起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない 作:Reppu
改めてV作戦調査のために招集されたシャアはソロモンの会議室の一つで顔合わせをしていた。入室し敬礼すると、既に到着していた相手が口を開く。
「ご苦労、シャア少佐。お互い上司の無茶振りで大変だな!」
快活に笑いながら返礼すると親しげに近寄ってきて肩を叩く男に、シャアは頬が引きつりそうになるのを必死に隠しながら返事をする。
「はい、いいえ少将殿。このような任務を与えて頂き光栄であります」
そう言うとコンスコン少将は一瞬目を丸くした後、声を上げて笑った。
「はっはっは!若いのに勤勉だな!その歳で少佐なのも頷ける。支援はこちらでやるから存分に暴れてこい…おっと潜入作戦で暴れるのはマズイか?」
以前見た時とのあまりのギャップに面を喰らいながら、シャアは曖昧な笑みを返した。以前の少将はどちらかと言えば慎重で消極的、よく言えば堅実な人柄だったが。
「とは言え、若い連中だけに苦労を掛けるのもマズイだろうと思ってな。心強い助っ人も連れてきた、大尉!」
その声に何処か憮然とした態度を崩さないまま、壮年の男が部屋に入ってくる。
「久し振りだな…、いや今は上官だったか。久し振りですな、赤い彗星。こうして会うのは月以来ですかな?ルウムでは部下が世話になったとか。おかげで皆無事に帰ってきました。感謝しとります」
形だけの敬礼をするのはランバ・ラル大尉だ。一週間戦争の際、ドズル中将と口論になって以降、勤務態度が悪いと閑職に回されていた筈だが。
「潜入ともなれば、相応に腕が立つ部隊が要るだろう。少佐の腕は信頼しているが、如何せんお前さんの部下は若すぎる。気分は良くないだろうがここは年寄りの老婆心と思って呑んでくれんか?」
この二週間の訓練でもあまり改善が見られない部下たちの顔を思い出し、シャアは素直に溜息を吐いた後、笑顔で答えた。
「とんでもありません、少将殿。おっしゃる通り我が隊はまだまだ未熟であります。大尉のようなベテランにフォローして貰えるならこれ程心強い事はありません」
「だ、そうだぞ、大尉。いい加減貴様も大人を見せろ」
そう少将が言えば、大尉は決まりの悪い顔になって鼻を鳴らした。
「最善は尽くしますが、何せ相手は未知数だ。確約は出来ません」
「なに、危険であればさっさとずらかるだけだ。その為の少数部隊なのだからな」
そう言って少将は端末を点ける。
「少佐の方がムサイ1隻にザク…S型が4機、こちらがチベ1隻にムサイが1隻。ルナツーの警戒網をすり抜けるならこの位が限界だろう。ここの所また連中の動きが活発化しているからな。MSはラル大尉の小隊にS型が3機、それから艦隊の守備にR型が6機とザクレロを1機都合した。ただ隠密行動のために補給が受けられんから、物資を積んだ都合上予備機はR型が1機だけだ。少佐の方は?」
「こちらは予備機がありません。補修パーツのみであります」
そう返せば大尉がうなり声を上げた。
「相手はMSなのでしょう?予備機が無いのは心もとないですな」
そう言う大尉に少将はかぶりを振る。
「いや、MS部隊に損害が出ている時点で作戦は失敗だ。その場合は先ほども言った通り即座に撤収する」
その言葉にシャアは確認を込めて発言する。
「露見した場合、戦力の多寡にかかわらず攻撃は行なわないのですね?」
「そうだ。何しろ俺たちはばれた後にもう一度ソロモンまで戻らなくちゃいかん。無理は出来んよ。他に質問が無ければ大まかな予定を決めてしまおう」
二人が頷くと、今度はコロニーの見取り図を映し出しながら少将が続ける。
「まず、貨物ゲート…ここではA2と書かれたゲートだな、ここからザク6機を送り込む。1機を残してゲートを確保。その後残りの機体でコロニー内を捜索する。俺のプランとしてはこうだ」
そう言って少将はザクを2機ずつに分け、港湾区、工業区、そして商業区へ割り振る。
「作業機械や部品製造を考えれば最有力候補は港湾区、次いで工業区だろう。最悪こちらに露見しても運び出すのも容易だからな。よってここにそれぞれ2機ずつ、恐らく無いだろうが万一のため残りの1機で商業区と居住区の偵察を行なう」
「MSを降りずにやるのですか?」
ラル大尉の意見はもっともだとシャアは感じた。潜入であるから、港湾区で全員MSから降りて生身で行なうと自然に考えていたからだ。
「隠蔽を考えればそうなるが。ラル大尉、君の部下で専門に生身での潜入訓練を受けた者は?」
「…私を含め居りません」
「シャア少佐の方も同じだろう?だが確かパイロット課程ではMSの隠蔽については学んでいるはずだな?」
その確認にシャアは黙って頷いた。確か4月の終わり頃だっただろうか?地球方面軍からの要請で、MSパイロットの教習課程に遮蔽物やカモフラージュ用の装備を用いたMSの隠蔽、隠匿に関する項目が加わったのだ。宇宙空間という遮蔽物の乏しい環境で戦うことに慣れているMSパイロットはそうした面に疎く、地上で容易に発見され空爆されたためだと聞いた。
まさか既存部隊のパイロットまで再講習になるとは思わなかったが。
「つまり降りて半端な知識で隠れるより、最低でも学んだ内容を活かせる状況で、と言う訳ですか。しかしそうなりますと施設に近づくのが骨ですが?」
「その辺りも考えてある」
そう聞き返す大尉に、悪戯の成功した子供のような顔で少将が答えた。次いで端末に映されたのは見慣れない装備だった。
「少将殿、これは?」
「偵察型のザクが装備しているカメラ・ガンという装備だ。視認範囲をこちらが手動制御してやる必要はあるが、ザクのモノアイの凡そ5~6倍の解像度がある」
問題は施設内に秘匿されていた場合確認出来ないことだが、そんな状況であればまだ生産数は大したことが無いと言う事だし、そもそも今回の人員では施設内への侵入は無理なのだから諦めるしかないと少将は言う。
「そうなればもう俺たちの手には負えん。スパイ活動は情報部の領域だからな…ただ、今回の件に総帥やキシリア少将が絡んでこないところを見れば、ドズル中将に一任された事に裏の意味があるんじゃ無いかと俺は思う」
「裏の意味…でありますか?」
シャアの返事に少将は重々しく頷く。
「既にガルマ大佐が連邦製MSのサンプルを確保しているからな。今更少数で潜入して情報収集をする事自体に意味は薄い、だから恐らく中将は我々に敵MSの撃破を望んでおられる」
敵の撃破という不穏なキーワードに思わずシャアは大尉と顔を見合わせた。
「ここの所宇宙軍は活躍していないからな。ここらで目立った功績が欲しいのだろう。実際最初は俺の艦隊の半数を送るつもりだったらしいしな」
少将の言葉にシャアは思い返す。コンスコン少将に話が行ったのは自分の偵察任務が中止になった後だろう。だとすれば本当に最初の命令が撤回された後、大きな心境の変化が起こったという事だ。
「だとすれば、今回の派遣で戦わないのは不味いのでは?」
大尉の疑問に追認するようにシャアも頷く。少将は先ほど戦力の多寡に関わらず偵察のみで交戦しないと明言したからだ。つまりドズル中将の思惑から外れた行動を取ることになる。
「兵の損耗を考慮しないなら戦えるがね。あるいはコロニーごと吹き飛ばすとかな」
その言葉に大尉が顔をゆがめる。情に厚く、軍人としてはあまりにも常識人な大尉にはどちらも許容し難い内容なのだから無理はないが。
「先ほども少し言ったが、ルナツーの動きが活発化している。だとすればサイド7は囮の可能性だってある。だから偵察はするが、恐らく連中の本命はルナツーだろう」
普通に考えれば幾ら自分の裏庭だからといって、満足に戦力を置いていないサイド7で自軍の命運を決める兵器の開発などしないだろうと言うのが少将の意見だ。
「しかし、だとしたら情報部が掴んだというV作戦は何なのです?MS開発用の物資も運び込まれていると聞きましたが?」
シャアが疑問を口にすれば面白く無さそうに少将は鼻を鳴らした。
「ルナリアン達の儲けの種だろう。ここの所我が軍は順調に勝ち進んでいるからな。このまま行けば年内にも戦争は終わる。大方そうならんよう連邦にてこ入れをしているんだろうさ」
つまり今回の情報でこちらの戦力をサイド7へ分散させ、消耗させるのが狙いであろうと少将は語る。第一ルナツーには工廠があるのだ。態々月から買い付けなくとも部品の調達が出来る。
「戦力が回復したとは言え、宇宙軍のみでルナツー攻略はまだ難しい。連中が戦力を増強しているなら尚更な。だからこんな所で不用意に兵を失う訳にはいかんのだ。特に貴様らのようなエースはな」
「…でしたら、潜入部隊に私も参加します。そうすればコロニー内の捜索を全てロッテで行えますから」
その言葉に少将は一度頷くと口を開く。
「解った、そうしよう。1時間後にブリーフィングを行い、その後1700標準時をもって出撃する。他に何かあるか?」
沈黙する二人を見てコンスコン少将はゆっくりと息を吸い太い笑みを作る。
「宜しい。では、かかるぞ」
サブタイの双方が出ていない件、酷いタイトル詐欺ですよこれは!
原作に比べコンスコン少将が男前なのは、指導官に選ばれて自身が認められていることを認識できているのと、シャアがほいほい大佐に昇進する前だからです。
有能じゃない人が少将になんてなれませんよね!(フラグ