~一時間前~
見滝原全域に、緊急避難勧告が発令された。
付近になんの前触れもなく、超大型のスーパーセルの前兆が突然発生したからだ。普通はこんな事は絶対あり得ないため、学者達は原因不明と答えるしかない
--だが、この街にいる魔法少女と魔導士は知っている。
今から来るスーパーセルが最大最強の魔女--ワルプルギスの夜だという事を… そんな彼彼女達たちは、川の岸でワルプルギスの夜を待っていた。
「まさか本当に来るとはな…ハァ来て欲しくなかったよ」
「そうだね。来ないなら来ないで平和に過ごせたのに」
「でも来てしまったものはどうしようもないわ。後はあれを倒すか撃退するかのどちらかなんだもの、避難所まで行かせる訳にはいかないわ--ところで暁美さんは?」
マミはクロトにほむらの事を聞く、何時もなら魔女の結界でも一緒に付いて来たが今日はその姿は無い
「アイツなら避難所に残して来ました。流石に最強の魔女相手じゃ護りきれる自信はなかったので」
「クロ君ヒドイよね。ほむらちゃん泣きながら行きたいって言ってるのに邪魔だ!来るなって言って置いて行っちゃうんだもん」
「バーカ、ああでも言わないと着いて来るだろ?----今回は…死ぬかも知れないし……な」
「そうねぇ、--あぁ~あ…もっとケーキ一杯食べておくんだった♪」
「マミさんまだ食べる気ですか?来る前に、1ホール食べたばかりじゃないですか」
「ケーキどこへ入って行ったんだよ」
ハハハ、とクロトとまどかは笑い声が漏れる--これから死闘が始まるとは思えない何時も通りの会話だった
「そう言えば、ほむらちゃんに告白は済ませたの?」
「……なんの事だ」
「ふふ♪周りはもうみんな知ってるわよ♪知らないの暁美さんくらいじゃない?」
「ハァ…いやしてねーよ。するとしたら----あれに勝ってからだ!!」
「そうね」
「うん!行こう!!」
--死闘が開始した
その頃、
~見滝原緊急避難所~
ザァァァザァァァ
そこには、ソファーで膝を抱え俯いているほむらの姿があった。隣にはキュウべぇも居て外の様子を眺めている
「……ねぇ…キュウべぇ」
『なんだい?ほむら』
「黒崎君達…勝てるかな」
ほむらは顔を上げ、キュウべぇと一緒に外を見た。分厚い雲は流れ、風は吹き荒れ木が大きく揺れている。まだ遠い筈なのにかなり影響が出始めている事がほむらの不安を更に煽った
『うん正直言ってかなり厳しいんじゃないかな』
「え?ど、どうして!?」
『理由は火力不足だからだ。ワルプルギスの夜は異常な耐久力と火力を持っていると文献に記されている。
それを考えてみると--クロトの能力は強力だけど破壊力がまだ無くてあれに効果があるとは思えない。次にまどかは一点集中の攻撃ならあの障壁を突破出来ても、魔女自身にダメージがあるかと言われると…微妙かな。最後にマミだけど手数が足りないね。使い魔の排除と二人のサポート、魔女への攻撃、他にもあるけどそれだけの事をすればソウルジェムが濁りきってしまうね』
「ッ!--い…や」
キュウべぇから語られる現実にほむらは顔を青くしてフラフラと立ち上がった
『どこへ行く気だい?』
「みんなの……所へ…行かなきゃ」
『そうか…止めはしない、けど』
そう言ってほむらは避難所の玄関に向かって歩いて行く、だがキュウべぇの一言で立ち止まった。
『クロトに邪魔だと言われただろ?』
「--…うん」
『実際、邪魔になると思うよ?相手は最強の魔女、君を護りながら戦える敵じゃない。だから彼は君にあんなことを言ったんだよ』
「それでも……私は…」
何かを決意すると、自分の首にかかっている三日月のペンダントを手で握りしめ、走って外に出ていった。
『やれやれ、やっぱり人間の考えてる事は--訳が分からないよ』
ほむらが走って行く様子を窓から眺めているキュウべぇは、何時もと違いなんの感情も感じさせない声でそう呟く
~見滝原・戦場地~
戦いは比較的ゆっくり始まった。サーカスのパレードのような一団に引っ張られてワルプルギスの夜はやって来た。
身体は上下逆さまで蒼い大きなドレスを着て、脚部は巨大な歯車、頭部は口しか無かった。
ワルプルギスが力を解放する。それだけで周辺のビルが浮き上がり、ワルプルギスの周りを漂って炎が踊っている。
「私は周辺の使い魔を倒しながらあなた達をサポートするわ!鹿目さんがワルプルギスの表面にある障壁を突破してクロト君はそこにマーキングしたクナイを刺すのよ!!そうすれば、私が直接攻撃できる」
「「了解!!」」
三人は二手に分かれた。そこにワルプルギスは黒い帯状の光線を放つ、当然三人は回避するが、光が分裂して使い魔に変化した。マミはマスケット銃で対応し、クロトは事前にマーキングしていたクナイを使い魔に投げ、それに転移して斬り倒し先に進んだ。まどかは矢を弦に宛がいながらクロトの後を追っている。ワルプルギスの障壁を破るため矢に力を溜めているから攻撃出来ないが、障害となる使い魔は遠距離からマミが、近距離からクロトが対応してまどかを守っている。
ふと、クロトのいる場所に影が差した。嫌な予感がして上を見上げると…
「…マジかよ--チッ」シュ
真上にビルが三つ迫っていたクロトはクナイを攻撃範囲外へ飛ばし、こっちに来るまどかに近寄り、肩を掴むとクナイへ転移した。
「大丈夫か?」
「なんとかね。それより次が来るよ!行こう 」
「ああ」
二人はビルや使い魔達の攻撃を掻い潜りながら進んで行く
そしてなんとか、魔女の頭上--歯車にもう少しで着くという時に、炎の槍が飛んできた
--チッ!後少しだってのに…盾があれば
「ん?盾か--やってみるか」
クロトは何かを閃いたのか炎に向かってクナイを投げ、もう一本を近くを漂っているビルに突き刺した。
「クロ君!早く逃げないと」
「まどか!今から盾と足場を出すからそれに乗って撃ち抜け!!」
「え?……分かった」
まどかはよく分からなかったが、クロトを信じ準備に入った
「いくぞ!!」
「うん!!」
クロトが能力を発動させる。--炎に向かっていたクナイが巨大なビルに変わて炎の盾となり、まどかはそのビルに飛び乗り弓を構えた
「貫けぇぇええ!!」
ビシュッ!!
ズッドオオオォン
「クロ君!!」
「おう!」
シュカカ キンキン
--クソ!二本しか刺さらねぇ!どんな障壁の展開速度だよ!?…だが攻撃は入った
「マミさんは?」
「もう来てるわ…それじゃ行くわよクロト君」
ジャキ
「ハイ」
スゥ
二人は向かい合い、マミは自分の必殺技の『ティロ・フィナーレ』をクロトに向かって構え、クロトもクナイを盾のように構えた
『ティロ・フィナーレ』
ズガァアン
「転移!」
フッ
ッドォォオオオン
クロトは迫り来る銃弾がクナイに触れた瞬間、銃弾をワルプルギスの歯車に刺さったクナイに転移させた。
こんな芸当が出来るのはクロトの写輪眼で銃の弾道を見切り、その動体視力で銃弾を視認できる眼があってこそだ。だからこそマミの必殺の一撃はワルプルギスの歯車に直撃させる事が出来たのだ
「……どうですかね」
「…分からない、文献によれば歯車が本体ではないかという話だから――ダメージは入った筈よ」
「煙でよく見えないよ」
ゴウッ!
「え?」メキッ―――カシャァァアアン
「「マミさん!?」」
――突然だった…俺達はワルプルギスに集中していたせいで、後ろから来る小型のビルの存在に気付かなかった…そのせいでマミさんはビルに直撃してしまい、なにかが壊れるような音がして魔法衣も解け地面に落ちていく
「おい!マミさんしっかり!!おい!」
「マミさん!…ねぇ――起きてよ――ねぇ」
慌ててマミを拾い上げたが――――…巴マミは動かなかった
「……まどか…一旦離れるぞ…」
「でっでもワルプルギスの夜が――」
「見てみろ…殆ど効いてねぇ」
「え?――そん…な」
まどかはワルプルギスの夜を見てみると――…歯車に亀裂が入っている程度でまだまだ余力がありそうだ
「とにかく、ここに居れば攻撃される退くぞ」
「う、うん」
二人は暗い空気のままマミを連れてその場を後にした。
~???大樹~
二人が降り立った場所は巨大な大樹で、木の上に街がある所だ。だが、二人はこんな場所は知らない、ここはワルプルギスの夜が現れた際にできた場所だ
クロトはマミを床に置くと状態を確認している
「ねぇ…クロ君…マミさんは?」
「――――――ダメだった」
「……マミ…さん」
マミは――――事切れていた
ガゴン キィィ
扉が開く音がした。二人が振り替えるとそこには、ほむらがいた
「みんな…どうしたの?」
「お前…どうしてここに来たんだよ――『だ、だって』来るなって言っただろ!」
「……ほむらちゃん」
まどかは涙を堪えながらほむらの方をみる
「鹿目さん!?どうしたの?――巴さん?」
「お前に…こうなって欲しくないから…来るなって言ったのに」
「そん、な……巴さん」
――その場を重い空気が漂った。まどかは涙を堪え、ほむらは泣きながらマミさんを揺すっている。
俺はそんな二人にどう声をかけていいか分からなかった…だけどこれだけははっきりしているワルプルギスの夜をこのままにしておけば、ほむらも――――死ぬ…それだけは……嫌だ!!――なら
「それじゃ…行って来る」
「え、そんな…巴さん…死んじゃた……のに」
「待ってクロ君…私も…行く」
「鹿目さん!?」
「……いいのか?」
「うん…もうワルプルギスの夜を止められるのは私達だけだから」
「そうだな」
クロトとまどかは立ち上がり、ワルプルギスの方を見つめた。その顔は迷いはなく怯えも無かった。
「無理よ!二人だけであんなのに勝てっこない……死んじゃうよ」
「それでも…私達、魔法少女と魔導士だから――みんなを守らなくちゃ」
「お前らが生きてくれるなら俺はそれでいいさ」
「…ひっく…逃げようよ…だって仕方ないよ…ひっく…誰も二人を恨んだりしないよ」
――ハァ仕方ない奴だな…まぁこういう奴だから…俺は……
「あのな、ほむら…お前には大切な人はいるか?」
「……グス…うん」
「俺もだ、だから人は大切な何かを護りたいと思った時に、本当に強くなれるもんなんだよ。今俺がそう感じているようにな」
「そうだね。私もそう、私ほむらちゃんと友達になれて嬉しかった二人が魔女に襲われて…間に合って……今でもそれが自慢なんだ」
「だから、お前を護れただけでも俺は魔導士になって良かったと心から思うよ」
「黒崎君…鹿目さん…」
「さようならほむらちゃん…元気でね」
「ほむら…お前は生きろ…それと――――……だった」
二人はそう言い残し、ワルプルギスの夜に向かって飛び立った
ほむらの二人を呼ぶ声は空に消えていった
「ウェヒヒヒ♪クロ君ズルいね最後の最後に告白なんて♪」
「あーアイツに悪い事したかな?後悔しないように言ったけど」
「大丈夫だよほむらちゃん強いもん」
「知ってる…なら大丈夫かな…で、別に付き合う必要はねぇんだぞ?これは俺が勝手にやってる事だ。お前は逃げれ――」
「逃げないよ」
「……そうかならいい…さて、派手に逝きますか」
「そうだね。出し惜しみ無しだよ」
「「はああああぁぁぁぁ!!」」
黒と桃色の閃光はワルプルギスの夜に突撃していき、辺りを眩い光が覆った
~神層界~
「お父様ー!大変です」
「なんだ?急に書類仕事は終わってるぞ」
「あの写輪眼の子がもう死にかけてます。」
「……早くね?まだ二十年も経ってないぞ」
「お父様――死にかけたら会いに行くと」
「ああ、言ったな…約束だから行くか」
「はい」
――運命は動き出す――
次回、別れの時です
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