~見滝原展望台・屋外頂上~
日も沈み、星が良く見える時間に以前ほむらがクロト達と一緒に星をまた見ようと約束した場所で、ほむらは前の様に縁に腰掛け、星を見上げながら誰かと話している。
「それは本当なの?」
『間違いないです。世界中で奴を探した所、至る所でその姿が目撃されました。日本、アメリカ、アフリカ、
中国、ブラジル、ドイツ、イギリス、エジプト等その全てが同じ姿、同じ話し方をしていました。そして…
その国で同じ様に魔法少女の契約をしており……その数だけ魔女も誕生しました。この行動パターンからするに、奴──“キュゥべえ”はその全てが同一個体です。多分、私達と同じ様に記憶の共有化も兼ね備えているのでしょう』
声からしてパンデモニウムだが、声だけ響き何処にいるのか分からない。
どうやら何処にでも現れるキュゥべえを警戒して、擬態能力を使い姿を消しているようだ。
「……だからアイツは至る所で魔法少女を産み出す事が出来るのね……でも今、見滝原にいる
キュゥべえを始末出来ればこれ以上魔法少女は───」
『それも無駄です。キュゥべえが戦いに巻き込まれて、死んだことがあったのですが……奴め…何処から
ともなく現れて、自分で自分の死体を喰い元通りになってしまいました』
「ッ!?…なんて奴……厄介ね──それでアイツの目的と正体は何か分かったかしら? 」
『それが…クッ…申し訳ない…もう少しで何か掴めそうなのですが』
パンデモニウムの声は悔しそうだ、だが、ほむらは気にするなと言う様に首を振った
「申し訳ないのはこちらの方よ、パンデモニウムさん達が動いてくれなかったら私一人じゃあ、こんな短期間でここまでの事…何も分からなかったんだもの……ありがとう」
『ほむら様……気にしないでください、我々は鹿目家の方には恩義がある。
ここで何もしなかったらパンデモニウム一族の名折れです。ほむら様……頑張ってください、もう少し他の国のキュゥべえを探ってみます。では───』
───それっきりパンデモニウムの声が聞こえなくなった所をみると、どうやら去っていったようだ。
「……パンデモニウム一族ってなに?…とゆうか情報収集能力高すぎるんだけど…どうやってるの?」
ほむらの疑問は屋上の風に流されて消えた。
気難しい話をしていたせいか、気疲れしたほむらはフゥとため息を吐くと、街灯りの綺麗な街並みを見る。
「…………こんな綺麗な街並みなのに──スゥ──……この写輪眼で見るとこんなにも魔女の気配で溢れているのね…嫌になるわ」
ほむらの眼には黒い流れがあちこちから流れ、ビルを縫うように見えて顔をしかめる。
そんなブルーな気分になっているほむらに声が掛かった。
「おっ!こんな所にいたのか…みんな捜してたぞ?」
「…クロト、ごめんなさい…ちょっと用事があったから」
「ふ~ん…ん?写輪眼になってどうしたんだ?」
クロトはそう言ってほむらの隣に腰掛ける。
「…いえ……ただこんなに光に溢れている街なのに…影ではその反対に闇が溢れている…それが悲しくてね」
「どれどれ…──スゥ──…んーーー…確かに魔女の気配があちこちから見えるな…酷いもんだ」
クロトはほむらにそう言われて気になったのか写輪眼になって街を見てみる事にした。
その光景はほむらが見ていた時と同様に闇が蠢いているようだ。
「でもまぁ…これが当たり前の世界なんじゃねぇーのか?」
「え?」
クロトの言っている事が良く分からなかったほむらは写輪眼を解き、クロトの顔を見る。
「どうゆう事?」
「世界は何事も同じ様なバランスで成り立っているって事だ。例えば幸福と不幸、昼と夜、光と闇…とかな」
「それがこの光景とバランスと、どう関係あるの?」
「あるさ…人を照すと光は強くなるが、同じ様に影も大きくなっていく…でも、影を無理に消そうとすれば、人を消さなきゃならねぇ…俺達がやってる事だって同じ事だろ?」
「……魔女退治?」
「そうだ、呪いという闇で産まれた魔女を、祈りという光で産まれた魔法少女が増えすぎた闇を光で消して
バランスを保とうとする……つまり、切り離せねぇんだよ、この関係は…な」
「……ええ、そうね…それにしても、クロトがそんな事言うなんて意外ね」
「そうか?」
「ええ、なんだか詩人みたい♪」
「!?…うるせぇ///」
クスクス笑うほむらに恥ずかしくなったクロトは顔を横に背ける。
「フフフ──クシュッ」
笑っていたほむらだが、ビル風に当り過ぎたのか可愛らしく、くしゃみが出た
「寒いのか?」
「…少しだけ…」
「仕方ねぇな──ホレ」バサァ
「!?…温かい」
クロトは自分の着ている紅い雲の刺繍の入った黒いレインコートの魔法衣を脱ぎ、ほむらに被せる。
そのレインコートは、ほむらには大きすぎたのかブカブカでほむらをすっぽり覆ってしまい、
人肌に温められたコートは、ビル風で冷えたほむらの身体を優しく温める。
だが、今度はコートを脱いだクロトが半袖のシャツ一枚で寒そうだ。
「ありがとう…でも、クロトは寒く無いの?」
「まぁ、確かに寒いが我慢出来ないほどじゃない」
「……ダメよ、風邪引くわ…ほら“バサァ”これなら二人共温かいでしょう?///」
ほむらはコートを広げると自分とクロトを包み込んで寄り添うようにもたれ掛かり、頭をクロトの肩に乗せた
「うおっ…確かに温かいが……恥ずかしいな」
「……うん…」
「……………………」
「……………………」
─────二人は暫くの間、その状態のまま…無言で顔を紅潮させながら街を見下ろしていた。
その間、クロトとほむらはこう考えていた
──なんでかなぁ…コイツとは出会ってからそんなに経って無いが…不思議と──
──温かい…このぬくもりを感じるのも随分久しぶりね…こうしているとやっぱり──
『『懐かしく感じる』』
……そうこうしているとほむらは、あっ!と何かを思い出しクロトに話し掛ける。
「そう言えばクロト…みんなが捜しているんじゃなかったの?」
「あっヤベ!忘れてた」
「フフ♪もうしょうがないわね」
「なんで俺が悪いみたいな言い方なんだよ!?お前を捜してたんじゃねぇーか!!」
「忘れてた貴方が悪いわよ。それで?なんで私を捜してたの?」
「ハァ…まっ…いっか、なんかさぁキュゥべえが新しい魔法少女を見付けたとかで契約したらしいから
顔合わせに全員集合だってさ」
「ッ!?新しい……魔法少女?」
──まただ…私の知る歴史と微妙にずれていく……もしかして私のせい?
「どうした?ほむら…顔色悪いぞ」
「…いいえ…なんでもないわ…行きましょう」
──取り合えず確かめないと……新しい魔法少女を
~見滝原私立病院・屋上~
「……ここは…」
ほむらはその建物に見覚えがあった。当たり前だ、ついこの間まで自分もこの病院で入院していた所だ
本人は屋上には来たことは無いが、沢山の花が花壇に植えられ夜でも光る種類の花もあってとても綺麗だ
「クロト、ここに新しい魔法少女が?」
「らしいぞ、俺もマミさんからここに来るように言われただけだから、どんな奴かは知らないけどな」
「…そう…?あれがそうかしら?」
ほむらが暗闇に見える三人分の人影を見付ける。どうやらクロト達が最後で二人を待っていたようだ。
──だが、突然一人の影がクロト目掛けて剣のような物を振りかぶりながら走って来た…なにやら叫んでいる
「クウウゥゥゥゥーーーーールォォォォォォオオオオーーートオオオオオオオオォォォ!!!!」
……どうやら『クロト』と叫んでいるようだ
「ん?…このアホそうな声は……さやかか?」
「だれがアホじゃァァァァァ!!あんたのせいで!!!あんたのせいで!!!!」
「うわっ!?コワッ!!」
クロトとほむらの視界がさやかを捉えると、蒼を基準にした騎士のような魔法衣を纏い、剣を片手に
泣きながら般若の形相でクロトに迫っている。だが、それを彼女は許さなかった。
──スゥ──
「クロトに近付かないで!!アホの美樹さやか!!ハッ!!」ガゴッ!
「グッッハァァァ!?」
「ほむら!?」「ほむらちゃん!?」「暁美さん!?」
瞬時に写輪眼になったほむらはクロトの前に立ち、走って来るさやかに向かって疾走し、下段からさやかの顎を鋭い蹴りで上空に打ち上げた。
「まだまだこれからよ?フッ!影舞葉!」
更にほむらは魔力で強化した脚力で、打ち上げたさやかの背中に張り付き、銃を構えるようにさやかの背中に指を当て…呟く。
トン
「クロトに手を出そうとした罰よ…受け取りなさい」
「て、転校生?何を言って──ウグッ!?ゲハッ!」
さやかが何か言っていたようだが、ほむらは無視して蹴りをさやかの横腹に繰り出し、その反動で横に回り
腹に裏拳を放ち地面に落とす…フィニッシュに入るようだ
「覚えておきなさい…これがクロト直伝─────『獅子連弾』!!」
ドグシャッ
「ンッグハアアアアァァァ!!」
チーーン
…さやかはトドメに落ちてきたほむらの踵落としをくらい、意識を手放した
ほむらは踵落としをした反動で空中に飛び上がるとクルクルと回りながら、綺麗に着地する。
ファサァ
「そんなフラフラな剣でクロトに襲い掛かろうなんて百年早いわ…出直してきなさい」
ほむらは髪をかき上げ、白目を向いているさやかを見下すように見てそう言った
「さやかちゃーーーーん」「美樹さーーーーん」
そこにさやかを心配したまどかとマミが駆けつけ、身体を揺すっている。
それを見届けたほむらは
「怪我はない?クロト」
「……いや…怪我は無いが──」
「そう、良かったわ。それにしても、新しい魔法少女は美樹さやかだったのね…。どうでもいいわ
さぁ、もう夜も遅いし早く帰りましょう」
…なんだかさやかが、かわいそうに思えるほど、ほむらが冷たい
クロトはそんなほむらに近付き──
「お前はバカかッ!!」
スパァァァーーン
「アイタッ!?なっ何をするの?」
思いっきり平手でほむらの頭をひっぱたたく
「あのな…見てみろよさやかの奴、口から泡吐いてビクビクと痙攣してるぞ明かにやり過ぎだ……
ハァ……正座」
クロトは人差し指を地面に向ける。
「え?でも…ここコンクリート──」
「正座」
「……ハイ」
……その後、クロトからありがたい説教を一時間以上正座でガミガミと受けたほむらはグッタリとし、
さやかはマミとまどかの介護を受け、なんとか意識を取り戻した。