起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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まだだ、まだ焦る時間じゃあ無い。
あ、今週分です。


第七十話:0079/09/23 マ・クベ(偽)と重力の井戸

『緊急警報!緊急警報!軌道上にて友軍より支援要請!フライダーツ各機スクランブル!これは訓練では無い!繰り返す!これは訓練では無い!』

 

「ジャブロースペースコントロールよりフライダーツ各機へ、護衛対象はSCV-70。対象は現在有力な敵戦力の攻撃を受けている。可及的速やかに…」

 

鳴り続ける警報と矢継ぎ早に繰り出されるオペレーターの指示を聞きながらヨハン・イブラヒム・レビルは椅子へ深く座り直した。

 

「なんとか、無事にたどり着いて欲しいものだ」

 

無論それが容易でないことはヨハン自身も十分理解している。だが一方で僅かでもその希望が感じられればこそ、彼はなけなしの高高度迎撃機を増援として送り出したのだ。

レーダーが使えない今日は指揮官にとって非常に歯がゆい戦闘になる。作戦室の中央に置かれている戦術モニターはその役目を放棄して久しく、今では監視用の偵察機から送られてくる光学映像を映し出すだけの贅沢なテレビに転職している。はっきり言ってその映像から詳細な戦況分析なぞ出来る訳もなく。大凡の雰囲気で増援や撤退を指示する程度、戦闘は完全に前線の指揮官任せとも言える。

 

「条件は相手も同じ、後は兵の練度と装備か」

 

光の入り乱れるモニターを睨み付ける。自然手に力が入り、持っていた報告書が潰れて音を立てた。

 

SCV-70、ジオン軍と会敵。接触せる敵大型兵器2機中1機を撃墜せり。されど敵は増援としてMS9機を投入、当艦単独での迎撃は困難。至急救援を請う。

 

読み上げたオペレーターが興奮していたのも解る内容だ。何しろ撃墜した大型兵器は今までこちらの艦艇を好き放題撃沈しつつ、ただの一度も撃墜報告が無かったのだ。それを初見で撃墜して見せたのだから期待もしてしまう。

 

「頼むぞ」

 

誰に言うでも無くヨハンは小さく呟いた。

 

 

 

 

「ザクレロを一撃だと!?戦艦並みの火力だとでも言うのか!?」

 

格納庫で出撃の準備をしながら報告を聞いたシャアは思わず声を荒げた。ザクレロが撃墜されたこともそうだが、何よりその方法だ。

敵のMSによる迎撃。それはこちらの目論見が看破されていたことを意味する。作戦を立案した者を罵倒したくなったが、一方で自身も同じ考えに至っていたという事実から口を閉ざした。

加えてそうしている間にも事態は悪い方へと推移していく。監視班が地上から上がってくる光点を複数確認したのだ。

 

「迎撃機か!」

 

性能で見ればMSと比べるべくもない機体であるが、決して無視できる存在では無い。特に防空能力に乏しいムサイにとってはほんの数機でも脅威になる。

 

「やむをえん。ムサイは高度を上げ自衛に徹しろ、MS隊は全機発進。予定どおり木馬を叩くぞ!」

 

そう叫んでヘルメットのバイザーを下げる。その時初めて、シャアは自分の手が僅かに震えていることに気がついた。

 

(怯えている。この私が?冗談では無い!)

 

苛立ちを隠すようにシャアは続けて指示を飛ばす。

 

「オデッサに連絡しろ、少々予定が狂ったと」

 

『宜しいのですか?』

 

「あちらが提案してきた作戦だ、少しくらい強請っても罰はあたらんさ。ヅダ、出るぞ!」

 

そう言ってハッチから出ると、シャアはスロットルペダルを思い切り踏んだ。今まで使っていたS型とは比較にならないGが体へとかかるが、今はその負荷が頼もしく思えた。

 

「見せて貰うぞ、連邦のMSの性能とやらを!」

 

 

 

 

迎撃艦隊からの支援要請が思ったより早く届いた。確認したらどうもジャブローが本気で援護してるっぽい。高高度迎撃機なんてあったっけ?ギャプラン?あ、フライダーツか、MSVとか詳しくねえんだよいい加減にしろ、なんて思いながらさっさとラサ基地に連絡したら、ギニアス少将が興奮しながら了解してくれたとほぼ同時にアプサラスの打ち上げ報告が来た。準備万端過ぎるだろう。もしかしなくても作戦開始前からコックピット待機してやがったな?

 

「そう言えばお聞きしていませんでしたが、アプサラスのパイロットは何という者なのですか?」

 

アイナちゃんは多分まだ宇宙だろ?まさかノリス大佐とか乗ってねえだろうな。

 

「はい、私の妹のアイナ少尉が搭乗しております。身内を贔屓する訳ではありませんが腕は確かですよ、アプサラスの搭乗時間も軍で一番です。ガンナーはヨンム・カークス大尉ですね。射撃の腕は軍でもトップクラスです」

 

乗ってんのかよ!?

 

「妹さんですか。いや、少将の選抜を疑っている訳ではないのですが。むしろ良くお乗せになりましたね?」

 

自分でお願いしといてなんだけど。

 

「あれも軍人ですから、身内なればこそ贔屓は出来ません。それにあれとアプサラスなら必ず帰ってきます。まあ、万一傷物にでもなったら准将に責任をとって貰うのでご安心を」

 

あっはっは。アカン、目がマジだ。

 

「私もアプサラスを信じていますよ」

 

そう言うと何と無し残念そうな顔になるギニアス少将。おい兄ちゃん、妹を生け贄にすんじゃありません。

そんな馬鹿なことを言っている間にアプサラスが作戦エリアに到達したとの報告が入った。よし、勝ったな。

 

 

 

 

マ・クベやギニアスの予想に反して戦況は芳しくなかった。まず到着した時点で事前に聞いていたザクレロ一機に加えMS2機が被撃墜、ムサイ一隻が大破し、もう一隻がエンジンを損傷し退避に移っていた。その原因を認識しアイナは悲鳴のような声を挙げた。

 

「指揮官型が2機!?」

 

友軍のMS部隊と戦っているグレーの機体に、敵艦を守るように戦っている機体。試験用かなにかだったのか胴が青く塗られたその機体は、巫山戯たその色と真逆に正に戦場を支配していた。

 

「残り2分!」

 

ガンナーシートに座ったヨンム大尉が叫ぶ。想定していたより敵の進入速度が速い。しかも対艦装備で出ていた友軍のMSは、青い機体と高高度迎撃機に阻まれて射点に着けていない。

 

「このまま敵艦を狙います!」

 

大尉の返事を待たずに軌道修正をする。元より今回の目標はあの敵艦だ、あれさえ墜とせば味方も撤退できる。そう考え機体を向けた瞬間、目の前が光った。

 

「効きません!」

 

青い機体が放ったメインカメラを狙った射撃はIフィールドに弾かれる。装置の搭載を進言してくれた准将や手配してくれた技術部の大佐に感謝しながら更に接近する。

 

「無駄だという事が解らないのですか!?」

 

執拗に繰り返される射撃に苛立ち叫んだ瞬間、こちらの放ったビームが虚空を切り裂く。初撃は大きく上へと逸れた。

 

「機体が揺れて照準が付けられん!拡散モードでやる!」

 

大尉の言葉で敵の狙いを悟ったアイナは、この極限下で冷静にその選択肢をとれる青いMSのパイロットに舌を巻いた。時間は既に40秒を切っている。

 

「この距離では!もっと近づきます!」

 

そう叫んだところで再び機体を震動が襲った。だがそれは先ほどまでとは違う事を、損傷を知らせるアラームが教えていた。

 

「増援!?まだ出てくるのですか!」

 

モニターを確認すれば下から機銃を発射しながら上昇してくる敵機が見えた。機銃はともかく対艦ミサイルを貰えばアプサラスでも無事ではいられないだろう。死の恐怖が胸からせり上がってくるが、アイナは奥歯を噛みしめ機体を加速させる。再び青いMSが射撃をし機体を揺らすが、その程度では今度の攻撃は防げない。

 

「喰らえっ!」

 

有効射程を知らせるアラートが鳴ると同時、大尉が再びトリガーを引く。先ほどとは違い、まるでシャワーのように広がったビームが敵艦の後部を包み込んだ。

 

「やった!?」

 

機体を旋回させつつ敵艦を見れば、右側のエンジン部と思われる部分が大きく損傷しているのが見て取れた。だが相手は未だ降下を続けている。既に味方のMSはコムサイに回収され、敵機も降下中の艦に次々と帰還している。しかし敵の青い指揮官型だけは船外に出て未だこちらを警戒していた。作戦の失敗を感じ取りアイナは奥歯を噛みしめる。その瞬間だった。

 

『まだ…だ!…まだ…終わらんよ!』

 

ノイズ混じりのその叫び声が聞こえたかと思うと、友軍の内1機が敵艦へ肉薄していく。それはシャア少佐の乗ったヅダだ。それを見た瞬間、アイナの中で覚悟が決まった。

 

「大尉、このまま私達も突入します!お覚悟を!」

 

「何時でも」

 

その言葉に思わず笑顔になりながらアイナは機体を降下シークエンスへと移行させた。

その瞬間である。

ヅダの放ったビームが敵艦の艦橋を掠め小さな爆発を起こす。僅かではあるが船体が傾き、上に乗っていたMSも必死でバランスをとっているのが確認出来る。一瞬の歓喜はしかしその後に続く衝撃的な映像で塗り替えられた。

 

 

 

 

「冗談では無い!」

 

エンジンが制御不能となり暴走する自機を必死に操作しながらシャアは叫ぶ。既に機外温度は1000度を超えており、機体の各所が警告を発している。

最後の瞬間、降下する敵艦に追いつくためにシャアはエンジンのリミッターを解除した。それはエースであるという自負と、S型ですら時折行なっていた所謂悪癖であったが、今回はそれが裏目に出た。

開発チームの名誉のために言えば、ジャン少佐からリミッターは絶対に外さないよう注意されていたし、宇宙空間で仮にそのような場合に陥っても問題無いように設計も見直されていた。だが、その設計こそが今回の不幸へと繋がる。

 

「な!?」

 

異音、そして衝撃。機体の管理モニターに映し出されるエンジン喪失の文字。一瞬理解が追いつかず頭が真っ白になる。その中でも機体を制御し減速を試みているのは流石赤い彗星である。現在進行形で彗星から流星にクラスチェンジしそうだが。

重ねて言うが、開発チームが悪いとは言いにくい。そもそもリミッターは外さないことが大前提である上、大気という抵抗を受ける状況に最大加速を超える速度で突っ込むなんてことは想定していない。そして更に事態を悪化させたのが件のエンジンである。

リミッターを外すバカが絶対出てくる。

そう確信していた開発チームは機体にとある仕掛けをした。それは暴走状態と解る信号をエンジンが一定時間発した場合、機体から強制的にパージする機構だ。単発機?であるヅダからエンジンを切り離せば減速する方法はアポジモーターだけとなるが、少なくとも機体と一緒にパイロットを宇宙の彼方へエスコートするよりマシだろうという判断であったが、シャアの場合状況が最悪であった。

当然であるが推力の大半をメインエンジンに依存しているヅダがそれを失えば、重力に逆らえる道理は無い。

上がる機外温度、下がり続ける高度、言う事を聞かなくなり始める機体。

いよいよコックピット内の温度が300度を超え、シャア本人が死を覚悟したところで、ヅダが最後の力を解き放つ。

再び降りかかる衝撃。

見れば機体から次々とパーツが剥がれ落ち、フレームもブロックごとに吹き飛んでいく。僅か3秒の早業でコックピットブロックだけになったヅダだったものは最後の抵抗とばかりに逆噴射をかけるが、それは地球という偉大な存在の前にはあまりにも非力だった。

しかしシャアの悪運は尽きていなかった。

 

『だから!リミッターを外すなと言ったでしょう!?』

 

三度の衝撃と共にミノフスキー粒子下とは思えないクリアーな通信が入る。声の主はジャン少佐だ。

 

「デュバル少佐?」

 

激昂と言って差し支えない声音であったが、その声を聞いた瞬間自らの命が繋がったことを理解したシャアは、意識を手放した。




赤い流星へのクラスチェンジ、失敗!

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