起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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病院が退屈なので投稿。
皆さんも病気にはお気を付け下さい。


第四十三話:0079/07/24 マ・クベ(偽)とオデッサファニーズ

「つまりカタパルトを撤去して軽量化と主翼の空気抵抗の削減を狙うと、そう言う事か大佐?」

 

「はい、以前のドップでは航続距離の関係で母機が必要でしたが、ドップⅡであれば問題無いでしょう。それと後部カーゴベイに降下用装置を設ければMS降下時の速度低下も最低限で済ませられます」

 

久し振りに連絡があったと思ったらガルマ様からガウについて意見を求められた。ガウは難しいよねー。大分難航していたのか随分お疲れの様子だ。

 

「だが今の機動性では例の高射砲を避けることが出来ん」

 

「戦闘機並みの機動性を確保しなければそれは無理な話です。爆撃機や輸送機に求められる性能ではありません。諦めるしか無いでしょう」

 

「…アッザムがもう少し安ければな」

 

そう言ってため息を吐くガルマ様。現在グラナダで懸命に生産しているアッザム改であるが、その生産速度は芳しくない。先日漸く3号機がロールアウトしたが、東南アジア攻略に持って行かれてしまった。比較的落ち着いていて自力である程度装備が生産できる分、欧州と北米は本国からの装備が後回しにされているのだ。オデッサは良いけどキャリフォルニアはユーコン造ったり、ゴッグ造ったり、グフⅡ造ったりと大車輪なのでちょっと厳しいようだ。先日もウチで生産したグフⅡ無心されたしな。

 

「例の移民計画は順調なのでしょう?であればそこまで焦る必要は無いかと愚考しますが」

 

実は先日のプロパガンダ以来、地球に住む低所得者層や環境悪化によって難民化した人々の連邦への不信感が高まっており、そうした民間人をサイド3へ移民させるという荒技をガルマ様が繰り出した。

正直、環境悪化を促進させたジオンに来るのは拒否感があるんじゃ無いかと思ったんだが、対象となった人々は大体が今日食う飯にも困っているような有様だったので、助かるなら敵にでも縋る状態だった。元々コロニーからの輸入で食料を賄っていた上に地上における食料生産地である北米はこちらの勢力下、オーストラリアはコロニー落としで壊滅と言った具合で、備蓄していた軍はまだ平気だが民間、それも元々難民になっていたような人達はとてもでは無いが食っていけないらしい。んで、そこにきてあのプロパガンダである。

 

「ああ、エッシェンバッハ氏が協力してくれているのが大きい。それに大佐のアドバイスもな。あれを周知した後は希望者が膨れ上がったぞ」

 

「お役に立てたのなら幸いです」

 

大したことじゃないんだけどね。ただ移民した人達は兵役を免除されるようにした方が良いよって伝えただけだ。正直難民と言ったって先日までは連邦市民だったわけだから、鞍替えしたからとすぐ銃を向けるのは心理的抵抗が強いだろうし、何より厭戦気分が非常に強いだろうから、戦争から離れられるという言葉は魅力的に映ると考えたのだ。ついでにスパイ対策でコロニー間の移動は制限されること、既存の住民も同じく移民組へのコロニーへの移動は厳しく制限することも公開した。変に隠さずにデメリットも伝えたことでむしろ希望者は増えた。うまい話は罠じゃ無いかと疑っちゃうと言うのはダグラス大佐で学習済みなのだ。

 

「当面は既存の住民を疎開させて空いたコロニーへ移民させているが、すぐに収容限界が来るだろうな。早期にコロニーを確保したいが」

 

「突撃機動軍の艦艇ならばいくらか余裕がありましょう」

 

戦争初期に壊滅的被害の出た各サイドだが、それでも修理すれば使えるコロニーも結構ある。ルウムのテキサスコロニーなんかが良い例だ。あれは条約で使えないが、それ以外の奴なら持って行っても構わんだろうと、移民計画が提案された段階でルウムからのコロニー移動も提案している。今頃総司令部はガルマ様と同じく頭を悩ませていることだろう。まあ戦争に勝つために是非頑張って頂きたい。

 

「そちらは兄さん達に任せるとしてだ。実は本件に関しては少々問題があってな」

 

そう言ってガルマ様が何やら資料を送ってきた。

 

「ここの所の大佐の活躍は本国…それも開発陣を刺激していてな。はっきり言うと刺激しすぎた訳だが」

 

送られてきたデータは所謂提案書で、読み進めていく内に頬が引きつるのを自覚した。

 

「ガルマ様、これは?」

 

「開発部が提案してきたものでな。ジャブロー攻略用MS群…だそうだ」

 

眉間のしわからガルマ様も否定的なようだ。良かった、大真面目にこれ量産しようとか言われたら吹き出していたかもしれん。

 

「水陸両用…兼地中侵攻用MSの開発並びにその支援MS群の提案?本国の開発部は酸素欠乏症にでも罹ったのですか?」

 

「割と大真面目だ。連中どうも大佐に強い対抗意識を燃やしているらしくてな…。ドズル兄さんが宇宙攻撃軍の再建でも大佐を頼っただろう?アレが決定打になってどうも危機感を持っているらしいんだ」

 

なんか総司令部から、予算は一丁前に持って行くくせに方面軍のたかが基地司令以下の仕事しか出来ないとか居る意味あるの?馬鹿なの?みたいな煽りを頻繁に食らっているらしい。それは正直すまんかったと思うが。

 

「隠密偵察、潜入工作用MSを中核とし、岩盤掘削用MS、経路開設用MSと火力支援MS…。偵察機と火力支援機は百歩譲って理解できますが、経路開設に態々専用MSを開発?それに岩盤掘削用MSですと?連中敵陣地のど真ん中で土木工事が出来ると本気で考えているのですか?」

 

やっぱり酸素足りてないな、今度の輸送は多めにしよう。

 

「ギレン兄さんも懐疑的なんだがね。他に有効な装備が無ければ検討も視野に入れるべきだと」

 

それでガウなのね。

 

「大真面目にジャブロー攻略用MAを開発しているギニアス少将に土下座で詫びろと言いたいですな。ギニアス少将はなんと?」

 

「最大限の努力はすると言っていた…が、努力しようとも出来ないものは出来ないからな」

 

現状の開発ペースだと切り詰めても3ヶ月は必要だと言われたらしい。そういやアプサラス計画もなんか無駄呼ばわりされたとか少将からメールが来てたな。総司令部全方位に噛みつきすぎだろ。あちらも何かフォローするとして、こっちも余計なリソースは食いたくないしなあ…。仕方ない、また貧乏クジだ。

 

「では、仕方ありません。時間を稼ぎましょう」

 

大体ガンダムの実戦データやら残骸やら本国に送ってあるんだから、さっさとそれの対応をしろと言いたい。具体的にはエネルギーCAP早く作れよ。

 

「時間を?どうするつもりだ大佐」

 

「ちょっと試してやるのですよ。設計図は送られてきて居るのでしょう?であればとりあえず1機、このアッグを送って頂きたい」

 

明らかに愉快な形状をしているイラストの描かれた資料を突く。そういやこれどうやって運ぶつもりなんだろう。ホバーって書いてあるけど水中の移動装備が一切無いぞ?

 

「アッグ?いや、試作の機体があるから送るのは構わないが、よりによってそれか?他のはいいのか?」

 

いいんだよ。時間稼ぐためなんだから。

 

「アッグが目的地までの岩盤を掘削するのでしょう?」

 

そう俺が言えば、理解したのか悪い顔になるガルマ様。なんか指揮官として頼もしくなったけどその分黒くなっちゃったな。イセリナ嬢に嫌われんといいが。

 

「やれやれ、大佐を見ていると自分が若造だと良く解るな。了解だ、よろしく頼む。ああ、それと例のバックパックなんだが、グフⅡにも取り付けられるようにならないかな?部下からアレのおかげでドムが欲しいという陳情が大量に来ていてね」

 

「技術部に聞いておきましょう。ガルマ様もMIP社の件、よろしくお願いいたします」

 

その後挨拶を交わして通信を切ると、俺は腕を組んで溜息を吐いた。

 

「さて、一応もう一手打っておこうか」

 

 

 

 

初日のランニングが準備運動に置き換わって一週間。始めこそひたすら走らされるだけの一日に不満も覚えたが、今では皆黙々と訓練に取り組んでいる。そのくらいシーマ少佐とのシミュレーター訓練は衝撃的だった。自慢では無いが、ここに居るメンバーは集められた中でも、特にMSの適性が高いと評価されていたのだが。

 

(お笑いだよね)

 

走りながらミノル少尉は思わず笑ってしまった。そもそもMSの適性試験が問題だったのだから。ミノル達が受けた試験は士官向けの適性試験、階級的には間違っていなかったが問題は自分たちの親の事情を忖度した事務官によって、練成課程をすっ飛ばして任官していたことだ。つまり、適性試験では当然クリア済みである筈の体力や持久力といった項目は存在せず、空間認識力や反射神経と言ったものと機材に対する基本的な知識の有無程度だった。

これまでの扱いを思い出してミノルは納得する。ここに送られてくるまでの担当者は、その誰もが自分たちがとてもMSに乗れるような人間でない事を見抜いていて、だから事務や秘書といった部署に就けようとしていたのだ。自分たちが考えていたのと真逆の意味での特別扱いだったのだと思い知らされた時の落ち込みは、ちょっと思い出したくない。

 

「よし、ラスト1周!急げ!」

 

その声にペースメーカーをやっているジュリア少尉が速度を上げた。元々体格的には恵まれていた彼女はここ一ヶ月でメンバー一の体力と持久力を獲得している。あのおっかない大佐が、本気で自分たちをMSパイロットにしてくれるべくカリキュラムを組んでくれていると指導教官の少尉から聞かされてからは、最初の頃の不満はなんだったのかと言うくらい態度が豹変し従順になっている。ちなみに訓練中たまに通りかかる大佐に以前とは別の意味での熱い視線を送っているが、シーマ少佐のあの態度から色々察した方が良いとミノルは思う。

 

「はい、はい、問題ありません大佐殿…承知しました。全員集合!」

 

何事か大佐と端末で話していたらしいトップ少尉が集合を掛ける。ペースアップどころか全員ダッシュに切り替えてノルマをこなすとトップ少尉の前に集合した。

 

「よし、クールダウンしながら聞くように。今大佐から連絡があり、貴様らにMSを預けるとのことだ」

 

一瞬呆けた後、その意味が理解できたメンバーが歓声を上げる。ミノルも態度にこそ表さなかったが、興奮で動悸が激しくなるのを自覚した。

 

「はしゃぐな、大佐が仰るには試作機のテストをして欲しいとのことだ。それが新人でも扱えるのかが知りたいらしい。つまり、まだまだ貴様らは一人前とは認められていないということだ」

 

そうは言うもののトップ少尉の顔も笑顔になっていた。当然だろう、大佐が自らテストを命じると言うことは、自分たちがMSを任せられると認められたと言うことなのだから。

 

(試作機、どんなだろう?ドムみたいな機体だったらいいな)

 

その後、数日で実機が届き機体説明を受けた際、ジュリア少尉が崩れ落ちる事になるのだが、それはまた別の話である。




ガウの改造なんて思いつきません(憤怒

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