~見滝原ビル群・路地裏~
表は人が賑わい、親子、友達、恋人などが買い物を楽しんでいる裏で、誰も近寄らずその存在を忘れてしまった場所で金属と金属のぶつかり合う音が鳴り響いている…戦いの音だ。
ギィンッギギィィン!ギャガァァン!!
「ハァ…、せっかく面白い眼をした奴がいるって聞いてわざわざ隣街から来てみればこんな奴しかいないの? まだまだヒヨッコだね。マミの奴はなにしてんのさ、こんなんじゃすぐ魔女に殺られちゃうよ? 」
「───ッ!…クッ…強い」
戦っている一人はさやかだ、既に変身して魔法衣を纏いサーベル片手に一人戦っていた。だが、相手は魔女
でも使い魔でもなく、紅い髪のポニーテール、深紅の魔法衣を纏い、手には長い槍を持った少女──魔法少女だ
とある日、さやかはそろそろ一人でも魔女を倒せるだろうと思い、魔女を簡単に探せるクロトとほむらを
呼ばずソウルジェム片手に街を練り歩き、その途中で反応を見付け路地裏に入っていったのだが、そこは
魔女の結界ではなく使い魔の結界だった。
魔女はもちろん危険だが、使い魔も人を殺し成長すればより多くの人を襲う恐ろしい魔女になってしまう。
使い魔の大きさを見るに
そう思ったさやかは変身し、使い魔を攻撃した…だが邪魔が入った。
後、もう少しで倒せる所を横から誰かがサーベルを弾いたのだ。
「ちょっとちょっとアンタなにしてんの?アレ魔女じゃないよ使い魔だ。グリーフシード持ってるわけないじゃん見てわかんない?」
それは深紅の中華服のような魔法衣を纏った魔法少女で、さやかの目の前に立ち塞がった。
その間に使い魔はその魔法少女を通りすぎ、結界の外に逃げてしまう。
「使い魔が…クッあんた何すんのよ!このままじゃ街の人達が…──見殺しにするつもり!?」
さやかは取り逃がした原因の魔法少女をキッと睨み付けるが、少女はニィと笑いさやかにこう言い放つ
「だからさぁ後少しで魔女になるんだからそれまで待てっての…そうすりゃちゃんとグリーフシード孕むんだからさぁ」
「なっ!?」
その言葉はさやかにとって衝撃的だった、もちろんマイナスの意味でだ。この街にいる先輩の魔法少女は
ちょっと変わっているが、他人の犠牲を良しとせず日々街の人々の為に尽力している尊敬出来る人物だ。
他の仲間も確かに一癖も二癖もある奴等だが、それでも自分と志を同じにする同志だ。
だが目の前の人物はそれと正反対の考え方をしている。
それはさやかにとっては受け入れられない考え方だった…だからだろう…案の定さやかはその少女と口論に
なってしまい魔法を使っての争いになってしまった。
しかし、この魔法少女は強い…おそらくマミと同じくらい…その事はさやかは槍から来る衝撃で何となく感じていた
────戦い慣れている…それは戦いにおいてとても重要な事だ。
使い魔はもちろん魔女も──そして魔法少女との戦いにおいても……
その結果がコレだ、さやかは全身に槍の矛先による斬り傷と柄や蹴り等でボロボロで、立ってるのがやっとの状態で肩で息をしている…とても戦えそうにない。
これは…さやかの負けだ
「ハァハァハァハァ──ッ!ック」
「まっ新人にしちゃ良く持った方だよ、命までは取らないから安心しな……あっそうだ聞きたいことがあるんだけど」
その魔法少女は槍を肩に担ぎ、首だけをさやかの方に向けると笑った
「さっきアタシが言ってた面白い眼─“巴紋の瞳”を持った奴等が何処にいるか知らない?」
「──ッ!!あんた…」
「その顔は…何か知ってんな…言え…そいつらは何処に居るんだい?」チャキッ
深紅の魔法少女は槍先をさやかの首に突きつける。
「…なんでそれを聞くの…」
嫌な予感がする…さやかはそう感じて聞いてみた─その予感は当たりだ
「聞いた話だとソイツ等は“魔女の気配”が見えるらしいって言うじゃんかズリィよな、アタシ達が
歩き回ってやっと見付ける結界をあっさり見付けられるなんてさ、だから…アタシが戴こうかなぁて♪」
「!!?」
それを聞き、さやかは眼を見開き、身体の痛みも忘れ立ち上がる。かなり怒っているようだ
「…ふざけんじゃないわよ!!そんな事の為に仲間──売れるわけないでしょ!!」
さやかは距離をとり、サーベルを構えた
「…チッ!ウゼェな、もういいや…アンタを痛めつけて念話で助けを出せば来るっしょ…仲間なんだから」
「誰が呼ぶかぁ!!」
「ハッ!威勢だけはいいな…行くぜ?」
「来い!!」
深紅の魔法少女は高く飛び上がり、槍を下方にいるさやかに向け突進する。
さやかもそれを迎撃するために剣を振り上げ、迫り来る槍を打ち払おうと構えた…その距離がゼロに近付く。
だがその二人の間を割って入るように、ある物が飛来し地面に刺さった。──クナイだ
シュッ ガッ
「!!なっ!?」
「…え?」
「ったく、お前に念話しても反応が無かったから探して見付けてみればこれかよ」
「新人の子守りも楽じゃないわねクロト」
「全くだ…つっても俺達も新人だけどな」
そこには突然現れたクロトとほむらがいた。
二人は手を繋ぎ、クロトは片手で深紅の魔法少女の槍の柄を掴み突進を止め、ほむらはマミから強奪した
マスケット銃をその少女に突き付けている
「クロト、転校生…なんで」
「何時まで経っても連絡ねぇから、お前に何かあったんじゃねぇかと思って皆で探してたんだよ」
「そしたら貴女、この人に襲われてるじゃない。少し前から見てたけど…かなりのベテランのようね」
「…テメェらその“巴紋の瞳”…そうかアンタ達が話に聞いた」
深紅の魔法少女は槍を掴んでいた手を振り払い後ろに跳び距離をあけ、クロトとほむらの写輪眼を見ると獰猛な笑みを浮かべた。
さやかはその笑みを見て先程の会話を思い出し、クロトとほむらに警告をする。
「二人共気を付けて!コイツあんた達の眼が狙いなんだよ!!」
「眼?写輪眼を?」
「…ふざけた話ね…この瞳は貴女が持つには過ぎた代物…それを奪おうとするなら──殺すわよ」
ほむらはさやかの言葉を聞くと顔を怒りに染め、殺気を放っている…本気で怒っていた
少女はその殺気を受けると笑みを浮かべたまま冷や汗を一筋流した
「…いい殺気してやがる…コイツ本当に新人か?…強ぇな」
少女は槍を構えたまま何時でも飛び出せるように隙を狙っている…だが隙はあるのだが…何故か隙があるようには見えなかった。
長年の魔法少女としての勘が迂闊に飛び込めば返り討ちに遭うと告げていた。
そんな両者の睨み合いの中、クロトはため息を吐くとほむらの頭を軽く叩き撫でる。
それだけでほむらは気持ち良さそうに眼を細め殺気は消えてしまう。
ほむっほむっ
「…相変わらず気の抜けたような音だな…まぁいいや、ほむらここは俺が戦う」
「!?クロト危ないわ!私も一緒に──」
「必要ねぇーよ。さっきアイツの槍は俺が“掴んだ”もう仕込みは済んでいる…だろ?」
「槍を?……そういう事ね…分かったわ、ここはまかせる。でも…──気を付けて」
ほむらはクロトの言った意味を少し考え理解し、クロトにこの場を預け、
クロトは歩きながら振り返らずにほむらに手を振った
少女はそのやり取りを見ていただけで手を出して来ない、どうやら空気は読めるようだ。
「よお、待たせたな」
「…あんた魔法少女…なのか?男だろ」
「あんなかわいいフリフリのドレスを着た変態男と一緒にすんじゃねぇよ!!魔導士って呼べ」
「ハッ!どっちだって一緒さ、それよりアタシの目的分かってんでしょ?さっさとその眼を寄越しな!」
「断る。俺は好き好んで赤の他人に自分の眼をやる趣味はない。お前こそさっさと帰れ!」
「イヤだね、それにあんた先輩に向かって礼儀がなってないんじゃないの?」
「あいにく俺は知らねぇ先輩にやってやるような礼儀なんて知らねぇーよ」
「……そうかい…それならアタシが教えてやるよッ!!」
痺れを切らした少女はクロトに向かって走ってきた。だがクロトは焦ることなくクナイを一本取り出すと
少女にこう告げる。
「気を抜くなよ?じゃないとスグ終わるぜ?」
「ハッ!それはこっちのセリフだ!
そんな短い
吼えて走っていた少女は脚を止め眼を見開いた…何故なら、さっきまで遠くにいたクロトが目の前に…自分の首にクナイの刃を当てられ既に王手を取られていたからだ。
これに少女は混乱した。
自分はベテランだ!そう言える程の実力はあるつもりだし、新人相手の動きに着いていけない訳がない
…だが目の前の現実は違った…コイツはなんの前触れも気配もなく自分の目の前に突然現れ、首に刃を当てられている。
「こんな
「──ッ!!クソ!!」
少女は瞬時に後ろに跳び、首に手を当てクロトを見る、その額には汗が流れていた。
「テメェ…今なにしやがった…」
「何って魔法だろ?」
「ふざけんな!!なんの予備動作もなく魔法を使うなんて出来るわけねぇーだろ!!」
「本当か?」
「え?」
「本当に俺は何もしていなかったのか?」
「……………」
少女はクロトの意味深な言葉に疑問を抱き、クロトが現れてからの事を振り返ってみる
「────!!まさか!」
クロトの言っている事に気付いた少女は自分の持っている槍の柄を見る。
そこには見覚えのない模様が刻まれていた。
「この模様のせいか!あの時…割って入った時、槍の柄を掴んだときに付けたのか!」
「御名答♪まぁカラクリが分かった所でもう勝負はついてんだがな──
「?なにいってやがる。アタシはまだ戦えるぞ」
「…そう思いたいならそうすればいい、ムダだからな。ホラ来いよ、今度は魔法使わねぇから」
クロトはそういうとクナイを消し、腕を組んで余裕の表情だ。
「───ッ!!!舐めんなァァァァァァッ!!」
それを見た少女は激昂した…当然だろう彼女は見るからに自信家で魔法少女のベテランというプライドがある
それを魔法を使い始めたばかりの新人にバカにされればこの怒りは当たり前だ。
そんな余裕な態度のクロトに槍の突きの雨が襲い掛かる。
だが、当たらない…胴に突きを放っても身体を横に最小限だけ動かし、横凪ぎも上半身を反らして避け、
脚を狙い避けてジャンプした所を狙ってもヒラリとかわしてしまう。
攻撃から十分後…そこには槍を杖にして息切れをしている少女と傷一つなく息も切れていないクロトがいた
「ハァハァハァ…クソ!!なんなんだテメェは!!」
「さやかの友達だよ…それで?もう諦めてくれたか?諦めたなら
「ハンッ…なにいってんのさ、諦めて…たまるか!!」
少女は呼吸も整うと再び槍を構え、攻撃の体勢に入る
──だけどこのままじゃ何時まで経っても当たる気がしねぇ…悔しいがアタシの槍が全て見切られている
何かないか…要はあの眼が手に入ればいいんだ、何処かに隙は…あった
少女はクロトから眼を離しチラッと横目で別の場所を見るとニィと笑う
「確かに悔しいがアタシじゃアンタに槍を当てる事は出来ない」
「おっ!ようやく諦めたか」
「あぁ…アンタには──なッ!!」
少女は持っていた槍を投擲する、それはクロトの胸に向かっていったが、それはあっさり避けられる。
「もう終わりか?」
「ああ、
「なに!?」
「ク…ロト…」
「!!ほむら!?」
クロトが後ろを振り返るとそこには───腹を槍で刺された…ほむらの姿が…
それを見たクロトはほむらに駆け寄る。だがそれは許されなかった。
ドスッ
「ゴフッ…テメェ」
クロトの脇腹にはもう一本の槍が…
「心配すんな眼を貰ったら治療くらいしてやるよ」
そういって少女はほむらに近付き、眼を奪おうとする。
─────バサッ バサササササ────
「!!?──なっ…なんだ…こりゃ……カラス!?」
少女が手を伸ばしたほむらはその身体を無数のカラスに姿を変えて消えてしまった。
いや…ほむらだけではない、戦いを見守っていたさやかも、路地裏の壁も全てがカラスとなって空へと
消えていく。
「これは…──ッ!!まさか!?」
少女は振り向きクロトの方を向く、そこには脇腹に槍が刺さったままのクロトが平然と立っており、
笑いながら自分の方を見ている
「クッ…テメェ────いつだ…」
「なにがだ?」
「とぼけんじゃねぇ!!…これは…コイツは──」
少女はクロトを睨みながら身体を怒りで震わせている。
「────コイツは全部─────幻術じゃねぇか!!!!」
そう、少女の眼に見えていた、さやか、ほむら、クロト、路地裏全ての光景が幻術で構成されていた。
少女はフーッ!フーッ!と息を荒げながらクロトを問い詰める。
だが、クロトは相変わらず笑ってこう言った。
「…なら聞くが」
「アァ?」
『お前はいつ──』
『─────ここを現実だと勘違いしていた?』
───バサササササ───
「!?」
その言葉を言い残すとクロトはその身体を無数のカラスに姿を変えていった。
…少女の目の前がカラスによって埋め尽くされて行く……そこで…少女の意識は途絶えた…。
「─────ハッ!?」
「あら、眼が覚めたのね。気分はどう?佐倉さん」
「………マミ?」
少女が次に眼を覚ますと、そこには彼女が良く知っている顔があった。
それに身体が動かない、どうやらリボンで拘束されリボンの端をクナイで壁に固定されているようだ。
…他の声も聞こえる
「あっ!マミさんそいつ起きたんですか?…チェッ…ズッと寝てればよかったのに」
さやかだ、傷だらけだった身体はもうすっかり消えて治っている。回復魔法をかけたようだ
「さやかちゃん、まだボコボコにされた事を恨んでるんだ…」
「まどか、美樹さやかがボコボコにされたのは当たり前なんだから恨むのも当たり前よ」
腹を刺されたハズのほむらもいる、もちろん怪我など何処にもなくさやかを何気なく
元気だ
「コラーーー!!ボコボコボコボコいうなーーー!!それとほむら!!ボコボコにされるのが当たり前って
どうゆう事だコラァ!」
「そのままの意味よ」
少女の耳にはまどか達のギャーギャー言う声に顔をしかめ、うるさそうにした。
そこに男の声が掛かる。
「よう、いい夢は観れたかよ───佐倉杏子…」
クロトだ、クロトは壁にもたれながら拘束されている少女──佐倉杏子に声を掛けた
「…テメェか…チッ最悪だよ」
「だろうな、そうゆう風に観せたからな」
クロトはため息を吐き、憂鬱そうに言う。
そんなクロトを見ていた杏子はあの疑問の答えが気になり、本人に聞いてみることにした。
「……いつだ…いつアタシに幻術を掛けた」
「ああ、アレな」
杏子の問いにクロトは答える、どうやら隠す気は無いようだ。
「…お前の首に刃を当てた時だ。その時、写輪眼を眼で見たろ?」
「なっ!?あそこから!?じゃああの時、最初からクナイで攻撃するつもりは無かったのかよ!!
最初からアタシに幻術を掛けるつもりで…」
杏子はあの時クロトが自分にクナイを自分に向けたのは意識をクナイに集中させて、写輪眼による幻術
攻撃を確実に成功させる為の布石だった事に気付く。
「───攻撃ってのは一手目が騙しのフェイク二手目が本命の攻撃…だろ?」
「…チッ…騙された」
杏子は悔しそうに顔をそむけ、舌打ちをした
「言っただろ?お前はもう負けてるって」