起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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ちょっと早めの更新。


第百五十五話:0080/01/07 マ・クベ(偽)と邂逅

「大佐、大佐。話が終わったところで少し見せたい物があるんですけど」

 

キメ顔でキャスバルぶっ殺す宣言をした俺に対して、ふよふよと浮きながら近づいてきたエリー女史が、そう切り出してくる。おい、さっきまでの慄いた雰囲気は何だったんだ。切り替え早くね?ポーズまで決めちゃったこの俺の道化っぷりをどうするつもりだ。

 

「見せたい物?」

 

なんだよ。地球破壊爆弾でも持っているのか?持ってるなら見せなくて良いぞ、使わないから。

 

「ええ、今の大佐には必要な物だと思います。ハンガーへ来て頂けますか?」

 

「ちょっとまちな博士。大佐の仕事は部隊の指揮、MSに乗って戦うのは私らの仕事だ。変な物あげないでおくれよ。飛び出して行っちまったらどうするつもりだい」

 

そう横から口を出してきたのはシーマ中佐だ。彼女はエリー女史が見せたい物がなんなのか判っているらしい。すげえな、俺なんて皆目見当がつかないぜ。だから女史、ちょっと見せてみ?

 

「大佐!」

 

「保険だよ、使える戦力は多いに越した事はない」

 

何せ予備で持って来たゲルググを俺用にセッティングしてくれと頼んだら、パイロットやら整備員やらが総出で、予備機に手を出すなとか、お前のじゃねえ座ってろとか言って近づくことすら許してくれなかったんだよな。専用機はドムだから持ってこられなかったし、この際贅沢は言ってられん。試作機であっても目をつぶろうじゃないか。…どうせヤツだって判っているしな!

 

「では早速」

 

そう言ってエリー女史と連れ立ってハンガーへ向かう。何故かついてきたハマーンとひたすら考え直すように諫言してくるシーマ中佐を侍らせながら移動していると、なんて言うかまるでハーレムみたいだななんて思えてくる。力関係的に言えば俺が最下層だけど。…あれ?俺階級一番上だよな?

 

「どうかなさったんですか?大佐」

 

顎に手を当てて唸りだした俺を心配したのか、ハマーンが首をかしげながら聞いてきた。

 

「いや、己の立場というものを改めて考えてしまってね」

 

本音を話すわけにもいかず言葉を濁したが、どうも色々筒抜けらしく、曖昧な笑顔を返された。うん、やっぱ思考が読み取れる程度じゃ人間わかり合うなんて無理だな!改めてそんなことを実感している内に格納庫へたどり着く。目の前に鎮座した巨人を前に、エリー女史は実にゴキゲンだ。

 

「どうです!これが我が社の技術力を結集して生み出したYMS-15、ギャンです!」

 

知ってた。でもなんだこれ。

 

「YMS-15。MSを試作していたのは存じていましたが。これはまた…」

 

なんて言うか、宇宙世紀のMSに見えないフォルムである。

 

「素晴らしさに言葉も出ませんか!良いでしょう、この私自らご説明致しましょう!そもそもこのMS-15はMSの原点に立ち返った機体です」

 

「この奇妙奇天烈なMSがかい?」

 

良かった、シーマ中佐から見てもこの機体は愉快なデザインらしい。あとYは何処行った。だが興奮したエリー女史には効かなかった。

 

「そもそもMSの出発点は全域対応作業機です。まあ、プロパガンダであった部分は多分にありますが、それでもジオンの求めた兵器としての能力もそれ程乖離していません。あらゆる戦場で、あらゆる武器を扱い戦える。その汎用性こそMSのMSたる原点です」

 

おかげで地上侵攻にも使ってえらい目にあったがな。

 

「当機はカテゴリーとして全域支配型MSを標榜しています。宇宙は当然地上、水中。軍の征くあらゆる戦場へ投入可能な性能を誇るのがこのMS-15なのです!ご覧下さい!」

 

そう言って女史はいつの間にか取り出したタブレット型の端末にでかでかとギャンのスペックを表示する。そこに書かれた冗談のような数値に思わず目を剥いてしまう。

 

「ふっふっふ。その表情が見たかった!どうですスゴイでしょう!!」

 

いや、確かにこりゃ凄いわ。基本構造にはインナーフレーム――俺が提案したムーバブルフレームモドキだ――を採用。オデッサで研究していた仮称ルナチタニウムβを惜しげもなく使っているため機体重量に対して驚くほど高い耐久性と剛性を持っている。駆動方式はフィールドモーター式、おそらくアナハイムから調達したと思われる最新型でその出力は軽くガンダムを超えている。おまけにマグネットコーティングまで試しているらしく、反応速度も従来機の比では無い。ただ、その、何というか。

 

(トールギスF?)

 

唯一俺の思考が察知できるハマーンだけが、俺の方を見て顔に疑問符を乗せている。まあ、この世界に存在しない機体の名前なんて出されりゃそうなるわな。いやでもこれ似すぎだろ。版権とか大丈夫?あ、版権元同じか、違うそうじゃねえ。

 

「フレームの構造上推進器は外部に接続する形になりました。まあ、おかげで容積を考えずに済んだので丁度エンジン部門が持て余していた土星改良型、冥王星エンジンを2基搭載しています。理論上、片肺でも飛行可能な推力を確保していますよ!」

 

うん、馬鹿みたいにでかいブースターがくっついているね。ところでそれ全力でふかしたらぷちっと逝くんじゃないだろうか?畜生!やっぱりツィマッドの技術者はエンジンキチばっかりか!

 

「そして何よりの特徴はこのフレキシブルアーマーです!ゲルググに搭載される耐ビームコーティング付シールドをより発展させたもので、耐久力は実に倍!上手く使えば艦砲だって防げます!」

 

それが一番気になっていたんだ。機体正面を覆う様に被さっているアーマーは丁度、どこかのゼロでカスタムなガンダムの羽を彷彿とさせる。あれに比べれば表面は平坦で複雑なスタビライザーも無いから、こっちの方が装甲しているが、こんな発想どこから出てきたんだ?はっ!?まさか俺の脳内を思考盗聴したのか!?

 

「最後に主兵装ですが…、実は格闘武装以外造っていません。マニピュレーターが共通ですから、火器関係は既存の物が全て使えますし、ウチよりMIPのビームライフルの方が性能良いので、そっちを使って下さい。使えればですが」

 

なんか、今不穏な事を言いませんでしたか?

 

「女史。使えれば、とは?」

 

ドヤ顔から一転してつまらなそうな表情になったエリー女史が口を尖らせながら説明してくれる。

 

「連邦のMS以降、MSがビーム兵器を携行するのが当然になりました。故にこの機体は最大限その脅威から自機を守る構造を採用しています。フレキシブルアーマーの下には例の攪乱幕封入型追加装甲を取り付けて居ますし、両肩にはネヴィル大佐謹製の噴射式防御システムを取り付けています」

 

成程、本気で全部使えば、本当に艦砲を一回くらいは防げそうだ。いや、やらんけど。しかしそうなると、こちらの火器は実弾になるのか?90ミリは当たるが威力が足りんし、かといって新型の120ミリは反動がでかくて宇宙じゃ使いにくい。バズーカは言わずもがなだ。これ、ひょっとしなくてもビームで遠距離から削られて終わりじゃない?俺がそう考えていると、エリー女史がドヤ顔を取り戻す。その目は雄弁にお前の考えなどお見通しだと言っていた。

 

「火器類は基本的に実弾兵器を使うことになるでしょう、特に威力を考えれば当てにくい。そこでこの機体の加速性です。当てにくいなら、当たる距離まで詰めればいいのです!」

 

おいまて馬鹿野郎。

 

「女史、女史。宇宙では急制動は掛けられないのですよ。加速して詰めれば、そのまま敵中に飛び込むことになるではないですか」

 

「だから、専用の近接武装を用意していると言ったでしょう?射撃を当てて、そのまま突っ込んで敵を倒し、突き抜ける。正に完璧な戦術です!」

 

ちゃうとおもいます。興奮気味に床を蹴ったエリー女史が、ギャンの横に置かれていたシートへへばりつくとそれを強引にひっぺがす。中から現れたのはMSより長いランスだった。

 

「試製対MS用重騎槍!ギャンの突進力を加えたなら貫けないMSなど存在しません!おまけでヒート機能も付けておきましたから多い日でも安心です!」

 

女の子がそんなこと言っちゃいけません!?何なの?何でこんな尖った機体を嬉々として紹介できるの?俺格闘戦嫌いだって知っててやってんの?最早これは嫌がらせでは?俺が渋い顔をしていると、やれやれ我儘さんめ、こいつは特別サービスだぞ?とでも言いたげな表情でエリー女史が口を開いた。

 

「大丈夫、ランスレストもついてますから」

 

「違うそうじゃない」

 

「冗談です。ちゃんと大佐向きの装備も準備してありますよ」

 

そう言ってギャンを挟んでランスとは反対側へ飛ぶエリー女史。な、何だよ、脅かしやがって。あれだろ?思いつきで喋ったマシンガンとビームライフルの切り替え可能な携行火器とか、そういうの造ってるんだろう?まったく女史も人が悪い。あんまり虐められると、マすねちゃいますよ?心底ほっとしながらふよふよと泳いでいくエリー女史を視線で追う。そして、俺はその先に気付いてしまう。おかしい、重火器を覆っているような長いシートが無い。そんな俺の不安など気にした様子もなく、目当ての物にたどり着いた女史は、先ほどと変わらぬ豪快さでシートを剥ぎ取る。そこには俺のパーソナルカラーにペイントされ、あろうことか表面一杯にでかでかとジオン公国のエンブレムの入ったMS用のバックラーが置かれていた。

 

「盾?」

 

流石にこれは予想外だったらしく、シーマ中佐も疑問の声を発する。だが、悲しいかな俺はオチが読めてしまった。

 

「これは盾ではなくPDWです!ほらこのように!」

 

そう言って女史が端末を操作すると、パーソナルディフェンスなんたらはあっさりと盾の役割を放棄、三等分に分かれる形で左右がスライドしびっしり並んだ砲口を見せる。

 

「近接防御用のクレイモアランチャーです!そしてこちらが!」

 

もう一度女史が端末を操作し元の形に戻ったと思ったら、今度はシールドの前側からぶっとい砲身が飛び出す。

 

「マルチランチャーです!通常の榴弾だけでなく機雷や爆導索なんかも発射できるんですよ!搦手大好きな大佐にぴったりですね!」

 

そうやりきった笑顔で宣言するエリー女史。俺は膝から崩れ落ち自らの発言を後悔する。いかん、これはちょっと死ぬかもしれない。




おかしいんです。作者の予定だと、この辺りまで2話で終わる予定だったんです。

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