起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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今週も頑張らない。


第二十五話:0079/06/04 マ・クベ(偽)とエントリィィィィ!

2台目のギャロップを受領した後、MS遊撃部隊は元気よくアラビア半島に旅立っていった。史実では5月頃に行なっていたはずのスエズ運河攻略を目指したジャベリン作戦に参加するためだ。尤も、今回はイタリア半島を落とすための陽動作戦だから本気で攻撃はしないけど、それでもアフリカと陸路で連絡してしまうのは連邦としてはイヤだろうからそれなりの戦力で妨害してくるだろう。マルタの連邦空軍や地中海艦隊を引きつけてくれる事を密かに期待していたりする。

海兵隊の方は選抜が済んで半数が基地に戻ってきたので、取り敢えずドムへの転換訓練を受けさせることにする。当初はザクかグフの予定だったのだが、ゲンザブロウ氏のおかげで思ったより早くホバー機が充足しそうなので、それならば海兵隊にもホバー回しちゃおうと思った次第だ。後、ザクフロッガーがかなり好評でザクⅡやグフが思ったより余剰しないのも原因だったりする。

ちなみに当のゲンザブロウ氏は色々吹っ切れたのか、ここの所技術部に入り浸って何やら悪巧みをしているらしい、先日覗いたらツィマッド組と悪い笑みを浮かべていた。

さて、そんなこんなありながら、本日はついにアッザムの起動試験である。シーマ少佐から紹介された少尉も昨日着任し、今日の試験に参加する予定だ。流石に降りてきて直ぐだし、少し体を慣らしたら?って言ったら。

 

「慣らすなら動かすのが一番だ」

 

なんて、実にマッチョな答えが返ってきたので壊れない程度に頑張れって返しておいた。出来る限り機体も壊さないで欲しいな。たっかいから。

 

「ジェネレータ起動確認、ミノフスキークラフトへの送電を開始して下さい!」

 

緊張した声音でオペレートをしているのはジョーイ君だ。ほんの少し会話をしただけだが、大凡パイロットの性格を掴んでいるんだろう、左手は常に緊急停止ボタンに掛けられている。

 

「いいですか、ヴェルナー少尉!少しずつ、少しずつですよ!?最初は10%まで…少しって言ってるだろうがぁ!?」

 

甲高い吸気音と共に、明らかにジョーイ君の言っている以上の出力が注ぎ込まれているであろう挙動をするアッザム。屋外だったのが災いし、みるみる高度を上げていく。あれ、今止めたら墜落必至だな。

 

「はっはぁ!エントリィィィ!」

 

ゴキゲンな船出だってやつかな?なんて現実逃避をしている間にみるみる小さくなっていくアッザム。ジョーイ君の悲しい絶叫だけが青い空に響いていた。

 

「随分楽しんだようだな。少尉」

 

ヴェルナー少尉が戻ってきたのはたっぷり2時間後だった。通信を入れても馬鹿笑いが聞こえるだけで返事がないだけでなく、いきなり欧州方面軍総司令部が置かれているブカレスト方向にすっ飛んでいきやがった。当然フライトプランなんて提出してなかったから、オデッサ方面から所属不明の大型機が高速で接近していると防空部隊にスクランブルがかかる事態になってしまった。

大慌てで連絡してなんとか最悪の事態は防げたが、対応したのがよりによってユーリ少将だったもんだから、すっごい悪い笑顔で貸し1つなって言われてしまった。貸しの前に借りを返して頂けませんかね?

 

「なかなか良い機体だ、大佐殿。ただ、一人で操縦するにゃもう少し工夫してもらいたいもんだな」

 

おっと、こやつ何も反省していませんね?

 

「感想と要望はレポートに纏めて技術部に提出したまえ。それとな少尉、言葉遣いを直せとは言わんし、私に敬意を払う必要は無い。しかし軍人である以上、階級には敬意を払うべきだし命令には従え。それが出来んというなら直ぐに軍服を脱いで漁師にでも何でもなるといい、幸い海も近いしね」

 

俺の言葉に顔を強ばらせるヴェルナー少尉。

 

「君は随分とご祖父を尊敬しているようだが、かの御仁は勝手気ままに一人で生きているように見えたかね?君はそんな安っぽい人間に憧れたのかな?」

 

「爺さんは男の中の男だ!孤高の海の男だ!知らねえ奴が知った風に語るんじゃねえ!」

 

「君の願う姿が、今の行動に繋がると言うなら軍は不向きな職場だな。孤独になりたがる人間など軍には必要ない。君が今日乗ったMAだって多くの人間が多大な労力を結集して造り上げたものだ、それを個人の好き勝手にされてはたまらんよ」

 

俺の言葉に歯ぎしりをするヴェルナー少尉。これは駄目かもしれんなぁ。そう思いながらも、言葉を続ける。

 

「人は群れることで多くのことを成し遂げてきた。軍とはその最たるものだ。なあ少尉、もう1度だけ言うぞ。命令には従え」

 

群れは秩序があって、初めて群れとして機能する。そして軍での秩序とは階級であり、そこから発せられる命令だ。それが機能しなければそれは軍ではなく、ただの個人の集まりにすぎない。そして個人の力量で覆る戦争など、もはやおとぎ話の世界の出来事だ。

 

「以上だ、下がって良い。ああ、除隊届は何時でも受けてやる。一度よく考えてみたまえ」

 

ヴェルナー少尉に退室を促した後、そこかしこにお詫びのメールやら付け届けの手配をしていく。まったく、どうにもジオン軍人はそのあたりに妙に寛容な連中が多くて困る。軍人じゃなくて武将とでも名乗った方が良いんじゃないか?そんなことを考えていたら、レポート片手に笑顔のジョーイ君が入ってきた。

 

「本日の試験結果になります。ヴェルナー少尉、アレですけど腕は本物ですね」

 

提出された稼働データは3日くらいかけて録る予定だったものが全て取り終わっていた。まあ、ニュータイプ疑惑すらあるパイロットだからなぁ。

 

「だが、やれることとやって良いことの区別がつかんではな、最悪別のパイロットを選抜する必要がある」

 

なにせあれだけ言ったからなぁ。明日には除隊して黒海で魚穫ってるかもしれん。そう考えてキシリア様になんて謝ろうか考えていたら、ジョーイ君が益々笑みを深くして口を開いた。

 

「それなんですが、さっきヴェルナー少尉が来て俺たちに謝って行きましたよ。あんなに真面目に説教されたのは爺さんの銛を勝手に持ち出したとき以来だって笑ってました」

 

え、どゆこと?

 

「だから多分、あまり心配しなくて良いんじゃないですかね?」

 

 

 

 

ヴェルナー・ホルバインにとって、祖父は理想の男性像であり、目指すべき目標であった。曾祖父は古くから続く漁村の網元で、祖父も父達に呼び寄せられるまでは地球で漁師をしていた。子供の頃、幾度か遊びに行った祖父の家で聞いた武勇伝は今でも諳んじられるし、祖父の持って来た道具は今でも自室に大切に保管している。唯一持ち歩いているのは、お守りにと本人から手渡された銛の穂先だけだ。

 

「爺さんの魂は、まだ海にいる」

 

アルツハイマーを患ったとかで地球の家を引き払い、両親の住むサイド3へ来た祖父の晩年は、隔離された白い部屋で終わった。見舞いに訪れても自分を認識できず、海のことを呟き続ける祖父を見たとき、ヴェルナーはそう考えた。病気になったと告げられる前の最後の漁、そこで鮫に襲われ海に落ちたと言う祖父は、魂を海に残してきたのだ。サイド3の市民権を持ちながらヴェルナーが海兵隊に志願したのも、コロニー国家であるジオンで学のない自分がなんとか海に関わる仕事に就けないか考えた末の事だった。尤も、この選択は完全にアテが外れた訳だが。

そこまで思い返して、脳裏に浮かんだのはこの地に自分を招いた風変わりな大佐のことだ。神経質そうな容姿に反して今までのどの上官よりも寛容な言葉を発した大佐は、同時に最も真摯に叱責もしてきた。

祖父の事を話すたび、どこか腫れ物を扱うように距離を取られていた自分にあそこまでしっかりと向き合って話をしたのは、恐らく両親ですら無かったことだ。そして、大佐の言葉が理解できれば自分が如何に独りよがりであったかが解り、自らの行いを恥じた。

海の男は、孤高であっても孤独ではない。

幼い頃、祖父から聞いた言葉だ。あの頃の自分には不思議な言葉だったが、大佐と話した今なら解る。漁に出れば確かに己の技量と力のみを頼りにする。しかしそれは仕事への向き合い方だけであり、そも、その場にたどり着くまでに多くの人達と繋がり、支えられ、また祖父も支えて立っていたのだ。思い返せば、祖父の家には多くの人が出入りしていて、むしろ孤独とは無縁の人であった。

そんなことも思い出せないくらい、自分は理解されないという環境に甘んじて、いつの間にか殻を作り閉じこもっていたのだろう。

 

「悪い事をしたと思ったら、誠意を持ってしっかり謝る。だったよな、爺さん」

 

 

 

 

翌日、早速ヴェルナー少尉が訪ねて来たので、やっぱり除隊かな、とビクビクしながら会ってみたら、いきなり頭を下げられた。昨日の話で自分が悪いと思ったとのこと。うん、反省して次からちゃんとしてくれたら良いよ。

そう言って正式にアッザムのパイロットに任命したら、目を見開いて驚いていた。いや、そこで何で驚くよ?

 

「あの、自分で言うのもなんだが…ですが、宜しいんで…宜しいのでありますか?」

 

その言葉に思わず苦笑してしまう。

 

「宜しいも何も、元々君を呼んだのはその為だぞ、少尉」

 

それと俺には頑張って言葉遣いを直す必要は無いよ?他のものにはそうはいかんから俺で練習したいってんなら吝かじゃないけども。そう続ければ、少尉は益々変なものを見る目で俺を見てきた。なんだよ、変人だって自覚はあるよ。

 

「何というか、あんた変わってるな。大佐」

 

その言葉につい笑ってしまう。

 

「偉いのはぶら下げている階級章であって私ではないからな。そう思えば嫌な上官にも苦も無く頭を下げられるだろう?自分はこいつに頭を下げているんじゃない、階級章に頭を下げているんだとね」

 

そう言えば釣られてヴェルナー少尉も笑顔になった。

 

「成程、実に理に適った考え方だ。参考にします」

 

こうして正式にパイロットになったヴェルナー少尉の意見で、アッザムは幾つかの小改造が加えられる事になった。具体的にはパイロットが単独でもある程度火器管制が行えるように操作系統を修正、それと背面飛行やロール時などミノフスキークラフトによる揚力補助が受けられない場合における揚力確保の為の補助翼の追加だ。おまけに対地攻撃力がビーム砲一門では不満だと言うことで、底面にパイロンを増設する事になった。

改造に掛かる追加予算申請がされたけど、これで戦果を挙げられなかったら、俺、国民に殺されると思う。

何としてもモノにして戦果を挙げてもらいたい。そう切に願わずにはいられない6月頭、イタリア半島攻略まで後1週間の事だった。




出オチにも程があるタイトル。

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