起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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第七十一話:0079/09/23 マ・クベ(偽)と運命

散々な被害を出すことになったホワイトベース救援の状況を作戦室で見続けていたヨハンはオペレーターから報告を受け取り深々と溜息を吐いた。

 

「…これは厳しくなるな」

 

損傷し北に流されつつも降下してきたホワイトベースは、とんでもないものを一緒に連れてきた。濃緑色に塗られたその丸い何かをこちらが確認すると同時、上空に展開していた空軍の部隊の内4個飛行隊が一撃で全機撃墜、更に続く射撃でホワイトベースは左エンジンユニットを大幅に損傷する。そしてその後に起こったことは正に悪夢と言えた。対象の大火力を目の当たりにしたジャブロー防衛指揮官のアントニオ中佐が全力での迎撃を命じてしまったのだ。結果、偽装カタパルト12基、対空砲58基、VLS6ヵ所に加え新鋭機であったビルフィッシュ二個飛行戦隊64機を喪失するという散々な結果をもたらした。何より今回の戦闘で防衛施設の分布状況が把握されたであろうから、ジャブローの位置が特定されるのも時間の問題だ。

おまけに戦闘の間に地上に降りてくれれば良かったものを、何故か逃亡を図ったホワイトベースは進路を北にとり、どうやら北米に降りてしまったらしい。

更に安全だと思っていたジャブローが損害を被ったことで、政治家連中が蜂の巣を突いたように騒ぎ出した。中には降伏するべきだと言い出す連中まで居る始末だ。

 

「馬鹿が、今止めるなら何故南極で止めなかった」

 

そもそも何故連邦が戦い続けているのか。それは人類初となる全人類の統一政体を維持するためでは無かったのか?武力による独立など認めれば人類は再び泥沼の内戦をそれこそ滅びるまで続けるだろう。故にヨハンは神輿としてあの様な道化まで演じて見せたのだ。

 

「後10…いや5年あれば」

 

戦争など起こらず各サイドが発展していたら。地球とのパワーバランスはサイド側へ傾き、自治権の拡大や、連邦政府への参政権だって交渉で獲得できたかもしれない。だがそれも最早空想の世界にしか存在しない。

 

「せめて、武力での独立だけは阻止せねばならん」

 

それがたとえ後世に外道として記されようとも。ヨハンは静かに決意し部屋を出た。

 

 

 

 

なんでホワイトベース北米に降りてしまうん?

降りる場所なんて他に一杯あるだろ、太平洋とか、大西洋とか、カリブ海とか!!

おまけに死にかけたらしいどっかの赤いのも一緒に北米だそうですよ奥さん。ヤダ、嫌な予感しかしない。自機が吹っ飛んだのになんで生きてるの?って聞いたら、アイナちゃんが感極まった声音で、ジャン少佐が危険を顧みずにシャアを救出、コムサイへ帰還した事を褒めちぎっていた。おのれ少佐、余計な事をしおって。

 

「だがそんなことは問題じゃない」

 

何せ直近にとんでもねえ爆弾があるからね。それに比べたらヅダの件とかジャン少佐の事とかは割と些事である。自室で壺を抱えて精神の安定を図りながら、これからどうするか考える。

報告によると何とガンダムが2機現れたらしい。グレーの方…多分3号機はシャアとの戦闘で左腕を肩から失った上に頭部も半分吹き飛んだらしいから暫くは復帰できないとしても、もう一機、胴体が青い方というのが滅茶苦茶気になる。そもそもいきなりザクレロ撃墜したのはコイツらしいから、どっかのキリングマシーンが乗って無くても相応にヤベーのがインしているっぽい。しかも無傷で降下したらしいから、量産機も含めると原作よりヤヴァイ部隊になっている気がする。そいつが北米に居て、さらにおまけでシャアが居る。

これはフラグですわ。しかもホワイトベース、テキサスに墜ちたんだって。

 

テ キ サ ス 。

 

何、何なの?大いなる意思なの?イデってるの?死闘しろってフラグなの?残念ギャンありませーん!

 

「などと言っている場合では無いな」

 

思いっきり溜息を吐くと俺は執務室へ向かう。良いだろう、運命とやらが避けられんと言うならぶち当たって吹っ飛ばすだけだ。覚悟決めたオタクの力を思い知るがいい。

 

「ウラガン、出かける。ヴェルナー中尉を呼んでくれ。シーマ中佐、1個中隊を選抜しろ。済み次第ガウに搭乗。デメジエール中佐、悪いが午後の教練は中止だ。すぐガウにヒルドルブを積んでくれ」

 

矢継ぎ早にオーダーを出す俺に、執務室に居た全員の目が点になる。

 

「准将?何処の基地を攻めるおつもりですか?」

 

なんでそうなる。

 

「向かうのは北米だ」

 

「北米?また連邦の秘密基地ですかい?」

 

だからなんでそうなる?

 

「北米に例の新型艦が墜ちた。それを仕留めにいく」

 

俺の言葉に一瞬沈黙するが、その後は全員何言ってんだオメエって顔になる。何度も言うけど俺ここの司令官なんだけどなぁ。

 

「北米から支援要請は出ておりません」

 

「勝手に別の戦線へ行くのは不味いでしょう」

 

「せめてガルマ大佐に確認してからの方が…」

 

「手遅れになってからでは遅い!」

 

皆の反論を大声で封殺する。嫌だな、これで皆との良好な関係も壊れるかもしれない。部下の正論を威圧で潰すなんて上官のするべき事じゃないよな。

 

「…未確認情報だが、一部の過激なダイクン派がガルマ様の暗殺を企てているとの情報が入った。無論連邦の流したデマかもしれん。しかし情報がある以上何らかのアクションがあってもおかしくはない。そこに来てあの新型艦。不確定要素は早急に排除しなければならん」

 

俺がしっかりと言い切ると、全員が目を合わせたかと思うと直ぐに動き出した。

 

「すまない、ヴェルナー中尉を頼む。訓練中?大丈夫だ基地司令が呼んでいると伝えてくれ。それからアッザムの出撃準備を。装備?1号でいい」

 

「1~3小隊出撃準備。仕事の時間だ。基地司令直々のオーダーだよ!気合いを入れな」

 

「おう、俺だ。悪いが午後の教練は中止になった。直ぐに出撃準備に入ってくれ、弾種は2番、済み次第ガウに載せてくれ。ああ、ちょっと司令とお出かけだ」

 

「自分で言っておいて何だが…信じてくれるのかね?」

 

そう俺が言えば可笑しそうにシーマ中佐が笑う。

 

「胡散臭いことこの上ないですなぁ。でも大佐は信じてらっしゃるのでしょう?」

 

それに続くようにデメジエール中佐も笑い出す。

 

「大佐が信じたなら仕方ない。ジャブローにだってお供しますよ」

 

そんな事を平然と言う二人になんと言ったらいいか解らずに居ると、ウラガンが首を振りながら溜息を吐く。

 

「お二人とも准将に甘過ぎです。それと准将、もっと早くお伝え下さい。横紙破りをするにも相応に手順を踏まねばなりません」

 

憮然とした表情でウラガンが言えば、二人は今度こそ大笑いした。

 

「いやはや、気をつけるよ大尉。でもお前さんも大概だなぁ?」

 

「全くだ。どうもオデッサに居るのは馬鹿ばかりのようだ」

 

そんな皆に俺は黙って頭を下げた。

 

 

 

 

「少佐の容態はどうか?」

 

病室へ直ぐ向かいたい気持ちを抑えてガルマ・ザビは担当医に質問した。

例の新型艦…コードネーム「木馬」の迎撃作戦は残念ながら失敗し、軌道上での撃沈は叶わなかった。それだけに留まらず参加した味方にも無視できない被害が出ている。加えてシャア少佐が死にかけるなどかなり危うい場面もあった。幸い少佐は救出されたが、地上に降りてきた時には意識不明で病院に担ぎ込まれることになったのだ。ガルマ自身親友の安否を直ぐに確かめたかったが業務を放り出す訳にもいかず、訪れたのは日も落ちて随分経った頃だった。

 

「軽度の脱水症状は見られましたが基本的には疲労による体力の低下です。意識も戻っておりますし、明日には退院出来るでしょう」

 

その言葉に胸をなで下ろす。些細とは言わないがこんな任務で大切な友人を失いたくないし、軍人として彼ほどの才能をこんな所で喪失するのははっきり言って戦果に見合っていない。

報告を聞きながら個室のドアを開ければ、懐かしいサングラス姿の友人の姿があった。

 

「久し振りだな、シャア少佐」

 

「ああ、久し振りだ。ガルマ…いや、地球方面軍司令ガルマ・ザビ大佐…かな?」

 

あの頃と変らない友人の物言いが懐かしく、つい頬が緩む。

 

「今はプライベートだ、ガルマで良いよ。流石に兵達の前では控えて貰うがね。しかし連邦の新型は相当だな。正直君が仕損じるとは思いもしなかったよ」

 

その言葉に苦々しい表情になったシャアが口を開く。

 

「ああ、連邦もとんでもないMSを造ったものだ。確かにあれを仕留めればジオン十字勲章ものだろう」

 

「かもしれんな。何しろ青い巨星と赤い彗星を退けたのだからな。正直厄介だな」

 

ガルマの言葉にシャアは複雑な顔をする。

 

「正直、君は手柄が飛び込んできたと喜ぶかと思ったよ。例のMAのおかげで手負いになったとは言え、墜とせば功績は君のものだ」

 

その言葉にガルマは笑って返した。

 

「手柄に興味が無い訳じゃ無いがね。北米は漸く安定してきたんだが、まだまだ連邦支持者は多いしゲリラだっている。そういう輩が勢いづくかと思うと素直に喜べんだけさ」

 

「…迷惑だったかな?」

 

いつになく弱気に聞こえる友人の声にガルマは驚きを覚えた。シャアと言えば自信家で、その自信に見合った成果を出してきた男だ。けれど考えてみれば彼だって自分と大差ない若造なのだ。それに軍でも順調に功績を重ねてきた彼にしてみれば、今回の一件は初めての挫折になるのかもしれない。そう考えると自分は随分とシャアに甘えていたと思え、ガルマは彼を労るべく笑顔を作った。

 

「君が北米に墜としたのは私を信用してくれているからだろう?それに応えられないほど狭量では無いつもりだ。まあ、今はゆっくり休めよ。どうせ君のことだ、ここ数日はロクに寝ていないんだろう?明日からまた忙しくなるんだ、今日くらいはドズル兄さんだって文句を言わんさ」

 

「…そうかもしれないな。有り難う、ガルマ。少し休ませて貰うよ」

 

どうにも調子の出ないようである友人をなんとか元気づけようとガルマは戯けてみせる。

 

「君とも長い付き合いになるが、礼を言われたのは初めてな気がするな。もう行くよ。おやすみ、シャア」

 

「ああ、おやすみ」

 

そう言って個室を出ると丁度端末が着信を伝えた。

 

「ダロタか?どうした?」

 

『マ・クベ准将のお連れの部隊が到着致しました』

 

「そうか、ご苦労。ご足労頂いた精鋭に失礼の無いようにな」

 

部下からの連絡に短く返し、通信を切るとガルマは獰猛に笑う。

 

「友人を殺しかけてくれたんだ、手加減なんて期待するなよ?木馬め」




バカばっか(褒め言葉

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