二巡目 桃色の悪魔(過去は変えられない)
~見滝原私立病院~
風が吹き抜ける独創的なデザインの純白の病室に、一人の少女が眠りについていた。しかし、それも長くは続かない。優しい光に誘われて、閉じられた瞼がゆっくりと開かれた。
~ほむらside~
「はっ!」
少女、暁美ほむらの意識は覚醒し、眼を見開き身体を起こして周囲を見回す。
見覚えのある場所。
混乱はしていないが、別の事で困惑している。
(……ここは私が入院してた、私の病室……どうしてここに…?
あの廃墟から記憶が無いけど……もしかして、全部夢!?)
学校で友達が出来た事や夢の魔法少女が出てきたり、好きな人も出来たりもした。でも、アレが全部自分の妄想の中の出来事なのかと思うと、何やってるんだろうとガッカリもするだろう。だが、それはカレンダーとテーブルに置かれた紙を見て疑惑に変わった。
三月十六日 退院 二十五日 登校
見滝原中学校 入学案内
「私…まだ退院して───あれ?」
テーブルに置かれたメガネをかけた瞬間、猛烈な目眩を感じた。
───視界がボヤける。
「メガネの度が合わない?───違う……メガネを外した方が良く見える。なんで?……もしかして私、視力が戻った、の…?」
(視力が元に……ううん、前以上に良く見えるようになってる。
どうなって────ん? 私の左手、何か握られている。なんだろう………ッ!?
こ、これはソウルジェム!? どうしてこれが!? ……あっひょっとして)
「…夢じゃない? じゃあこの眼はもしかして……」
ほむらは急いで病室に備えられている鏡の前に立ち、ゆっくり眼を閉じた。
「確か、黒崎君はこうやって……」
──写輪眼!!──
眼を見開くとそこには、紫色の瞳は紅く染まり巴紋が刻まれたほむらの顔が映し出されていた。
「……やったよ、黒崎君。これであなた達を『チャリッ』……え? なにこれ?」
鏡に手を置くと身体が揺れ、何故かほむらの胸の辺りから金属音が聞こえてきた。疑問に思いながらも、ほむらはパジャマのボタンに手をかけ、外す。
そして、そこには────。
銀のチェーンに三日月の金の土台、そこにルビーの嵌め込まれたペンダントがあった。
「どうして……これが!? 時間…戻ったのに……。? 裏から紅い光が…あっ」
ほむらがペンダントを眺めていると、そのペンダントの裏側から、何やら見覚えのある紅い光が出ているのが見えた。そして、それを裏返して見ると。
「もしかして、黒崎君の描いたこの文字のお蔭?
────あぁよかった。消えなくて……よかったよぉ!」ポロポロ
ほむらは泣いた。
クロトから貰った思い出が無くならず、そのまま引き継がれた事に安堵して…。
だがそれに行き着く暇もなく、病室の扉が開いた。
「暁美さーん、お薬の時間…って、なんで泣いてるの!?」
「え?…あっこれは、その…」
「ていうか眼ぇどうしたの!!紅く光ってる上になんか模様があるんだけどぉ!?」
看護婦だった。
かなり動揺しているのが伺える。
無理もないだろう。扉を開けたら患者が泣いてる上に、昨日まで普通だった瞳がいきなり写輪眼みたいなのに変われば、誰だって心配するし動揺もする。
「と、ととにかく先生の所へ…!」
「だ、大丈夫です!『大丈夫だから、どっかへ行っててください!!』」
──ギンッ!──
看護婦はほむらの肩を掴み、医師の所へ連れていこうとした。
だがほむらも抵抗して……つい看護婦と眼を合わせてそんな事を言ってしまった。
「うっ!」ガクッ
「看護婦さん? あれちょっと…どうしたんですか!?」
急に意識が途切れたように首がガクッと落ちた。
ほむらも心配になって揺り、目を覚まさせようとする。
幸い看護婦はあっさりと眼を覚ましたが、何か様子がおかしい。
眼は虚ろでボーッとしており、ブツブツ言いながらそのまま看護婦は病室を出ていく。
「行かなきゃ、どこかへ。行かなきゃ…行かなきゃ…───婚活に」
「ちょっ!? 婚活って、どこ行く気ですかッ!?」
「じゃあ暁美さん……後から、別の人、来るから…。
───…行かなきゃ、婚活に」
「看護婦さぁぁぁん!!」
パタン
「…………」
看護婦は怪しい状態のまま病室を出ていった。
後日聞いた話だが、その看護婦は早退して婚活パーティーに参加し、見事パートナーを見つけて結婚したらしい。
(ど、どうなってるの? 私が『どこかへ行って』って言ったら、なんだか催眠術にかかったみたいで本当にどっか行っちゃった)
「……もしかして、この眼の力?黒崎君は出来なかったのに、どうして私が……あっ!勾玉が一つ増えてる」
鏡を見ると、二つだった勾玉が三つになっている。
「それに周りに変な流れみたいなのが見えるし、ソウルジェムからも紫色の光が出てるけど、これってこのペンダントの文字から出てる紅い光と一緒……だよね?
なんだろ、これ……ダメ分かんない」
ハァとため息を吐き、顔を引き締め鏡を見つめる。
「……見ててね、黒崎君。あんな結末で終わらない為に、わたし頑張るッ!!」
そう自分の眼に言い聞かせ、三つ編みのリボンをほどいた。
そして、九日後
~見滝原中学校・廊下~
ほむらは職員室に挨拶に行って教室に案内して貰っていると、周りのガラス越しから何故か視線を集めていた。
主に男子だがその事に気付かないまま、ほむらは教室に着いた。
「それじゃ、暁美さん。呼ばれたら入ってきて下さいね。チッ」
「は、はい!」
(ど、どういう事!?先生に思いっきり睨まれた上に舌打ちされた!? 前は普通だったのになぜ!?)
そう考えていると声が聞こえてきた。
コホン
『今日は皆さんに大事なお話があります。心して聞くように!!』
『目玉焼きとはお醤油ですか!お塩ですか!ハイ────黒崎君!!』
(!黒崎君だ!…また、会える)
『そうですねぇ…俺は半熟にマヨネーズですね』
『『『『『……………』』』』』
(その答えはないと思うよ?)
『…………(´Д⊂)…』ダッ
「あっ先生」
そのまま先生は泣きながら去って行った。
「なぁあんたどうしたんだ?」
(先生泣きながらどこかに行ったと思ったらそいう事だったんだ…)
「あの…私、暁美ほむらって言います。このクラスの転校生です」
「マジかよ……仕方ねぇ、暁美さん『ほむらでいいですよ』え、いいのか?じゃあ俺は黒崎玄人だ。好きに呼べ。じゃあ『ほむら』自己紹介するから入ってきてくれ」
「っ!…待って『クロト』君」
――……ここで一から始めよう。もう、後悔しないように…。
~ほむらside out~
先生が逃げ出した後、教室の前にいた転校生の自己紹介が始まった。
周りから色々な声が聞こえる『黒髪美少女キター!!』『うわっ!スゲー美少女』『罵って下さい!!』
概ね好評のようだ。
「じゃあほむら、自己紹介よろしく。
自習だから時間は気にしなくていいぞ」
「それ、クロト君のせいじゃ…」
((((((!もう名前で呼び合ってるし))))))
「いいんだよ、メンタルの弱い先生が悪い」
「あ、ははは…えっと暁美ほむらです。よろしくお願いします」
「なになに……ほむらは心臓の病気でずっと入院してたか、ん?どうした?」
ほむらは自己紹介が終わると、誰かを探すようにキョロキョロと教室を見回しているが、ある一点───まどかに目が止まる。
そしてまどかの席に真っ直ぐ向かっていくと、まどかの手を握り。
「鹿目さん!!私も魔法少女になったの」
「え、えーと…?」
「これから一緒に頑張ろうね!!」
「「「「「「「ホウ(・∀☆)魔法少女とな?」」」」」」」キラーン♪
「ほむらは、私『も』と言った!つまり、まどかも魔法少女ということになる。さあ、どういう事だ?まどか!リリカルマジカル始まるのか?」
「ク、クロ君がオモチャを見つけた眼に……逃げなきゃ!!」
まどかは急いで立ち上がり、扉に向かった…だが。
「中沢!!」
「分かってるぜ♪」シャッ
「うわっ…な、中沢君いつの間に!?」
「鹿目、どこ行くんだ?まだ授業中だぜ」
逃げようとした教室の扉の前には、いつの間にかクラスの中沢が立ち塞がっていた。
まどかに逃げ場は無い!
「往生際が悪いぞ、まどか! さて逃げ回されても面倒だ。
───さやか!!仁美!!」パチン!
「分かってるわよ」「あらあら、うふふ」ガシッ ガシッ
「さやかちゃん!?」「あれ?またこのパターン?」
さやかがまどかを、仁美がほむらを羽交い締めにしている。
「悪いわね、まどかこれもアンタの為なのよ♪」
「嘘だよ!!口がビックリするくらいにやけてるよ!!」
「暁美さん大人しくしてくださいね♪」
「なんで私、自己紹介の度に捕まるんだろう」
そんな二人は教壇の前に連行された。
「さて、被告人鹿目まどか…君はリリカルな魔法少女をやっているという証言に間違いは無いか?」
「なんで私、裁判にかけられてるの!?というより、間違ってるのはこの裁判だよ!!」
「口答えしたな───鹿目まどか───
「理不尽過ぎる!!」
「次に、密告者暁美ほむら。……君は鹿目まどかのどこを見て魔法少女だと判断した?次の二つから選んで下さい」
クロトが黒板に書いた選択肢は
『桃色髪のツインテール』 『ピンク髪の二房結び』
「どっちも同じ意味だよ!!」
「えっと、じゃあ『桃色髪のツインテール』」
「暁美さん!?」
唯一の味方だと思っていたのは、敵だった。
「やっぱりな、そうだと思ってたぜ。魔法少女と言えば、ツインテールそこから連想されるのはリリカル」
「「「「「「魔法少女リリカルまどか…始まります」」」」」」
「やめてぇぇええ!!」
少女の悲痛な叫びが教室に響いた。
あれ?私の時って、こんな感じだったけ?
数分後
「さて、落ち着いた所で、まどかの罰。お前に俗称を付けてやる。」
「なんで暁美さんの自己紹介なのに私の俗称つけるの!?」
「なんでって、ほむらがせっかくお前に新しいキャラを考えてくれたのに、それを無下にはできんだろう?」
そう言ってクロトはほむらの頭を軽く叩く。
ほむほむ
「………なんか変わった音がしたな」
「……うん『ほむほむ』って聞こえた」
「私の頭どうなってるの!?」
「…よし!これでほむらのあだ名も決まったな」
「今ので!?」
ほむらの言葉も無視してクロトはホワイトボードに書き始めた。
『まどか 桃色の悪魔』 『ほむら ほむほむ』
(過去は────変えられないの?)
「ちょっ!?クロ君!悪魔ってどいう事!?って、皆もなんで納得したような顔してるの!!?」
まどかの疑問に、羽交い締めをしていたさやかが答える。…
「いやぁ……まどか。アンタって時々怖い笑い声するじゃん?『ウェヒヒヒ』って、その時結構、悪魔っぽいなって内心、思ってたよ?」
「そうなの!?初めて知ったよ!!」
「あのー、私…なんでほむほむ?」
またしても、その疑問に答えたのは羽交い締めをしている仁美だった。
「あら、それは簡単ですわ。
───魂が叫ぶのです。
ほむほむと呼べと、皆さんもそうですわよね?」
「ああ」「なんかしっくりくる」「前から呼んでるみたい」「ほむほーむ」
ほむらは改めて思った。
(……ああ、よかった。この世界、なんにも変わってないや)
こうして、ほむらの二回目の自己紹介は同じくほむほむで決まった。
投稿スピード…落ちるかも