起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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6月の投稿になります、ちょっと短いです。


第三十二話:0079/06/29 マ・クベ(偽)と新技術

「では、大佐。行ってまいります」

 

HLV発射場でそう言って敬礼する曹長に俺も笑顔で答礼した。今日はオデッサで改修したザクレロを宇宙へ打ち上げるのだ。その後は、衛星軌道上に待機している第603技術試験部隊と合流、宇宙での実働試験を行なう予定だ。ついでに試作してた装備とかMAデサントの具合も確かめるために、グラナダにMSの配備も申請したら、ちゃんとR型を回してくれたらしく、良く解らんが603からお礼の連絡が来た。そういやヅダまでMS無かったんだっけか。そら宇宙の新鋭機回されたらお礼の一つも言いたくなるか。まあ、それで曹長やデニスさんがやりやすくなるなら、なにも問題は無い。

 

「デミトリー曹長。運用試験が終われば君はそのまま宇宙攻撃軍の教導隊に配属される。短い間だったが世話になった。向こうでも何かあったら連絡したまえ、出来る限りのことはしよう」

 

「はい、いいえ、大佐。私の方こそ、お礼を言わせて下さい。ザクレロを拾って頂き有り難うございました。必ず大佐のご期待に添えますよう、宇宙攻撃軍を再建して見せます!」

 

あれだけ弄ったから同じザクレロと言えるか微妙だけどね。最初鎌外すよって言ったらすっげえ悲しそうにしていた曹長がちょっと懐かしい。

 

「頼んだぞ。デニス技師、大変な仕事とは思うが、どうかよろしくお願いします」

 

「アッザムに比べれば楽な仕事です。さっと終わらせて直ぐ戻ってきますよ」

 

是非そうして下さい。俺だけじゃ技術部は制御出来ません。白く尾を引きながら昇っていくHLVを見上げて、ちょっとセンチメンタルな気持ちになりながら執務室に戻る。

途中第一駐機場をぐるぐる走ってるお嬢さん方から、すっごい視線で睨まれたが気にしない。俺が反応すると指導教官に任命したアス伍長達が嬉々として訓練のノルマを追加するからだ。あんましやるとその子達潰れちゃうよ?箱入りだったんだから。そう言えばトップ少尉が自信満々に返してきた。

 

「ご安心下さい、限界は見極めていますよ。まあ、限界まではやりますが」

 

ジオンの訓練はかなりスパルタなようだ。終わったころには精強な兵士に生まれ変わっていること請け合いだが、同時にその兵士に俺が恨まれると言うことでは無かろうか?ボディーガードとか付けるべきかもしれぬ。

なんてことを考えながら歩いてたら技術部の部屋の中からうなり声が聞こえてきた。ザクレロの仕様は纏めて送付済みだし、装備関連の生産準備も整えてある。そこまで考えて、そう言えば先日漸くこちらにも送られてきたゴッグが微妙な性能だったので手直ししたいね、とうっかり言っていたことを思い出した。覗いてみれば案の定スクリーンに映し出されたゴッグに対して技術部のメンバーが頭を抱えていた。

 

「だから、空冷の冷却ユニットを追加すれば排熱はマシになるだろ?」

 

「延びても精々数分ですよ、いっその事装甲へ逃がしては?」

 

「難しいですね、水圧に耐えられるようゴッグの装甲は分厚い。蓄熱容量は大きいですが排熱はあまり宜しくない、ついでに言えば容積的に伝達路の確保も困難だ」

 

「火力の低さも気になりますね、運動性能を考えれば拡散ビームにしたい気持ちは解りますが」

 

「そこはそもそもの機動性をあげるべきじゃ無いか?試して貰ったがヒルドルブ相手に手も足も出ない機動力は問題だろう」

 

正に侃々諤々、ただ、全員どちらかと言えば上陸後の性能を気にしている。現状水中の脅威が少ないから無理からぬ事だけど。そんなメンバーを見ていて、ふと思いついた事を口にしてしまった。

 

「装甲のスペースを減らせれば容積の問題は少し楽になりそうだな」

 

俺が来ていたことに気付いて居なかったんだろう。一斉に振り向かれてちょっとびびった。

 

「大佐、そらいったいどんな魔法です?」

 

中心になって喋ってたゲンザブロウ氏が、それが出来たら苦労しねえよって口調で聞いてきた。いや、ただの思いつき、と言うより原作知識のパクりなんだけどさ。

 

「我が軍のMSはモノコック構造を採用しているな?」

 

モノコック構造は機体の自重や運動時に発生する力を構造材、簡単に言えば装甲で受けるという考えの作り方だ。この方法の場合、軽量で同じ剛性を得る事が出来るため、MSにも採用されたのだが、ここにちょっとした落とし穴があった。

そもそもモノコック構造は構造材で力を受け止めるため、力を受け止めやすい形状を用いる必要がある。だから可動部が多いMSでは容積の確保が難しかったり、更に変形による剛性低下が大きい事から、被弾に耐えうる強度を確保していないと少しの被弾で分解事故に発展してしまうリスクがあった。強引にニコイチしたドラッツェなんかが、ぶつかっただけでバラバラになってるのは恐らくこのせいだ。で、これを解決するためにMSは装甲を厚くして解決を図っている訳だが、そのせいで軽量化のために採用した構造で却って重量が嵩む結果となってしまっている。これが、昔の戦車のように装甲で耐える事を前提としていれば大きな問題ではなかったのだが。

 

「していますが」

 

「機体の内部にフレーム構造を追加して、装甲は限界まで削る。その上でフレームにルナチタニウムを用いればかなりスペースに余裕が出来ると思う」

 

実はあまり知られていないが、チタニウム合金の研究については連邦よりジオンの方が進んでいる。じゃあ何故MSに採用しなかったかと言えば、まず大量のチタンを確保できる手段が地球にしか無かったことに尽きる。戦略物資としての価値は連邦も強く認識していたので、経済制裁以前から輸出量には大幅な制限が掛けられており、大量に製造するMSの材料に出来なかったのだ。

だがしかし!今ならこのオデッサ鉱山基地がある!

 

「それはまた斬新なアイデアですな。しかしそれでは根本から設計を変える必要がありますが?」

 

「当然そうなる。だが、現状の構造で行き詰まって居る以上、ある程度の冒険も時には必要だ」

 

まあ、正直に言えば後一月もせんとズゴックが開発されるはずだから、ゴッグはお払い箱になってしまう。つまり万が一開発に失敗しても従来通りで性能の約束された別プランが既にあるのだ。ならば多少投機的なプランであっても、実行してみるべきだ。

 

「大佐、そいつぁ大仕事ですぜ?今までのちょっとの手直しとは訳が違う。MSを根っこから変えちまおうって話だ」

 

俺の表情から本気である事を悟ったのだろう、ゲンザブロウ氏が確認するように口を開いた。そんな大それた事を、本当にするのかと。

 

「そうだな。だがゲンザブロウ氏、考えて欲しい」

 

そう言って周囲を見渡す。ただの鉱山基地によくもまあこれだけの人材が集まったもんだ。

 

「ジオニック、ツィマッド、MIP。恐らくどの会社でもこれを成し遂げるには数年を必要とするだろう。だが、ここなら?」

 

俺の言葉の意味を悟ったのだろう。静かに、けれど確かに興奮を湛えた視線が俺に集まる。

 

「企業の垣根を越え、目的のために力を束ねられる貴方方が居るここなら。それはどれ程の困難と言えるのでしょうな?」

 

 

 

 

もしこの男が軍人でなかったなら。そんな考えがふと頭をよぎり、ゲンザブロウは苦笑した。恐らく希代の革命家、あるいは今世紀最大の詐欺師。少なくとも誰かを誑かさずには居られない類いの人種であるとゲンザブロウは思った。

 

「良くまあ、あんな殺し文句がぽんぽん出るもんだ」

 

誰もが困難であると、そんな大それた事をするのかと後ずさる物事を目の前にして、この男は無責任にも言い放つのだ。お前達なら、こんな事は造作も無い事だろう、と。

これが、根拠もなにも無いならば、一笑に付して終わらせる。だが、ここには彼の言うように会社の利益や、しがらみから離れた、幸運にして大問題な技術者共が揃って居るのだ。

ごくり、と自分の喉の音が大きく聞こえた。

技術者ならば一度は考えてしまう笑い話の類いのそれは、しかしこの場所、この時に限ってはこの上ない魅力的な提案になっている。ならば、一人の技術者として、その誘いを断る理由は何処にも無い。

 

「そこまで買われて、やらんとは言えませんな。全く悪い人だ」

 

「知らなかったのですか?戦争をやっている偉い人間なぞ、みな極悪人ですよ」

 

そう韜晦してみせながら飾ってあった壺を指で弾く大佐は、正に映画にでも出てくる胡乱な悪役そのものだった。




作者の機械知識は嘘っぱちです。モノコック周りの話を本気にすると恥をかきます。

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