起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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第八十七話:0079/10/09 マ・クベ(偽)と宇宙軍

やあ、皆、ご機嫌いかがかな?マ・クベだよ。ちょっと寄り道の予定が早くも一週間が経ちまして、そろそろオデッサで積み上げられているであろう仕事が不安になっています。ただ、そんな不安が気にならないくらい、今とても規則正しい生活を送っています。

具体的に書くと、朝起きて訓練して飯食って訓練して、技術部と打ち合わせして訓練して、昼飯食って訓練して運び込まれた装備のテストして訓練して、夕飯食って訓練して風呂入って寝る。なんて生活をこの三日続けています。

一日の半分以上がコックピットで終わっている気がするし、昼飯もサンドイッチをコックピットで食っていた気がするが、スケジュール的には規則正しい生活である。規則正しいが健康的であるとイコールで無い事を俺は改めて実感した。

 

「お早うございます大佐!さあ、今日も一日頑張りましょう!」

 

「ああ、お早う。今日も元気だね、少佐」

 

ホント早いよ、起床時間ジャストにドアノックするとか一緒に来てたイネス大尉すら顔引きつらせてたからな。それにしても少佐もほぼ俺と同じスケジュールの筈なんだが、まったく疲れている様子は無い。いかんな、俺も上官としてしっかりしないと綱紀に関わる。

それどころか、ぐったりなんてしてて、え?あのくらいでへばってんの?やっぱ総司令部付とかヒョロガリ陰キャの集まりですわー、プークスクス!とか笑われてみろ。ギレン総帥の耳に入ったら俺の査定に響きかねん。ただでさえ評価がマイナススタートなのだ、少し無理をしてでも挽回せねばならぬ。そんな埒もないことを考えている間にも、キビキビした動きで斜め後ろから付いてくるイネス大尉が、あれこれと連絡事項を伝えてくれる。でかい声では無いのに良く通る聞きやすい声だ。こういうのも才能なんだろうな。基地に帰ったらエイミー少尉に是非伝授して貰おう。

 

「ランウェイ大佐より改良型のロケットが届いたと兵站部より連絡が来ています」

 

「流石大佐は仕事が早い。例の機体の方は?」

 

「試作機が現在動作試験中です。設計データは既にソロモンの工廠へ送付済みとのことです。その件でフロウ技師より相談したいとの連絡が来ています」

 

デニスさんと会うのも3ヶ月ぶりか。しかも会って早々無茶振りの打ち合わせとか、少々胃腸に悪いんじゃないだろうか?

 

「承知した、朝食後向かうと伝えてくれ。それから例のロケットの試験もしておきたい、第2演習場の使用許可と、適当な標的の準備を頼む」

 

「その後は昼食を挟んで教導隊との実技訓練、夕食になり、その後2100までシミュレーターでの新兵教導となります!」

 

そうか、また訓練か…ん?

 

「アナベル少佐?何故君が私のスケジュールを管理しているのかね?」

 

俺がそう聞くと不思議そうな顔で首をかしげる少佐。うん可愛い、けど今それは重要じゃ無い。ちょっとした沈黙の後、アナベル少佐は、得心がいったのか良い笑顔でハキハキと答えてくれた。

 

「大佐がソロモンに滞在する間、大佐のお世話をするようドズル閣下より命じられております」

 

ああうん。まあ、宇宙軍の中じゃ君とシン少佐が一番近しい間柄だからね。その人選は不思議じゃ無い。デミトリー准尉は従兵としての教育は受けてないだろうし。

 

「でありますから、大佐にお力添えをするべく、微力を尽くしております!外部や司令部とのスケジュール調整はイネス大尉が担当しておりますから、ソロモン内の事柄につきましては私が担当しております!」

 

お 前 が 原 因 か 。

 

「少佐、少佐。ドズル閣下の仰っているのは、私がソロモン内の生活で不都合の無いようサポートをしろ、と言う意味に見受けられるのだが?」

 

まかり間違っても訓練漬けにしろなんて言ってねえだろ。良かった、よーし今日はゆっくりデニスさんとホルニッセ談義で盛り上がっちゃうぞ!あ、折角だからネヴィル大佐にも声かけてビグロの件も併せて話したら良いかもしれない!ふふ、そうだよ、俺は事務方なんだからこうやって裏でコソコソする方が似合ってるんだって。

そんな風に一人決めてニヨニヨ笑っていると、困った顔になったアナベル少佐が口を開く。

 

「はい、大佐。しかしドズル閣下より可能な限り大佐を訓練に参加させるよう指示が出ております。それからイネス大尉からも、空き時間を与えるとトラブルを起こすので、可能な限り訓練で拘束するよう提案されております」

 

イ ネ ス 大 尉 お 前 も か 。

 

「…君達は私を歩くトラブルメーカーだとでも勘違いしているのじゃ無いかね?」

 

「はい、いいえ大佐殿。正しくトラブルメーカーであると認識しております」

 

「目を離した隙に、夕食の食堂でホットドッグの早食い競争などをして兵士を三人医務室送りにしたのはどなたでしたでしょう?二度とやらせるなと医療部と主計課から苦情を頂いていますが?」

 

「…レクリエーションだよ」

 

イルマリ・ユーティライネンなる中尉は強敵だった。彼がホットドッグにはコーラという信念を持っていなければ、医務室に運ばれていたのは俺の方だっただろう。強敵(とも)との熱い接戦を振り返っていると、二人はみるみる半眼になっていった。なんだよ、そのダメだコイツ的な視線は。

 

「少佐、申し訳ありませんが、引き続きソロモン内でのスケジュールについてはお願い致します」

 

「承知した、大尉。なに、ここ数日で大佐のオレンジ色は兵士達の間で大人気だからな。訓練を組む相手に困ることは無い」

 

おっかしいなあ。大佐って大尉や少佐より偉い筈なんだけどなあ?俺が不満げに見ると二人は笑顔で振り返り同時に口を開いた。

 

「「何か問題が?大佐?」」

 

ハイ、ナニモ、モンダイアリマセン。

 

 

 

 

「ふん!流石良い動きをする!」

 

逃げ回るオレンジ色のザクを見ながら、ランバ・ラル大尉は獰猛に笑った。成程、これだけの腕ならば、レクリエーションとは言えあの三人と引き分けたのも頷ける。

 

「クランプ!釣られるな!」

 

叫びながらビームライフルでザクの向かっていた先のデブリを撃つ。即座に鋭い応射と爆発したデブリから離れるスラスター光が確認出来た。

 

『た、助かりました。大尉』

 

そうクランプが安堵した瞬間、同じ場所から再度ビームが放たれ、クランプに随伴していたアコースのザクが吹き飛ばされた。

 

「ちっ!小癪な!」

 

そう叫んだ瞬間、ランバ自身のゲルググにもロックアラートが鳴り響き、瞬間的にスラスターペダルを蹴り飛ばした。即座に先ほどまでいた場所が上方向からのビームによって薙がれ、カメラを向ければ3機のゲルググがこちらに向かって突っ込んでくる。

 

『大尉!』

 

「ロッテを崩すなステッチ!ギーン!ステッチをカバーしろ!」

 

ゲルググの性能を把握できていないステッチ伍長がこちらのカバーに動いたためギーン軍曹との連携が崩れる。そこを見逃してくれるほど教導隊は温くない。こちらが別働隊の3機に拘束されている内に、一般機のそれを大幅に上回る速度で突入してきた緑とブルーで塗装されたゲルググがすれ違いざまにギーンのザクを切り捨て、追う形で慌てて旋回したステッチのザクをビームライフルで撃ち抜いた。

 

「こりゃあ、負けたな」

 

何とか1機をランバが仕留めた時には、既にクランプの小隊は全滅。一般カラーのゲルググを伴ったオレンジ色が、ツートンカラーのゲルググと挟むようにこちらに迫っていた。

 

 

 

 

「青い巨星の隊をこうもあっさり墜とせるなんて…流石ガトー少佐だ」

 

ここ数日研究チームに参加している大佐のおかげで、小隊戦では留守番を言付かることの多いビスレイ伍長は、ソロモンでも上位を争っているランバ・ラル大尉の隊が、一方的に撃破される一部始終を管制室で見ることとなり、戻って来たメンバーの前で思わずそう洩らした。

 

「バカ、ビスレイ伍長。お前管制室に居たのに解らなかったのか?」

 

「ありゃ、少佐が好き勝手動けるよう、もう片方の小隊を押さえ込んだ大佐の腕だよ」

 

そう言って訓練に参加していた先任達は笑った。正直に言えばビスレイは、あまりにも鮮やかにゲルググを操るアナベル少佐の機動に見入っていて、大佐の乗るR-2にはあまり目がいっていなかった。

 

「いや、でも少佐もすげえわ、あの高機動用バックパック、受領したの昨日だぜ?もう使いこなしてるよ」

 

「昨日の夜大分遅くまでシミュレータールームに籠もってたからなぁ…大佐と」

 

「そうか…ちょっと後ろから大佐撃ってくる」

 

「止めとけ、俺らの腕じゃ返り討ちに遭うだけだぞ」

 

「大佐って、そんなに凄いんですか?」

 

あまりにも先任が褒めるものだから、ビスレイもついそう聞いてしまう。その台詞に返って来たのは盛大な溜息と残念なものを見る目だった。

 

「あのなぁ、ビスレイ。お前が少佐一筋なのは知ってるがもっと広くものを見ろ、じゃないとあっと言う間に死んじまうぞ?」

 

「宇宙じゃ全方位に気を配るもんだ。お前の一途さは美点だが、パイロットとしてやっていくならそれじゃ駄目だぞ」

 

「お前がそんなんだからいつも少佐の小隊に配置されるんだよ、妬ましい」

 

散々な言われようにビスレイがむくれていると、一足先にこちらへ戻って来たカリウス軍曹が笑いながら口を開いた。

 

「どうしたんですか?またビスレイ伍長をからかっているんですか?」

 

「いやいや、コイツがあまりにも少佐の尻ばかり見ているからちょっとパイロットの心得をね」

 

「コイツ、大佐のすごさが全然理解できてないんだ、カリウスからもなんか言ってやってくれ」

 

その言葉に顎へ手をやって思案顔になると、カリウス軍曹はシミュレーターのリプレイを流すようオペレーターへお願いし、穏やかな口調で話し始めた。

 

「まず初動、必要以上に派手な動きで敵の小隊に接近していますね?これのおかげで私と少佐は相手に気取られる事無く狙撃ポイントへ移動出来ました。この時動きながらラル大尉の小隊へ何発かビームを撃っている点も見逃せません。これのおかげで2小隊も有利な位置を占位出来ています」

 

さらにリプレイは続く。画面では激しいスラスター光を引きながらオレンジのR-2が派手に動き回っている、けれどここまで命中弾は一発も無く、むしろその射撃精度は低いようにビスレイには見えた。

 

「あれも中々嫌らしいよ」

 

「ああ、当たらないと思って距離詰めたくなるんだよな」

 

「わざと引き込むために外していますからね。実際終盤のクランプ中尉は2発で仕留めています。流石に少佐ほどの射撃精度では無いですが、十分脅威ですね」

 

「どうだ?ビスレイ。ちったあ怪物のすごさが解ったか?」

 

「はい、とても」

 

そうは言ったが、ビスレイは技量以外で大佐のすごさを実感していた。管制室へ向かってくる一団の中に居る、銀髪の美しい女性が屈託なく笑っている。それを向けられているのはかの大佐だ。そしてビスレイは少佐が今までそのように笑うところを一度も見たことが無かったのだ。




ほのぼのギャグ回。

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