起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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第十四話:0079/05/17 マ・クベ(偽)と専用機

心地よい陽気が続く今日この頃、皆さんいかがお過ごしですか?こんにちは、俺です。マです。

一昨日連絡したジオニック社のハンスさんから連絡があって、マリンタイプの開発スタッフと、お願いしていた装備を在庫分だけ先に送ってきてくれた。早速最近増設したばかりの第4格納庫で一緒に持ってきた中古のザクⅡに取り付けて楽しんでいらっしゃる。用事のついでに顔出して、機雷対策にワイヤーカッターと既存の火器を運べるコンテナとかあったら便利だねー、なんて言ったら握手を求められた。はっは、褒めても何も出ないぞう?あ、これPXで使えるカードです。いえ、賄賂とかじゃ無いです、心付け、心付けですよー。

さて、何で今日は格納庫にいるかって言うと、ついに出来ちゃったからである。

 

「お待ちしておりました、大佐」

 

そう言って迎えてくれたのは第4整備中隊の整備班長を務めている中尉だった。以前強請っていた整備員の増員に伴って、第1~第3の補充人員と共にグラナダから遙々来てくれたいい人だ。

 

「出迎えご苦労、中尉。あれがそうかな?」

 

そう言って視線を向けた先には、ツィマッドが作成したドム試作型が鎮座している。グフ飛行試験型でホバーの稼働データを一気に集められたため、大幅に前倒しして完成したみたいだ。んで、こいつはラベンダーとガンメタルのツートンカラーに塗装されている。もう解るだろう、俺の専用機なのである。

まだ完成してない試作機、それも練習機を専用機に指定したときは司令部の連中に変な顔されたが、おかげでツィマッドに建造予算を付けることで完成が早まったようなので良しとする。ちなみにグフ飛行試験型の開発チームには、ナンデ?ナンデうちのじゃないの?ってハイライト消した目で詰め寄られた。ヤンデレ怖い。フィンガーバルカン取っ払ってから出直してこいって言ったら随分へこんでた、なんでそんなに指バルカンが好きなんだよ、鬼○郎か。

 

「はい、ツィマッドの方にも協力頂き完成致しました。しかしこれは、素晴らしいMSですな」

 

「MSを知り尽くした中尉から言われるなら、正に開発者冥利に尽きるな」

 

「では、早速お試しになりますか?」

 

俺の言葉に興奮した面持ちで搭乗を勧めてくる中尉。あー、うん、シャアとか大義ロンゲとかなら、ここで試してみるか!とか言っちゃうんだろうけど。

 

「その事だがな、中尉」

 

「はい」

 

「私はMSに乗れんぞ?」

 

今、俺はこの空間を支配したね。だって目の前の整備班の皆さんや、少し向こうで様子を窺ってたジオニックの皆さん。キャットウォークとかでこっちを見物してた兵隊さん達がみんな揃って、え、マジで?って顔で絶句してるもん。

うん、言いたいことは解る。解るけど無理だよ?…今は。

 

「期待させて済まない。だがMSの搭乗時間が合計100時間に満たない私が、今これを扱うのは無理だ」

 

俺の言葉に落胆しつつも納得する皆さん。だよねー搭乗時間100時間以下とか学徒兵並だもん。

 

「だが、約束しよう。私は必ずこの機体に相応しい人間になってみせる」

 

それだけ言って敬礼した後きびすを返す。ふ、マ・クベはクールに去るぜ。そして約束はした、約束はしたが、期日は言っていない…つまり、そういう事!

MS搭乗という死亡フラグをへし折った俺は上機嫌に格納庫を後にした。

 

 

のが、昨日のこと。俺は再び格納庫に来ている。何故って?どうしても見せたい物があるって、整備班の皆さんが言うからだよ。

 

「お忙しい所、お時間いただき有り難うございます、大佐」

 

「いや、良くやってくれている諸君らの要望だ、足を運ぶくらいどうと言うことは無い。それで、中尉。見せたい物があるとのことだが?」

 

「はい!あちらになります」

 

そう言って連れて行かれたのは格納庫の端っこ。そこには見知った機材が置かれていた。

 

「…何故、ここにMSシミュレーターが?」

 

実はこのシミュレーター、オデッサにも何機かある。パイロットの訓練で実機を使うには数が足りないので、これで代用しているのだ、まあ、もっぱら暇つぶしの対戦ゲーム扱いだが。けど、全部シミュレーションルームに置いておいたと思ったけど。

 

「先日の大佐のお言葉、感動致しました。整備班一同、大佐のお役に立てればと奮起致しました!」

 

うわぁ、すっごい良い笑顔。これ、拒否れない奴ですわ。

 

「大佐用に準備致しました。存分にお使いください!」

 

頬が引きつるのを自覚しつつも、俺は頷く以外の選択肢を持たなかった。どうしてこうなった!?

 

「早速お試しください。手前味噌ですが、良く出来ています」

 

断れない雰囲気に、色々と諦めてシミュレーターに乗り込む。士官学校のパイロット課程以来だから、ざっと2年、いや3年ぶり?中のレイアウトは変わってない…いや、ジョイスティックがちょっと変わってるか?でも大した差はないな。あ、統合整備計画のせいか!?

ツィマッドさん頑張ったんだなぁ。

そんなことを考えながら、もたもたとシートベルトを着ける。古い記憶を引っ張り出しながら、何とかシミュレーターを機動させた。

 

「APU、チェック。Cd、チェック。フューエルライン、チェック。…」

 

教え込まれた手順で各項目をチェックしていく、案外覚えてるんだなぁ、やっぱ頭のいい人は記憶力もいいのかなぁ。

 

「…オールチェック、オールグリーン、エンジンコンタクト。スタートアップ」

 

声と同時に、シミュレーターが僅かに揺れる。士官学校の時は設定が宇宙だったのでそれに比べると少し機体の動きが重い。ここまで再現するとか宇宙世紀凄いなぁ。

 

「テストシーケンス1、スタート」

 

戦場の絆の超豪華版っぽくて段々興奮してきた俺は、ノリノリでチュートリアルを進める。単純な前進、後退、左右旋回、移動。使ってみて思うのは、考えていたより操作が簡単だという事だった。後で聞いたら膨大な実戦データが集まったおかげでMSのOS自体が大幅に改善されているらしい。ただ、この時はそんな事知らなかったので、もしかして秘めた才能とか開花しちゃった?実は俺TUEEEEE主人公だった!?とか思いながらノリノリで遊ぶのだった。

 

 

 

 

「凄いな、本当に100時間以下なのか?」

 

航空機が飛べば飛ぶだけ様々な状況を経験し、それに対応した技術を身につけられるのに対し、配属されてしまえば宇宙のみ、地上のみと周囲環境の変化に乏しいMSは、搭乗時間数だけでは技能を評価できないことは事実である。OS自体も更新されているから、ブランクを埋めるくらいには扱いやすくなっているだろう。だがそれでも100時間以下となれば、そもそも機体を起動させるだけでもたつくし、操縦ももっとぎこちないものだ。動作は大体荒っぽくなるか、逆に出力を絞り過ぎて鈍くなるのだが、大佐の動きは機体の規定値にぴったりと当てはまる。ここまで合わせられるのは、テストパイロットでもそうはいない。

感心していると、同じく横でモニタリングしていた曹長が、眉間にしわを寄せているのに気づいて、中尉は声を掛けた。

 

「どうした、何かトラブルか?」

 

「いえ、そうでは無いのですが」

 

「では何だ?」

 

歯に物が挟まったような口ぶりにもう一度訊ねると、曹長は疑問を口にした。

 

「大佐は搭乗時間100時間以下、と仰っていましたよね?」

 

その言葉に、今更それがなんだと言いかけ、中尉は曹長の言いたいことに気づく。大佐は地上に降りてからMSの操縦を一度もしていない。当然、新型機も。

その事実に、背筋に悪寒が走る。シミュレーターとは言うが、環境設定や機体負荷は完全に現実に則している。つまり、大佐は初めてのMSをほぼ完璧に乗りこなしている。

 

「…ニュータイプ」

 

「え?」

 

思わず口から出た言葉に、曹長がこちらを向く。

 

「いや、何でも無い。忘れてくれ」

 

だが、その言葉は周囲の者の脳裏にしっかりと刻み込まれることになり、暫くしてまことしやかに囁かれるようになる。オデッサの基地司令はニュータイプだと。

 

 

 

 

豪華版戦場の絆、超面白い!

いやあ、死亡フラグの事もあってMSの操縦関連は敬遠してたけど、やっぱりね?心の何処かで引っかかってたんですわ。ガノタとして、折角MS乗れるのに、その機会を捨てちゃうの?って。へへっ、自分に嘘はつけなかったぜ。それによくよく考えればあれじゃない?ドムに乗ってガンダムと戦ったなんて史実には無かったんだから、このままドムを専用機にすればギャン搭乗フラグ折れて、テキサスアボーン回避余裕でしたじゃない?行ける、これはいけるぞ!

なんてテンションでにっこにこしながらシミュレーターから降りれば、なんだか皆さん、随分真剣な目でこちらを見ている。ああ、あれか。シミュレーターの出来とか感想とか求めてる感じかな?

 

「流石だ、中尉。これはとても良い物だ。これからも大いに活用させてもらうよ」

 

あ、でもずっとソロだと飽きるかも。

 

「ただ、一つだけわがままを言わせて貰えれば、他のシミュレーターと繋げて模擬戦が出来るようにして欲しい」

 

「はっ!承知致しました!」

 

軍人のお手本のような敬礼に、俺も笑顔で返礼し格納庫を後にする。いやあ、良い物もらっちゃったなぁ。後で整備班の皆さんには何か差し入れしておこう。

なんて、上機嫌だったのが昨日のこと。今俺は奇妙な書類と対峙している。

 

健康診断のお知らせ

 

…なんぞこれ?




ゲーム感覚でMS操縦できるとか正にチート主人公ですね!

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