起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない 作:Reppu
握手を交わした後、ゲンザブロウ氏は早速ウラガンに案内され、工兵部隊の隊長と打ち合わせに行った。本格的に基地の規模がでかくなってきたから、連れてきてる設営隊だけじゃ手が回り切らん。守備隊も増強せにゃならんし、後でちょっとお強請りせんといかんな。あ、でもそろそろ連邦が宇宙でちょっかい出してくる頃だっけ。それが終わってからの方がいいかな?
「大騒ぎでしたなぁ、大佐。今宜しいか?」
そう言いながら入ってきたのは、何故か秘書官用制服を着たシーマ少佐である。アップに纏めた髪といい、眼鏡でも掛けさせればそのままキャリアウーマンと言っても通じそうだ。
「構わないよ。うん?少佐その服はどうしたんだ?」
「デメジエール少佐に階級に相応しい格好をしろと注意されましてね、PXに行きましたらこれしかなかったんですよ」
着の身着のままで夜逃げしたもんで。と俺の質問に苦笑しながら答えるシーマ少佐、そう言えば持ってきてた荷物みんな精々バッグ一個分くらいだったなぁ。
「そうか、よく似合っている。他の隊員の必要分も纏めてくれたまえ、後で支給しよう」
そう言うと、キョトンとした顔になるシーマ少佐。ふっ、油断だな、その顔録画させてもらう。
「古い言葉に、衣服の乱れは心の乱れと言うのがある。その理屈で行けば、お仕着せを着せておけば気持ちも整うやもしれん。良い機会だし、実証試験といこう」
俺の言葉に、ころころと笑うシーマ少佐。うんうん、人間やっぱり笑いながら仕事した方が良いね。
「承知しました、後で全員に伝えておきます。すみません、本題に移っても?」
俺が頷くと、小脇に抱えていたファイルを広げて報告を始めた。
「隊の慣熟訓練ですが、上陸班を優先し実施しております。先に選抜しましたが、今後他の隊員の成績も考慮しまして、入れ替えも考えております」
妥当だね。
「受領予定はザクⅡとのことでしたので、全員一度はそちらで適性を確認します。同時に水中機動の訓練も行いますが、こちらはシミュレーターの準備ができ次第、とのことですので早くて数日後になる予定です」
ゴッグもマリナーのデータも使えないからね、仕方ないよね。ちなみにザクフロッガー(仮)のデータはどう取ってるかと言えば、実機を黒海に沈めてみるという荒技で行なっている。数値見るなら実測が一番!とジオニックの面々が言っていたが、テストパイロットが涙目だったのを俺は見逃さなかった、そっとお酒を送っておいたので強く生きて欲しい。
「進捗は、大凡順調という所です。まあ我々は重力下での作戦も想定されていましたから当然と言えば当然なんですがね」
そう言って彼女は苦笑する。ああ、コロニーへの強襲制圧が海兵隊の主任務だったもんね。
「成程、結構だ。他に何か気になることはあるかね?足りないものは?」
そう言うと顎に手を当てて考え始める。いきなり給料足りんとかは勘弁してね?
「足りない、と言えば。あの新型、ドムでしたか。あれとやっていてザクでは火力が足りないと感じましたね。バズーカは当てにくいですし、マシンガンは火力が足りない。まあ、現状白兵戦で対応出来ていますが」
ん?今さらっと変なこと言わんかったか?
「待て、少佐。今なんと言った?」
「はい、ですからマシンガンでは火力が足りないと…」
「その後だ、ドムに白兵戦を挑んだのか?」
俺の質問に意味が解らないという表情で少佐は返事をした。
「はい、射撃をしつつ接近して来ますので」
なんてこったい…。
「た、大佐?お加減でも悪いので?」
思わず頭を抱えてしまった俺に、少し狼狽しながら声を掛けてくれるシーマ少佐。大丈夫だ、俺の体は、問題無い。
「すまないが、少佐。少し時間はあるだろうか?」
ちょっと、お勉強させなきゃいかん。
そんなわけで、シーマ少佐と仲良くシミュレータールームに到着である。適当に誰か対戦相手を見繕っといてって頼んだら、何故か少佐自らパイロットスーツに着替えてやる気マンマンである。しかも、ついでにできる限りの基地のパイロットに声かけといてって言っておいたらシミュレータールームはすし詰め、それどころか隣の会議室とかにシミュレーターの映像を流せるようにして、基地に居る待機中のパイロット全員が集められている。公開処刑じゃねえか。
正直腰が引けたが、ここまで大事にしてやっぱ無しとか言えないので、精一杯虚勢を張ってシーマ少佐に話しかけた。
「大事になってしまってすまないな、少佐」
「いえいえ、大佐も何かお考えがあるのでしょう?精一杯お相手を務めさせて頂きますよ」
うわ、玩具見つけた猫みたいな顔になってる。まあ、一流のパイロット相手に三流が粘るところを見せれば、かなりインパクトはあるし良い啓蒙になるだろう。
「では、よろしく頼む」
「はい、けれど宜しいので?ここには大佐の機体のデータが入っていませんが?」
「うん?ああ、問題無いよ。さあ、始めよう」
専用つってもあれ、塗装以外量産機と一緒なんだよね。
「っ!承知しました。海兵隊の腕、存分にご賞味くださいな!」
なんか、急に怒り始めた。俺、なんかしちゃったかな?
「問題無いよ。さあ、始めよう」
気負いもなく言う大佐に、シーマ・ガラハウはプライドを強く刺激された。
地上に降りて4日。決して長い時間ではないが、その間部下の訓練を見つつ、自身も地上戦に対応するべく準備をしてきた。新型機との模擬戦だって、最初こそその速度差に戸惑ったが、ただの1度だって土を付けられていない。その事を知った上で、あの大佐は言い放ったのだ。相手をするのに自分の機体を持ち出すまでもないと。
パイロットなんて人種は多少の差はあれど皆自信家で、自分が最も優れたパイロットであると考えている。だからシーマも大佐のその態度に、遊んでやろう位の気持ちから、少し恥をかかせるくらい良いかもしれない。と考えを改める程度にはプライドを傷つけられていた。
故に、シミュレーションが始まってからの状況は、彼女を存分に苛立たせていた。
ドムの運動性と装甲は非常に脅威だ。マシンガンは至近距離でなければ効果が無いし、バズーカは当てようにも高速で回避されてしまう。おまけに一気に距離を詰められる速度は熟練したシーマであっても武装の切り替えを見誤ればひやりとさせられる場面もあった。
そのため、ザクに乗った海兵隊員の基本戦術は、ドムが弾切れを起こすまで粘り、焦れて白兵戦に持ち込んだ所で仕留める。と言うものだったのだが。
「チョロチョロ逃げ回って!」
撃ち尽くしてしまったマガジンを取り替えながらシーマは悪態をついた。開始から5分程が経過しているが、未だに弾をかすらせてすらいない。大佐の動きは言葉にしてしまえば簡単だ。こちらの有効射程外の距離を保ち、じりじりと削ってくる。
装備は同じ120ミリマシンガンと280ミリバズーカだが、双方の装甲差によって生じる不均等を上手く利用しているのだ。狙おうとすれば必然足が鈍り、少しでも止まれば相手はマシンガンを撃ってくる。適当な射撃ではあるが当たれば損傷を免れない以上、回避を強要され、回避後の硬直を狙い澄ましたようにバズーカが襲ってくる。このバズーカを撃たせないため回避後に強引な射撃を行なうので徒に弾を消費し、マシンガンは既に最後のマガジンになっていた。
距離を詰めたくても速度差でそれも叶わない。一見すれば消極的な戦い方だが、ことMS同士での戦いであれば、これ程厄介な戦い方もないだろう。常に受け身に回らざるを得ず、緊張を強いられ続けるこの戦いは、パイロットの消耗も激しい。
結果、マシンガンを撃ち尽くし、バズーカを止められなくなったシーマは撃ち込まれた6発目を躱しきれず脚部を損傷。続く7発目が直撃し、見事に戦死判定を賜ることになった。
バズーカ弾遅ぇ!マシンガン使いづれぇ!
シミュレーターで何とか辛勝したものの、課題が多く見つかる結果になった。
最初はMS教本に載ってる、とにかく敵艦へ突っ込め!肉薄!って内容に従って突っ込んでるのかと思って、何してんだよと頭を抱えたが、これは納得ですわ。弾全然当たらねえ。
まずバズーカ。弾速が遅すぎて話にならない。停止目標ならある程度期待できるけど、動き回ってるMSとかマジ無理。マシンガンの有効範囲外からだと射撃されたの見てから回避余裕でしたが本気で出来る。しかも大気の影響をもろ受けるから弾道が安定しねぇ、これはキツイ。
んで、マシンガン。威力は悪くないけど、弾頭重量で稼いでるせいでこっちも弾道が悪く弾速も遅め、加えて反動を抑えるために発射サイクルまで低いから修正射撃で無駄に弾を使う。しかも1発あたりのサイズがでかいから携行弾数も少ない。おかげで咄嗟の牽制にも制圧射撃にも使いにくい、中々に産廃な性能である。
そもそもこいつらそれぞれ対艦用と対戦闘機用で作られてんじゃねえのかよ。なんで方向性統一してんだよ、そこは一緒にする意味何もねえだろ。
今回のシミュレーションみたいに悠長に1対1かつ時間無制限!とかならのんびり攻撃出来るけど、そら実戦想定したら短期決戦挑みたくなるわ。
しっかしマシンガンはともかく、バズーカはどうすんべ。これ速度弾頭に依存してるから下手すると強度問題とか出て丸ごと作り直しだぞ?ジャイアントバズ(仮)はどうにかなるけど…、280ミリの方は順次予備行きかなあ、それまでマゼラトップ砲でも増産して凌ぐしかないかな?マシンガンの方は取り敢えず本体を改良しつつMMPー80の早期開発かなあ。
しかしこれは恥ずかしいな、ドヤ顔してお手本見せちゃる!みたいなアトモスフィアで完全にマの空回り、しかも全員視聴の公開プレイ、出てって笑われるならともかく痛々しいものを見る目で見られたら…当分執務室に引き籠もらざるをえない。
そんな覚悟を決めつつシミュレーターから出てみれば、皆が真剣な顔で討論してた。おっと放置プレイは想定外だぜ。
「あー、一応。これが私の考えているドムの運用だ。問題点も多いと思う。出来れば参考の一助になれば嬉しい」
それだけ言ってそそくさと場を後にする。後日、シーマ少佐から何が何でもドムが欲しいとお強請りされた。が、頑張るから睨まないでつかあさい。
Q:ドム乗りはなぜあんなに突っ込んでくるのか?
A:多分ジェットストリームアタック症候群