起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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今月最後の投稿です。


第百五十三話:0080/01/07 マ・クベ(偽)と会敵

「色付き!?」

 

舌打ちしたくなる衝動を懸命に抑え、ドレンは素早く計算する。

 

(あれは海兵隊か!?しかもゲルググだと?この交戦は想定外すぎる)

 

何処で間違えたのか、そんな思考の迷路に迷い込む暇すらなく、事態は進行していく。

 

「敵MS部隊接近!」

 

「弾幕を張れ!MS隊は各個に迎撃!相手は海兵隊だ、単独で当たるな!」

 

だがその指示もむなしく響く、何故なら敵はザンジバル級が2隻である。そもそもの搭載数が倍以上違うのだ。ミノフスキー粒子が撒かれるまでの僅かな時間で確認された敵機は、10を超えており、既に2対1の構図は難しい。しかも更に状況は悪化していく。

 

「パトロール艦隊よりMS発進しました。これは…、パトロール艦隊機目標の護衛に付きます!」

 

この時点でドレンの思惑は完全に破綻した。それを理解し、撤退のための指示を出そうとするが、それはあまりにも遅すぎた。

 

「て、敵ザンジバル級がこちらへ向かってきます!?」

 

「ぜ、全艦各個に応戦しつつ撤退だ!」

 

それが絶望的な命令であることは自覚していたが、他の選択肢は既にドレンの手の内には残されていなかった。

 

 

 

 

「やる気がないなら最初から出てくんじゃないよ!」

 

そう吐き捨てながらシーマが放ったビームは続けざまに敵機のシールドへ吸い込まれ、それごと相手の左腕を吹き飛ばした。反動を制御しきれず無様に回転する敵機に肉薄し、左腕に装備したシールドを今度は相手の右腕へ叩き付ける。左腕に続き、右腕の肘から先も失った敵機は、慌てて背を向ける。その行動はあまりにもお粗末で、シーマは失望すら覚えた。

 

「腑抜けかい!」

 

即座に照準、発砲。推進剤の詰まったバックパックへビームマシンガンの直撃を受けた敵機は、脱出ポッドを吐き出す暇もなく爆散した。

 

「クルト、ここは任せる!第一小隊ついてきな!艦を食うよ!」

 

「「了解!」」

 

言うや、シーマは機体を更に加速させる。宇宙での戦闘は数ヶ月ぶりの筈であるが、海兵隊の動きにブランクは感じられない。それというのも宇宙から戻った大佐に請われて、シミュレーションのシチュエーションが専ら空間戦闘になっていたからだ。

 

(本当におっかないね、ウチの大将は。これも想定の内って訳かい?)

 

敵の対空砲火をバレルロールで鮮やかに避けながら、バックパックのメガ粒子砲を照準。艦橋の真下というムサイの死角に潜り込み、エンジンを支えているアームを吹き飛ばす。支えを失ったエンジンが船体にぶつかり、派手な爆発を起こした。推力のバランスを崩し、爆発で姿勢すら崩した敵艦の艦橋へ向けて、シーマは苛立ちを覚えながらトリガーを引いた。

 

「覚悟や思いなんてもので勝てるほど甘くないんだよ!あの世で後悔しな!」

 

爆発の破片からシールドで自機をかばいつつ次の目標を見定める。相手は僚艦が沈められた事に動揺したのか、シーマの機体へ向けて対空機銃を集中させてきた。それが致命的な隙となる事など考えもせずに。

 

「まさか自分達は沈められないなんてお花畑で出てきたのかい!?おめでたいねぇ!」

 

AMBACとスラスターを組み合わせてシーマはジグザグに機体を振りつつ、敵艦の腹側へ移動する。慌ててロールを始める敵艦の艦橋へメガ粒子の光が続けて2発突き刺さった。一瞬発砲元へ視線を送れば、随伴してきた第一小隊の僚機2機が確認出来た。

 

「クルト達が手練れとは言え、無様なもんだね。艦隊防空も満足に出来ないのかい」

 

数的不利の中で艦隊を守ろうとするならば、MSの動きは極端に制限される。とは言えそれを律儀に守れていれば、これ程易々と艦を失うことはない。そう結論づけたシーマは不快感を吐き出すようにスロットルを蹴りつけて次の艦へ向かう。狙ったのは独特な艦橋をしたムサイ。最後に残ったそれは、この艦隊の旗艦だ。

 

「敗軍の将は責任を取らなきゃねぇ!安心しな!直ぐにお仲間も送ってあげるよ!」

 

ファルメルが轟沈したのは、この僅か1分後の事だった。

 

 

 

 

「ああ!?ファ、ファルメルが!」

 

自機の後ろからきた爆発光に思わず振り返ったフランシィ曹長が見たのは、跡形もなく消し飛んだ味方艦隊だった。

 

『ゲルググのパイロット!お前の艦は沈んだぞ!諦めて投降しろ!』

 

目の前で切り結んでいた海兵隊のゲルググから、接触回線を通してそう告げられる。既に僚機も全て落とされており、残っているのはフランシィだけだった。彼らの名誉のために付け加えるなら、パトロール艦隊は敵艦隊へ向けてMSで先制攻撃を加え、火力が漸減されたタイミングで艦隊が突入、敵艦隊を屠る事を基本的な戦術として採用していた。連邦側にMSが少なかった事も手伝って艦隊を防空するという意識は低く、訓練も十分ではなかった。対して海兵隊は対艦戦闘など飽きるほどやってきたし、集団戦のシチュエーションではマ大佐の率いる艦隊を襲撃する内容までやっている。それも小隊で連邦の戦艦を含む6隻以上の艦隊相手なのだから、数の劣ったムサイの防空など小雨ほどにも感じていなかった。仮に海兵隊で行われていた対艦戦闘のシミュレーションデータが全軍に開示されていれば、ゲルググ全機の喪失の代わりに一隻くらいは逃がすことが出来たかもしれないが、そんなもしもは今の彼女にとって何の慰めにもならなかった。

 

「い、今更投降したって…」

 

フランシィ自身は特別ダイクン家を信奉していた訳でもないし、あの演説を聴いても特に心を動かされることもなかった。しかし、隊の連中がネオ・ジオンへの参加を表明し、基地内での出来事を聞いた後では、とても自分だけ参加しないとは言い出せなかった。

 

「どうして、どうしてこんな事に…」

 

ネオ・ジオンへの不参加を表明した人間に対する私的制裁。総帥に隠れて行われていたそれにより、僅かとは言え死者まで出ていた。そして女性であれば、直接的な暴行以外にも苦痛を与える手段は存在する。戦場を経験していたが故に、そうした生々しい現実を知っていたフランシィに、それを受け入れるだけの覚悟は存在しなかった。

 

『聞いているのかパイロット!』

 

「と、投降したって銃殺じゃない!」

 

『女!?』

 

フランシィの叫びに動揺したのか、相手のゲルググの動きが僅かに鈍る。その瞬間を見逃さずフランシィは相手を殴りつけ、更に右腕に搭載された90ミリ機関砲のトリガーを引く、しかし砲弾が発射されるより早く、ゲルググの右腕にビームが降り注ぎ、その機会は失われた。

 

『遊んでんじゃないよ!』

 

叫び声と同時にフランシィの体は激しい衝撃に襲われた。激しく流れる警報音から自機の四肢が切断されたことを理解し、そして次の衝撃と同時にメインカメラ一杯に映った機体を見て、彼女は自身の死を自覚した。

 

「グディニャの鬼神…ジブラルタルの、英雄。はは、こんなの、勝てるわけない」

 

『解ってんならさっさと投降しな、胸くそ悪いことさせてんじゃないよ!』

 

苛立ちを隠そうともせず、そう言ってくる相手に向かい、フランシィは先ほどの言葉を繰り返す。

 

「投降しても、銃殺でしょう?いっそここで殺してよ」

 

返ってきたのは深い溜息と、怒気を押し殺した声だった。

 

『あんた達はテロリストだ。捕まれば法的に裁かれるが、戦場で捕虜として扱う条約は存在しない。つまり私達はあんたらに投降を促す必要も無いんだよ。なのに手間暇掛けてそんなことをやっている時点で、少しはこっちの気持ちも酌んだらどうなんだい?それからどうしても死にたいって言うなら自分で死にな。あんたみたいな連中の願いを聞くために手を汚すなんてまっぴらご免だよ!』

 

英雄の言葉を聞き、フランシィは嗚咽交じりの降伏を申し出た。

 

 

 

 

「終わったか。流石海兵隊だな」

 

安堵と共に、俺は気付かれないよう息を吐いた。宇宙での実戦はブランクがあるから少し心配だったが、杞憂だったな。

 

「中佐もお見事ですが、大佐の深謀遠慮にも感服致しました。あの訓練はこのような事態も想定しての事だったのですね!」

 

興奮した面持ちでそう告げてきたのはケープタウンの艦長をしているウィリアム・キャラハン大尉だ。なんか海兵隊のせいで船乗りは荒くれ者というイメージが強い中、銀縁めがねを掛け、端末を常に小脇に抱える彼は、どちらかと言えば作戦参謀とか秘書官といった風体だ。もっとも、その勇猛さはシーマ中佐のお墨付きで、

 

「あれは頭のネジが数本抜けていますね」

 

だそうである。実際グディニャ攻略の際は艦を接近させるどころか上空を旋回してガンシップのように動き回り、停泊していた艦艇を片端から沈めるという戦果を挙げている。ちなみに彼が言っている訓練とは、多分海兵隊とやっていた艦隊戦闘や、空間戦闘のシミュレーションの事だろう。

 

「備えあれば憂い無し。良い言葉だと思わんかね?」

 

口角を上げて自信満々という風を装ったが、実際はそんなこと全然考えていませんでした。空間戦闘のシミュレーションは黒い3兄弟のリベンジ対策だし、艦隊戦の方は絶対体験できないシチュエーションだからやってみたかっただけです。シーマ中佐達がノリノリで付き合ってくれたからつい熱が入っていたけど、基本的にあれは遊びである。背中を嫌な汗が伝うのを自覚しながら、俺は言葉通り尊敬のこもりまくったウィリアム大尉の視線から目をそらし、次の命令を口にする。

 

「さ、大尉。お嬢さんを待たせるのは失礼だ、艦をあのムサイへ」

 

「お嬢さん?」

 

不思議そうに聞き返してくる大尉に今度こそ笑いながら俺は答えた。

 

「あのMAの色を見たまえ、何処かで見たことがあると思わんか?」




主人公、見てただけである。

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