起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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第百五十九話:0080/01/10 マ・クベ(偽)とギャン

「うぐぇっ」

 

殺しにかかっているとしか思えない加速に無様な声が口から漏れる。それを必死で飲み込みながら、俺は一気にケープタウンへ肉薄した。

 

『敵機下方!弾幕薄いぞ!』

 

おう、反応良いな。だが遅い。

 

「ゲルググ相手ならば間に合ったがね!」

 

弾幕を掻い潜り、俺はケープタウンの底面に肉薄すると、すり抜けざまにジャイアントバズーカの砲弾を4発たたき込む。最後の1発は機体が速すぎて側面に命中したが、そんなものは誤差とばかりにケープタウンは不自然に盛り上がった後、大爆発を起こした。

 

「次!」

 

『なんて速さだい!?』

 

驚愕に苛立ちが多分に混ざったシーマ中佐の声と同時に機体の後方をビームが通り過ぎる。フットペダルを更に踏み込み加速しようとした瞬間、機体が激しく揺れた。

 

『直撃したはずだぞ!?』

 

当たっているよ。6層で構成されているフレキシブルアーマーが、直撃した右側だけ3層まで抜かれている。つかロックアラート鳴らなかったんだけど。目測で当てるとかアナベル少佐の射撃技能どうなってんだよ!?

 

「頂く!」

 

先ほどの攻撃でコースは逸れたが問題無い。相手はムサイだから防空能力はザンジバル級より遥かに劣るし、構造も貧弱だ。俺の放った弾頭は、ムサイの2番砲塔の右横に連続して着弾。最後の着弾と同時にムサイは船体をくの字に折りケープタウンの二の舞となった。

 

「の・こ・る・は、MS!」

 

撃ち切ったバズーカを投棄しつつ、機体を強引に捻る。包み込むように放たれたビームに反応して両肩の対ビーム防御システムが攪乱幕を噴射、ビームマシンガンと思しき光条が目の前で霧散する。

 

『囲め!』

 

『撃ち続けろ!休ませるな!!』

 

海兵隊と戦技教導隊のゲルググがこちらを包み込むように動いている。ご丁寧にしっかりロッテは崩さず、全員射撃も緩めてくれない。たまには接待試合とかしてくれて良いのよ?特に今日みたいな日はさぁ!

 

「ならここだ」

 

機体を前転するように操作し、推進器の方向を180度変更。レッドアウトしかけるが、それを気合いで堪えて再加速。包囲の最奥に居たロッテへ向かい突撃する。

 

『俺かよ!?』

 

「君だよ」

 

はっはっは、予想外の事態に機体を硬直させてしまうのは悪い癖だぞ、クルト中尉。良い勉強になったなぁ?御代は戦死判定だ。左腕に構えていたランスを躊躇無く突き刺し、貫いたゲルググごと包囲を突破する。速度差が縮まった事でビームの密度が上がるが、攪乱幕に加えて振り落としたクルト中尉のゲルググを盾にして再度距離を確保する。もう一度同じ方法で、今度は教導隊の機体を突き刺した辺りで、海兵隊の機体の動きが目に見えて悪くなった。頃合いだな。

 

「そろそろ推進剤が切れてきたかな?さあさあどうする?教導隊の諸君はお荷物片手にまだやるかね?」

 

『言ったな!』

 

『馬鹿っ!お前ら挑発に乗るんじゃない!』

 

露骨に戦力外扱いしたことに激昂した海兵隊の機体が2機、加速しながら突っ込んでくる。惜しいな、そこで冷静に動けていれば無駄に死なずに済んだのに。

 

『なぁ!?』

 

機体を襲う突然の爆発に突っ込んできた2機は機体の制御を失い、俺の放ったマシンガンをモロに喰らって爆散した。彼らは気付かなかったが、挑発する前に進路上へ機雷を撒いておいたのだ。可視光を極限まで吸収する塗料を惜しげもなく――とは言えMS用の塗料に比べたら大した額でもない――塗りたくったそれは、ミノフスキー粒子戦闘下において極めて厄介なトラップとなる。事実ベテランの海兵隊ですら気付かずに躊躇無く突っ込んできた。

 

「さて、まだやるかね?」

 

参加した艦は全滅、今ので3機を撃破。しかも推進剤の問題から、残っている機体でまともに動けるのは教導隊の4機とシーマ中佐くらいだ。こちらは被弾してこそいるが、戦闘には全く支障は無い。はっきり言って海兵隊のゲルググがまともに動けなくなった時点で詰んでると思うんだけど。

 

『無論!』

 

『引けませんなぁ!』

 

アナベル少佐とシーマ中佐の咆哮を聞いて俺は僅かに溜息を吐く。こりゃ全機落とすまで終わりそうにないな、なんでこんな事になっちゃうかなぁ。

 

 

 

 

「まだでしょうか、ネヴィル大佐?」

 

「落ち着きたまえ、ハマーン少尉」

 

シミュレーションを見て我慢が出来なくなったのだろう。始まるまでは大人しくしていたハマーン・カーン少尉が、珍しくネヴィルにせっついてきた。当のネヴィルはと言えば、シミュレーションが行われると言われた瞬間から、ブラウ・ブロをシミュレーターへ接続するべく作業を行っていた。少尉がマ大佐に好意を持っているのは明白であったから、訓練への参加を表明するのは目に見えていたし、なによりネヴィル自身も己の造り上げた機体に対し、マ大佐がどのような戦闘を行うか興味があった。

 

「エディタ中尉、各データリンクをチェックしてくれたまえ」

 

「了解です」

 

最後の接続作業が終わり最終確認をするべく、ネヴィルはパイロットのエディタ・ヴェルネル中尉へそう告げた。返事と同時に素早く機体を立ち上げた中尉が機体を操作し、それに合わせてチェック項目へ次々とクリアの文字が書き込まれる。一番の懸念材料であったサイコミュも問題無くシステム側で認識できていた。

 

(ふん、これで私も地獄行き確定だな)

 

ネヴィルは柔軟な男である。能力があればたとえ年下の少女であろうとも敬意を払うし、仕事を任せる事もする。しかし、同時に古風な成人男性の価値観も同居している。故に少女を本当の戦場に出すとするマ大佐の意見に正面から噛み付いたのも彼だった。苦い表情になりながら、ネヴィルはマ大佐との会話を思い返す。

 

「ブラウ・ブロを使う!?大佐、言っている意味が判っているのですかな?もし理解した上での言葉なら、私は貴方を軽蔑するが?」

 

相談があると近づいてきたマ・クベ大佐の言葉を聞き、ネヴィルは思い切り顔を顰める。その表情から正確に内容を察したマ大佐は、能面のような顔のまま口を開いた。

 

「やはりサイコミュの動作にはハマーン少尉が必須ですか」

 

「残念ながらその問題点は克服できておりませんからな。そして今彼女以外にニュータイプ…いや、スペシャルとでも言うべきですかな?そうした人材はソロモンに居ない。ならばアレを使うというなら、当然ハマーン少尉を戦場へ出すことになる」

 

「そうなりますな」

 

感情のこもらない短い言葉に、ネヴィルは頭へ血が上るのを自覚する。

 

「ではもう一度伺いましょう。あの少女が戦場へ出るというリスクを承知した上で、貴官はブラウ・ブロが使えるかと問うているのですな?」

 

「はい、どうでしょうかネヴィル大佐。ブラウ・ブロは使えますか?」

 

「軍人として答えるならば、使えますな。だが、人として伺っておこう。貴官にモラルは無いのかね?」

 

「手厳しいですな」

 

「当然の思考だと考えるがね。逆にお聞きしたいが、何故そこまであれに拘る?確かにブラウ・ブロは強力な機体だ、造った私がそれは保証しよう。だが、決して代替不能な戦力と言うわけではないだろう?」

 

そうネヴィルが問うとマ大佐は初めて表情を揺らし、そして諦めを多分に含んだ声音で答えた。

 

「仰る通り、単純な数字で見たならば他の兵士で補えましょう。ですがこれから赴く場所を考えた場合、彼女はどうしても代替不能な戦力となる。居るのでしょう?彼女とあのMAが。あれらを死人無しに阻むには、どうしてもハマーンの助力が要る」

 

マ大佐の言う相手を正確に理解したネヴィルは深い溜息を吐いた。彼の言う通り、あのMAとララァ・スン少尉の組み合わせを普通の兵士が押さえ込むには、文字通り命が幾つあっても足りないからだ。

 

「成程、だが言っては何ですが大佐ならお一人でも落とせてしまうのでは?」

 

「買いかぶりですよ。それに奇跡的に落とせたとしても、私には余裕が無い。言ったでしょう?誰も死なせずに阻むのはハマーンにしか出来ないと。それに」

 

「それに?」

 

「私にはもう一つ仕事がありましてね。悪戯小僧共を叱りつけてやらねばならんのですよ」

 

そう笑う大佐の顔には、拭いようのない慚愧の念が浮かんでいた。

 

「お待たせしました、大佐!さあ、ここからが本番ですよ!」

 

『ハ、ハマーン!?ええい!ウチの連中は加減を知らん!』

 

ハマーンの宣言に狼狽した声を上げるマ大佐を見て、ネヴィルは思わず苦笑してしまった。今の姿から、あの時の雰囲気は微塵も感じられない。だがそれで良いのだろう、ああいう男だからこそ、彼らは大佐のために命を張れるのだろうから。

 

「ふん、まああれとなら地獄もそれなりに楽しめるだろうさ」

 

冷めた紅茶を飲み干し、ネヴィルは誰となく呟いた。




お決まりの無双回。天丼過ぎてそろそろ飽きられるな。

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