊し、アオダは頭に乗っているクロト達を護るため、撃ち落として出来た槍の雨の隙を潜り抜けるように、スルスルと避けてワルプルギスの夜に向い、蛇行しながら滑るように走って行く。

 

しかし、ワルプルギスの夜もアオダの接近を阻止する為、地面に刺さっている槍を使い魔に変化させてアオダに襲い掛からせる。

 

だが、それをクロト達が黙って見ている訳もなく、迫り来る使い魔を三人は背中合わせになり、全方位に向けて各々の遠距離魔法で使い魔を撃ち落としていく。

 

それでも使い魔の数は四十、五十、七十…前に進む度にどんどん飛んで来る槍も増え、使い魔の数は増える一方だ。

 

そして風魔手裏剣を一気に十枚投擲した後、複数に分裂させ、何十体も斬り裂いて効率良く倒すクロトも、流石に倒した(そば)から増えていく使い魔を相手に疲弊し、思わず愚痴をこぼす。

 

「ハッハッ……チッ面倒臭ぇな!なんて数だッ!!軽く二百以上はいるぞ!?」

 

「ハァハァハァ、ア…アオダさん。ワルプルギスまで後…どれくらい?」

 

『奴も移動していますから───およそ十分といった所でしょう』

 

「まだそんなにッ!?…不味いわね。ソウルジェムが…」

 

ほむらはショットガンを撃ちながら自分の左手の手の甲にあるソウルジェムを見ると、既に1/3程穢れが溜まっていた。

原因は時間停止に加え、主流武器を爆弾から銃に変更した事で反動や重さ等…元々筋力の無いほむらが銃を扱う為には肉体強化が必須となり戦闘の幅は広がったが、その分魔力を多く使う事になったからだ。

 

「ほむら今はソウルジェムジェムの事は気にすんなッ!!気ィ抜いたら突破されるぞ!!」

 

「そうだよ!いくら槍はアオダさんが避けてくれても──ヤァッ!…思った以上に使い魔の脚が速いんだから囲まれたらお仕舞いだよ!!」

 

アオダの胴体に飛び乗ろうとしたワタイヌを射抜きながら、まどかはそう言った。

言われたほむらの顔は苦い顔だ。

 

「…分かってる……。でも今のスピードじゃジリ貧よ!?ワルプルギスまで持たない!!」

 

───本来アオダのスピードは100㎞を越え、そのスピードなら振り切れるだろうが今は使い魔の大群の足止めによって、そのスピードは50㎞まで失速している。そしてもし、自分達で飛んで行こうとすると今度は使い魔に囲まれてしまい、数の暴力で押されて撃破されてしまうだろう。

……今の状況を打破するには周囲にいる使い魔と、増える原因の槍を一気に倒して走り抜けるしかない。

 

「───仕方ない大技で片付けるぞ」

 

「大技……まさかクロ君()()を使うつもり!?」

 

「ダメよ!()()は貴方の身体に負担が大き過ぎる」

 

「バーカ今使わないでいつ使う気だよ───それに力を使わないまま此処で死んだら、アイツ等に……あの世で何て言って謝ればいいんだよ」

 

「クロ君……」 「クロト…いいのね?」

 

「ああ、やってくれ」

 

クロトの覚悟を決めた顔を見て止めても無駄だと思ったほむらは、仕方なさそうにハァっとため息を吐いて最後の弾を撃ち終えると、ショットガンを放り投げてギミック式の盾に手を伸ばす。

 

「行くわよ!!」

 カシャン

 

───瞬間、ほむら以外の時間が止まった───

 

時間が止まったのを確認すると、ほむらは急いでクロトとまどかの肩を掴み、停止を解除する。

「急いで!後のワルプルギスの事を考えると魔力の無駄遣いが出来ない!!一分が限界よ!!」

 

「分かってる十分だ!まどか拡散型の矢をっ!!」

 

「うん!」

 

まどかが弓に矢を装填している内に、クロトは力を溜める様に眼を閉じる。

 

そして、先にまどかの準備が整った。

 

「クロ君いいよ!!」

 

「分かった…行くぞッ!!」

 

───眼を閉じた右眼からツーーっと血の涙が流れ落ち……眼がカッと見開かれる。

 

 

 

天照(あまてらす)

 

 

 

 

そこには何時(いつ)もの写輪眼は無く───両眼を三枚刃の手裏剣の様な瞳に変化していた。

そして、まどかの矢の先に…大きな漆黒の炎がボウッと灯り、火矢となる。

 

「行くよ…複合魔法──」

 

 

 

漆黒炎の魔法矢(ルインフォース・フレアアロー)』 

 バシュッ

 

 

 

放たれた漆黒の火矢は、途中で三百以上に分裂してその一本一本に炎が灯り、矢を闇色に染めていく。

そして矢が周囲の使い魔と飛んで来る槍、全ての手前で止まると、ほむらの盾の時間が動き出す。

 カシャン

 

 ズッドドドドドドド──

───避けられない火矢が接触した瞬間、周囲の全ての使い魔と槍は、漆黒の炎に包まれ消滅した。

 

「今よアオダッ!!」

 

『はい!!』

 

足止めをする使い魔が居なくなったアオダは、次の槍が来ない内に全速力でワルプルギスの夜まで蛇行していく。

全員が使い魔の包囲網を抜けてホッとしていると、急にクロトは右眼を押さえ片膝を付いた。

 

「グッ…ハァハァハァ」

 

「クロ君大丈夫!?」

 

「ハァハァ…ああ」

 

クロトは大丈夫だと言うが、その呼吸は苦しそうだ。

そんな気力の消耗が激しいクロトを見てほむらも心配そうにしている。

 

「無理しないで、矢の一本だけでもこれだけの負担があるんだから連発出来ないわよ…」

 

「…分かってる」

 

「──それにしても、やっぱり凄い威力だったね。───“天照(あまてらす)”……私が一体に強力な矢を五本以上()たないと倒せなかった使い魔が、弱い矢一本で倒せちゃった」

 

天照の火力にまどかが感心していると、呼吸が落ち着いてきたクロトは立ち上がって呟く。

 

「────流石は“万華鏡写輪眼”……といった所か…」

 

 

 

あの日を思い出しながら…

 

 

 

~二日前~

 

クロトが写輪眼の変化に気付いたのは、ワルプルギスの夜の戦いから遡り、二日前…。

六人いたメンバーが、一気に三人になったとはいえ、クロト達のやる事は変わらず、魔女を倒す為に結界で魔女と戦っていた時だ。

 

「ぐあぁっ!くっそ離し、やが…れ」

 

「動、けない」

 

「ク…ロト、まど、かッ!」

 

クロト達が魔女の部屋に踏み込んだ時に姿を現したのは、人形に全身を緑色の泥に覆われた魔女だった。

その魔女は強力な魔女で、あらゆる攻撃を無効化してしまった。

クロトの斬撃と刺撃は勿論まどかの矢も、ほむらの爆弾さえも一旦飛び散り、泥が集まったかと思うと元に戻って再生してしまう。

───そこでどうするか悩んで立ち止まってしまったのが悪かったのだろう…後ろから飛んで来た千切れた泥に気付かず三人は魔女の身体に捕らえられた。

そして、魔女は三人を腹の部分に取り込んだ後、絞め付ける様にゆっくり…ゆっくりと沈み込んで行く。

このままでは絞め殺されるか、口と鼻を塞がれ窒息死してしまうだろう。

 

「あぐっ、クロk」

 

「!まどッ!ウ゛ウゥ──」

 

「まどか!ほむらッ!!」

 

何とか逃げ出そうともがく三人だったが、抜け出す前にまどかとほむらは頭まで埋まってしまいクロトも首だけの状態だ。

そんな絶体絶命的な状況でクロトは眼を閉じ、二人を取り込んでいる魔女に激しい怒りを抱く。

 

「………出せ…」

 ツーーー

 

クロトの怒りに呼応するかの様に閉じられた右の(まぶた)から血が流れ出す。

眼が見開かれた。

 

───シャァン───

「そいつ等を泥臭いテメェの腹から出しやがれッッッ!!!!」

   ゴウッ!!

 

『!?ルガァァァァアアアアッッ!??!』

 

三枚刃の写輪眼となった瞳が魔女の顔を睨むと、泥の魔女の顔から漆黒の炎が吹き出す様に出てきた。

魔女はあまりの高熱にのたうち回り、三人を拘束していられなくなったのか拘束が緩んだ。

 

「───ッぷはっ!!ハァハァ」

 

「ケホッケホッ、これは、一体」

 

「!?おい、大丈b───ッ!グアァッ!?」

 

「クロト!?」「クロ君どうしたの?」

 

拘束が緩んだ為魔女の身体から抜け出せた二人は、右眼を押さえて苦痛の表情だ。助かった二人は急いでクロトを抱えて、どんどん燃え広がる黒い炎の泥から抜け出し、魔女から離れる。

 

「ここまで来れば…クロ君大丈夫?」

 

「ハァハァ、グッ…。少し、はな…」

 

右眼から流れていた血を、ハンカチでまどかに拭いて貰いながら弱々しくそう答えた。

まだ凄い汗だが呼吸は少し整っている所を見ると、どうやら逃げているうちに多少は痛みから回復した様だ。

 

 

『アアアアっアァァァっッァァアアアアアッーーー!!?!?!』

 

魔女は地面を転がったり自分の泥で覆って炎を消そうとしているが、炎はまるで魔女に絡み付くように消えず、それどころか消そうと触れた部分にも飛び火して今や魔女は全身火達磨だ。

 

「黒い…炎」

 

まるで断末魔の叫びの様な声を聞きながら、漆黒の炎に焼かれている魔女を見てほむらはポツリと呟く。

そしてある程度、回復したクロトはその光景を見て、驚愕の表情を浮かべる。

 

「これは……この黒い炎は───“天照”!?」

 

「天照?」

 

まどかが分からず首を傾げていると、クロトは自分の眼を指差してまどかに聞いた。

 

「今の俺の眼、どうなってる?」

 

「どうなってって…!?何その眼どうしたの?何時もの写輪眼じゃないよ!?」

 

「…やっぱり、か…」

──あの時、さやかを……スマン助かった───さやか

 

 

右眼を押さえ、左眼で燃えている魔女を見て、今はもう居ない友達に感謝の念を送る。

そんなクロトの様子から、何か知っていると思ったほむらは聞いてみた。

 

「クロト、あの黒い炎は貴方の眼の───写輪眼の力なの?」

 

「ああ、“万華鏡写輪眼・天照”その力は、視線の先の対象を永遠に…燃え尽きるまで決して消えない超高熱の漆黒の炎を灯す」

 

「なっ!?」

 

「そんな力が!?本当なのクロ君?」

 

「……見てみろよ」

 

信じられないような写輪眼の能力を聞いたまどかはクロトに確認すると、クロトは魔女が燃えていた場所を指差す。

二人がそこを見ると泥の魔女は燃え尽き、残ったグリーフシードは漆黒の炎で消滅する所だった。

 

 

 

 

~そして現在~

 

「……この眼が無かったら、俺達ワルプルギスに挑む前に死んでたな」

 

「あの時はもうダメかと思ったよ」

 

「そうね。本当にクロトが万華鏡写輪眼に目覚めてくれて助かったわ───私も目覚めるかしら」

 

「やめておけ」

 

「え?」

 

クロトから万華鏡写輪眼の能力を聞いていたほむらは、身体に負担が掛かるとは言えこの先の戦いで戦力になってクロトの負担が減ると思いそう言ったが、それは本人から真剣な顔で止められてしまった。

 

「この眼は目覚めない方がよかったんだ…。本来はな…」

 

「どういう事?」

 

「……………」

 

ほむらは言っている意味が分からず聞き返すが、クロトは言っていいものか悩んで腕を組んで少しの間、沈黙し、考えていたが一応警告のつもりで言う事にした。

 

「───万華鏡写輪眼の開眼条件は親しい者を…」

 

……言おうとはしているが言い淀んでしまい、顔をほむらから逸らす。

 

「クロト…?」

 

そして、クロトは顔を逸らしたまま、不思議そうにしているほむらにポツリと言った。

 

「……親しい者を────自分の手で殺す事だ」

 

「───え?」

 

「そんな!?じゃあどうしてクロ君はその眼を………さやかちゃん?」

 

「…………」

 

万華鏡写輪眼の開眼条件を聞き、まどかの脳裏に、人の姿を失い暴走する前に、自分の幼馴染みの手で止められた(殺された)親友の光景が頭を(よぎ)った。

そして、クロトは何も言わず静かに頷く。

 

───三人はアオダの頭の上で揺られながら重い空気のまま……沈黙するしかなかった。

 

 

 

 

 

 

『皆様方!戦闘の準備を!!前方のワルプルギスから大量の使い魔と燃えたビルが突っ込んで来ます!!』

 

アオダの警告に三人が上を見上げると、ワルプルギスの夜は三人を歓迎するようにあざけ笑い、迎えるように集中攻撃をしてきた。

流石のアオダも使い魔はともかく、二十以上の飛んで来るあのビル群をクロト達を乗せている状態で避ける事は出来ない。

 

「ほむら取り合えずアオダを盾に戻せ!この巨体じゃビルの攻撃が避けられない!!」

 

「ええ!───アオダ…ここまでありがとう」

 

「アオダさん助かりました」

 

「世話になったな」

 

『はい!───皆様も御武運を』

 

アオダの激励の言葉を受けると三人は頷き、ほむらは手をアオダの頭に当て、盾の中に収納する。

 

それを見届けると、迫り来るビルを前にしてクロトは自分の頬をパンッと叩き、気合いを入れる。

 

「───よし!じゃあ…一点突破で行くか?」

 

「もうそれしかないわね───あまり余裕も無いんだし」

 

ほむらがソウルジェムを見てみると、半分程穢れに浸食されているのが見える。二人も同じ位だ。

 

「頭を叩くのが基本だしね♪」

 

「そういう事、先ずは……このビルを切り抜けて行くぞ」

 

クロト達が前を向くと、もう目の前にビルが迫っている。

 

「うん」「ええ」

 

クロトを先頭に三人はビルに向かって走り出し、燃えていないビルに飛び乗ってそれを足場にどんどん飛んで来るビルに飛び移る。

そうやってジャンプしていると時々襲ってくる使い魔を通り際に倒しながらワルプルギスの夜に近付いていく。その中で避けきれない攻撃は、クロトがその攻撃を別の使い魔の所に飛ばしたり、ほむらが時間を止めてその場からまどかを逃がしたりして三人が互いをサポートしながら順調に切り抜けて行った。

 

 

 

 

 

~ワルプルギスの夜~

 

「ハッハッハ…────やっと…ッ着いた」

 

「ゼェーゼェー…ケホッ」パタタタッ

 

「ハァハァまどか、だ、大丈夫?」

 

「な、なんとか」

 

雨の様な使い魔の大群を突き抜けてきた時には三人共傷だらけで、立っていられるのが不思議な位だ。

その証拠にまどかは咳き込み、口から血を吐いてしまった。

そんな満身創痍の状態で魔力の足場を生み出し、ワルプルギスの夜の上空で全員が息を切らしている。

 

「…お前等……多分これが最後のラストアタックだ───行けるか?」

 

「ケフッ…何言ってるの───勿論だよ」

 

「決まってるじゃない───余裕よ」

 

「……そっか」

 

ツラい筈なのに、クロトの問いに二人は精一杯の笑顔で…そう…答えた。

 

「なら最後の大仕事だな───行くぜ」

 

コクッと二人は頷き、三人はワルプルギスの夜を取り囲むように散開する。

 

<まどか!ワルプルギスの拘束を頼む!>

 

<まかせて!───『巨人の杭(ギガンテス・アンカー)』>

 

念話で会話のやり取りをしながら、まどかは矢を弓の弦につがえて上空に向けて放つ。

矢は上空で巨大化し、十本の矢になると落ちてきた矢はワルプルギスの夜の服を射抜き、地面に縫い止めた。

<みんな!今だよ>

 

<分かってる───『千手・苦無千本』>

 

クロトが両手をパンッと合わせると空中に千本のクナイが現れ、クロトの背中から魔力で構成された腕がそのクナイを掴み、地面にいるワルプルギスの夜に向けて一斉に投げる。

 

<ほむらぁ!ありったけの爆弾出せぇ!>

 

<ええ>

 

ほむらもクロトの指示を受け、爆弾を出す為に左腕を上に振るった。

すると、盾から大量の手作りの爆弾が一気に飛び出す。そしてその爆弾一つ一つに印が刻まれている。

 

「いくらテメェが硬くても───()()からの爆発は効くだろ?…転移!」

 

上空に投げ出された爆弾は全て姿を消し、ワルプルギスの夜からピッピッピッと電子音の様な音が聞こえる。そして、ほむらは手に持ったスイッチを押す。

 

「……食らいなさい!!」カチッ

 

───ズッドドドドドドドドオオオォォォォォーーー

 

ワルプルギスの夜の身体の至る所から爆発の火柱が上がり、蒼かったドレスは所々黒く焦げ、歯車はクレーターの様な穴が空いて亀裂が沢山入っている。

倒せなかったが後もう一押しだろう……しかし…。

 

「!?」

 

爆発の影響でまどかの拘束から抜け出したワルプルギスの夜はゆっくりと上昇し、その逆さまの身体を回転してゆく……頭が天にむいた時、回転は止まりあざけ笑いの声と笑顔は消え、無表情になったかと思えば──

 

『キャアアアアアアアッアアアァァァァアァーー!!!ァァァアアアアッアアーーーー!!!!』

 

「ウグッ────ッーーなんつー声だ」

 

超音波の様な絶叫の叫び声を上げ、ワルプルギスの夜の周囲に浮かぶビルの窓ガラスや、アスファルト、コンクリートは砕け散り、遠くにいるクロト達も思わず耳を塞いでいる。

そしてワルプルギスの夜は叫び声を上げたまま、歯車をだんだんと速度を上げて竜巻のように風を纏うと、今までのゆっくりした動きが嘘の様に縦横無尽に辺りを破壊しながら凄いスピードで飛んでいく。

 

「あ、ああ…街が…クロ君……どうしよう」 

 

「チッ後もう少しだったのに……。今まで遊んでやがったのか…」

 

「そんな!?じゃあアレがワルプルギスの───本気?」

 

ほむらは荒れ狂うワルプルギスの天変地異の様な姿にこの世の終わりを見た気がした。

それを見て途方に暮れているまどかとほむらだったが、クロトの眼はまだ諦めていなかった。

 

「───いや…まだ手はある」

 

「「え?」」

 

「俺達三人の力を合わせれば……何とかなるかもしれない」

 

「そんな、どうやって!?私達のソウルジェムも限界なのよ!?」

 

ほむらの言う通り、三人のソウルジェムは後一、二回持てばいい方で、とても先程の様な威力の攻撃を出せるとは思えない。

 

「……分かってる…正直これは賭けだし、やれば俺達はもうダメだ魔女化は避けられない…強制は出来ない───だがアイツを倒せる可能性はある」

 

「……………」

 

ほむらが何も言えなくなるのも無理はない。

一か八かの勝負で、勝てばあの最強の魔女を倒せるが魔女になる。負ければそのまま死ぬだけだ。

ここで逃げは無い───どちらにしろ詰んでいる。

 

「……いいよ、私は乗った。クロ君に私の命を預けるよ」

 

その事を悟ったまどかは、全てを賭ける覚悟を決め、

 

「まどか……そうよね。どうせ死ぬならそっちの方がいい───私も乗るわ。その賭け」

 

「お前等……ありがとう」

 

ほむらもただで死ぬ気は無く、ワルプルギスの夜を倒す為に覚悟を決めた。

そんな自分を信じてくれる二人にクロトは本当に有り難くて、心から礼を言った。

 

 

…………

 

 

……

 

「じゃあ頼むぞ!まどか」

 

「うん!分かってる。全力で射てばいいんだよね?」

 

二人に作戦を伝えたクロトは先ず、まどかに目標をワルプルギスの夜ではなく、厚く雲のかかった空に向けて残る魔力全てをクロトのクナイを(やじり)に付けた矢に注ぎ込んで射るように頼む。

 

「ああ、雲を吹き飛ばして空も貫くように!!」

 

「了解!!」

 

まどかは弓を展開し弓に先程の矢を弦につがえると、弓に付いている薔薇の蕾が咲き、桃色の淡い光を放つ薔薇になった。

 

「───行くよ……これが私の最後の魔法」

 

 

『スターライト・アロー』

 

 

バシュゥっという音と共に音速を越えて、矢は厚い雲を吹き飛ばし、空いた雲から青空が見えるが直ぐに塞がり、力尽きたまどかは魔法衣が解け、クロトに倒れる様にもたれ掛かる。

 

「……良く頑張ったな…」

 

「うん…」

 

クロトはまどかをソッと地面に寝かせると、クロトは大きめのクナイを創り持ち手を両手で握ると、持ち手の部分を縦に延ばし、槍に姿を変えた。

そして、まどかが矢を放った空を見上げ、ポツリと呟く。

 

「…もうそろそろか…」

 

「クロト」

 

「分かってる」

 

ほむらに促され、クロトは高く飛び上がると手に持った槍を地面に全力で投げた。

 

「転移!!」

 

地面に刺さる前に槍を何処かに転移させると、クロトはクナイを遠くに投げてまどかを背負い、空を見上げて何かを待っている。

 

そして、それは直ぐに空気を切り裂く様な音を響かせてやって来た。

 

 ィィィィッィィイイイッイイイイ───

 

「───宇宙から地球の重力で物を落下させると、その速度は銃弾の約八倍。大抵の物質では空気摩擦で燃え尽きるが、魔力を纏って保護されている槍は熔けない──そして」

 

それは、まどかが空けた雲より更に大きく吹き飛ばし、見滝原を青空に染め上げる。

 

「その破壊力は地層を貫く程、絶大だ」

 

流星となった槍は真っ直ぐワルプルギスの夜に向かって行く。

しかし、ワルプルギスの夜も高速で動き回っている。そのまま動き回っていれば当てるのは、まず無理だろう。

 

───普通なら…

 

「ほむらッ!!」

 

「ええ」カシャン

 

ほむらは手を伸ばしていた盾の能力を発動させ、肩を掴まれていたクロトは地面に刺さっ

ていたクナイを拾い上げると、ワルプルギスの夜の頭部に投げつけて突き刺す。

 

──シャァン──

「ついでだ。これも食らえ!」

 

『天照』

 

クロトは万華鏡写輪眼を発動し、飛んで来る槍に漆黒の炎を灯すと、丁度ほむらの魔力全てを使った最後の時間停止が解ける。

 

カシャン

 

「ック…ロト!!」

 

「これが俺達の最強魔法」

 

魔法衣が解けてクロトの肩に掴まりながらそう叫ぶとクロトは術を発動した。

 

 

神殺しの黒槍(ロンギヌス)

 

 

キィィ─────…ン

 

『キャ…ア……ァ』

 

漆黒の炎を纏った槍はワルプルギスの夜を頭から歯車を一気に貫き、空いた孔からは黒い炎が噴き出し、炎はワルプルギスの夜を内側から燃やし、ワルプルギスの夜はもう、笑う事も悲鳴を上げることも出来ない。

 

そして、ワルプルギスの夜は歯車が光を放ったかと思うと、周囲を全て白い光に包み───

 

 

 

 

────一帯をクロト達と自分ごと灰塵(かいじん)に変え、ワルプルギスの夜は消滅した。

 

 

 




三巡目も後もう少しで終了です 。

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