~ワルプルギスの夜・戦場~
『キャハハハ♪ウフフフ♪』
「ハァハァハァ……チッ! 硬てぇーなチクショウ!!」
「そん……な…強すぎる」
…ワルプルギスの夜が見滝原に襲来して、はや一時間足らず……状況はクロト達が劣勢に追い込まれていた。
まず狙われたのは、マミだった…ワルプルギスの夜はマミに使い魔達を集中させ、足止めをして動けない所を炎やビルが飛んで来て、吹き飛ばされてしまった。
クロトもマミを助けようとクナイを投げてたのだが、クロトが射出するクナイはワルプルギスの夜が撃ち出す炎に当たって熔かされ跳ぶ事が出来なくなり、マミはワルプルギスの夜が飛ばしたビルに直撃した。
近くにいてそれを見ていたまどかは急いでマミを掘り起こし、安全な場所に運び必死に治療を行い、その間
クロトとほむらは時間稼ぎにワルプルギスの夜に攻撃をしていたが、使い魔に横から攻撃されたり、時間を
止めて爆弾をワルプルギスの夜に張り付けて時間が動き出した所を狙われたり、クナイが熔け、移動手段が
なくなった所を攻撃されたりして、クロトとほむらの傷だらけの姿が痛々しい。
「クロ君……ほむらちゃん…」
そこに、まどかが戻ってきた…だが一人しか居らずその顔は暗い…。
「!まどかか……先輩は…どうした?」
「………ダメだった…」
「そんな!?」
「……クソ!!」ダンッ!
マミが死亡した事が伝えられると、ほむらはショックで口に手を当て、クロトは悔しさで後ろの壁を殴る。
クロト達の士気も落ち込むばかりで、三人の間に長い沈黙と重い空気が流れた。
─────壁を殴った痛みで少しは冷静になったクロトは今の状態をみんなで確認する。
「ハァ……どうする?俺のクナイは奴を貫くが、あの巨体に効果はほぼ無いだろうし、風魔手裏剣は奴が
硬すぎて斬り裂けない。おまけに当たる前に炎で相殺されて……いや…負けてるな溶かされた」
「私の爆弾も同じ様なものよ。顔に十個以上張り付けて同時に爆破しても、かすり傷一つ付かない…外部からの衝撃に強すぎるわ」
「それに時間もあまり無いよ…みんなのいる避難場まで十分も無いし、ワルプルギスも速度を上げてる」
まどかがワルプルギスの夜を見上げると、笑いながら風を纏い速度を上げ、真っ直ぐ避難場まで徐々に近付いていく。
「……状況は最悪だな」
「それにクロトのソウルジェムも黒くなってきたわ…大丈夫?」
「わかんねぇ……ん?まどか…お前俺と同じ位だが、どうしたんだ?」
「……マミさんの治療で、だいぶ消費しちゃったからね」
「…そうか」
「私は時間停止と肉体強化だけで、後は爆弾だけだからまだまだ余裕はあるけど」
「グリーフシードはもうねぇーし、
ハァっとクロトはため息を吐き、腰に手を当て上を見上げ元凶のワルプルギスの夜を睨み付けている。
「……こうなったら出し惜しみは無しかな……魔法が使えなくなるまで全力でやるしかないよ」
「だよなぁ……多分、俺とまどかが先に力尽きるだろうが……倒せるかどうか倒せたとしてもグリーフ
シードがなきゃ意味がねぇな」
「最低でも避難場から進路を逸らせるくらい持てばいいんだけど…」
クロトがそう言うとまどかも暗くなり、二人はため息を吐く、それを見たほむらは──
「……任せて!たとえ、
「「……………」」
胸に手を置き、二人を安心させる様に力強くそう言う。
そんなほむらを見て、クロトとまどかはポカーンとしていたが、お互いに顔を合わせ、笑い合った。
「……クハハ…頼もしいねぇ…まったく、いつの間にこんなに頼りがいのある奴になったんだ?会った時は
小動物だったのに、今じゃあ一人前の魔法少女だな」
「ティヒヒ♪本当だね、ほむらちゃんカッコイイ♪」
「か、からかわないで!///」
「からかってねぇーよ…じゃあ……頼むぜ?」
「ほむらちゃん……後はお願いね」
───コク
ほむらは二人から頼まれると頷く
クロトはそれを見ると安心した表情になり、避難場に向けて飛翔しているワルプルギスの夜を見る。
まどかとほむらも一緒に見上げ、立ち向かう決意をした。
「よしっ!じゃあ…行くか?」
「ええ!!」「うん!!」
───三人はワルプルギスの夜に向けて最後の突撃を開始した─────。
───…だが……
~ワルプルギスの夜・戦闘終了後~
あの後、ワルプルギスの夜に胴体に大きな穴を空けると、ワルプルギスは避難場から進路を変更して逃げて
行った。だが、その代償は大きかったようだ、まどかとクロトは傷だらけで変身していられないほど魔力を
消費し、見滝中の制服姿に戻ってしまい雨の降る中、瓦礫に背を預け休んでいた────傷口に雨がしみる
「…ハァハァ…いたたた…なんとか……追い返せたね」
「……おう…ごくろうさん…ッッ!」
「二人共ッ!大丈夫!?」
二人が全力でワルプルギスを攻撃していた為、時を止めサポートに徹していたほむらは比較的、魔力の消耗が少なく時間稼ぎをしていた時の傷だけで済み、まだ元気そうだ。
クロトとまどかは
「………結構ギリギリだな…やっぱりソウルジェム使い切っちまった」
「私もだよ…これ以上はもうダメだね」
二人の言う通り、ソウルジェムの“穢れ”はもう限界だろうグリーフシードが必要なほどだ
それを見たほむらは写輪眼になり、魔女の気配を探す。
───スゥ──
「二人共待ってて、今魔女を探してグリーフシードを!!」
「いや…それより……先輩の遺体をなんとかしないと」
「………そうだね…うっ!…こっち…だよ」
クロトとまどかは、この雨の中放置されているであろうマミの遺体を探す為に立ち上がり、まどかは痛みを
堪えて自分が置いてきたマミの所まで案内しようとしている。
「その傷じゃまだ無理よ!私が治すから横になって」
ほむらは無理をして立ち上がった二人を諌め、治療魔法をかけようとする。
「でも、早く…!!!?!?うッ!……アグッウ゛ウ゛ウアアアァァァ」ドサッ
「!!?カハッ!!?な…んだ…ぐああああああぁぁ!!」ドサッ
「!!!クロト?まどか!?どうしたの!?しっかりして!!」
だが、二人は急に苦しみ出し、冷たい地面に倒れてもがき苦しんでいた。
ほむらは駆け寄り、二人を揺さぶった──そこで、ほむらは見てしまう……
揺さぶった時に開いた二人の手にあるドス黒いソウルジェムを───写輪眼で……
「え?……ちょっと待って……なにそれ……。」
ほむらは見た…“穢れ”の溜まりきった二人のソウルジェムから自分もよく知るものが滲み出始めている。
「どうして?… なんで?………なんであなた達のソウルジェムからそんな“モノ”が見えるのよッ!!?」
「グッゥゥウ゛ウ!!──ソウ…ル……ジェム?───ッ!?」
クロトがほむらの言葉に反応し、痛みに耐え力を振り絞り、写輪眼で自分のソウルジェムを見て眼を見開く。
「これ……は────“魔女の気配”…ッ!…だと!?」
間違えようがなかった…何時もみんなで魔女を探すのに見ていた物だ。それが自分のソウルジェムから
漂い始め、何かが中で産まれようとしている。
──どういう事だ!!何故、俺達のソウルジェムからこんな“モノ”が見える!?魔女を倒すのが俺達だろ!魔女は“呪い”から産まれた存在じゃ無かったのか!?これじゃあ魔女が俺達み…たい………待て……
クロトは激しい痛みの中、それを見て一つの疑問が浮かんだ。
──そもそも魔女の“呪い”ってなんだ?誰が“呪った”?……そういえばこの“気配”気にして無かったが
よく似ている……グリーフシードでソウルジェムから飛び出した─────“穢れ”に……まさか!!?
クロトの中で…何かが見えはじめた───この残酷な真実に──
──……同じなのか?この“気配”と“穢れ”は……だとしたら“魔女”の正体は───“魔法少女”!?
…ウソ…だろ?……誰だ……誰がこんな事しやがったッ!!!!こんな残酷な───いや…決まってる……
アイツしかいねぇ──キュゥべえ──このソウルジェムを作ったアイツしか……だが、何の為だ?
自分達で産み出した“魔女”を自分達で産み出した“魔法少女”で倒させる?……矛盾してる……アイツも
それは分かってるハズだ…アイツの事は未だによく分からねぇが、意味の無いことはしない奴なのは分かる
……何かカラクリがあるな……にしてもソウルジェムか…“魂の宝石”…なるほど契約した時に、コイツは
俺の身体から出てきた…つまり…コイツは俺の──魂そのもの──そいう事か…騙されたぜチクショウ!!
クロトは魔法少女と魔女の全てを理解した
──キュゥべえが魂を抜き取って魔法少女を作り、魔女と戦わせてソウルジェムに“穢れ”を貯めさせ、
それで魔法少女が力尽きたら魔女になり、また魔法少女を作り魔女と戦わせる……悪循環だな。
…そうか…魔女は───魔法少女は…“呪った”のか…世界と自分自身を……可哀想に
……ほむらにこの事を伝えねぇと…時間がねぇ、アレの方が早いな
直感でもうあまり時間が無いと分かっていたクロトは、全身を襲う痛みを堪えて目の前で起こっている現実が信じられなくて呆然としているほむらの腕を掴む
「っう゛う゛うぅ!!ほ…むらッ!」
「ハッ!?クロト?…クロト!!これは一体…なんであなた達から──」
──スゥ──
「聞けッ!!!うっぐ…い…いいか…時間がねぇ!!俺の眼を見ろッ!!!」──ギィン!──
「え?」
混乱していたほむらの言葉は大声で叫ぶクロトに遮られ、ほむらは写輪眼になったクロトの瞳を反射的に見た
────ほむらの目の前の風景が──変わる
~幻術空間~
「……ここは…教室?」
さっきまでワルプルギスの夜に破壊され、瓦礫だらけだった風景は、ほむらもよく知る自分の教室に変わっていた。教室には誰も居らず、ほむらはワルプルギスの夜で傷付いた傷も消えその中で自分の机に座っている。
「どうしてここに……もしかしてさっきのは…夢?」
先程まで絶望的な光景を見ていたほむらは、いきなり何時も通りの教室になった事でアレを夢だと判断した。
だが…それは後からの声で否定される。
「残念ながらアレは夢じゃねぇ……現実だ…」
「!?……クロト?」
ほむらは聞き覚えのある声にバッと後ろを振り向く、そこには腕を組み、眼を閉じながら座っているクロト
がいた。
「今のお前は、俺が写輪眼で知覚を催眠術でコントロールして体感時間を少し延ばし、幻術でこの風景を見せられているに過ぎない…現実は、お前がさっきまで見ていた通り、俺達はもうすぐ──魔女化する」
「!!そんな事……」
クロトの言葉を否定しようとするほむらだが、否定出来るだけの言葉が見付からず顔を背ける。だが、クロトは席を立ちほむらの横を通り過ぎ、ホワイトボードの前に立った。
「いいか、俺がお前をここに連れて来たのは魔女化まで時間も無く、もう痛みで満足に話す事も出来ないからだ、現実の時間で後、十秒も無いだろう」
「そんな!!?」
「だから、その前にお前に伝えておきたい事があった……俺の推測で考えた魔女と魔法少女についてだ。」
「それってどういう…いえ!それよりあなた達を助け──」
「黙って聞けッ!いくらここが現実と時間が違うと言っても後、五分くらいしか無い!!
どちらにしろ時間がねぇんだよ!!……いいか?話は全部、話してからだ」
「……クロト…うん…」
色々話したい事もあった…もっと触れ合いたい事もあった…だが、真剣な顔でそう言うクロトにほむらは静かに頷くしか無かった…。
────ほむらはクロト話を黙って聞き続けた、魔女と魔法少女の関係、穢れの正体、ソウルジェムの素材
そして、この状況を作った犯人キュゥべえの事を……
「そ…んな」
そのあまりの内容にほむらは愕然とする。
「これが何処まで合ってるか俺にも分からねぇ…だが、大体は間違って無いと思う。
まだ分からない事もあるがな」
しかし、クロトの言葉は、ほむらの耳には届いていない…椅子に座り震えながら顔を
……泣いている。
「………魔女は元は魔法少女?……じゃあ私達が今まで倒してきた魔女は?」
「………魂を抜かれた?……そんな生きてるか死んでるか分からない状態にされたの?」
「………犯人はキュゥべえ?……私達をどうするつもりなの?」
「ほむら……」
────……ほむらの口から疑問と不安の言葉が次々と……
「ねぇ……クロト……私…私……」
ほむらは涙を流しながら顔を上げ………クロトを見た。
「私……──────魔女になるの?」
クロトが見たほむらの顔は何時もの凜っとした顔ではなく…出会った頃の何かに怯え泣いているほむらだった
そんな顔を見たクロトは……
「────なぁ…ほむら…」
ゆっくり、ほむらの方に歩いてゆき…
「……クロト…………『ギュッ』…え?」
机を退け、座っているほむらを……優しく抱き締め…語りかける
「怖いか?」
「…………うん……死ぬほど……」
これは幻術だ…だから温かさは感じない…ハズだった……だが、クロトから感じる
次第に震えが止まり、心が落ち着いてきた。
「俺もだ。これから魔女になるかと思うと自分でもどうしていいか分からなくなるほど…怖ぇよ」
クロトの感情に反応するかの様に、
周辺の教室が砂になって消えて行く…どうやら時間のようだ
「だがな…写輪眼を託した俺の様に、俺もお前に何かを残せると思うと……それだけで生きていて良かったと思えるんだ…俺の短い人生でも生きていた意味はあったんだってな」
「クロト…」
「…俺の“魂”はこのまま…消える。だけど“心”は
……だからたとえ、このまま化物になったとしても……俺に後悔は無い」
消滅は教室まで達し、ガラスは崩れ、ホワイトボードも崩れ、机と床も全て崩れてゆく。
そんな中、クロトは抱き締めていた腕をほどき、ほむらの肩に手を置くとほむらの眼を真っ直ぐ見詰め、笑う───その紅い双眸は透明な雫で濡れていた…… 。
「それに、魂が身体に無い? 魔女になる? 人間じゃ無い?───気にすんな」
「どうなろうが全部お前だよ。
変わってもお前だ────安心しろ…そんだけで嫌いにならねぇーよ」
「どんな姿になろうと俺は、ほむら。
お前を愛してる…約束だ───じゃあな」
─────そう言って彼は笑顔のまま砂になって、虚空の闇へと……消えた。
「うっうう……クロト…クロトォォォォォォッ!!」
少女の悲鳴が、虚しく闇に響き渡る……。
~現実~
クロトの幻術が魔女に侵食された事により、術の解けたほむらの意識は再び現実へと帰った。
「…──ッハ!…ここは…──ッ!!クロト!まどか!…あぁ…そんな……クロトの言った通りに…」
ほむらの目の前に再び瓦礫の山と…苦しむクロトとまどかがいた
そして…クロトとまどかの手にはソウルジェムではなくリボンの付いたグリーフシードと、勾玉の付いた
グリーフシードが握られているのをほむらは見た。
「どう…してアアアアアー!!!」ガシュッ
「まどか!!」
「当た…り…かよガアアアアアアー!!!」バキャッ
「クロト!!」
二つのグリーフシードは割れ、中から闇色の煙が吹き出しクロトとまどかは───事切れた…
そして吹き出した煙は上空で一つとなり、一体の巨大な魔女を産む。
『グオオオオオオオォォ』
その姿は小山程もある砂で出来た狸の様な魔女で全身に隈取りの模様が入り、一本の大きな尻尾を振っているそしてその魔女は暴れ始めた。口を開け腹を叩き何かを飛ばすと、周辺のビルを次々貫通させ、なぎ倒し、大きく口を開けると黒い球体を作り前方に撃ち出す…隣街からキノコ雲が上がる。
そんな絶望的な状況の中、ほむらは冷静に二人の遺体を整えると涙を拭いて立ち上がり、大きな獣の魔女を睨み付け吼える。
「クロトッ!!…まどかッ!!……待っていなさい…今行くわッ!!!!」カシャン
そういって、ほむらは盾のギミックを発動させ…後を向いて歩いてゆき過去に帰って行った。
ほむらが歩いてゆく中、クロトの遺体を見ている姿があった
───……失敗だったのか…しかし魔女の正体がこれかよ……気がつかねぇーよ…ったく
そして…砕けたクロトのソウルジェムに手を伸ばす、すると…
───!?……これは……そうか……そう言う事か……
ソウルジェムの細かい欠片が集まり、その姿に吸い込まれていった
───…………俺も行くか……
そう言って後ろを向き……その姿を消した。
新魔女紹介
一尾の魔女 別名 砂の守鶴 本名 サンドレクーン・グレードヒューエン
性質は傲慢
二つの魔女が同じ場所、同じ時間に誕生した時に産まれ合体した姿
表に見える大きな砂の巨体は本体では無くその足元で、木の根の様になっており、ありとあらゆる
生き物から生命力を吸い上げ、上部の砂の守鶴の破壊エネルギーに変換している。
たとえ、砂の守鶴を倒しても周辺の砂を媒介に復活し、時間が経つと吸い上げたエネルギーを元に
何体でも砂の守鶴を生産する。
倒すには、地中の本体を叩くしか無いがそれを守る守鶴の攻撃を掻い潜り、一撃で仕留めない限り、
再生する。
クロトとまどかの魔女が合体するという稀なケースによって産まれた魔女その為、性質が変化
全てを砂に埋もれさせて自分の領域…結界を拡げ、全ての生命、全ての魔女を強引に自分の天国…
砂漠に導こうとする存在で、その気になれば街一つを一撃で砂に埋める事が出来る。
次回、三巡目
感想・評価お待ちしております。
因みにクロトが使ったのは月読ではありません