起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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びっくりするくらいネタがありません。


第十六話:0079/05/19 マ・クベ(偽)と女傑

ジオン向けに開放されている港で、北米行きのシャトルを待ってたら軍艦の団体さんが入ってきた。腹減ったんで買ってきてもらったホットドッグをコーラ(グレープ味)でもぐもぐしながら、何の気無しに入ってきた艦を見る。あ、リリー・マルレーンじゃん、あれ。

接岸と同時にわらわら港湾職員にたかられて、発砲禁止テープを貼られているのを横目に見ながら、食べ終わったゴミを捨てようと立ち上がった瞬間、何故かブリッジに居た人物と目が合った。

否、合った気がしたと言うべきか。何せここからリリー・マルレーンのブリッジまでは200m以上離れている。相手の顔だって良く解らない距離、まして視線なんて言わずもがなだ。

それでも、俺は目が合ったと感じたし、どうも向こうもそう思ったようだ。待ったのはほんの数分。ゴミ箱に食べかすを放り込んだ頃には、黒い長髪の女性士官が目の前に立っていた。

 

「意外ですなあ。大佐のような方はそういった食い物がお嫌いだと思っていましたよ」

 

「男なぞ幾つになってもガキのままだよ少佐。そう考えればこういう物を食べていても不思議じゃ無いだろう?」

 

まあ、本物のマさんは嫌ってたみたいだけどね。

 

「お会いできて光栄です、大佐殿。突撃機動軍隷下511機動艦隊司令代理、シーマ・ガラハウ少佐であります」

 

「こちらこそ、突撃機動軍きっての精鋭である貴官に会えて光栄だ。突撃機動軍隷下地球方面軍欧州方面軍隷下オデッサ基地司令、マ・クベ大佐だ」

 

そう返礼すると、シーマ少佐は何とも言えない表情になった。

 

「精鋭ですか、喜んで良いのか迷う評価ですね」

 

まあ、ジオン内部でも悪名高くなっちゃってる海兵隊だからね。精鋭と言えば聞こえは良いが、それだけ過酷な戦場に投入され続けたという事でもある。美辞麗句の影で良いように使われてきた彼女には複雑な思いを起こす言葉だったようだ。むう、反省。

 

「含むところは無いんだがね。気を悪くしたなら謝罪しよう。すまなかった」

 

俺の言葉に今度は驚いた表情になるシーマ少佐。なにさ、俺が謝るのがそんなに意外かね?そう思いながら頭を上げると、シーマ少佐はバツが悪そうにまくし立てた。

 

「あたしみたいなはみ出し者に、下げて良い頭じゃ無いでしょう」

 

そんなこと言っちゃうのかい?

 

「自らを価値のないと思う者が、本当に価値のない者だ」

 

「は?」

 

唐突な言葉に、間の抜けた表情になるシーマ少佐、中々貴重なカットだ。撮影機材が無いのが悔やまれる。

 

「昔の偉人の言葉さ。人間、自分を小さく評価すればそれ相応の人間になってしまうものだ。少佐、他者の評価がどうであれ、君自身は、自らに誇りを持つべきだ」

 

俺の言葉にみるみる顔を歪ませ、暗い笑いを浮かべる少佐。多分気持ちに余裕が無いんだろうな、傍から見てても不安定だとわかる。

 

「はっ、コロニーに毒ガスを撃ち込んだ何を誇れって言うんだい」

 

「命じられた任務を忠実にこなし成功させた。軍人としてこれほど誇れる事が他にあるのか?少佐」

 

「その結果が今の悪名さね」

 

「そこが勘違いだ。その悪名とやらを背負うべきは命じた指揮官だよ。その為に我々はこんな大層な階級章をぶら下げて、君たちに命令するのだからね」

 

それでも彼女の表情は変わらない。

 

「大佐ほどの方ならご存知でしょう?あれは、私たちが独断でやったことだ、そうなっている。今更何を言っても…」

 

うーん、何言ってんだろ?

 

「それこそ、指揮官が無能の誹りを受けるだけだろう。部下の統制が取れないなど指揮官と呼べるかすら怪しい。まさか、そいつはそんなことも解らないアホなのかね」

 

さらっとディスったら何やら絶句してしまう少佐。丁度良いから言いたいこと言っておこう。

 

「他の誰がなんと言おうが、私にとって君は軍人の鑑だし、君と事をなした部下達は誇るべき精鋭だ」

 

まあ、それに。

 

「仮に、独断でやっていたとしてもだ。指揮官に察知もされず毒ガスを手配し、すり替え、運用出来るだけの工作が出来る人材など、厭うどころか私なら喉から手が出るほど欲しいがね」

 

 

 

 

この男は悪魔だと、シーマ・ガラハウは確信した。

疎まれ、避けられ、時には面罵までされたこともある。どこで狂ったかと言えば、間違いなく、今も夢に見るあの引き金を引いた瞬間だ。

コロニー市民を無差別に殺戮したジオンの面汚し。最初は弁明してみせた。けれど、地位も、金も、コネも無い。庇ったところでうま味の無い自分達の言葉を聞く者なんて一人も居なかったし、まして擁護する者など言わずもがなだ。ならばと被った悪役も、内についた棘で体を心を傷つける。

そんな抜けない棘がかさぶたで固まって、漸く痛みになれてきたその頃に、彼女は出会ってしまった。

 

(この男はなにを言っている?)

 

否定に慣れた頭は理解を拒む。理解してしまったら、もう悪役を纏えない、もう、あの痛みに耐えられない。

それが解らないほど目の前の男は鈍くないはずだ、それでも言葉を続けるのだから、間違いなく、彼は悪魔だ。全てを察した上での肯定は、今の彼女にとって猛毒に等しい。

本当は辛かった。誰かにすがりたかった。何よりも、背負わされた十字架を許して欲しかった。

男は言う。それはお前のものでは無い。お前は許されるべき罪など、最初から背負っていないと。

涙で視界が歪むのを彼女は自覚する。それは、もう悪辣な女傑に二度と戻ることが出来ない証だった。

 

 

 

 

下を向き、肩を震わせ始めたシーマ少佐を見て、完全に言い過ぎたことを自覚する。

やっべえ、超怒ってる。そうだよね、後方でのんびり壺集めてる俺になにが解るって話だよね!

 

「とにかく、私は君たちに含むところはない。もし、何かあれば気軽に訪ねてきたまえ、出来る限りだが力になろう」

 

だから機嫌直してくれないかな。と、視線を送るが、相変わらずの姿勢なシーマ少佐。うーん、なんかそこかしこで軍人怒らせまくってるなぁ、俺。絶対交渉とか向いてないわ。

気まずい沈黙に、耐えかねて視線をさまよわせていたら、MIBの兄ちゃん達がこちらに歩いてくるのが見えた。どうやらシャトルがついたっぽい。なんて僥倖。

あ、そうだ、せめて最後は小粋なジョークくらい言ってフレンドリーさをアピールしておこう!

 

「そうそう、今ウチで海兵向けのMSを作っているんだ。もし良かったら今度乗りに来るといい」

 

海兵隊だけにね!うん、全然上手くねえや。もう完全にやっちゃった空気に耐えられず、そそくさとシャトルへ向かう俺。シーマ少佐に後でお詫びの品送っておかなきゃ。

彼女、いつ頃の壺が好きだと思う?って聞いたら、MIBの兄ちゃんが初めてこっちを向いてなに言ってんだコイツって顔してた。解せぬ。

 

 

 

 

「はは、捨てる神あれば拾う神ありってやつかねぇ。ツキなんて何処に落ちているか解らないもんさ」

 

去って行く大佐を見送った後、ブリッジに戻ってきたシーマ・ガラハウは、明らかに上機嫌な声音でそう言った。久し振りに見る真っ直ぐな笑顔に、部下達も戸惑いつつも何処か浮ついた雰囲気を出し始める。副官を自認する大男が、居ない間に受け取った補給リストを渡しながら、原因を確かめるべく口を開いた。

 

「随分とご気分が宜しいようで。何かあの大佐とあったんですかい?」

 

その言葉に、シーマは目を細める。今までの境遇からすれば無理の無い言葉だ、だが、今後はそうはいかない。不安の芽は早めに摘んでおくべきだと考えた彼女は、それを伝えるべく口を開いた。

 

「口に気をつけな、デトローフ。飼い主には少しでも気に入られる方が良いからね」

 

それが、自分たちを正しく評価し、欲してくれるような相手なのだから尚のことだ。

 

「へ、へえ?」

 

いまいち理解が追いついていない大男は不思議そうな表情を浮かべる。しかし気分が高揚しているシーマは、気にせず言葉を続けた。

 

「シケたアサクラのご機嫌伺いは終わりだよ。もっといい男を見つけたからね」

 

「あの大佐殿がですかい?」

 

不信を顔に貼り付ける部下に、口角を上げながらシーマは言う。

 

「あたしらを丸ごと面倒を見ると言い放つ、中々のお大尽さね」

 

そう言いながら、件の男をシーマは思い出す。切れ者でありながら熱くもあり、それでいてどこか隙のある良く解らない男。けれど、今まで会ってきたどの男よりも好ましいと、シーマは素直に思った。

 

「あれだけ情熱的に誘ったんだ、精々甘えさせて頂きますよ、大佐」




いつからはにゃーんがヒロインになると錯覚していた?

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