起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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よし、ガンダム大地に立った。
次いくよー。


第六十七話:0079/09/21 マ・クベ(偽)と頭上の悪魔

夕方のスコールが嘘のように、雲一つ無い星空が広がっている。コジマ大隊の駐屯しているダレイビル基地から北におよそ20キロ、旧パックク・タイガー保護区に仮設されている監視基地に勤務しているイ・スンウ軍曹は横で勤務中だというのにヘッドホンを外さない同僚に苦言を呈した。

 

「ホセ、真面目にやれ。いい加減隊長から殴られるぞ?」

 

東南アジア戦線は、4月頃の攻勢が嘘のようにここ数ヶ月は小康状態に陥っており、兵士の士気は非常に低くなっていた。

 

「はっ!勤務中に商売女を連れ込んでる隊長がなんだってんだよ」

 

そう言って取り出したガムを口に放り込むとホセは帽子を目深に被り直して居眠りの姿勢をとる。職務放棄甚だしい隊の連中に諦めの溜息を吐きながら、イ軍曹が監視用のスコープを操作していると、モニター横に設置されている音響センサーに微細な反応があった。

 

「ん?なんだ?」

 

ジオンの航空機は速度が音速を超えているため音響センサーの相手は主にヘリやホバー機だ。しかしセンサーの画面に表示されている数値は高度8000m、一瞬ガウかと背筋を凍らせるが、それにしては反応が微弱だし何より速度が遅すぎる。

 

「おい、おいホセ!ちょっと見てくれ!」

 

分析官としての才能を持った同僚に声を掛けると、億劫そうに起き上がったホセ軍曹は、何故かこちらを見て驚愕の表情を浮かべた。

 

「ホセ?」

 

その様子を訝しみ、振り向いたイが最後に見たものはモニターに映った空に浮かぶ幾つものモノアイの光と、そこから放たれた極大の光条だった。

 

 

 

 

今生において、今日という日は絶対に忘れられない日になると思う。ガルマ様経由で届いた報告を見て思わずガッデム!って叫んでしまい、ウラガンに可哀想な奴を見る目で見られたが俺は悪くない。いやね?だって、君が言った通り戦力増やして偵察したよ!増やした倍以上の敵MSが出て来てたこ殴りにされちゃったけど!なんて報告をどう処理しろと言うのか。

え、何、何なの?倍以上ってどういう事?しかも90ミリが効かなかったって、それってつまりガンダムをガチ量産してるって事?何だよそれ、ジオン驚異のメカニズムも裸足で逃げ出す悪夢なんですけど。

 

「敵新型艦はコロニーを出港。追跡するもルナツーに入港したため追跡を断念…か。赤い彗星も貧乏クジを引いたな」

 

「それにしてもこの報告は何です?宇宙軍はボーイスカウトでも雇っているんで?」

 

横から報告をのぞき込んでいたシーマ中佐が呆れた声を出す。指導員の言いつけを守れるボーイスカウトに失礼だろうなんて思いながら、ドズル中将の名誉のために口を開く。

 

「宇宙軍は先日漸く定数を揃えたばかりだからな、質の向上はこれからだったんだろう。実にタイミングの悪い事だがこればかりは仕方が無いな」

 

戦争だからね、全部こっちの都合でどうこうは出来ないよ。しかしこれちょっと不味いなぁ。

 

「報告が確かならコロニーの被害は軽微、だとするとこの新型艦を逃したのは危険かもしれん」

 

「どういう事です?」

 

「連中はあそこでV作戦とやらをしていた。これがMSの開発計画なら、この艦にはそれを造った連中も乗っていると言うことじゃないかね?」

 

もちろん最初の襲撃で死んでくれている可能性も無い訳ではないが、楽観は良くない。

 

「つまり、MSより厄介な荷物がその艦には積まれていると。しかしそうしますと不味いですね…」

 

「そうだな」

 

シーマ中佐の言葉に俺も同意する。ルナツーに逃げ込まれた以上簡単には手が出せない。それに地球に降りるにしても新造艦…恐らくホワイトベースだろう艦を使わなくてもいい。最悪複数の艦艇に分乗したりホワイトベースを囮にして自分たちはシャトルで移動、なんて方法だってある。ただ、読んだ限り普通に迎撃されたっぽいから、最悪の事態であるキリングマシーン入り白い奴は生まれていない。ならまだやりようはあるだろう。

 

「だがまだやりようはある。こちらは軌道上を押さえているからな。そこで待ち伏せすれば高確率で発見できるだろう」

 

報告を見る限り民間人も乗せていないだろうし、ここは景気よくでっかい流れ星になって頂こうじゃないか。

 

「衛星軌道…大気圏突入のタイミングで仕掛けると?かなりリスクの高い攻撃になりますね」

 

今の所大気圏突入能力のあるMSは無いからね。

 

「余計な事をして取り逃がしたのはあちらの失態だからな。そのくらいのリスクは承知して貰わねば困るよ。それに何も無策でやれと言う訳じゃ無い」

 

「そりゃまたどんな魔法を使うんで?」

 

魔法なんて大したもんじゃないよ。てか何で皆俺が何か言うと魔法魔法言うかね?…はっ!まさか30超えて清い体だとという都市伝説のせいか!?ど、どどどうていちゃうわ!

 

「単に近くに回収用のコムサイか何か、突入能力があってある程度荷物が運べる、連邦軍も使っている連絡艇があるだろう?あのあたりを先行させておいて攻撃後回収すればいい」

 

名付けてなんちゃってフライングアーマー作戦。ただし一回やると敵にも真似されて大気圏突入のリスクが跳ね上がる諸刃の剣、素人にはお勧めできないとか凄腕スナイパーが言ってくれるかもしれない。因みに聞いたシーマ中佐はドン引きしている。

 

「何というかジブラルタルの時も思いましたが…。大佐は頭のネジが幾つか無くなっていますなぁ」

 

はっはっは、褒めても何も出ないぞう?

 

「問題は現状衛星軌道に展開している部隊がMA主体である事だな」

 

流石にザクレロは回収出来ん。ついでにここで失敗するともう打つ手が無い。ジャブロー上空の制空権は連邦に握られているから大規模な迎撃部隊なんて送り込めんし、ジャブローへのハラスメントもガウでなくアッザムでやっているから爆撃していた頃に比べると対空システムがかなり復旧してるっぽいんだよね。ガルマ様からヴェルナー中尉貸してくんない?って何度も言われてるし。

 

「一度ガルマ様に話してみるか」

 

そう言った矢先にエイミー少尉が入室し、元気な声で報告をした。

 

「失礼致します!ラサ基地のサハリン少将より連絡が入っております!」

 

おや、またなんかあったんけ?まあ、通信室には行く予定だし丁度いいや。

 

「解った。ウラガン」

 

「はい、ガルマ様にアポイントメントをとっておきます」

 

「頼んだ、ではエイミー少尉、行こうか」

 

 

「お久しぶりです、准将。昇進の時はお祝いの連絡も出来ず申し訳ない」

 

前と顔色は余り変らないが、疲労を感じさせない口調でギニアス少将がそう切り出した。

 

「気にしないで下さい。そちらも開発が佳境だったのでしょう?アレの完成に比べれば私の昇進など些事に過ぎません」

 

「そう言って貰えるなら幸いです。今日連絡しましたのは、その不義理分を取り返そうと思いまして」

 

「取り返す…まさか!?」

 

「はい、まだ手直ししたい部分は多々あるのですが…完成です。今朝方全てのテストを終了し正式にアプサラスの完成報告を致しました」

 

まじかー。いや、ほんとまじか。だってまだ9月だよ?そら月の終盤だけど、それでも史実より2ヶ月近く早いじゃん。それも突貫工事じゃなくて、少なくともギニアス君が完成と言えるレベルの出来映えなんでしょ?これは正に天佑じゃなかろうか。

 

「おめでとうございます少将。遂に本懐を遂げられたのですね」

 

「有り難うございます、准将。約束通り、1号機はそちらに送らせて頂きます。…それと実はもう一件お話がありまして」

 

「はい、何でしょう?」

 

「実は、近々本国へ戻ることになります。アプサラスの改善と製造については引き続きラサのスタッフがやってくれますが、残念ながら私の戦争はここまでのようです」

 

その言葉に内心が表情に出てしまったんだろう、モニター越しのギニアス少将が慌てて言いつのる。

 

「ああ、勘違いしないで下さい。今日明日死ぬ訳ではありません…むしろこの先を生きるために私は本国へ帰るのですよ」

 

どうもアプサラスが完成したので本格的に本国で治療に専念するとのことだ。宇宙線被曝はスペースノイドにとって実はかなり身近な事だ。ギニアス君くらい重度になった人は少ないが、案外軽度の被曝だと薬の服用と遺伝子治療なんかで完治しちゃったりする。そもそも重度に被曝したギニアス君がここまで生きているくらいなんで、その医療レベルは油断したら人類をコーディネイト出来てしまうレベルやもしれん。なんか大人になった赤いのが議長とかになって全人類ニュータイプに改造します!これぞデスティニー計画!とか言い出しそうで怖い。

 

「そうですか、寂しくなりますが仕方ありませんな」

 

少将の命には代えられないもんね。

 

「後任はノリス・パッカード大佐にして貰う予定です。それでオデッサへのアプサラスの移動についてなのですが」

 

そう言われて俺はちょっとしたイタズラを思いついた。これ、もしかしなくても使えるんじゃね?

 

「ギニアス少将。つかぬ事をお聞きしますが、例のブースターも完成しているのですかな?」

 

「ん?ええ、所詮ただの化学ロケットですから。むしろ本体より先に完成していますよ」

 

「Iフィールドの搭載は?」

 

「そちらも完了しています。ただ冷却の問題から連続運転は10分です、その後は3分ほどのクールタイムが必要です」

 

成程、成程ね…。

 

「少将。申し訳ありませんが、オデッサへ送って頂く前に一度やって頂きたいことが」

 

「やって欲しい事…。准将のお願いなら断れません。一体何をすれば良いのですか?」

 

そう言う少将に俺は笑顔でこう告げた。

 

「ちょっとジャブローへ挨拶に行って頂きたい」




アプサラス本作のについて。
原作と同様のザク頭一つでマルチロック(つまり複数目標を追尾し続ける)が実現出来ずギニアス君が悩んでいたので、どっかの基地司令が
「1個で出来ないなら沢山付ければ良いんじゃね?」
などと言った結果、全身に多数のモノアイを持つイロモノMAになりました。
イメージは百々目。
モノアイレールの都合上、原作より装甲が弱くなっているという脳内設定です。

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