魔法少女まどか☆マギカ~心を写す瞳~   作:エントランス

1 / 56
初投稿です。


事が始まる前

事が始まる前

 

~神界層~

 

そこは人の住む世界の壁を隔てた場所にある遥か次元の彼方。

生と死、幻想と現実、善と悪が入り交じるこの世界は千差万別、様々な神が産まれ育ち、幾千幾億もの世界を見守り、気まぐれにいたずらをする事もあれば時にはほんの少しだけ手助けしてくれる、そんな場所。

そしてその世界の中央に聳え立つ空を貫くほどの巨大な大樹の根元で、一人の着物姿の男が怠そうに胡座をかきながら水湧き出す泉を眺めていた。

 

 

『僕と契約して魔法少女になってよ』

 

 

───………やっぱ訂正、アニメを観ていた。

 

「ふぁ~……ハァー……………世界、滅びねぇかなぁ…」

 

やる気も覇気も無く、面倒臭さ気に大きな欠伸を漏らしながら物騒な事を呟くこの男。

マダニ(まるで駄目なニート)のようだが、神のみが存在するこの世界では当然の事ながら、(れっき)とした───神である。

 

因みに、この神が眺める泉───ウルズの泉は傍にある世界に通じる大樹を育む泉。

ということは、今この神が見ているアニメと思われる水面像は下界で現実に起こっている…つまりは異世界に通じる門でもある。

だが悲しきかな。娯楽の少ない神界層では、現在ウルズの泉は単なる神々のアニメ視聴覚室となっているのが現実だ。

(近場にある知識の泉ミーミルにいたってはウ○キペディア扱い)

 

だからその世界を滅ぼそうと思えば泉に干渉すればいいだけで、神にとってはライターに火を灯すよりも簡単な事だ。洒落にならない。

そうしないのは一理に、そもそも神々にそんな気はない。

悠久の時を生きる彼らにとって、良くも悪くも変化のある下界の風景は新鮮で面白いのだと言う。だからちょっとした悪戯はするが、助けたりもする。

 

本当に気まぐれだ。

まぁ基本的に異世界の干渉は、彼らの始祖──最高神によって禁止されているが、中身は思春期の中学生みたいな神ばかりだから、言いつけを守れているかどうかは分からない。

 

いや、絶対守れていないのだろう。

何故なら───

 

「それに、コレ(・・)どうすっかなぁ」

 

懐から取り出した神の掌にある“コレ”は、明らかに禁止されているモノだからだ。

 

「……しゃーない。親父(最高神)に怒られるのヤだし、元に返して────」

 

だが、元々貰い物であるそれはこの神にとってデメリットでしかないもの。どう考えても父親である最高神に説教されるのは目に見えている。

そう思い、着物姿の神は長い間腰を降ろしていた柔らかな草花から重い腰を上げ───。

 

「なにやってんですかぁっ!!」メリメリッ

 

「ん?──ウプッ」ポロッ────ポチャン

 

ズザアアァァ

 

……ようとしたが腰を上げた直後、軽装な騎士甲冑姿をした背中に羽を生やす端整な顔立ちをした美少女──この神の創造物である天使が、アニメを観ていた創造主である父親の顔面に強烈なドロップキックをかます。

 

「ぐおおおっ!? ……お、お前なぁ、自分を創ってくれた父親に対していきなりドロップキックするか普通!?」

 

「こんな忙しい時に、十年以上もアニメを観ているお父様を見れば、キックの一つや二つ、したくもなりますよっ!!」

 

痛みで地面を転がる父親を後目に、天使はそう言って深々と溜息を吐き、空を仰ぎ見ている。

 

「ん? そっちで何かあったのか?」

 

「ハァ……実は今、他神話の方達の間で、御自分が死亡させた人間を書類ミスと称してアニメの世界に転生させるのがブームになっていまして。最高神様が留守にしているのをいいことに、転生システムが許可無く乱用されまくっているんです。だから現在、転生システムが過負加でオーバーヒート気味になっているんですよ。

そのせいで、関係無い部署の私までメンテナンスに駆り出されるハメに……ハァァァ…」

 

過労気味な様子の天使は再び溜息を漏らし、腰の布袋から神印と書かれた栄養ドリンクを取り出すと、カシュッと開けてグイッと飲み干す。

……なんだか明け方仕事で疲れ果てた中年オヤジみたいだ。

しかし、天使の説明を聞いた神は、娘の説明で納得したようにポンッと手を叩き、

 

「ああ、それでか」

 

「え?」

 

「さっきまでオーディンの爺さんもここで『NATUTO』観てたんだけどな? 急に、『キタコレ! これで他神話の主神どもに負けない最強の転生者が……』とか言って、勝手にその世界に干渉して神宝を創造しまくってた。で、なんか『コレはアイデアの礼じゃ。完成品をやるわい』とかで貰ったんだけど…」

 

「……」

 

天使は無言で着物の襟を掴み────締め上げた。

 

「グェ!?な、何しやが──」

 

「渡しなさい」

 

「……は?」

 

「こんなバカ忙しい時に、お父様まで転生ブームに乗っかってしまったら私もっと忙しくなるじゃないですかァァァ( ;∀;)!!」ガクッガクッ

 

「うおっちょっ! 待っ!! ──痛い痛いッ!!」

 

「もう三百年近くも寝て無いんですよぉ~( ;∀;)!?

お肌荒れたらどうするんですかぁ~っ!!!」

 

三百年も無休で働き続けられる辺り、流石は神の眷属といったところか。

しかしそれより、なにやら神の頸椎の辺りから骨の擦り合わせる様な変な音がしてきた。

自分の娘に首の骨を折られるのは敵わんと、慌てた神は、

 

「わ、分かった!! やるから離せっ!!」

 

仕方無しに、此方から折れる事にした。

まぁ、元々返す予定だったので手間が省けたと思えば丁度良かったのだが。

 

「本当ですか!? ハァ……良かった。そうと決まればさっさと出して下さい!!」

 

「ったく、現金な奴だな。親の顔が見てみたい…………あれ?」バッバッ

 

「どうなさいました?」

 

「神宝が無い」

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 

しばらくの間、二人とも沈黙し……。

 

「あふん」パタッ

 

天使は倒れた。

:

:

:

:

そして天使の意識が戻り、オーディン主神が創造した宝具─神宝を探す為、神が閲覧権限のある娘に頼み、アニメを観ていた時間に過去視を行い覗いてみれば。

 

 

『なにやってんですかっ!!』メリメリッ

 

『ん?──ウプッ』ポロッ───ポチャン

 

ズザアアァァ

 

 

「…………おいバカ娘、テメェのせいじゃねぇか」

 

「…………スイマセン、お父様」OTL

 

手元にあった神の宝、神宝はその時観ていたアニメ。

『魔法少女まどか☆マギカ』の世界に繋がっていた泉の中に落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ~……面倒くせぇなぁ。

基本的に、下界に手を出すのは神の仕事じゃねーんだけど」

 

「アハハ……ハァ、他の方達は下界を荒らし過ぎですけどね」pipipipi

 

父親と話す傍ら、天使は空中に展開された近未来的なタッチパネルを高速でタッピングし、最高神に下界を干渉する許可を貰ったり、情報の書き換えなどと忙しなく操作している。

 

「ったく、本来神様ってのは何もせずに偉そうにしてるのが仕事みたいなモンだろうに」

 

「そうですねー。何もしないでいてくれた方が私達も楽ですし───っと、追跡出来ました。ええと、現在、神宝はこの次元の新生児室の新生児の魂に……って、あぁ!? ま、まずいです!! 神宝がこの子の魂に魂魄レベルで融合してまってます! か、回収出来ませんッ!!」

 

泉には出産直後の赤ん坊が寝苦しそうに、呼吸を荒くして眠っている姿が映っていた。

 

「…俺達の創る“転生者”の肉体なら兎も角、こんなひ弱な赤子じゃ器である肉体が持たない、か……。チッ、仕方ねぇな。俺のミスで死なせる訳にもいかねぇーし、何も知らない赤子なら丁度いい。少し造り変えてやるか。いいな?」

 

「また忙しくなりますけど……私のせいでもありますから。

────それで、どの様にするんですか?」

 

「まずは肉体方面からだな。今のままだと強すぎる負荷で寿命が減るから、それに耐え抜ける器の身体能力強化の付加。勿論、不自然に成らないよう年齢に合わせてな」

 

「了解────強化付加……完了」

 

天使は泉に手を入れ身体全体から淡い光を放つと、泉に映る赤子は同じ様に淡い光に包まれ、荒かった呼吸は次第に治まっていく。

 

「次は……そうだな。いま軽く調べたが、あの神宝には精神の侵食する特性があるらしいみたいだ。おまけに、放っておいたら所有者の心を蝕んで闇に落とそうとするタイプか。……よし、魂の周囲に負の感情を跳ね退ける結界と精神力の強化を」

 

「了解────結界展開、及び精神の強化最大……完了」

 

再び天使の身体は淡く光り、赤子に蒼い光の玉が吸い込まれた。

 

「後は……そうだな。神様の侘びらしく、本人が死にそうになったら願い事の一つくらい叶えてやるか」

 

「神権の行使ですね。分かりました許可を貰ってきます。……それにしても、お父様」

 

「なんだ?」

 

「この子の魂に融合してしまった神宝って何ていうんですか?」

 

天使からの問いに、神は腕を組んで難しそうな顔をし────告げる。

 

 

 

「……心を写す瞳───『写輪眼』だ」

 

 

 

───こうして少女の絶望しか無いその世界に『写輪眼』という新しい力が組み込まれた 。

 

幾多の時を巡る、この赤子と少女達、写輪眼と魔法が交差し始めた世界。

 

その結果がどうなるか────まだ誰も知らない。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。