~放課後~
学校も終わり、さやか達と別れたクロト達は魔女狩りの為に屋上に集合する事になった。着いてみると夕陽が差し込み屋上を照らしており、マミは既にキュウべぇと共にベンチでクロト達を待っていた。時間もあまり無いので、挨拶もそこそこに早速説明に入る。
「それじゃまずは、魔女を見つける事からね。クロト君ソウルジェムを出してちょうだい。」
「はい」
クロトは、マミからの指示通り指輪状態のソウルジェムを卵型の宝石に戻して手に置いた。深紅の宝石に光沢のある黒い装飾が施してあり、頂点には勾玉が飾ってある。
「これがクロ君のソウルジェムかぁ不思議な色と形だね」
「綺麗…ルビーみたいだけど、どこか違う」
「魔法少女と魔導士の違いがあるのかも知れないわね」
『クロトという魔導士自体の前例が無いから、なんとも言えないけどね』
「まぁその事はまたいつか調べてみるとして、ここからどうするんですか?」
「あぁ、ごめんなさい。…それじゃ街に行きましょうか。そこで詳しく説明するわ」
そして四人は都心に向かって歩を進め、屋上を後にした。
~見滝原工場群~
海に浮かぶ人工島に、巨大なパイプが絡まり合って出来ている工場がある。
無数の薬品やオイル、水蒸気等で複雑な匂いを放っており、普段でも誰も立ち入らない場所だ。
そこに営業時間を過ぎて無人となり、ライトで照らされている工場内で彼ら彼女達(+獣)の姿があった。
三人は手に、それぞれ違う色の宝石を乗せて緊張しながらその後を追っていた。
キィーン…キィーン
「………この近くね」
「これが魔女の気配の反応か」
「いつもより反応が強いですね」
「こんな場所に…魔女が…」
──マミさんの説明によると、魔法少女は基本的に魔女の残した痕跡をソウルジェムの反応を頼りにして魔女を追うらしい。
魔女が呪いを周りに撒き散らすと大分部が自殺や交通事故、障害事件を起こす為、そういった事が起きやすい場所を捜すのが魔女を見つける上で大切なことだと教えられた。
少し前、繁華街で障害事件があり現場で魔女の痕跡を捉えた俺達は、こうして工場の奥に行く事になった。
キィンキィンキィン
「───ここね…」
暫く歩いて工場の奥まで行くと、マミが一本のパイプの前で止まり呟いた。
三人が見てみるとパイプに鳥の絵があり、目が三つ足が六本の怪物が描かれていた。
「これが結界の入り口か」
「そうだね…ソウルジェムの反応をみる限り、強いよ」
「三人もいるんだもの大丈夫よ」
「そうですね……それより───ほむら、お前これから先、着いてくるつもりか?」
クロトはそう言ってほむらの顔を真剣にみつめた。
よく見ると、マミやまどかもほむらの答えを聞いている。
「え?どっどうしてっ!?」
『………僕もクロトに賛成かな』
「キュゥべえまで!?……なんで」
『この先は、魔女と魔法少女の世界だ。
なんの力も持たない人間では、喩え護衛の魔法少女が居たとしても、命の保証は出来ない』
「でも……私は…」
「ほむら、思い出せ!…昨日使い魔に襲われた時、俺達は何も出来なかった。
あの時は、何とかまどか達が間に合ったが、間に合わなければ俺達は死んでいた……だから、ここは俺達に任せてお前はこのまま家に帰れ」
「───そんな…」
ショックを受ける彼女に、見守っていた二人は肩に手を置いて慰めるように言う。
「別にここで帰る事は、恥じる事じゃないわ。命の危険があれば誰だって怖いものよ」
「そうだよ。───だからここは私達を信じて」
「…………」
三人はそう言ってほむらを残し、魔女の結界に向かって歩き出した…しかし、
ドサッ
「「「?」」」
「っ…ひくっ…ううっ」ポロポロ
「ほむら!?」
振り返って見てみると、
ほむらが座り込み声にならない声で────泣いていた。
慌てたクロトは、急いで駆け寄った。
「どっどうした!?どこか痛いのか?」
『お願い…ひくっ一人に…しないで…』
「うっ……ッ…」
──女の涙は最強の武器…か、よく言ったもんだ。
「………ハァ…ほら」
クロトは困ったといった様子で手を額に当てて、暫く顔を隠していると、
仕方ないと、ほむらの方に手を差し出した。
「…え?」
「出来る限り護ってやるから…行くぞ」
「───…うん」
頷いたほむらはクロトの差し出された手を取り、涙を拭って立ち上がった。
「やっぱり連れて行くのね」
「すみません。俺が護るんで、なんとか一緒に連れてってやれませんか?」
「ふふ♪なんとなく分かっていたから大丈夫よ♪
───ただし!女の子なんだから怪我させちゃダメよ?」
「もちろん」
「よろしい♪ それじゃ行きましょうか」
「「はい!!」」
三人は光に包まれ魔法衣に変身した。
まどかはピンクのフリルとリボンをふんだんに使ったいかにも魔法少女といったような格好で、首にはチョーカーに変化したソウルジェムが、手には薔薇の蕾が先に付いた杖のような物が握られている。
マミは黄色いスカートに、ブラウスにコルセットを巻き、女性らしさを強調している。頭にはベレー帽を乗せ、花の髪飾りに変化したソウルジェムが付けられていた。
クロトは黒を基本にしたレインコートで、赤い雲が描かれている。首には、勾玉に変化したソウルジェムが、瞳は既に写輪眼になっている。
~結界内部~
結界内はそこかしこに鳥籠が並び、その中に不気味な人形が入っている光景が広がっていた。
そして当然、そこにはカラスの胴体とペリカンのような頭の使い魔の姿もちらほら見える。
そんな異形な、気味の悪い空間を進むクロト達の姿があった。
「しかしこうも気持ち悪い景色ばかりだと気が滅入るな」
「仕方ないわ。そんなの気にしてたら魔女退治なんて出来ないもの」
「そうだね。私はもう慣れちゃった…でもほむらちゃんは危ないかな?」
「だ、だいだじょうぶ」
「全然大丈夫じゃねーよ」
さっきからずっと鳥籠の中の人形にビビり、ガチガチになっているほむらがいた。
だが、そんな彼女の恐怖の感情に反応したのか使い魔達が襲ってきた。
「気付かれたわね。ちょうどいいわクロト君、暁美さんは私達に任せて!
貴方は使い魔を倒してみなさい。練習がわりよ」
「了解!!…は、いいんだけど、実際どう戦えばいいんだ?」
『君の願いは『空間跳躍』だからね。君の頭の中のやり方でやってみるといい。
制限を付けた方が能力を使いやすくなるけどね。武器については念じれば出てくるよ』
「自分のやり方…ねぇ。…武器はなんだろ」
クロトが手をかざすと、一本のクナイが出てきた。
ソレは三ツ又に分かれて真ん中が二つより長く刃が付いた、普通とはちょっと違ったクナイだ。
「あれ?このクナイ確か…試してみるか」
構えると、使い魔が前後からくちばしを向けて突進してきた。
それをしゃかんで避けると、手に持ったクナイで二匹纏めて斬り払う。
仲間がやられた為か標的はクロトに集中した。
360度からランダムで突進してくる使い魔をクロトは冷静に捌いていく。
そして捌いて出来た隙を突いて斬り、前と横から同時に攻められれば二本目を出して頭に突き刺し、それを踏み台にして飛び上がり上空にいた使い魔を仕留め、八匹来れば両手に持ったクナイで体を回転させ斬り倒す。
そんな戦い慣れた様子のクロトに、マミとまどかは驚く。
「凄い…初めての動きとは思えないわ。何か武道を習っていたのかしら ?」
「私、幼馴染みですけどそんなの聞いた事無いです」
「速すぎてよく分からない」
戦っていたクロトは突然ほむらの方を見て、手に持っているクナイをほむらに向かって投げつけた
「!?なにを」
「クロ君!?」
「え?」
三人が突然の事に驚き、クロトから視線を外し、クナイを見た。
ほむらに当たると思われたクナイは────クロトになった
「「!!」」
二人はそれを見て硬直し、クロトはほむらを抱え、後ろに飛んだ、すると直後にほむらがいた場所に使い魔が刺さっていた。後少し遅かったらほむらは死んでいただろう、クロトはとどめをさして二人に向き直ると呆れながら言った。
「二人共しっかりしてくれよ。危なかっただろ」
「どいうこと!?クロト君が武器を暁美さんに投げたかと思えば、武器がクロト君になるなんて」
「それよりクロ君、危ないのはこっちの方だよ!
なんでほむらちゃんにそれを投げたの!?後、使い魔は?」
「一辺に質問するなよ」
「???」
ほむら自身は、まだよく分かっていないようだ。
五分後、なんとか冷静になった為簡単に説明する事になった。
「まず貴方のあの戦い方は誰に習ったの?あれはとても初めて戦ったようには見えなかったわ」
「いえ、初めてですよ何も習った事もないです。
でもこの眼になってる時って、凄いよく見えるんですよ。
動体視力も上がっているみたいで、攻撃を避けるのも簡単ですし。
……で、あの動きは、その…夢で」
「夢?」
「ええ、ここ最近よくあんな戦い方をする夢を見るんです。
それを頭の中でトレースしたら自然に出来てしまって」
「……まぁいいわ。次にどうして暁美さんに武器を投げつけたの?危ないでしょう」
「これを見て下さい…わかるかな?」
そう言い新しく出したクナイを皆に見せるように手に置いた。
持ち手の所になにやら文字のような物が書かれている。
「なにこれ?魔女の文字とはちょっと違うし───ダメ分からない」
『なるほど、これが君の願いの使い方か。確かに、これなら制限もあるし戦いにおいても有利に事を進められるね』
マミは分からなかったが、キュウべぇは大方理解出来たようだ。
「どういうこと?」
『彼はね。クナイにマーキングを施していたんだよ。
この印を目印にして空間を飛べるようにね。彼が彼女にクナイを投げたのは、君達が気付いていなかった彼女の頭上にいた使い魔に気付いた。だから間に合わないと判断して、クナイと彼の位置を入れ替えることで、彼女を護ろうとしたんだよ』
「え?私、危なかったの?」
『彼があそこから君を退かさなければ、死んでいたね』
ほむらの顔がサーッと青ざめていく。
「「…ごめんなさい」」
「ア、アハハ」
二人は素直に、ほむらに謝った
『でも、この能力には欠点がある』
「欠点?かなり凄い能力みたいだけど」
マミがキュウべぇにそう言った。当然だ。この能力は相手に奇襲を仕掛けられるし、攻撃の回避も容易に出来るだろう。
常に相手に対して先制攻撃というアドバンテージが取れるかなり強力な能力だ。
『彼が空間転移を行うには、この印が必要だ。だがそれは彼の手で触れて刻まなければならない。だから手に持っている物を警戒すれば、防御することも出来るし転移先のクナイを破壊されれば飛ぶ事は出来ない』
「よく見ているなキュウべぇ。そこまで分かるとは思わなかったぞ」
『まぁね♪でも初見では分からない上に、どんな攻撃でも容易に回避出来るこの攻防一体の能力は実戦において間違いなく力になるよ』
話も終わり、四人は再び結界の奥を目指す。───その道中、
「黒埼君」
「ん?どうした」
「あの…ゴメンね迷惑かけて…」
「気にすんな」
「で、でも」
「言っただろ?『護る』って俺は約束を守っただけだ。───それにそこは『ありがとう』だろ?」
「……うん…ありがとう」
「おう」
~結界最深部~
その後も使い魔を蹴散らしながら結界を進み、鳥籠の入り口のような扉の前に到着した。
「ここみたいね…みんな大丈夫?」
「私はそんなに戦ってないですよ」
「俺もまだ余裕かな」
「わ、私もハァ大丈夫ハァですハァ」
「ううん、かなりギリギリよ。
───まぁよく頑張ったわ貴女はここで見てて、後は……私達の仕事よっ!!」
──扉が開く--通り抜けるとそこは部屋全体を埋め尽くす鳥籠があったその中には今まで戦っていた使い魔が一匹ずつ入っており、部屋の中心には結界の入り口に描いてあったような三ツ眼に六本脚の魔女が止まり木で、此方を見ていた。
魔女クリぺスティー
『この魔女は鳥の魔女クリぺスティーだね。性質は臆病』
『キュラアアァァアアア!!』
魔女が鳴くと鳥籠の扉が開き使い魔が魔女を中心に集まっていく
「うわぁ…デカイな」
「マミさん……これどうやって倒すんですか?」
「そうねぇ…………どうしましょ?」
魔女は使い魔で隠れ、全長二十メートル以上の怪鳥に姿を変えた。
『惑わされないで!見た目は大きくても魔女はこの中の一匹だ!!』
「この中って、……これだけの数の中からどうやって…」
「とりあえず攻撃しましょう」
「やるしかないか」
三人は三方向から攻撃をしていく。だが、魔女は使い魔を盾に攻撃を防ぎ、防いでいる間に別方向から使い魔を飛ばし攻撃してきた。
「うわわぁ」「きゃあ」「くっ!」
「マミさんダメ!魔女まで攻撃が届かないッ!!」
「…なら防御を貫くまでよ」
『ティロ・フィナーレ』
だが、魔女は体を変化させ銃弾を避けた。
「嘘っ!?」
「ちっどうすれば……ん?あれは───マミさん、まどか!」
「クロ君どうしたの?」
「早く倒さないと」
「さっきマミさんの攻撃をかわした時、最初見えてたあの魔女が見えた。だからなんとか、あそこから魔女を引きずり出して攻撃出来れば──」
「でもどうやって?」
「……俺に考えがある協力してくれ」
クロトは二人に作戦を伝えると準備にとりかかった。
「じゃあまどか頼む──マミさん!」
「ええ、分かってるわ行きなさい」
「了解!!」
クロトは魔女に向かって突撃していく。
襲ってくる使い魔をかわしながら魔女の懐に潜り込んだ。
「今だ!!」
『ティロ・フィナーレ』
当然魔女は体を変化させる。
だが、懐にいたクロトが飛び上がり魔女を捉えていた。
「そこか!」シュ ドスッ!
『キュラ!?』
魔女の体にクナイが突き刺さる
<まどか。準備は?>
<出来てるよ。何時でもどーぞ!!>
事前に教えて貰った念話で返事が返ってきた。それを聞いたクロトは能力を発動させる。
魔女から少し離れた場所で、まどかはいた。
弓を構え、使い魔が入っていた鳥籠に狙いを定めて待っている。
籠の中にはクロトから分かれる前に渡されていたクナイが入っていた。
「このくらい魔力を籠めれば大丈夫かな?」
<まどか。準備は?>
「来たっ!!」
<出来てるよ!何時でもどーぞ!!>
フッ
籠に入っていたクナイが魔女に入れ替わった。
『!!?』
「これなら逃げられないでしょ?」
『キュラララアアァ!?』
「バイバイ♪」ピシュ
ズガアアアァァアアン!!
こうして、鳥の魔女との戦いは終わった。
何故か新しく書くたびに文字数が増えて行くのですが、どうしたものか