起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない 作:Reppu
正直びびっています。
攻撃空母って不思議な名前だよね、攻撃しない空母ってあるんじゃろか?とか現実逃避しても渡された書類の数字は変わらない。出撃したガウ15機の内、実に4機が撃墜され、1機が被弾を告げて撤退したものの、未だ基地に戻っていない。恐らく途中で墜落したか、敵の航空機に墜とされただろうとのこと。実に幸先の悪いスタートである。マルタ島の空軍を完全に押さえ込んで制空権は確保できている筈だったので、この損害は完全に予想外だった。
不幸中の幸いは、どの機体もMSが降下し終えて空荷だったことと、墜落までかなり時間があったので、位置が不明な1機を除き恐らくかなりの人数が脱出しただろうと言うことだ。早速基地から救出部隊が出撃するらしいけど。
「ウラガン、救出機は確か…」
「はい、ファットアンクルです」
絶対ミイラ取りがミイラになるパターンだこれ。
「ウラガン、すまないがジョーイ技師とヴェルナー少尉を呼んでくれないか?」
「使うのですか?」
「全部しっかり整えて送り出したい、と言うのが本音だがね。仕方あるまい」
ただ、どちらかが無理だと言ったら諦めて別の方法を考える、そのつもりだったんだけど。
「問題ねえ」
「やりましょう」
「やらせて下さい!」
なぜか一緒に来たタカミ中尉まで鼻息荒く賛成してきた。え?つうかなんでタカミ中尉が居るの?
「アッザムは三人乗りですから。データ収集もかねて私と中尉も同乗してるんですよ」
最近報告書がいやに主観的だなあと思ってたらそう言う事か!?
ちなみにヴェルナー少尉がドライバー兼ガンナー、タカミ中尉がコマンダー兼サブガンナー、ジョーイ技師がオペレーター兼サブガンナーなんだって。ちがう、そこは重要じゃ無い。
「成程、つまり三人は実戦に耐えうると判断しているのだね?」
深く頷く三人に深く呼吸をした後、結論を告げる。
「解った。直ぐに出撃準備を。ウラガン、フライトプランを司令部に出しておいてくれ」
そう言って立ち上がると全員が怪訝そうな顔をした。どうかしたん?
「…失礼ですが。大佐、どちらにお出かけですか?」
え?
「ジョーイ技師は民間人だぞ?戦場に出す訳にはいかん。ならば一人分何処かから補わねばなるまい?」
なに当たり前のこと言ってんのさ。
こちらの疑問に対し、何故そんな質問をするのか。とでも言いたげに不思議そうな表情を浮かべる大佐に、ウラガンを含め、その場に居た全員が思わず絶句した。
「危険です大佐!」
「無茶を言わないで下さい!?」
悲鳴に近い否定の声を上げたのはエイミー少尉とタカミ中尉だ。自分も全くもって同感なのだが、困ったことに大佐を思いとどまらせる良い案が思い浮かばない。
「聞いていなかったのか、少尉?三人は先ほど実戦に耐えられると自信を持って言ったのだぞ。ならばそこに危険は無い。それからタカミ中尉、無茶と言うが民間人に戦闘行為をさせることの方が余程無茶苦茶だ。ジョーイ技師は南極条約の適用外なのだぞ」
即座に反論され言葉に詰まる二人に、ウラガンは小さく息を吐いた。相手はあの大佐だぞ、もっと頭を使って喋らねば止められない。
「基地司令が前線に出る方がよっぽど無茶じゃないですかい?」
「人手不足の悲しい所だな。残念だが大佐で前線に出ている連中はゴロゴロ居る。それに今基地で君たちを除けばアッザムに最も通じているのは私だ」
これで、階級を盾にするのと代わりの人員を出す案まで封じられてしまった。
「き、基地の運営はどうするのです!?」
「ちょっと行って直ぐ帰ってくる。それに2~3日空けてもウチの副官は優秀なのだよ、だろう?ウラガン」
「…はい、問題ありません」
やられた、ウラガンは周囲の視線で確信する。今の受け答えは内容的には数日間大佐が居なくても基地が運営出来るかという質問だ。その内容に対してのウラガンの答えは間違いなく発したとおりなのだが、会話の流れからすれば別の意味に捉えられる、今自分は大佐の出撃に賛成していると皆は認識してしまった。上手く止めるためにそれまで発言していなかったのも完全に裏目だ。事実皆自分から視線を外し必死で止めようと言いつのっているが、自分に意見を求める者は居ない。
「さて、議論も良いが私は命じたと記憶しているが?早くアッザムの出撃準備に入りたまえ」
反論を口にする前に会話を締められてしまう。この時ばかりは上官の有能さが恨めしいと感じてしまうウラガンだった。
渋々、という態度を全身で表しながら皆自分の作業に散っていく。残っているのはウラガンだけだ。
「私は反対です。大佐」
だろうね、ごめんよ。
「解っている、今回だけだ。直ぐMAのパイロット候補生を陳情する。だから見逃してくれ」
そう言っても晴れない副官の顔に罪悪感が募る。こんな俺をウラガンは本気で心配してくれているのだ。こんな偽物の俺を。思わず涙ぐみそうになりながら、努めて明るい声で言う。
「それにな、今回の件は大凡解っているんだ。だから危険は少ないし、対策も考えている。それにだ、今後もガウによる空挺降下は頻発するだろう。だからこそ貴重な搭乗員をこんな所で失う訳にはいかん」
だから、今回のリスクだけは許して欲しい。それでも晴れない副官の顔に、仕方なく切り札を使うことにする。
「大体だな、あれはキシリア様から私が名指しで頂いた物だ。随分アレンジしてしまったが、それでも一度も乗らずに部下に渡したとあっては、心証が悪すぎる。キシリア様に見捨てられてみろ、今度はアステロイドベルトに飛ばされても不思議じゃ無いぞ?」
そこまで言いつのると、ウラガンは漸く苦笑で顔をゆがめた。
「確かに、アステロイドベルトは嫌ですな。今更穴掘りだけの補佐では退屈してしまいそうです」
だろう?と笑い合って背を向ける。俺もパイロットスーツくらい着ておこう、アレにはサバイバルキットとか付いてるし。一応、一応ね?
そんなことを考えながら部屋から出れば、後ろからウラガンが声を掛けてきた。
「必ずお戻り下さい。私は貴方の副官以外やるつもりはありません」
俺は本当に良い部下に恵まれたと思う。
「まったく、本当に無茶苦茶な人だな、大佐」
コックピットに収まってしまえば腹も据わるのか、むしろ愉快そうな声音でヴェルナー少尉が話しかけてきた。いやいや、俺なんて大した事無いっすよ。つうかお前が言うなと声を大にして言いたい。
「無茶でも無いぞ少尉。今回の目的は高射砲陣地の破壊だからな、今居る戦力で最もリスク無く対処できるのがこのアッザムだった。それだけのことさ」
恐らく艦載用のメガ粒子砲あたりを転用した対大型爆撃機用の高射砲だ。確かガウ対策に北米や欧州で使われた奴だと思う。攻勢が遅れたのでイタリアやイベリアに建設が間に合ってしまったのだろう。これを今潰しておかないと連鎖して海兵隊まで孤立してしまう。
本当はヒルドルブで耕してしまうのが簡単なんだが、北部の戦力を拘束するために出払ってしまっている。後はマゼラアタック位だが残念ながら運ぶ方法が無い。
「しかし、高射砲と解っていて空から襲撃を掛けようと言うのですから、大胆だとは思いますよ」
各砲をチェックしながらそうタカミ中尉が苦笑した。でもあれは大型爆撃機、言ってしまえば対ガウに特化した砲台だから、今のアッザムなら全然いけると思うんだよね。相手もまさか超低空をマッハ超えでメガ粒子砲が突っ込んでくるとは思うまい。
「むしろアッザムには物足りない相手だと思うがね、まあ初陣ならそのくらいの方がかえっていいだろう」
それこそ初陣でどっかの白い悪魔とエンゲージなぞしたら有無を言わさずぶっ壊されかねんし。
「外観チェッククリアです。大佐、無事に帰ってきて下さいよ!」
最後まで機体の外周をぐるぐる回っていたジョーイ君から通信が入った。皆心配性だなあ。
「安心してくれ、ジョーイ技師。ヴェルナー少尉の腕は知っているだろう?機体には傷一つつかんさ」
「機体なんてどうでも良いから大佐が無事に帰ってきて下さい!いいですか!絶対ですよ!?」
「…了解した、必ず無傷で帰ってこよう」
ちょっと目頭が熱くなっちゃったじゃないか。全てのチェックを終えたことを確認し、ヴェルナー少尉へ向けて発進の合図をだすと、ヴェルナー少尉が不敵に笑った。
「任せてくれよ、大佐。クルーザー並みの快適な旅を約束するぜ…エントリィィィ!」
途端とてつもないGが体に掛かり、俺は意識が遠のく。それは口癖なのかとか、快適の意味を辞書で調べろとか、さっきまでの感動を返せとか走馬灯のように言いたいことが並んだが、結局何も言えないまま俺は意識を手放した。
段々ウラガンがヒロインなんじゃ無いかと作者も混乱してきました。