起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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今週分です。



第八十二話:0079/09/28 マ・クベ(偽)と仕事

「地上は暫く落ち着いているだろう。少し顔つなぎをしていけ」

 

眉無しオールバックがそんなことを宣いまして。おかげでマ、何故かア・バオア・クーに居ます。そして目の前にはやり手の銀行マンみたいな初老の紳士が紅茶を楽しんでいる。

 

「良くおいで下さいました准将…いや、少将?おお、大佐でしたな。これは失敬」

 

はっはっは、喧嘩なら高価買い取り中だぞこの野郎。

 

「転属の上に降格と、正に東洋で言うところの泣いた顔に蜂、と言う所です。この上欠陥品の面倒まで見ろと言われては。少しは休まる日が欲しいものです」

 

そう言い返すと、笑顔のまま頷くネヴィル大佐。相変わらず額に血管浮きまくっているのに器用なものだ。

 

「お察し致します。ですがご期待に添えず申し訳ありませんが、工廠での開発は順調ですよ」

 

おいおい、忘れたのかい?今俺は総司令部直下の部隊司令なんだぜ?キメ顔で輝く歯を見せてくれるネヴィル大佐の前に態々印刷した紙束を放り投げる。副官不在の宇宙の間だけ貸してやると言われてつけて貰った秘書官の大尉はエキゾチックな美人さんで、目配せだけで察してくれる優秀な人だ。良いなあ、このままオデッサに来てくんないかな。

 

「…これは」

 

「見ての通り、開発中のMAの中間報告書です。こんなガラクタの開発許可が下りるとは、総司令部の連中の怠慢は強く諫めねばなりません」

 

私、哀しいですって顔で首を振ってやると、ネヴィル大佐のカップがソーサーと不快な接触音を放つ。うーん、実にデジャヴ。

 

「確かにアプサラスが完成している今、コンセプトの似た本機の開発に疑問を持つ方も居るでしょう。しかし、同一の目的に異なったアプローチを行なう事は技術的に大変有意義で…」

 

「ああ、ネヴィル大佐。勘違いしないで頂きたい。私は造るなと言っているのでは無いのです。造るなら使える物にしろと言っているだけです」

 

俺の言葉に完全に機嫌を損ねたネヴィル大佐は鼻を鳴らす。

 

「使える物ですか、流石オデッサの怪物は仰ることが違いますな。使いこなすという思考は無いのですかな?」

 

「我が軍が求めているのは天才の扱う名機では無い。誰でも使い戦果を出せる兵器です。それがご理解頂けていないなら、就職先を間違えていると言わざるを得ませんな」

 

「そこまで仰るなら逆に聞きたいのだが、これの何処が不満なのです?アプサラスを超える火力と装甲!そして常時稼働のIフィールド!これが使えないなら一体何が使えるというのか!?」

 

鼻息荒くまくし立てるネヴィル大佐に、俺は紅茶を一口含んで言い返す。

 

「連続稼働時間20分、致命的な問題です。もしかして技術部では戦闘は全て1時間以内で片づくと言う宗教でも流行っているのですか?」

 

格闘を信仰したり電気を信仰したり、宗旨替えの激しい連中だな。

 

「ついでに言えば、全周配置されたビーム砲、何を想定した配置ですかこれは。ああ、配置と言えば対空防御用の誘導弾をつま先として装備と書かれていたのですが…何かの冗談ですか?」

 

全地形適応型MAとかって書いてあったから、コイツ地上で歩かせるつもりなんだよな?

 

「稼働時間に関しては宇宙での全力稼働時ですから、想定されている地上での運用なら問題ありません。砲配置ですが、本機は運動性が低く、今後想定されるMSを主体とする敵との戦闘には全周配置が望ましいと結論づけました。対空誘導弾がつま先となる点も心配在りません。無くても歩行可能です」

 

何というかこの人技術者より弁護士とかの方が向いてるんじゃねえの?語られた内容はどれも一見回答になっているようだが、俺の懸念を何一つ解消していない。言ってしまえば、宇宙で全力稼働させられないし、砲配置の脆弱性への対策について答えになっていない。対空誘導弾に至っては、レイアウト上使用に難がある点に一切触れていないし、歩行可能と戦場に必要な機動性が確保できているとには雲泥の差がある。対ビーム兵装とか造れちゃうから知識と技術は本物なんだけど。…これはアレだな。ダメ出ししても絶対意見変えないヤツだな。よし、作戦変更。

 

「成程…所で話は変わるのですが大佐。フラナガン医療センターが開発中の装置をご存知ですか?」

 

「フラナガン…ああ、確か脳波や神経の電気信号を用いた義肢の開発を行なっているとか。医療分野は門外漢ですが、義肢が生身と変わらず使えるようになれば公国にとって大きな福音になるでしょうな」

 

四肢欠損したベテラン退役兵とか山ほど居るからね。首都防衛大隊とか規模もう連隊並みに膨れ上がってるんだっけ?それは置いておいて。

 

「流石大佐、良い耳を持っていらっしゃる。実は知人から聞いたのですが、どうやら既に脳波で操作可能な所までは来ているそうなのですよ。まあ、人体ほど精密な動作はまだまだだそうですが」

 

「はあ」

 

俺の言わんとしている事がまだ良く解っていないネヴィル大佐は気のない返事をした。ふふふ、その余裕、何時まで続くかな?ほくそ笑みつつ俺は声を潜めて続きを話す。

 

「ここだけの話ですが、突撃機動軍ではこの研究に強い興味を示していましてね?兵器に転用出来ないか独自に研究していたのですよ」

 

「ほう…。宜しいのですかな?そんなことを仰って」

 

いいんだよ、だって総司令部承認の下でやってんだから。物が物だから極秘になってて、連邦にでもばれたら俺の首が物理的に飛びかねんが、少なくともネヴィル大佐相手にその心配はあるまい。

 

「大佐のような方に有効活用されなければ技術も意味が無いでしょう。…詳細は資料を取り寄せねばなりませんが、内容は有線操作式のメガ粒子砲だそうです」

 

「ほう!それはそれは!」

 

俺の言葉で直ぐに察してくれるネヴィル大佐。うん、やっぱこの人頭は良いんだよな。

 

「それからMIPが艦艇用の新型放熱板を試作しているとか。後はそうですな、アナハイムからフィールドモーターの購入について検討依頼が来ていました、流体パルスシステムはトルクは高いが場所を取る。フィールドモーターに置き換えられれば足回りの容積もかなり余裕が出来るのでは?」

 

「成程、そうなれば対空兵装を搭載するスペースも生まれる」

 

「後は素人考えなのですが、ザクレロのように推進ユニットをフレキシブルベロウズリムで取り付けるのは如何でしょう?推力の高いユニットをそのまま振り回せればかなり運動性の向上が見込めるのでは無いかと」

 

そう言うとネヴィル大佐は眉に皺を寄せ唸ってしまう。

 

「魅力的な案ですがそれですと推進ユニットが外装式になりますから、防御を考えると余り得策では無いでしょう。それに足回りをフィールドモーターにするならば2系統の動力が必要になります。それでは折角空いた容積を食い潰してしまうでしょう」

 

ぬう、そう上手くはいかんか。ならこっちはどうだろう。

 

「でしたら偵察機向けに開発されております推進器付きのプロペラントタンク…たしかシュツルムブースターでしたか、それを大型化して装備しては?」

 

「推力は向上するでしょうが運動性の解決にはなりませんな…いや?確かオデッサで研究していた例の構造、インナーフレーム構造でしたか。アレを使えば…」

 

そう言って考え込んでしまうネヴィル大佐。おお、良い感じにエンジン掛かったな。

 

「失礼、マ大佐。用事が出来たのだが」

 

そわそわとそう切り出すネヴィル大佐にティーカップを掲げる。

 

「ええ、大佐。良いものを期待しています」

 

 

 

 

挨拶もそこそこに部屋を出たネヴィルは、端末を取り出すと直ぐに開発チームへ連絡を入れた。

 

「ああ、私だ。フラナガン医療センターで試作中の装置について大至急資料を取り寄せろ。総司令部付の大佐殿から聞いたと言えば向こうも突っぱねられんだろう。それとMIPから艦艇用の放熱板と対MS用誘導弾の資料を。そうだ、マ大佐の名前を使え、何としても情報を開示させるんだ」

 

言いながら先ほどの大佐を思い出し、食えない男だとネヴィルは口角を上げる。本来2階級の降格ともなれば関わることを躊躇うほどの失態だ。だと言うのにあの男はどうだ。確かに階級は下がったが、実際に指揮する部隊の規模は変わらず、むしろ総司令部付になったおかげで、突撃機動軍所属では閲覧できなかった情報や、施設へのアクセス権限を得ている。つまり権力的にはむしろ強化されているのだ。仮に敵であったなら厄介この上ない相手だが、少なくともあの大佐には政治的にこちらを蹴落とそうであるとか、権限を奪おうと言った意図は見えない。

つまり味方では無いが、同じ方向…ジオンの勝利に向かって行動をしている内は、ネヴィルにとって利益をもたらす相手と認識して間違い無いだろう。多少跳ねっ返りな所はあるが、そこは度量を見せ、受け止めて見せるのも年長者の務めであろう。

 

(下手に張り合うよりこちらに取り入れた方が有益だ)

 

既に彼が各企業やそこから派遣された技術者と強いつながりを持っていることは周知の事実だ。それに最近は、地上へ送る兵器は一度オデッサで確認を取るよう総司令部直々にお達しが出ている。腹立たしい反面、現場の意見をとりまとめて最初から盛り込めるならば、余計な改修の手間が省ける。無論その調整は膨大な物になるが、それをあの大佐がやってくれるというならネヴィルにとって何一つ不利益は無い。何故ならどれ程彼が注文を付けたとしても、それを造り、世に送り出した人物はネヴィル自身に他ならないのだから。

 

「それにしてもだ、大佐。最後の言葉は頂けんぞ?」

 

誰にとも無くネヴィルは呟く。良い物を頼むとは何事か、ネヴィルは今まで良い物しか世に送り出していないと言うのに。




紅茶と和解せよ。

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