起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない 作:Reppu
つまり週末は更新しないと言うことさ!
注意!
本文にて極めて重大な原作無視が行なわれています。
原作の雰囲気でない描写に嫌悪感のある方はブラバ推奨です。
本稿より必須タグが追加されております。
嫌悪感のある方は今一度確認をお願い致します。
良いんですね?
警告はしました。
ではお楽しみ下さい。
人は何故、この翌日の苦しみを知りながら痛飲するのか。はい、俺の意思が弱いからですね。見事に空になったボトル達と割かし地獄絵図な私室を見てため息を吐いた。
開始三十分はまだ相談というか、話し合いの体を保ってたんだけどなあ。
容赦なく開けられていくワインに気を取られていたなんて言い訳にもなるまい。俺は頭を掻きながら、昨日のことを思い返す。
「たいさどのわ!なんでわらしをなまえでよばないでありますか!?」
廻っていない呂律に据わった目、真っ赤になった顔と酔っ払いの条件を完全に満たしたガトー大尉が唐突にそう言い出した。誰だよ!こんなになるまで飲ませたの!そう視線を送るとシン大尉が申し訳なさげにジェスチャーしてきた。
(ワイン一杯でここまで酔うとは思いませんで)
下戸かよ!?
「きいてるんれすかたいさぁ!」
「聞いている。少し落ち着きたまえ大尉」
因みにウラガンとエイミー少尉は、ガトー大尉が不規則に揺れ始めた辺りでツマミを取りに行くといったきり戻ってこない。逃げたな、正しい判断だ。でも俺を置いていったのは許せん。なんてことを考えていたら、急に俯いた大尉が肩を震わせ始めた。この上泣き上戸だと!?冗談では無い!おっとこれ違う人のネタだ。
「また、よばない。たいさはわらしのことがきらいなんれすべぇ?」
なんれすべって何語だよ。
「誤解だ大尉。その、知人に大尉と同姓同名の男がいてね。それでどうにも呼びにくかったんだ」
まあ、俺が一方的に画面越しに知ってるだけなんだけどね。
「男なのにアナベルですか、変わっていますな」
人ごとのようにコメントするシン大尉。おい元凶、余裕だな…後で覚えとけよ。非難がましく睨んでいたら、シーマ少佐が残念なものを見る目で口を開いた。
「それは大佐。アナベル大尉が不憫ですよ、ちゃんと呼んであげなさいな」
その言葉に凄い勢いで顔を上げた大尉が潤んだ瞳でシーマ少佐の手を握りしめた。
「わらし、しょうさのことをごかいしてました。しょうさやさしいれす」
「今までどう思われてたんだろうねえ…」
ド直球な物言いに頬を引きつらせながら応じるシーマ少佐。ターゲットが移ったと安堵の溜息を吐いたのが悪かったのか、思い出したと首を捻って大尉がもう一度催促してきた。
「さあ、たいさ!ちゃんろわらしをよんれください!」
手を広げて全力でばっちこいアピールな大尉。なんだよ、呼びながらハグでもしろってのか。こちらが躊躇していると、また顔を歪めて目一杯に涙を溜める大尉。見守る二人からも面倒だからちゃっちゃと呼んでやれよという無言の圧力をひしひしと感じる。
「解った、解ったよ。これからはちゃんと呼ぶと約束する、アナベル大尉…これでいいかね?」
「たぁいさどのぉー!」
呼んだ瞬間、満面の笑みを浮かべて抱きついてくる大尉。俺は自分の中で大事な何かが音を立てて崩れていくのを自覚しつつ固まっていると、すっごい形相になった少佐が大尉を引っぺがしてくれた。
「飲み過ぎだよ大尉!チョットこっちでおねんねしてな!」
言うや少佐は素早く大尉を拘束すると寝室へと連行していった。閉まった扉の向こうから、そこはダメ!とかアンタ何処触ってんだい!?とか非常に探究心を擽られる声が聞こえてくるが、俺は紳士なので覗いたりはしない。決して覗いたのがばれて社会的に死ぬのが怖いからでは断じてない。紳士だからである。
「あー、申し訳ありません。大佐殿」
バツが悪そうに頭を下げるシン大尉に溜息を吐きながら返事をする。
「想定外の事は起きるものだ、次に気をつければ良い。良い経験になったな、大尉」
そう言って空になった大尉のグラスにワインを注ぐ。さっきのドタバタでコルクが何処かに行ってしまった、こりゃ今日中に飲んじゃうしかないな。そんなこと考えながら自分のグラスにも注いでいると、大尉が真剣な目でこちらを見て居ることに気付いた。え、なに?俺そっちのケは無いぞ?
「気持ちは解るが止めておけ大尉。少佐の格闘術は実戦形式だ、命が幾つあっても足りんぞ」
そう忠告すると大尉は含んでいたワインを吹き出した。汚え!もったいねえ!?
「ガフッ、ゴホッ…そんなこと考えていません!」
じゃあなんだよ、繰り返すが俺はそっちは嗜まんぞ。半眼で眺めていたら、大尉はワインに視線を落とし、語り出す。
「…以前、ルウム戦勝記念式典で大佐をお見かけしました。率直に言います、私には貴方があのマ大佐だとは思えない」
まあ別人だしね。多分、シン大尉はここでの生活をそれなりに気に入ってくれているのだろう。鉱山基地の運営にも積極的だし、ウラガンからの報告でも懸命にこちらのやり方を覚えようという姿勢が見て取れる。故に、俺に対し疑惑を持っている事への罪悪感から俺自身に告白してきたんだろう。もし本気で嫌疑をかけて拘束しようと思うなら、もっと人がいる場所、それも同じ疑問を持っている仲間を伴ってやるだろう。その正直さは美点だし、俺自身も好ましいのだが。
「大尉、それを私に伝えて君は何がしたかったのかな?」
そう言って俺はゆっくりと立ち上がる。
「君の言うとおり、私がすり替わった誰かであったとしてだ。それを君が気付いた事を私に告げた意図はなんだ?」
「私は…その、ただ、疑心を向けてしまったことを申し訳なく思い…」
「ここは懺悔室では無いし、私は神父でもない。それにだ大尉。今の今までが欺き、信用させ、致命の一撃を狙うまでの擬態なら…この先どうなる?」
そう言って俺はゆっくりと近づいたサイドボードの引き出しを開け、手を入れる。大尉は顔を強ばらせ、腰を浮かせた。彼が丸腰なのは確認済みだ。
「忠告だ大尉。将になるなら、簡単に人を信用するな。疑念を持ったなら、その最悪も想定して行動しろ。疑心を持った相手にそれを伝えるなど、問題外だ」
そう言うと同時、引き出しから手を抜き大尉へと振り返る。手を伸ばしきる前に大尉は床へと転がりソファを盾にした。
「そのソファは総帥府に置いてあるもののレプリカでね、防弾板を仕込んでない安物だ。座る分には不足無いがね」
俺がそう言って近づくと大尉は意を決したのかソファから飛びだし、俺に掴みかかろうとした所で目を点にし、動きを止めた。
「だから簡単に人を信じるなと言っている」
そう言って俺は大尉の口にチョコレートを突っ込む。ちなみに何故チョコかと言えば、引き出しは菓子入れで適当なサイズのものが無かったからである。
「か、からかったのですか!?」
「心構えのレクチャーだよ大尉。君を安心させてやろうかと思ってね。少しは君の思うマ大佐だったかな?」
そう言ってソファに座り直しワインを飲む。
「今回はたまたま私が敵で無くて良かったな大尉。本当の敵だったら今頃死んでいるぞ?」
俺の言葉に、同じく座り直した大尉が怫然とワインをあおった。もったいねぇな、高いんだから有り難く飲めよ。
「人が悪いですな」
「当然だろう。マ・クベ個人が詐欺に遭って財産を失う程度なら間抜けで済むが、オデッサ基地司令が騙されれば多くの将兵が死にかねないのだぞ?相手を信じるのと同じくらい相手を疑いたまえ。特に人を使うならな」
そこまで思い出して一人身もだえる。酔っ払った勢いでなんか滅茶苦茶した気がする!ウラガン達に見られて無くて本当に良かった。あんなん私は部下を信じていませんよって言ってるのと一緒じゃねぇか。
「そして、問題はそれだけじゃ無い」
サイドボードからチョコレートを取り出し口に含む。甘味とほのかな苦みが広がり、残念なことに自分が起きている事を証明してくれる。
「まったく、最悪を想定しろか。人のことは言えないな」
そう言って今頃寝室で寝息を立てているであろう彼女達を思い返す。そう、彼女達。
「アナベル・ガトー、宇宙攻撃軍所属大尉。…性別、女性」
始めの違和感はキシリア様、次いでキャリフォルニア基地の司令であるガルマ様、原作とはずれた作戦日時。そして極めつけは名前通り女性のアナベル・ガトー大尉。ここまで来れば間抜けな俺だって気付く。
「つまり、ここは。俺の知っているガンダムに良く似た違う世界と言うことだ」
震える手を必死で握りしめて誤魔化す。ここまでは上手く行っている、だがこれからは?原作知識というアドバンテージが怪しくなった俺に一体何が出来る?こちらに来てから関わった人達の顔が脳裏に浮かび、それがどうしようも無い重圧としてのしかかってくる。俺が間違えれば、彼らが死ぬ。
「俺は、生き延びさせることが、出来るのか?」
俺の疑問に答える声は無く、つぶやきは大尉の寝息の響く部屋に溶けて消えた。
本話作成までの経緯
作「ねえ、ガトーってなんでアナベルって呼ばれんのだろうか?」
友「アナベルって女性名だからじゃね?呼ぶとダッシュして殴りに来るんだよ」
作「カミーユかよwでもガトーも大概じゃね?フランス語でケーキって意味じゃ無かった?」
友「ケーキwww名前女で苗字がケーキとか完璧すぎるwww」
作「しかも銀髪ロングで武士。これは明らかにくっころヒロインですわw」
友「つまり、ガトーは女だった?」
作「また、宇宙世紀の謎を一つ解き明かしてしまったか…w」
ここまで素面かつ深夜でも無い時間。人これを馬鹿と言う。
追記
アナベル大尉の声は佐倉綾音さんでどうですか?お客さん!