起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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頑張ったよ…俺…。
イベント?知らない子ですね?


第六十九話:0079/09/23 マ・クベ(偽)と衛星軌道

「護衛も無しに地球へ降りろだなどと…ルナツーの引きこもり共は本艦の重要性が理解できていないのではありませんか?」

 

出港以来何度目になるか解らない副長の不満声にパオロは溜息を吐きながら同じく何度目になるか解らないセリフを返す。

 

「無茶を言うな、アンドリュー大尉。ワッケイン少将はよくやってくれている。それにこの件については話し合った結果だろう?隠密性を考えれば単艦での行動の方が察知されにくい」

 

「小官は一般論を申した上げただけであります。それを少将個人への誹謗と捉えられるのは心外です」

 

大尉の物言いに腹部が重くなるのを感じながらパオロは考える。そもそも攻撃があるとすればMSの襲撃になるだろう。そうなった時にサラミスやマゼランがどれだけ頼りになるかと言われれば正直疑問だ。特にルナツーに残っている艦艇は大戦前に建造された艦ばかりだから、防空の大部分をミサイルに依存しており、ミノフスキー粒子下の戦闘ではその性能を大幅に落としてしまっている。

 

「しかし的が増えれば本艦への攻撃も相対的に減少します、どうせまともに戦えない旧式などいっその事…」

 

「大尉!」

 

「本艦の重要性に比べればそのような旧式艦の損害など考慮に値しません!小官の言うところは誤っておりましょうか!?」

 

「大尉!!」

 

味方を平然と捨て駒扱いする副長に頭痛を覚えながらそれ以上言わせないために声を上げる。この大尉は士官学校を首席で卒業したらしいのだが、人格、能力面に些かどころではない問題を抱えているようにパオロは思う。訓練や慣熟航海の際に問題を起こさなかったために認識できていなかったが、その思考は柔軟性に欠け自己中心的発言が目立つ。典型的な勉強だけ出来るタイプの軍人だ。こんなのが首席とは士官学校の質も随分落ちた、などと密かに溜息を吐きながらパオロはせめてブリッジの気まずい空気を変えるために大尉に命じた。

 

「…レイ大尉と打ち合わせをしたい。悪いが呼んできてくれ」

 

「そのような些事に小官が携わる価値があるのでしょうか?それよりも通信機の使用を許可頂きたい。小官が説得すれば頑迷なるルナツー司令部の敗残兵達も必ずや我が崇高なる使命に感涙し、その命を悉く捧げることでしょう!」

 

頭痛を通り越し目眩を覚え始めたパオロ艦長は、必死で体を支えながら言葉を絞り出す。

 

「残念だが敵に発見される恐れがあるので通信機の使用は許可できない。それよりも君には重要な任務がある。大尉を呼ぶのと一緒に艦内の被害状況や兵の様子を確認して欲しいのだ。こんな事は優秀で職務に誠実な副長である君にしか頼めん」

 

そう言ってやれば、先ほどまでの不機嫌が嘘のように大尉は上機嫌で敬礼すると周りの雰囲気など気にもとめずにブリッジから出て行った。

 

「寒い時代か、少将の言う通りだな」

 

 

「曹長!伍長!貴様らさっきの動きは何だ!」

 

テム大尉を呼ぶために格納庫へやって来たアンドリューが見たのは据え付けられた鉄パイプを掴み足を必死に回す--所謂自転車漕ぎと呼ばれるシゴキ--パイロット達の姿だった。あれは確か第一小隊の隊長のブルース・ブレイクウッド中尉だ。先の戦闘で部下2名が負傷しその乗機も大破したため、候補生でありながら実戦でザクを撃退したシェーンベルク兵長を戦時昇進で伍長に、更に以前からレイ大尉の下でシミュレーターのサンプルデータ作成に携わっていたという子息のアムロ・レイ曹長の2人と倉庫で埃を被っていた試作機を与えられていた。陸軍上がりの典型的な脳筋的行動をとる中尉の行動に蔑んだ視線を送った後、周囲を見回せば、件の試作機に張り付いて何やら忙しげに動いているレイ大尉を見つけた。

 

「レイ大尉、艦長がお呼びです。ブリッジへ上がって下さい」

 

そう近づいて声を掛けると、レイ大尉は振り向きもせず応えた。

 

「すまんがガンダムの整備が難航していて手が離せん。艦内通信で良いだろうか?」

 

その如何にも技術屋らしい物言いに内心溜息を吐きながら、鋼の自制心でそれを表に出さず、アンドリューは口を開く。

 

「承知しました、では可及的速やかに対応をお願いします。小官にはまだ任務がありますのでこれで失礼します」

 

そう言って踵を返す。途中艦内の様子を見たが艦の損傷はともかく兵の状況はかなり悪い。皆自身がどれだけ重要な任務に就いているかまるで理解が出来ていない。

この艦の命運は自身の双肩にかかっている。アンドリューはそれを確信しつつ足早に視察を続けるのだった。

 

 

 

 

「何とか間に合いそうですな」

 

「ええ、ですがかなりシビアな戦いになるでしょう」

 

シャアの返事にジャン少佐は黙って頷いた。装備の慣熟こそパイロットの才覚から短時間で完了したが、戦力としては軽巡洋艦2隻にMSが2個小隊、現地で合流できる艦艇も精々軽巡2隻にMAが2機、そしてMSが1個小隊だ。この内こちらのMS1個小隊と合流する部隊はR型であるから敵が降下を開始したら戦闘には参加できない。艦艇数では上回っているが大気圏突入能力の無いムサイを低軌道まで進出させるのはリスクが高すぎる。おまけに敵は最低でも5機のMSを搭載しているらしいので数的有利で戦える時間は限りなく短くなる。

 

「おまけに90ミリの効かないバケモノMSですか、頭の痛いことです」

 

装弾数も多く高初速な90ミリは対戦闘機や対空火器を潰すには極めて有効であったが、今回の件で威力不足が懸念される事になった。

 

「開発部もまさかザクの倍近い装甲厚は想定していなかったのでしょうな」

 

実際90ミリはジオンのMSであれば全ての機体を1000mにて貫通可能だ。報告によればそのMSは200mでも貫通出来なかったというのだからその装甲は驚嘆に値する。

 

「用意出来たビームライフルは1挺。それも試作型で装弾数は10発、残りの者はバズーカで対応するしかありませんね」

 

現状提案されているプランはこうだ。まずMA2機による高速一撃離脱を実施する。ここで仕留められれば良いが、仕損じた場合R型の2個小隊、そしてムサイ4隻を持って敵MS部隊を誘引。この際ヅダの内ビームライフルを装備したシャア機もこちらに参加し、出撃してくるであろう敵指揮官型を処理する。この間にバズーカを装備した残りのヅダとMAで敵艦を攻撃、撃沈を狙う。これでも敵艦が仕留められなかった場合、ムサイ及びMAは離脱、コムサイを降下させ低軌道においてMSによる最終攻撃を行なう。撃沈が理想だが、不可能と判断した場合、味方占領地域へ降下ポイントをずらすことでジャブローへの降下を阻止する。これを僅か30分でやれというのだから、どれだけタイミングがシビアか解るだろう。

 

「あの時仕留められていれば…」

 

サイド7から出港する直後、ランバ大尉だけを残さず残存戦力全てで攻撃していたならあるいは。そう考えながら、恐らくそれは困難であっただろうとシャアは思う。あの時残存していたMSは3個小隊、MAも1機あったが武装面ではかなり貧相だったのだ。バズーカは2挺だったし、他の機体は全て90ミリで武装していたから指揮官機の対応にバズーカを振り分ける必要があった。しかもその指揮官機のパイロットはあの青い巨星に手傷を負わせるだけの技量があったのだ。その上量産機でさえこちらの機体を一撃で撃破出来る火力を有しているとなれば、あの新型艦を沈めるために、恐らく部隊は全滅していただろう。

 

「済んでしまったことは仕方ないでしょう。それに軌道パトロール艦隊は精鋭揃いと聞きます。技量で言えばそれ程分の悪い賭けにもならんでしょう」

 

確かに軌道パトロール艦隊に所属するパイロットは、その任務の性質上現在の宇宙軍の中でも最も実戦経験が豊富な連中だ。だがそれは対艦対戦闘機に関してであり、対MSについては正直未知数だ。それにあくまで彼らは打ち上がってきた敵艦を仕留めているのであって降りようとしている艦との交戦経験は無い。

 

「嫌な気分ですな、戦場の霧に包まれた中での戦闘とは」

 

ルウムで初めてミノフスキー粒子下での戦闘を経験した連邦兵も同じ事を考えたのだろうか?そんな答えのない疑問にシャアは思考を飛ばしながら、近づいてくる友軍艦艇を見つめていた。

 

 

 

 

「難しいでしょう、ジムに大気圏突入能力はありません」

 

パオロ中佐の問いにテムは顔をゆがめながら答えた。当初機体の整備状況や損傷機体の復旧状況を聞かれていたのだが、声を潜めたパオロ中佐が唐突に聞いてきたのだ。

こちらのMSは大気圏に突入しながら戦えるか?

無茶苦茶を言ってくれる。テムは内心で頭をかきむしった。確かにガンダムには開発時に提示された、単独での大気圏突入能力の付与という馬鹿げた要求を満たすための装備がある。しかし当然であるがそれは単に突入できる能力であって、戦いながら突入出来る能力ではない。加えてジムはコスト削減のため装甲材をダウングレードしたので同じ装備では当然ながら大気圏突入は出来ない、なのでそれならばと装備その物を取り外してしまっている。

 

「つまり突入中はこちらのMSは無力化される訳だな大尉?」

 

「はい、ですが我が方のMSはジオンのMSよりも耐熱性において優越しております。こちらが手を出せない状況ならばあちらも手を出せないのでは?」

 

「普通に考えればそうだ。だがな大尉、襲撃してきた敵機に赤い機体が居たという報告があった」

 

「赤い機体?」

 

「聞いたことがあるだろう、赤い彗星だ。ルウムでの戦闘記録を見たがあれは普通の相手ではない。あれはこちらの常識の裏を掻くタイプの人間だ。つまり我々が大気圏突入時に攻撃は無いと考えているなら、奴は確実にこのタイミングで仕掛けてくるだろう」

 

何故そこまで確信できるのか。それが表情に出ていたのだろう、パオロ中佐は説明を付け加えた。

 

「ルナツーを出た際にサイド7から追跡していた敵艦の反応が消えた。つまり今連中は我々の位置が解らん。仮に宙域の何処かで仕掛けるつもりなら、私なら接触を絶たん。ならば確実に捉えられる、我々が絶対に現れる位置で待ち伏せをしていると考えるべきだろう」

 

「では突入先を変えるのはどうでしょう?マドラスや東南アジアならばまだこちらの勢力圏では?」

 

「残念だがそちらを選択しても数分の時間稼ぎにしかならん。そして衛星軌道上にはアレが居る」

 

「…あのグレムリンですか」

 

グレムリンとはジオンが2ヶ月ほど前から投入してきた大型兵器で、あちらではMAと呼ばれているものだ。

軌道上には艦を墜とす悪魔が棲んでいる。

誰が言い出したか知らないが、事実打ち上げられる艦艇や護衛の高高度迎撃機を、一切の区別無くたたき墜とすその所業は正しくグレムリンの名に相応しい。

 

「時間を掛ければ掛けるだけ我々は不利になる。そしてどのみち戦わずに地球へは降りられんだろう。すまんがMSの準備は万全で頼む」

 

「…技術大尉として確約は出来かねます。ですが最善は尽くします」

 

「すまんな」

 

その言葉を最後に通信が切れる。テムは大きく溜息を吐くと、小隊長にしごかれているアムロ達に近づいた。

 

「中尉、すまないが曹長を借りても良いかな?次の作戦で彼に使って貰う装備の説明がしたい」

 

「大尉殿。…仕方ありませんな。今日の訓練は終了!解散!」

 

訓練を邪魔された中尉は渋い顔になるが、テムの様子から本当に重要であると察してくれたようだ。

 

「た、助かったよ、父さん」

 

その場にへたり込むアムロの腕を掴みガンダムへと投げる。空中に放り出されたアムロは手足をばたつかせるが、それは何の効果も生まずガンダムへぶつかった。

 

「ここでは大尉と呼べ、曹長。それに助けたのでは無い、必要だから呼んだだけだ」

 

そう言ってふて腐れた顔になるアムロへ地面を蹴って近づく。

 

「いいか、アムロ。お前が甘えれば甘えるだけこの場に居る全員が死に近づく。不平不満も言いたいこともあるだろう。だがそれは生きて帰ってからにしろ」

 

そう言ってテムはアムロをコックピットへ押し込む。

 

「もうすぐ敵が来る。それまでにお前がこれをどれだけ使いこなせるようになるかで我々の生死が決まる」

 

その言葉に不安な顔になるアムロにテムは努めて笑顔を作り口を開いた。

 

「心配するな。軍は厳しいが出来ん事をやれとは言わん。あの中尉だってお前が出来ると信じているから出来ない事を怒るんだ」

 

「とう…大尉もですか?」

 

そう聞くアムロにテムは大きく頷いて肯定を返す。

 

「もちろんだ。第一お前は私の自慢の息子だぞ?」

 

小さく、だがしっかりと頷くアムロに満足しながらテムは準備を始める。地球はもうすぐそこまで迫っていた。




正規の軍人が皆有能な訳ではない。(言訳のつもり)
旧式艦の防空がミサイル依存は独自設定です。
だって対空機銃少なすぎるし!(WW2脳)

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