~さやかが目覚めて三十分後~
そこは……もうなんと言っていいか良く分からない状況になっていた。
ほむらは一時間以上コンクリートの上で正座していた為、脚の感覚が無く、おまけにクロトの説教を受けて
精神的にグッタリとしてしまい、ベンチの上でうつ伏せに倒れている。クロトに脚をマッサージして貰っているが、ピクリともせずされるがままだ。
さやかの方だが、あの後、まどかとマミが懸命に介護をしてなんとか意識を回復した、が…クロトを見た
瞬間また襲い掛かろうとした為、マミにリボンでグルグル巻きにされ、取り押さえられ地面を転がっている。
そんな
……余計
「さやかちゃん、なんでクロ君に襲い掛かったの?襲う時のあの顔は人間がしていい顔じゃなかったよ。
パンデモニウムさんかと思っちゃった」
「……まどか…あんた、酷くない?…ハァ…まぁいいわ……そうね、あれは今日、何時ものように恭介のお見舞いに行った時だった」
地面を転がりながら、さやかは思い出す様に語る。
~回想・見滝原私立病院~
「クフフフ♪今日はついてるなぁ♪前から恭介が気に入ってた奏者のCDが三枚も見付かったし♪これなら
恭介も喜んでくれるよね♪──ん?」
病院の廊下をスキップしながらご機嫌な様子の女の子──さやかは自分の想い人の為に、ヴァイオリンのCDを購入しそれを届ける為、
『ーーーーーッだ!!ーーーくらえッ♪ーーーーしてやろうかァァァ!!』
───ビリッ…ビリビリッ
「──ッ?!?なにこれ!?なんで病院でこんな爆音が?てかうっさ!!」
さやかは急に鳴り響く爆音に耳を塞ぎ、廊下に座り込む。
こんなにうるさいと音楽を聞けないじゃんっと悪態をつきながらも……さやかは嫌な予感がしていた
なーーんか響いて来る声に聞き覚えがあるような……無いような…そんな不安も感じながら、さやかは
近くにいた自分と同じように耳を塞ぎ、耐えている看護婦にこの状況について聞いてみる。
「あのォォォ!!看護婦さーーーん!!」
「?あっ…あなたは!!」
「これは一体どうしt───わっ!?」
「ちょうど良かった。なんとかしてえええェェェ!!」
看護婦はさやかを見るとちょうど良い所に来たと言うような顔をして、さやかの腕を引っ張り、何処かに
連れていく。
「あのちょっとォォォ!?」
「あなたしか、もう居ないのよ!なんとか止めて!!」
看護婦は涙目でさやかに助けを求める───その後少しすると爆音も止まり、さやかは一つの病室の前に
連れてこられた。
その表札には「上条 恭介」自分の来ようとしていた場所だ。
「あの、これは一体…」
「いい?これから貴女はこの先の現実を受け入れられないかもしれない…でも、拒絶してはダメよ?」
看護婦はやたらと意味深な事を言って不安を煽る。
「は?意味が分かんないんですけど」
「じゃッ!後は任せたわよ!!」
「え?あっちょっ!?」
看護婦はそう言うとさやかの質問に答えず足早に去っていった。
さやかは疑問に思いながらもドアを開ける。
「……なんなのよ…もう」
ガラッ
「フハハハハハハハ!!」
「…スイマセーンマチガエマシタ…」
バァン!
さやかは勢い良く扉を閉める。
……なんかいた…なんかが高笑いしながらベッドに片足を上げて窓から見える夕日に両手を広げていた。
「あっれぇ?おかしいなぁ…恭介の病室間違えるなんて……私疲れてるのかな」
ゴシゴシ
さやかは眼を擦りヨシッ!ともう一度表札を探しに廊下を歩く。
端から端まで表札を確認しながら歩くと今度こそ「上条 恭介」の表札を見付ける。
「……よし!今度こそ!!」
コンコン
「恭介ーー!!CD持ってきたよー♪」
ノックをしてさやかは手を上げ、元気良く中に入った。
「フハハハハハハハ!!さやかじゃないか!よくぞ来たッ!!我輩の
「………………………」
スススーーー…バァン!
…さやかは無言のまま手を上げて固まり、ムーンウォークをして病室を出た。
そしてもう一度表札を確認する。
「……あれ?…ここ……恭介の病室……だよね?…おかしいな…病室変わったのかな?中にいる人、
別人じゃん看護婦さんに聞かないと──」
「その必要は無いわ」
「え?看護婦さん?」
さやかが後ろを振り向くとそこには、数人の看護婦が居り、話し掛けてきたのは先程の看護婦だ。
「真実から眼を背けるのはもうよしなさい、悲しいだけよ…」
何故かほむらのようなしゃべり方だ。
「…はは…なに言ってるんですか…あれは恭介じゃあ──」
「さっき貴女の名前を呼んでたじゃない」
「……そんな…バカな!!だってあれはどう見ても──」
「それが真実よ…見なさい!これが今の彼よ!!」
ガラッ
看護婦はさやかの横を通りすぎ、ドアを開ける…そこには…
「あ、ああ…そんな」
漆黒のマントを羽織り、肩パットを身に付けて破けた黒いズボンを履き、上半身は毛皮のジャケット一枚のみ
「きょ…恭介…なの?…あ、あんた…」
そして……顔は真っ白にメイクし、
ポマードかなにかでガッチリ固定されている…その姿はまさに…
「フハハハハハハハ!!さやか!!お前をリカちゃん人形にしてやろうかァァァ!!」
────十万十四歳のデスメタル系バンドの格好だった
「恭ゥゥゥゥゥゥゥゥ介ェェェェェェェェ!!!!」
ガッシャァァン
少女の想い人の名前を叫ぶ声は本人には届かず…持ってきたCDが音を立てて…割れてしまった。
~そして現在~
「その後、看護婦さんから聞いたのよ!!…恭介があんな十万十四歳の閣下になったのは、赤毛の男の子
が来て、楽しそうに笑いながら何かを読んでからだって…恭介の友達で、赤毛の男の子なんてクロトしか
居ないじゃない!!」
「そんな…上条君が…閣下化に……でも上条君って今腕を怪我してたんじゃ…」
「『腕なんか要らねぇ!時代は
「歯で!?( ; ゜Д゜)」
「だいぶ壊れてたのね…精神的に…」
さやかの口から語られる恭介のあまりの内容に、まどかとマミはさやかをなんと言って慰めればいいか分からない。
「そこにキュゥべえが現れて、何でも願いを叶えてくれるって言うから…祈ったの…
『恭介を元に(頭も)戻して』って!!…そしたら、怪我しか治らなかった…閣下化したまま…」
「あぁーー…そりゃクロ君が悪いよね、願い事してそんなんじゃ…でも何があったんだろ?」
「それは本人に聞けばいいんじゃないかしら」
そう言い、マミとまどかはクロトの方を見る。
「クロト、美味しい?」
「おう!流石、ルフランのシュークリームだなクリームが旨い」
「そう…良かったわ。ハイ紅茶」
「おっ!サンキュー」
だが、当の本人は
それを見たまどかとマミは──
「あーーー!クロ君ズルーイ!ほむらちゃん私も欲しい!」
「あら、ホントね。暁美さん私もいいかしら?」
「ええ、良いわよ……ハイまどか、巴マミ」
「「ありがとう♪」」
クロトに聞くことも忘れ、あっさり買収されていた
「ちょっとォォォォォォ!?聞くのを忘れないでよ!!
う゛うぅ…チクショウ!私の目の前で美味しそうに食べんな!!!!」
マミにリボンで拘束され、動けないさやかは四人が美味しそうにシュークリームを頬張る姿をただ泣いて
見てる事しか出来なかった。
…ほむらからのシュークリームを美味しく頂いた後、マミは“あっそう言えば!”と思い出し、クロトに聞いてみると心当たりがあったのか“ああ、アレか”と言い皆に語り始める。
「あれは、一昨日だったかな…偶々病院の近くに来たもんだから、ついでに親友の顔でも見ようかと思って寄ってみたんだよ。そしたらさぁ──」
~回想・恭介の病室~
「ハァ?音楽を聴くのも苦痛?どうしたんだよ。ヴァイオリン好きだったろ?──よし!爪破壊」
そこには二人がゲームをしながら、恭介がクロトに相談をしている姿があった。
「好きだよ、今もね…ただ、今日医者に言われたんだ、今の医学では君の腕は治せないってね──
あっヤバ!秘薬ちょうだい」
「そらよ──ふーん……なるほどな、つまりお前は他の奴が演奏してるのに自分は弾けないのが
悔しいんだな…それで、苦痛を感じる…と──尻尾斬ったぁ!」
「良く分かるね…そうだよ悔しいんだ…好きな事を他の人が自由に弾けて自分がそれをただ聴いている
なんて…耐えられない…──頭破壊したよ」
「そんな事をお前が言うて事は…相当な苦痛になってるみたいだな…で?お前はこれからどうしたい?
──怯んだ!殺れ」
「了解!──…さぁね…ヴァイオリンをずっとやってきたから他の道なんて知らないよ…でも…音楽は
忘れられないかな…」
「アハハ♪そりゃそうだ!音楽バカのお前から音楽取ったらバカしか残んねぇーよ──落とし穴埋めたぞ」
「そっち行くよ──…酷いねクロト…でもどうしよう」
「捕獲完了……そうだな…」
クロトはゲーム機を置き、腕を組んで何かを考えている。
「んー…恭介…お前は音楽やるならヴァイオリンじゃないといけないのか?」
「え?…いや…弾けるならなんだってやるよ」
「そっか…なら一回お前の中の音楽の常識を壊してみるってのはどうだ?」
「常識を?どうやって」
「ちょっと待ってろ…え~と」
そう言ってクロトは自分の鞄の中を探り何かを探している。
「確か…ちょうどいいヤツが…あっ!あったあった──コレを読め!!」
「?コレは?…“デト○イト・メ○ル・シ○ィ”…」
「コレ読んでお前の中の常識をぶっ壊せ!!」
「…………………こっこれは!」
クロトから渡された漫画を恭介は無言で読み始め、暫く読んでいると何かを掴んだようだ。
「ありがとう!クロト…僕は──いや…我輩はロックスターの頂点に立って殺るぜぇェェェェ!!」
「おう!元気出たみたいだな♪頑張れよ」
「フハハハハハハ!!」
どうやらここから恭介がおかしくなったようだ…ここに他の誰かが居ればまた結果は違っただろうに…
~回想終了~
「──てなことがあったんだよ、さやかの話からするにちゃんと勉強したようだな」
「なにやってるの!?なんでそっちの常識壊しちゃったの!?クロ君はバカなの?」
得意気に話すクロトにまどかは思わずツッコム
「バカとは失礼だなおい!ただ俺は落ち込んでいる親友を元気付けてやっただけじゃねぇーか」
「クロト…それは元気付ける方向が違うと思うわ」
「そうね、確かに元気は出たけど殺る気も出てきちゃったわよ?」
「ほむらとマミさんまで…まぁでもそれが恭介が選んだ道ならしょうがないだろ──なぁさやか?」
そう言いクロトはさっきから黙り込んでいるさやかに声を掛けた。
……その顔は浮かない
「……恭介が音楽聴くの苦痛に感じてたなんて…初めて知った……私…迷惑だったのかな…」
「ハァ…これはアイツが言ってたんだが、確かにお前の持ってくるCDを聴いていてツラい時もあった…」
「!…やっぱり…迷惑して──」
「だが」
クロトはさやかの言葉を遮り、続ける
「……だが、自分の為に安くないCDをよく買ってきてくれて元気付けようとするさやかの気持ちは嬉しかったんだとさ……だからあんま落ち込んだ顔をアイツに見せんなよ?」
「クロト……グスッ…うん…」
さやかは嬉し涙を流しながら、笑顔になった。どうやらもう大丈夫のようだ
「さて、少し話しすぎたみたいだな…帰るか…」
「そうだね、早く帰らないとパパとママが心配しちゃう」
「そうね顔合わせはもう十分でしょう…クロト、まどか、途中まで道は一緒だから一緒に帰りましょう」
「いいぜ」
「私も…あっそうだ♪ほむらちゃん、夕飯も一緒にどう?」
「え?…いいの?」
「うん♪」「ああ」
「……それじゃあ…お邪魔するわ」
三人はまどかの家に集合のようだ
しかしそれを羨ましそうに見ている視線が一つ
「……友人の家で…ご飯…いいなぁ…」
「あの、マミさん?いい加減このリボンほどいてくれませんか?全然動けないんですけど」
「いいなぁ」
「この人話聞いてないよ」
…どうやら、さやかの言葉は耳に入っておらず…上の空のようだ
そんなマミを見かねたほむらは、助け船を出す。
「巴マミ、貴女は貴女で一緒にご飯食べてくれる人ちゃんといるじゃない」
「え?どこ!?どこにいるの?」
マミはほむらの言葉に反応し、必死に周囲をキョロキョロと探す
「ほら、貴女の足元で芋虫の様に転がっている───美樹さやかが…」
「てんこォォォォォォせェェェェェェェェ!!!アンタ私を売るつもりか!?」
「アラ♪ホントね、ちょうど良かったわ♪美樹さんこれから私の家に来てご飯食べない?」
「いや…あの~その前にこのリボン──」
「そう♪良かったわ今夜は腕をふるって朝までケーキを出してア・ゲ・ル♪」
「お願いだから話聞いてください!!おまけなんですか!?その朝までケーキ地獄って!!やめて、死ぬ!」
明かに糖尿病になりそうだ
「じゃあ三人共、気を付けて帰るのよ?さぁ行きましょう♪美樹さん」
「いやああああああああァァァァァ────」
……そう言ってマミはさやかを縛っているリボンを掴むと夜の闇に消えていった。
「……ほむら」
「なに?」
「お前…ひどいな」
「そう?じゃあ二人は巴マミの朝までケーキ地獄を味わいたかったの?」
「「絶対嫌だ!!」」
「賢明ね」
……時間は流れ、更に一週間後
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