起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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モチベーションが上がらない時って、あるよね(言い訳のつもり)


第三十五話:0079/07/04 マ・クベ(偽)とヒエラルキー

厄介なお嬢さん方を迎え入れて一週間が経った。ジュリア嬢は相変わらず今にも噛みつきそうな目でこちらを睨んでくるが、彼女が何かをすると全員にフルマラソンが待っていると理解した他のメンバーに必死に止められている。うんうん、そうやって是非連帯感を強めて欲しい。なんて気楽に考えていたら、困った顔になったエリオラ大尉が話しかけてきた。

 

「申し訳ありません、大佐。正直に申しまして、そろそろ限界です」

 

あれ?その辺りはトップ少尉達が上手くやってくれてんじゃないの?と思ったら。どうやら少尉達は肉体的な限界は見極めているが、精神的な限界についてちょっと甘かったらしい。そもそも志願して前線に来るような奴なんだから覚悟してきてるんだろ?とばかりにブートキャンプ(易)をしたものだから、精神的にタフなメンバーはともかく、使命感だけのメンバーがそろそろ鬱かノイローゼにでもなりそうだとのこと。病気になれば大手を振って実家に帰れるんじゃね、とか不謹慎な事も考えたが、責任感が強い分自傷行為や最悪精神病で後送になんてなったら自殺しかねないというのが大尉の見立てだ。その気遣いを何故俺にはしてくれなかったんでしょうか。

 

「大佐は壊れませんから」

 

そんな方向の信頼は要らない。ともかくそろそろ飴を与えて欲しいとお願いされた。正直教育状況はノータッチだったので、少尉に来て貰ってそんな話があるけどどう思うって聞いたらすっごいしかめっ面された。

 

「はい、大佐。正直に申し上げれば彼女たちは最低ラインにすら達していません。MSに乗るには、最低でも後3ヶ月は必要でしょう」

 

まず体力が足りない。次いで兵隊としての知識も無い。正直なんで軍服を着ているのか解らないレベルで軍に対する理解もない。MSに乗せるどころか、本音で言えばとっとと本国へ帰れと言いたいというのがトップ少尉の忌憚のない意見だそうな。奇遇だね俺も同意見だよ。まあ、残念な予行演習と考えてやるけどね。

 

「…予行演習?どういう意味でありますか?」

 

「あくまで私の推測だが」

 

そう前置きして、史実でのジオンが行った学徒動員の話をする。まあ、第二次大戦以降、便利な人殺しの道具が増えれば増えるほど、兵隊の若年化が進むのは歴史が証明している。ジオンだって余裕がある今だからこそまともな訓練をした兵士を乗せているが、余裕がなくなれば歩兵や旧世紀の戦闘機などに比べれば遙かに体力面での負荷が低いMSを、それこそ動かせるだけで良いと考えて彼女たち程度の人員が新兵として送られてくるようになるだろう。話し終えた後、少尉の顔を見れば嫌悪に歪んでいた。

 

「子供を戦場に送り出す、控えめに言って吐き気がしますね」

 

「そうだな。だが追い詰められれば何処の国でもそうする。無論我が国だって例外ではない。幸か不幸か、彼女たちはまだ時間があるうちに来てくれた。最悪の中でも最善の一手が打てるよう、精々我々も訓練させて貰おう」

 

「…大佐は、今次大戦がそうなるとお考えなのですか?」

 

どうかな。俺は未来が見通せる訳じゃないからね。保身に走ったせいで原作知識も何処まで通じるか怪しいし。

 

「ならないよう最大限の努力はする。だが、なってしまった時に後悔しても遅い。であれば最悪に備えるのもまた軍人の使命だろう」

 

子供を引っ張り出した時点で、大人としても軍人としても失格だけどね。

 

「であるならば、シミュレーターに乗せるくらいが妥当でしょう。大佐がお相手してくださればより励みになるかと」

 

そーなの?ご褒美になるって言うなら吝かじゃないよ。

 

「解った、それじゃあ午後はお嬢さん方とデートといこう」

 

 

そんな訳で、書類仕事を片付けて鼻歌交じりにシミュレーター室に向かっていたら、通路でばったりシーマ少佐に出会った。

 

「やあ、少佐。君もシミュレーター室か?」

 

イベリア半島攻略後受領予定だったガウが、例の高射砲のせいで別部隊への補充に回されたせいで海兵隊はちょっと暇を持て余している。まあ、そのおかげで精鋭である彼らがシミュレーターや実機で基地に居る部隊を手当たり次第に教育してくれているので、基地司令としてはそれ程悪くないとも思っている。当初の予定通り陸路でのアフリカとの連絡も可能となったし、北大西洋への襲撃準備も着々と進んでいる。このまま順調にいけばブリテン島を攻略出来てしまうかもしれない。

 

「ええ、ホシオカの親父殿から頼まれ事でして。そう言う大佐こそ午後一番からとは、今日は司令部のうるさ型からお小言がなかったので?」

 

はっはっは、そんな訳無いじゃない。

 

「彼らの小言が無くなる頃には戦争は終わっていると思うよ。例のお嬢さん方へのご褒美を頼まれてね、これからシミュレーターで相手をするんだ」

 

そう言ったらなんか笑顔のまま停止する少佐。え?なに?

 

「大佐が直接指導なさるんで?」

 

「そんな大それたものじゃない。2~3回模擬戦をしてやるくらいだろう」

 

まだ体力的にも微妙な様子だし、MSパイロットがそれなりに消耗する事が解るくらい乗れれば今日は十分だと思う。正直俺との模擬戦がご褒美になるってのは今一ピンとこないけど。

 

「…成程。ああ、ちょっと失礼します」

 

そう言って少し離れたところで携帯端末を取り出して何やら話し始める少佐。何だろゲンザブロウ氏からの連絡かな?それ程大した用事ではなかったのか、すぐに通話を終えると、少佐はにこやかな笑顔で戻ってきた。

 

「失礼しました、大佐。それでは行きましょうか?」

 

頷いて歩き出そうとしたら、今度は俺の携帯端末が震えだした。なんだよ、タイミング悪いな。

 

「ああ、大佐ですか?その、ちょっとご相談したいことがありまして」

 

連絡の主はゲンザブロウ氏だった。何だろ?あれかなゴッグのことかな?

 

「相談ですか。申し訳ないが少し後でも宜しいでしょうか?先約が…」

 

「ああ、その、結構急ぎと言いますか出来ればすぐ来て欲しいんですが」

 

何、もしかしてトラブルでも起きたん?そんな感じで困っていたら少佐が話しかけてきた。

 

「どうかなさったんです、大佐?」

 

「ああ、どうもゲンザブロウ氏が至急の案件と言ってきていてね。どうしたものか」

 

「…宜しければ、お嬢さん方の面倒は私が見ましょうか?」

 

え、いいの?

 

「しかし少佐も用事があるのだろう?」

 

そう言えば笑ったまま少佐が口を開いた。

 

「こちらはそれ程急ぐ用事ではありませんし、内容もホシオカの親父殿がらみですから。大佐の用事のために遅れるなら納得してくれるでしょう。私は大丈夫ですよ」

 

そう言ってくれる少佐。考えてみれば、シミュレーターばっかで実機チェリーな俺より、実戦経験豊富で兵の扱いにも慣れている少佐の方がずっと適任な気がしてきた。ついでに言えば、女性同士の方が色々悩みとかも打ち明けやすいかもしれない。よし、ここはシーマ様に頼ってしまおう。

 

「それなら、すまないがお願いできるか、シーマ少佐。後で埋め合わせをしよう」

 

「期待しておきます、大佐」

 

そう笑ってシミュレーター室へ歩いて行くシーマ様。ハードル上がったなあ。

 

 

 

 

シミュレーター室にパイロットスーツにて集合と大尉に告げられたとき、ミリセント・エヴァンス少尉は思わず歓声を上げ掛けた。

色々な基地をたらい回しにされたが、このオデッサは特に扱いが雑だ。何しろこの一週間ミリセント達はただ基地の中を走らされていただけなのだから。友人のフェイス・スモーレット少尉や、A班のジュリア少尉のようにメンタルが強いメンバーは良いが、同じ班のミノル・アヤセ少尉が夜泣いている所を見たし、ミリセント自身も少々気持ちが落ちていたので、ここで念願のMSへの搭乗許可は何物にも代えがたいご褒美だ。

 

「まあ、実機じゃなくてシミュレーターだけどねー」

 

隣を歩くフェイスがそう茶々を入れたが、彼女も口元の笑みは隠せていない。

 

「ふん!全く遅すぎですわ!私をMSに乗せないだなんてジオンにとって損失でしてよ!」

 

後ろではジュリア少尉が上機嫌で大佐を非難している。教官に聞かれるたびにランニングの周回が増えているのだから、いい加減学習して欲しいとミリセントは密かにため息を吐いた。

 

 

「よし、全員居るな。では良い知らせがある」

 

部屋で待機していたら、引きつった笑みを浮かべつつ、エリオラ大尉がそう言って入室してきた。何事かと見れば、何故か秘書官の制服に身を包んだ少佐殿が良い笑顔で後から入ってくる。

 

「お忙しい大佐殿に代わって少佐殿が本日貴様らの面倒を見て下さる。少佐はあのジブラルタルを攻略した英雄だ、存分に胸を借りるといい」

 

「ご紹介に与ったシーマ・ガラハウ少佐だ。お嬢ちゃん達に大佐は勿体ないからねえ、あたしが精々遊んであげるよ…覚悟しな」

 

素晴らしく良い笑顔の少佐殿を見て、ミリセントは正しく虎の尾を踏んだことを自覚したが、既に事態は如何様にもすることは出来ず、黙って敬礼を返すことしか出来なかった。ちなみにこの日ジュリア少尉が泣いて謝るという極めて珍しい事態が発生したと言われているが、関係者各位が口を噤んでいるため、その真実は定かでない。




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