起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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今週分です。


第八十六話:0079/10/04 マ・クベ(偽)と教導

「随分楽しんでいらっしゃるご様子。承知致しました、皆様にはそう伝えておきます」

 

各所に相談の連絡をしたら、最終的な調整お前がやれよ?ってドズル閣下に丸投げされた。仕方が無いので暫くソロモンに居るわ、お土産沢山貰っていくから許して?とオデッサのウラガンに連絡したら、返って来たのが冒頭の台詞である。俺は悪くねえ!

 

「ご連絡終わりましたでしょうか、大佐?終わっていますね。では訓練しましょう!」

 

通信室の扉を開ければ、通路ですっごいキラキラした目で待っていたアナベル少佐にそんな台詞と共に速攻で捕まる。キシリア様のところでエースな皆さんと遊んだことは既にドズル閣下に伝わっていて、その流れでなんか、

 

「調整している以外は時間があるだろう?少し揉んでやれ」

 

とかドズル閣下が言いやがった為に、何故か戦技研究チームと楽しい模擬戦をする事になった。俺宇宙用の機体無いけどってやんわり断ったんだけど、基地にいたジオニックの方々が、ザンジバルに放り込んであったシャア少佐に貸してたR-2を一時間も掛からずに宇宙用に仕立て直してくれました。今はその優秀さが恨めしい。そんな訳で取り敢えずと言われてシミュレーターで1時間、その後調整をかねて実機で1対1の模擬戦を1時間、そして気がついたら対小隊での模擬戦を2時間近くやっていました。死ぬわ!

 

「相変わらずお強いです!宇宙なら勝てるかと思っていたのですが」

 

ちょっとスポーツでいい汗かいた的なノリでそう宣うアナベル少佐。いや、実際はかなり際どかったよ?黒い三連星と大人げない喧嘩してなかったら多分負けてたと思う。個々の技量でもそうだけど、兎に角連携した時の練度が彼等とここの部隊じゃ段違いだからなぁ。

 

「…あそこまで完全に避けられたのはガトーとマツナガ少佐以来です」

 

声音こそ静かだが、明らかに高揚した様子でそう告げてきたのは同じ研究チームでMAを担当しているというケリィ・レズナー大尉だ。元々はMSのパイロットだったんだけど、高速運動時の耐G能力が飛び抜けて高かった事から、MAパイロットに転向したそうな。

 

「いや、小回りの利かないザクレロで良くもあれだけ動ける。素晴らしい技量だよ大尉」

 

「ケリィ…んん!レズナー大尉は今まで15回出撃しておりますが、機体にかすり傷一つ負わせたことが無いのです!」

 

我が事のように自慢するアナベル少佐をちょっと微笑ましく思いながら。そんな大尉に聞いてみる。

 

「どうだろうか、大尉。率直な意見として、ザクレロでまだ戦えるかね?」

 

俺がそう聞くとケリィ大尉は真面目くさった顔で口を開く。

 

「やれと言われるならやるのが軍人であると自分は考えております」

 

なんて模範的回答。でも今はそう言うの良いから。思わず苦笑しながら俺も返す。

 

「確かに、君の技量ならばやれてしまうかもしれないな。では聞き方を変えよう。技量の未熟なMAパイロットに、あの機体で対艦攻撃を君は命令できるかね?」

 

俺の台詞に大尉は一度押し黙ると、難しい顔になって答えた。

 

「難しいでしょう。技量云々の問題で無くこれは基本的に肉体の問題ですから訓練でどうなる物でも無い。あの防空を突破するのは多くのパイロットにとって非常に難易度の高い任務です」

 

「成程。だが現実問題として連邦に好き勝手にされる訳にはいかない。で、あるならば…だ。大尉、どんな機体があれば安心して攻撃出来る?」

 

そう質問すると、意図を察したのであろう大尉は真剣に悩み出す。俺としては忌憚の無い意見が聞ければ良いだけなんだけどね。こやつもアナベル少佐同様真面目すぎるなぁ。

 

「そんなに悩まなくて良いよ大尉。こんなものはただの世間話だ。第一聞いたからって私に君達が欲する物を準備できる保証なんて何も無いんだ。取り敢えず一番欲しいものでも聞かせてくれ」

 

「ならば良いセンサーと高火力の砲です」

 

「つまり、敵の射程外から圧倒的火力で吹き飛ばす…と言うことかな?それなら良いのだが」

 

言葉の意味が理解できなかったのか、怪訝な表情で聞いてくるケリィ大尉。

 

「良い?どう言う意味でありましょうか、大佐?」

 

「そのままの意味だよ大尉。頼んでいる装備は無駄にならずに済みそうだ」

 

これで運動性を上げて欲しいとかだったら、恥さらしも良いところだったな。そう内心安堵していたら、何故か少佐からは尊敬の眼差しを。大尉と黙って後ろにいたカリウス軍曹の二人は驚愕の視線を貰った。

 

「失礼ですが、大佐。既に対策を取られていると仰ったように聞こえたのですが」

 

困惑を滲ませた声音でそう聞いてくる大尉。あー、そうだよね、現場のヒアリングも十分しない内に対策として装備準備しました!とか言っても何言ってんだコイツってなるよね。でも言い訳させて貰えば、ドズル閣下のところに挙げられている陳情や戦闘詳報は大体目を通したし、ネヴィル大佐とディスカッションもしてるんだ。だからほら、欲しがっている物とほぼほぼ合致した装備が用意出来ているでしょ?

 

「満額の回答を出せないのは心苦しいのだが、今できる精一杯は用意したつもりだよ」

 

そう言って端末に準備している装備を映してみせる。

 

「9月頭くらいだったかな?アプサラスやア・バオア・クーの新型MAが高額な事に総司令部が難色を示してね。もっと安価にジャブローを打撃出来ないかとか言い出したんだ」

 

まったく無茶苦茶言ってくれる。そんなの簡単に出来れば最初から作ってるわ。

 

「まあ、結局どれも火力不足と言うことでお蔵入りになったんだが…中々面白いものもあってね」

 

そう言って見せた画像にはLWCを用いた軌道攻撃という文字が躍っている。史実だとゼーゴックという素敵ガラクタに使われていた装備だが、こちらでは戦況が優勢な為に基地攻撃用として提案されたようだ。

 

「元々は使い捨ての制御ユニットにこれまた使い捨ての武装コンテナをくくりつけて大気圏へ突入、突入時の運動エネルギーと実弾兵器の質量をもって攻略するというプランだったらしいのだが」

 

母機が大気圏突入してるから条約で禁止された軌道上からの質量攻撃にならん!セーフ!という実にグレーなプランだったせいで待ったがかかり、それならと弾頭を対艦ミサイルやら多連装ロケットやら挙句ビーム砲にしてみたらしいのだが、どれも試算の段階でアプサラスの半分も火力が出せない事が判明したらしい。さもありなん。

 

「面白いのはこれだ」

 

「…28連多連装ロケットシステム、R-1?」

 

「岩盤に連続してロケットを当てて突破する予定だったそうだ、問題は多連装ロケットが一点に集弾しないことに設計中に気付けなかった事だな」

 

正直なんで気付かんというミスなのだが今は置いておく。重要なのはこのロケットが岩盤に損傷を与えられる程度には大火力で、かつウェポンベイがあれば装備可能という点だ。

 

「ロケット本体も安価に抑えるために接触信管だけだったが、技術本部に掛け合って時限信管を追加して貰っている。…これをザクレロに積めば、多少は大尉の願いも叶えられるんじゃないかと思うのだが」

 

散弾砲の代わりにコイツを積むため、近接防御用の火力は当然下がる。けれど今後は突入せず、あくまで遠距離から飽和攻撃で押し切る方針だ。ザクレロの速度にMSは付いてこれないのだから、徹底して防空圏外からロケットを垂れ流してやれば良い。

高度な電子装備も長距離ミサイルも役に立たなくなるミノフスキー粒子散布下に於いては、近距離での格闘戦術以外は効果が低いというのが今次大戦での常識だ。ジオンも連邦も、今の所その常識に囚われて兵器開発を進めている。しかし、それは20世紀末から進んだ所謂スマートキルが根底にある志向と言える。だが態々連邦のお綺麗なやり方に倣ってやる必要はあるまい。どうせ連中ももうすぐ物量に頼んでくるようになるしな!

 

「…運用が今までと完全に変わります。しかしこれなら格闘戦の機会は大幅に減るでしょう。素晴らしい案だと自分も思います」

 

「大尉がそう言ってくれるなら心強い。ではもう一つの隠し球だ」

 

そう言って俺は別のファイルを開く。そこにはザクレロが映されている。

 

「…大佐、これは?」

 

それを見て怪訝な顔になるアナベル少佐。横で見ていたケリィ大尉は気付いたようで口を開いた。

 

「いや、良く似ているがこれは違う。ザクレロじゃあ無い」

 

大正解。

 

「やはり乗っているパイロットの目は誤魔化せんか。そうだ、これはMA-04-B、量産型ザクレロだ。造った連中はホルニッセ、と呼んでいるがね」

 

「量産型?」

 

「端的に言えばザクレロの各部を簡素化し生産性を高めた機体だ。おかげで運動性は30%減、正面装甲は凡そ半分の厚さ、ビーム砲も1門になっている」

 

その説明を聞き、カリウス軍曹がつい、と言うように洩らす。

 

「量産と言うよりは廉価、と言った方が適当に感じます。あ、その、申し訳ありません!大佐」

 

言った後に俺の階級を思い出したのか慌てて謝罪する。

 

「構わない、正にその通りなんだからね。重要なのはこれがザクレロの約半分の時間と値段で製造可能という点、そして見た目はザクレロと変わらない…少なくとも一目で判別できる程の差異が無いという事だ」

 

ここまでの話で理解が追いついたのだろう、悪戯を思いついたような顔になったアナベル少佐が答えを口にする。

 

「成程、不足分のザクレロをこの機体で補い、遠距離から飽和攻撃。相手からすればザクレロの大部隊な訳ですから、仮に損害が少なくても迂闊に手出しは出来ない。しかもこちらは安全に出撃が繰り返せる訳ですから、練度の低いパイロットでも頭数に入れられる…これは実に嫌らしい手だ」

 

「装甲を削った分、積載能力と加速性能はザクレロと同様だ。運動性が低下したと言えば聞こえは悪いが、その分安定性は向上している」

 

つまり未熟な新兵やあまり腕の良くない連中はホルニッセに乗せ、腕の良い連中がザクレロで護衛も兼務すれば大量のMAを一度に投入出来るという算段だ。

 

「物量戦や飽和攻撃が連邦の専売特許で無い事をしっかり教えてやる良い機会だ」

 

そうドヤ顔でキメてやると、感動に頬を紅潮させるアナベル少佐。はっはっは、褒めてくれても良いのよ!

 

「流石です大佐。しかし、やはり未熟なパイロットを幾ら安全だからと言って安易に出撃させることはリスクが高いと愚考します」

 

ん?

 

「ああ、それは勿論だな」

 

「特に、今回お聞きしました内容からしますと、今までの訓練とはまったく異なった機体運用になります。中には戸惑う兵も出るかと」

 

「尤もな意見だと思う」

 

その瞬間、背筋に悪寒が走った。原因はただ一つ。口元に笑みを浮かべながら、何故か猛禽のような目でアナベル少佐がこちらを見ているからだ。自身の発言の失態に気付くがもう遅い。完全に獲物を捕まえた狩人の顔でアナベル少佐は喜色を隠さぬ声音で言葉を続ける。

 

「ならば、ここは訓練しかありません。カリウス、手空きのパイロットを呼び出せ、特にMAパイロットは余程のことが無い限り全員参加だ。オデッサの怪物と手合わせできるまたとない機会だぞ!」

 

いや、あの。

 

「承知しました」

 

しないで!?

 

「先ほどお話しした戦術が一流相手にどれ程効果があるのか検証できる良い機会です。是非自分も参加させて頂きたく」

 

「なにを言っているケリィ!貴様には何が何でも参加して貰うぞ!ああ、そうだ。教導隊のデミトリー准尉にも声を掛けよう!これは実に良い訓練になりそうだ!」

 

この子ちょっと宇宙に戻って魂解放しすぎじゃないですかね!?

俺の控えめな抗議も虚しく、この後3時間しっかり訓練をすることになる。死ぬわ!




と、言う訳で正解はザクレロモドキをめっっちゃ量産するでしたー。実に面白みの無い解答ですみません。
あと、ガトーが若干アホの子に見えますが、作者のアヤネル補正です。
嘘です、あれです、大好きな方と遊べてテンションが振り切れているのです。大佐の居ない場所ならもっと真面目で落ち着いた行動をとっているでしょう…多分!
LWCはLogistics Weapon Container(兵装輸送コンテナ)のことです。どんなの?って解らない人はゼーゴックで検索してみよう!
…今回は言い訳が多いな。

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